「全てをニュートラルに捉える」メルカリCLOが考える「D&I」の意義

メルカリには多様なバックグラウンドを持つメンバーが集っています。そんなメルカリにとっての「Diversity & Inclusion(以下、D&I)」とは、特別な取り組みではなく、日常の業務のなかに宿る考え方です。誰もが気持ちよく、活発に働けるメルカリのあり方を考え、実践しているメンバーにインタビューを行いました。

櫻井由章はメルカリ・メルペイのリーガルチームを率いるCLO(Chief Legal Officer)として働きながら、メルカリのD&Iを推進するために多角的に活動しています。「全てをニュートラルに見るということが大切だ」と語る背景には、とあるマイノリティとの出会いがありました。彼の言葉はD&Iという思想の普遍性について触れています。

この記事に登場する人


  • 櫻井由章(Yoshiaki Sakurai)

    2000年4月より西村総合法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)。2011年5月から、モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社法務部。2018年3月、メルペイにリーガル・ヘッドとして参画。2019年2月より、メルカリ執行役員CLO(Chief Legal Officer)に就任。東京大学法学部、New York University School of Law (LLM)卒業。弁護士、ニューヨーク州弁護士。


「みんなで参加しよう」という自然でポジティブなモチベーションが第一にあります

ーまずは、メルカリに入社したきっかけについて教えてください。

櫻井:私は2018年3月にジョインしたのですが、メルカリは成長の最中にあって、やるべきことがまだたくさんあるという状況でした。また、スマホ決済サービスのメルペイを立ち上げるタイミングでもあって、前職で培った金融法務の知見を活かせると思い入社を決めました。様々な職種の優秀な人材が集まっているのも魅力で、自分自身の成長にもつながるとも感じましたね。いくつかの理由がミックスされています。

ーメルカリというサービスに対して、どんな印象を持っていましたか?

櫻井:誰もが利用できるよう、使いやすさにこだわっているという印象は当時からありました。様々な人にひらかれたサービスであろうとしている、ということですね。会社自体も、業種や国籍などに関わらず様々なバックボーンを持つ人材をフラットに採用していて、多様性のある組織づくりをしているなと。USのCEOであるJohn Lagerlingが取締役に就任したことは、特に印象的でした。

櫻井由章(執行役員 Chief Legal Officer)

ー櫻井さんのメルカリでの業務内容について教えてください。

櫻井:法務の統括として働いています。メルカリ・メルペイを通じてリーガルのチームを率いています。また、社内のDiversity & Inclusionチームのアンバサダーとしても活動を行っています。これは法務としてではなく、個人としてやっていますね。

ーD&Iのアンバサダーとしての活動はどういったものでしょう?

櫻井:そもそも、メルカリのD&Iに関する活動は部活としてはじまりました。有志が集い、ボトムアップで活動をするということ自体が、風通しの良さを現しているように思います。メルカリのD&Iコミュニティは「Multicultural」「Pride」「Women」の3つに分かれて活動していて、私はそのなかで「Pride」のコミュニティをサポートしています。定期的に行われるミーティングに参加したり、対外的に発信するメッセージをどうするか考えたり、イベントを企画したり、リーガルのコミュニティで「D&I」にまつわる活動をしている人をつなげたり……色々なことを行なっています。

ー具体的にはどんなイベントを実施しているのでしょう?

櫻井:社内では5月のプライドウィークにあわせて、メルカリメンバーの写真で虹色のプライドフラッグをつくる「レインボープライド」という企画を実施しました。また、D&Iにまつわるゲストスピーカーを呼ぶ「Lunch&Learn」は継続的に取り組んでいますね。LGBT関連のイベントに有志で参加することもあります。「Pride」にまつわるトピックやイベント自体を社内で知ってもらいたい、という目的もありますが、「みんなで参加しよう」という、自然でポジティブなモチベーションが第一にありますね。

いつ、どこで、誰がマイノリティになるかわからない

ー櫻井さんがD&Iに関心を持った、きっかけを教えてください。

櫻井:そもそも、弁護士を目指して法律を学んできた立場として「法律家は人権を守る存在であるべきだ」という意識があります。そんななかで、自分自身がマイノリティを強く意識したきっかけになったのは、司法修習生のときに取り扱った事件です。

ー詳しく教えていただけますか?

櫻井:当事者に事情聴取をする機会があって、その事件の真相に関連することもあり、実は自分がゲイであると話してくれたんです。詳しく聴くと、彼は奥さんを亡くしたあと、自分がゲイであるということに気づいたそうです。当時60歳くらいの方で、お子さんもいらっしゃいました。知識としてそういうケースがあるということは知っていました。しかし、実際に目の前で会話できる機会はなかなかありません。20年以上前なので、性的マイノリティに対する社会の受け止め方も今とは異なるものでした。その方と話をしたときに「いつ、どこで、誰がマイノリティになるかわからない」ということを強く意識しました。隣に座っている人が、「自分はゲイである」とある日気づくかもしれないし、自分自身もそう感じるときが来るかもしれない。そして、それは自然なことなのだと。

ーそれが原体験としてあるんですね。

櫻井:そうですね。あと米国に留学した際の体験も印象に残っています。当然、米国にいればアジア人は基本的にマイノリティですし、母国語が英語でない人はその観点からもマイノリティです。また、前職は外資系の企業だったので、職場環境の切り取り方次第では必ずしもマジョリティではありませんでした。時と場所によってマジョリティとマイノリティは入れ替わる。だからこそ、全てをニュートラルに見るということが大切だと思っています。

ーD&Iについて、これからやっていきたいことはありますか?

櫻井:先ほどお話ししたように、メルカリのD&Iは、部活としてボトムアップで発足した活動です。会社の経営として、そういったボトムアップの活動を後押ししていく姿勢は、メルカリのカルチャーとして大切にしたいですね。具体的なことで言うと、D&Iステートメントを作成して広く告知し、D&Iコミュニティの社内外での認知度を高めていきたいです。採用の観点でも、候補者のバックグラウンドに関わらずフラットに採用をしていくという姿勢を示せたらと。

ーより経営に近い観点から、D&Iを前提としたメッセージの発信と、組織づくりをしたいということでしょうか?

櫻井:そうですね。ただ注意深くなる必要もあります。米国でよく議論されるトピックが、マイノリティを優遇する「アファーマティブ・アクション」ですが、かえって逆差別になるのではないかという懸念も出てきます。この観点から、メルカリではD&Iのために安易に数値的な目標を掲げるのではなく、「マイノリティが排除・差別される」ということを否定していくことが重要だと考えています。それは採用の判断基準においても、働く環境や制度をつくるうえでも意識すべきこと。もちろん、そうした姿勢は、お客さまにも伝えていきたい。「オープン、そしてニュートラルを心がけている」ということをサービス全体で推進していけたら良いですね。

ーメルカリというサービスは、誰にでもフラットにひらかれている機能を持っていて、そこにD&Iの思想との根本的な共感があるように思います。

櫻井:同感です。メルカリは世の中から捨てるものをなくして、機会の平等をもたらすサービスなので。ただ、「ビジネスと親和性があるから、D&Iをする」というのも違うんですよね。風呂敷を広げてしまいますが、どんなビジネスを行う企業でも多様性に対する理解を深め、制度や思想を整えていくことが大事だと思います。メルカリの場合はサービスと親和性があって、ボトムからそういうことに取り組もうという動きが出てきたということで、それはある意味ひとつの理想的なかたちなのかもしれません。

ーなるほど。たしかにその通りですね。

櫻井:さらに理想を言うと、D&Iを掲げなくても、当たり前にそれが達成できている状態を目指したいですね。うまくいっていないところがあるからこそ、そういう運動や発信が必要になる。声高に何かを発信することが目的ではなく、「当たり前」をつくっていくことを目指したいです。

この仕事は、良いことも悪いことも想像しないといけない

ー現状のメルカリには、D&Iについてどのような課題が残っていると考えられますか?

櫻井:今まで述べたような考え方、D&Iステートメントがメンバーみんなが腹落ちするかたちで伝わっているか、というと、まだまだ課題が残っていると思います。ただ、無意識に自然に受け止めているメンバーが多いとも思いますね。約40カ国の国籍を持つメンバーがいて、性的指向に関するマイノリティもいる。だけど、それを当たり前のこととして自然に受け止めている。社外にはそういったカルチャーはまだまだ伝えられていないので、これから発信していけたらと思います。

ー今後、やりたいことについて教えてください。

櫻井:D&Iは、単体のプロジェクトではありません。世界にいる採用候補者やメルカリ・メルペイのお客様に向けて発信していくうえで前提となるような考え方であり、姿勢です。また、こうした活動は一部の人のものと見られがちですが、決してそうではないんです。メルカリ社内では、ある程度広く共有できていると思いますが、社内にとどまらず、業界を横断してオープンに広げていきたいし、よりよい取り組み方を私たちも知りたい。社内外で知見を共有するきっかけをつくりたいですね。D&Iは法律的な論点から語られることも多く、例えば「今は同性婚が認められてないのは違憲だ」という訴訟が起きています。歴史的な流れのなかで、「いまここ」はどういった状況にあるのか、今後どうしていくべきなのか多角的に考えたいという人に伝えていくために、コミュニティの運営を行ったり、私自身が持つ法律家のコミュニティとの接点も活かしていけたら。

ーそういった姿勢や考え方は誰もが見習うべきものだと思います。

櫻井:この仕事は、良いことも悪いことも「想像」しないといけない。そこで法律というツールを用いるんです。法律は「ブラックオアホワイト」ではなく、条文を見ても必ずしもはっきりしないグレーな領域があって、例えば過去の判例の積み重ねと照らし合わせて未来を予測することも多いんです。けれど、メルカリがやろうとしていることには、その積み重ねが全くなかったりする。だから「想像する」ということをあらゆる局面で行なっているかもしれません。

ー目印のない野原で開拓しているような仕事ですね。

櫻井:メンバーの数が急速に増えているメルカリは今、すさまじい変化の最中にいます。社会との距離感を適切にはかりながら、メルカリをしっかり見つめ、大事な動きを見極めていきたいです。一番大切にしている「ニュートラルな姿勢」そのものなのかな、と。

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