今、メルカリが抱く「危機意識」と「成長戦略」|西村賢氏×山田進太郎トークセッション #mercariday

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2017年1月20日に初開催した『Mercari Day 2017』。小雪のちらつく天候だったにもかかわらず、会場となった東京・六本木のアカデミーヒルズには約400名の聴講者にお越しいただき大盛況となりました。

当日は、代表取締役社長の山田進太郎をはじめ、CTO、ソフトウェアエンジニア、プロデューサー、データサイエンティストなどさまざまな立場のメンバーが登壇し、プロダクトを磨き込むために日々どのようにチャレンジしているかや、ミッション実現のために日々高めている技術知見などをご紹介しました。

本稿では、数あるセッションの最後に行った、代表の山田とTechCrunch Japan西村賢編集長とのトークセッション「メルカリの未来」の様子をご紹介します。

対話の中で語られたビジネス成功への思いと危機感、そしてこれからのメルカリが目指す場所とは?

改めて語った「起業家・山田進太郎」が生まれた理由

トークセッションの冒頭で、「他会場でたくさんのセッションが行われていたので、もう聞くことがない」と笑いを取った西村さんは、「そこで今日は『山田進太郎の作り方』を聞かせてください」と切り出し、起業家としての山田の考えに迫りました。

西村
山田さんは1999年に楽天で内定者インターンとして楽天オークションの立ち上げに携わった後、起業して『映画生活』(新作映画情報サイト。その後ぴあに譲渡)などを作っていましたよね。何で起業しようと思ったんですか? 『山田進太郎の作り方』を聞かせてください。

山田
楽天にいたころに携わっていたサービスは、競合となるヤフオク!にこてんぱにやられてしまったんですよね。その悔しさもあって、「じゃあ自分でサービスを作ろう」と思い、『映画生活』を作り始めました。

でも最初は思った通りにユーザーさんは使ってくれなくて。いろんな課題にぶつかりながら、徐々に「ユーザーさんの気持ち」を考えられるようになったというか。

何年も「どういう画面にしたら書き込みが増えるだろうか?」などと試行錯誤しながら、繰り返し改善をしていく過程で、やっと「使ってもらえるサービスってこういうものなんじゃないか」という感覚ができてきたんです。

西村
最初に作ったのが映画情報サイトだったのはなぜ?

山田
単純に映画が大好きだったからですね。その後も写真共有サイトなども作りましたが、その辺りから、今度は「サービスはそこそこ使われるけど儲からない」という壁に突き当たりまして。

西村
じゃあ、そのころからビジネスを意識し出したと?

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山田
ええ、2005年にウノウを株式会社化して、2,3年してから本格的に商売を意識するようになったと思います。その後、フリーミアムみたいな基本無料だけどより楽しみたかったら課金してね、みたいなモデルが台頭してきてて、僕らもソーシャルゲームをやってみようと。「儲かる感覚」みたいなものは、ゲームを作っていく中で学んでいきました。

西村
「儲かるサービスを作ろう」と考えるようになった変化のきっかけになったのは何なんですか? 投資家からのプレッシャーであったり、外的なもの?

山田
いや、内的な動機ですね。僕は1977年生まれなのですが、いわゆる”76世代”に近い世代で、(当時、ソーシャルゲーム事業の成功で急成長していた)グリーの田中さん(田中良和さん/現:会長兼社長)やミクシィの笠原さん(笠原健治さん/現:会長)とかが成功しているのを近くで見ていたので。自然と「彼らはどうやって儲けてるんだろう」と考えるようになったり、他のヒットサービスなどを見ながら「インターネットサービスのイロハ」を探るのが習慣になっていました。

常々そういう風に考えるようになっていたので、いろんなうまくいってるサービス、うまくいってないサービスを見ながら「なぜなんだろう」とも考えるようになっていましたね。そうやって予想をして、1年後とかに振り返るというのを10年以上繰り返して、ここまで来たという感じです。

開拓中のUSマーケットでは「もっとうまくやれたはず」

序盤で起業家としての成長をテーマに語った2人の話題は、現在メルカリが注力している海外展開に。そこで山田は、マーケット開拓のスピードにまだまだ満足していないと心境を明かしました。

西村
メルカリが国内マーケットに広まり出したころから、山田さんはすぐサンフランシスコに赴いてUSオフィスの立ち上げに乗り出していましたよね? あのスピード感には驚いたのですが、なぜ山田さん自身もベイエリアに長期滞在していたんですか?

山田
ベイエリアに行ってみないと分からないことがあるだろうと思ったので。

僕はウノウを起業してすぐ、(East Venturesの)松山太河さんに投資をしてもらい、他のエンジェル投資家、先輩経営者たちから経営ノウハウを教わってきたわけですけど、彼らが持っている知恵は日本の「Web第一世代」がいろんな苦楽を経験をしてきたことで培われたものだと思うんですね。

つまり、僕らは諸先輩方の経験知から学びながら、(スタートアップが育つエコシステムの)「2周目」を走って来た。でも、シリコンバレーはすでに何周もしていますよね。

西村
あっちのスタートアップはもう7世代目とか言われていますね。そのサイクルの中で生まれた「成長の知恵」って、やっぱり現地でしか学べないものですか?

山田
やっぱり、サンフランシスコに住んで、カルチャーに触れて、現地で使われているいろんなサービスを使ってみるのが大事だと思います。僕自身は最近、UK拠点の立ち上げでロンドンに滞在していることが多いのですが、「とりあえず住んでみる」ようにしています。

西村
山田さんがベイエリア滞在で学んだことって何でしょう?

山田
逆説的な答えかもしれませんが、実際に現地で暮らしながらいろんなサービスに触れてみた結果、「成功するプロダクトに必要なもの」ってどこもそんなに変わらないんじゃないかと感じました。

ただ、メルカリはまだその「必要なもの」を実践しきれていません。もっともっとやれることがあると思っています。

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西村
US版のメルカリは昨対比でダウンロード数が5倍になっていますよね?外から見ている限りではうまく成長しているように感じますが、それでもまだまだ発展途上だと?

山田
実感としては「もっとうまくできたな」という思いの方が強いんです。「もっと早くこの施策をやっておけばよかった」と思うことが多々あって……。

今、僕自身の役割としては日本とUSはもう他役員に引き継いでいて、UKの立ち上げや新しいサービスの立ち上げに注力していますが、USマーケットの開拓ではもっとやれた部分が多かったと反省しています。

西村
なるほど。そういえば、USでは2016年10月に手数料を有料化したそうですが、反応はどうですか?

山田
有料化後もアクティブ率が落ちなかったので、まぁ、うまくいったんじゃないかと。受け入れられたというか、バリューを認めてもらえたと思っています。それでも、もっと早く成長できたはず。

西村
その「成長の伸びしろ」に対する危機感って、社内でどう共有しているんですか?

山田
例えば、日本のヤフオク!に比べてeBayは10倍くらいの流通額があって。この事実から考えれば、メルカリが欧米でちゃんとやれれば今の10倍にはなれるはずだと伝えています。

USでの伸び方は、日本での伸び方に比べたらまだまだだと。そうやって数字を示しながら、何が必要かを考えてもらうようにしています。

メルカリを10年、20年後も愛されるプロダクトにするべく、もっとGo Boldに

続いて、2人の話題はCtoCマーケットが秘める可能性と、メルカリがそこでプラットフォーマ―として成長していくために必要なことに広がっていきました。

西村
日本でも、競合に当たるヤフオク!はすごい勢いで改善を進めています。国内マーケットはどう見ているんですか?

山田
今見えているフリマやCtoCマーケットの規模って、まだまだ氷山の一角だと思うんですね。

メルカリは最近やっと、今までネットオークションサービスとかCtoCサービスを使っていなかった層にも広まりつつあるという印象です。なので、これからもまだ水面下に潜んでいるマーケットを掘り起こしていくための取り組みをやっていかなければと思っています。

西村
メルカリには、その潜在マーケットを掘り起こすためのポテンシャルがあると?

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山田
ええ。やれると思っています。フリマ市場におけるヤフオク!さんのような競合との勝負では、細かな部分の差別化が必要になるでしょう。ただ、CtoCマーケットの掘り起こしという意味では、メルカリはヤフオク!さんや既存のプレーヤーとは異なる位置にいると思っています。

西村
じゃあ、CtoCプラットフォームとしての地位を築いていくのが当面の目標になる?

山田
ええ、そうなりたいと思っています。

西村
Facebookクラスの巨大なプラットフォーマーは、メッセンジャーのUIを大胆に変えたりと、すごい勢いで改善を続けていますよね。そうやって大胆に変え続けるという挑戦を続けることで、ユーザーに飽きられることなく一大プラットフォームに成長できたと見ることもできる。一方、日本のサービスは大きくUI改善するとユーザーから不評を買ったりしますが、メルカリは今後どうしていくんですか?

山田
メルカリも、去年の秋にホーム画面のタイムラインを大胆に変えたんです。ABテストの結果がよかったので、商品の表示を2列から3列にして。USでは先に変えていたんですが、いざ日本で変更したら、数値は圧倒的によくなったのですが、アプリストアのレビューが荒れて…「前に戻してほしい」という声をたくさんいただきました。数値の結果とユーザーの声は違う、日本は使い慣れたものを変えることに抵抗を示す人が多いというのを改めて感じました。

しかし、世界に目を向けると、シリコンバレーのサービスなどは「これからはこれだから!」と(大胆な改善を)押し通すじゃないですか。AppleのiOS標準アプリとかFacebookとか、短期間ですごくいろんなことを変えている。で、彼らは改善をやり抜くことで、後々成功もしています。

なのでメルカリも、トレンドに乗りながら10年20年生き残っていくには、大胆に変わり続けることが大事だと考えています。

メルカリはちょうど今年で4周年になります。その4周年を迎えるにあたって、「4年前のスマホ」に最適化して作ったアプリを、スマホの大型化や他のサービストレンドを見ながら大リニューアルしていく予定です。

西村
そういう腹決めって、誰がやっているんですか?

山田
最終的には僕が腹決めしています。ただ、メルカリの取締役は5人中3人が「プロダクトを作ってきた人」なので、大きな方針については経営会議で議論しながら決めてることが多いですね。具体的な部分は取締役の富島(寛)や濱田(優貴)が進めていっています。

僕は社内でもいろんなサービスを使っている方だと思うので、そこから得た「気付き」を社内に提案する役割なんです。

それに、メルカリは「社長が言っているからコレをやらなきゃ」って文化ではないので、権限はかなり分散できています。ABテストであったり、そこで得た結果から何かを改善する際の判断も、プロジェクトオーナーが自由に考えてプロジェクトミーティングに挙げてもらえば、自由にやれます。

西村
Facebookでは、全ユーザーの3%を対象にABテストをしてみて、結果がよかったらすぐ100%のユーザーに展開するようですが。

山田
メルカリもFacebookと同じくらいの割合でユーザーを抽出してABテストしてみると、如実に良し悪しが分かるようになってきました。その中で良かった施策はすぐ100%のユーザーに展開しています。

西村
どの程度のABテストをやっているんですか?

山田
常時、数十本はやっています。チャレンジすることはメルカリの文化なんです。

R&D、FinTech、エンジニアの地位向上…すべてをやり抜くために世界を獲る

トークセッションの終盤は、会場に詰めかけた聴講者からも質問を募りながら、セッションタイトルでもある「メルカリの未来」について話す場に。まだ公式には発表していない構想についても語りました。

西村
先ほど控室で伺った話だと、今後はR&D組織の立ち上げも検討しているそうですね?

山田
ええ。今もすでに機械学習に詳しいエンジニアを何人か採用し始めていて、現場レベルでは独自の研究をやり始めているところです。僕はもともと、現場からイノベーションが生まれていくようなスタイルが好きだし、今後もどんどんやってほしい。

ただ、メーカーなどに比べると、うちみたいなスタートアップの組織はどうしても短期的な発想で仕事に臨むケースが多くなりがちです。なので、今後はきちんとR&Dを進めていくために、ヘッドとなる人材を採用したりしながら、ちゃんと組織化したいなと思っています。

西村
今なら、機械学習だけじゃなくブロックチェーンなどについて研究開発するのも面白そうですよね。

山田
そうですね。ただ、さっきはメーカーのR&D組織を例に出したものの、メルカリの場合はもうちょっとプロダクト寄りでR&Dをやっていきたいと考えています。

日本は、シリコンバレーなどに比べると「プロダクトをきちんと作ってきた経験を持つ人」がまだまだ少ないと思っていて。なので、まずはプロダクトをしっかり作れる人を増やしながら、R&Dを進めていきたいんです。

研究のための研究、みたいなR&Dをやるフェーズには、まだ早いかもと思っています。

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西村
そろそろセッションの終了時間も迫って来たので、会場からも質問を募ってみましょうか?(挙手した聴講者を見つけて)あ、どうぞ。ぜひ質問してください。

会場から
山田さんの中で、サービスの「撤退基準」はありますか?スタートアップは、創業者の思いで何かしらのプロダクトを開発するケースが多いと思うのですが、それがうまくいかない場合もありますよね?

西村
面白い質問ですね。山田さんはZyngaにいた経験もありますし、どうでしょう?

山田
僕はもともと「世界で使われる」というのがプロダクトの価値だと思っているタイプなので、うまくいかないってことは何かが刺さってないということかと。なので、自分の思い入れ云々より、何かしらのプロダクトを出して1~2年経っても良い反応が得られなければ、また別のモノを作って世に反応を問う方がいいと思っています。

例えば日本のクルマって、欧米だけでなくアフリカ諸国でも普通に走っているじゃないですか。そうやって世界で使われるモノを、Webの世界でも作れると思っているんです。

西村
そういう意味では、今後はUSやUKだけじゃなく新興国も狙っていきたいと思っていたりしませんか?たとえば、FinTechへの興味はあります?

山田
FinTechでもやりたいことはあるし、興味がないと言えば嘘になりますが、その前に「欧米を取って今の10倍成長する」ことの方が先。優先順位だけですね。

徐々に準備もやっていきたいし、そういうことができそうなエンジニアを採用したりもしているけれど、もう少し先の話になるでしょうね。

会場から
シリコンバレーに比べて、日本人エンジニアの給料は低いと言われていますが、どうやって給与を高めていけばいいとお考えですか?

山田
GoogleやFacebookが、あれだけヒトに投資をしながらもなぜ儲かっているか?を考えればいいんじゃないでしょうか。

彼らがエンジニアに高給を支払えるのは、シンプルに世界市場を獲ったからだと思っていて。でも、面白いのは、彼らが社内はどうなっているかというと「とにかく競争が激しい国内(US)で勝つ!」ってことなんです。

これが示しているのは、USで勝てば自動的に世界市場も獲ることができて、売り上げも莫大なものになるということ。実際FacebookやGoogleの売上の過半は海外から来ています。だからこそ、エンジニアにものすごい給料を払うことができるんだと。

そう考えれば、結局のところ良いプロダクトを創り、それで世界を獲るということが、給料のベースを上げる近道なんだと思います。

全社員の給料を倍にしたって、売上が2倍、3倍になっていれば問題ないわけで、その原資を得るためにもメルカリは世界で成功したい。今も国内で上げた利益分は社員の給料に還元していますが、それを欧米基準にしていくには世界を獲るしかない。

西村
だからUSで成功することが大事だと。

山田
はい。

西村
メルカリが、メジャーリーグで日本人選手獲得ブームのきっかけとなった野茂英雄のような存在になるかも……という期待の声も出始めています。

山田
合理的に考えればやれるはずだし、僕らがUSで勝てれば、日本のスタートアップもメルカリにできるなら、ということでどんどん世界に出ていくはず。だから絶対に成功したいですね。