「いっそ、点検なしにできないか?」メルカリが車出品機能を連続リリースするまで

フリマアプリ「メルカリ」内で、自動車の出品を実現したのは2016年5月のこと。それから3年経った2019年6〜8月にかけて、1つの制度と2つの機能を立て続けにリリースしました。

メルカリあんしん自動車保証・・・出品時の条件さえ満たしていれば保証を追加できるだけでなく、自動車を購入したお客さまは取引完了後〜90日間、走る・曲がる・止まるに関わる修理を無料で受けることができる。
車検証2次元コード出品・・・車検証のQRコードにスマホのカメラをかざすだけで、メーカー名や車種・車検証の期限などが自動入力される。
かんたんクルマ相場チェッカー・・・ナンバープレートをスマホで読み取ると、売れやすい価格がわかる。

自動車は、安全性がもっとも重視されるカテゴリー。そのため、開発においては専門知識を必要とされる場面も多いです。その難題を一つひとつクリアし、制度や機能に落とし込むまでにはどのような過程があったのでしょうか?

そこで、メルカリの自動車カテゴリー全般を担当しているAutoチームのプロジェクトオーナーである浅岡亮太、テックリードの冨永健、そして元メルカリBusiness Developmentで現在は三井物産に勤める田北浩大の3人にインタビュー。真冬の整備工場見学、専門用語リストの作成、マイクロサービスへの移行と同時並行での開発……自動車の出品を安心安全かつ簡単にするため、彼らがひた走ってきた道のりを振り返ります。

構想はあれど、あえて時間をかけた自動車プロジェクト

ーメルカリ内で初めて自動車出品を実現したのは2016年5月。その3年後となる2019年に、新機能と新制度を続々とリリースしていますよね。これはやはり、参入が難しいカテゴリーだったからこそ、時間をかけたということでしょうか?

田北:僕は、メルカリが三井物産から出資を受けた2016年に「出向者」としてジョインしました。自動車プロジェクトについては、僕がジョインする前から構想がスタートしていたので、おそらく4〜5年くらい前から検討自体はあったと思います。

田北浩大(三井物産)

ーでは、メルカリがリリースされてからわりとすぐに考えられていた構想だった?

田北:ですね。そしておっしゃる通り、自動車は服や靴の出品とは違い、安心安全の観点が非常に重要。また、名義変更を含めた手続きが複雑で、自動車の出品自体がCtoCになじみにくいという課題もありました。そのため、構想はあれど、あえてこの領域を選んでこなかったんです。そこへ浅岡さんが入社。思えば、そのタイミングで方向性が決まり、プロジェクトにドライブがかかったように感じます。

ー出品時のハードルも高く、CtoCになじみにくいとわかったうえで、なぜメルカリは自動車カテゴリーに改めて挑んだのでしょうか?

浅岡:自動車カテゴリーは、メルカリの他のカテゴリーに比べて、GMVのギャップがとても大きい。要するに、ギャップを埋めることで新たな価値を生み出せる可能性が高いということ。メルカリとしても、自動車カテゴリーに秘められた可能性に挑みたいという意志がありました。そこで2018年4月にAutoチームを結成し、さらに10月から開発などを本格的にスタートさせました。

ー冨永さんはチーム結成から6ヶ月後、本格的に開発をスタートさせるタイミングで開発チームのテックリードとして参加しています。参加を決めた理由は?

冨永:メルカリがカテゴリーに特化して開発を行うのは「スマホ」以来初めてのことです。僕個人としては、自動車カテゴリーは専門知識や用語が多く、車種ごとに特徴があるなど、なかなか特殊な世界。だからこそ、このプロジェクトに関われたのは良かったですね。

冨永健(Autoチーム、テックリード)

出品時の自動車点検を「ライトじゃなく、ノールックにできないか?」

田北:僕らがまず着手したのが「自動車の保証をどうするか」でした。というのも、多くのお客さまが自動車カテゴリー内でやりとりする際、もっとも気にしているのが「本当にちゃんと動くのかどうかを証明してほしい」ということ。通常は自動車を売買する際、オフラインで点検が行われ、それに対して保証がつけられます。しかし、オフラインでの点検は時間もコストもかかり、お客さまにも負担をかけることになる。何より、オンラインでCtoCサービスを展開するメルカリがそれをやるのは……誤解を恐れずに言うと、おもしろくない。そこで最初に思いついたアイデアが、ライブ動画を使って整備士が自動車を点検し、チャットベースでやりとりができる「ライトルック保証」でした。

ーライトルック保証……つまりライトに点検して、保証するってことですね。

田北:ところが、このやり方だとスマホ端末によっては通信が途切れたり、画像が荒くなってしまったりして。やっぱり難しいかなぁと考えていたところ、「いや、むしろ点検しなくても出品できるような制度をつくれるのでは?」と思い始めたんです。

浅岡:そうそう。「ライトじゃなくて、もうノールックにできないか?」って。

浅岡亮太(Autoチーム、プロジェクトオーナー)

田北:だよね。僕らとしては、お客さまに出品時の手間・コストをかけさせたくない。そうして誕生した「メルカリあんしん自動車保証」は、自動車点検をノールックで出品できる代わりに、何か不具合が起きてしまったときには、メルカリが手厚く保証する制度です。これは、メルカリにはある意味、Trust and Openness(性善説)に基づいた考えを持つお客さまが多く集まっているからこそ、実現できたものだと思います。

ーしかし、自動車に関しては各部品の役割などを理解したうえで保証を考えなければならないと思います。そういった専門的な知識は、どうやってチーム内で取り入れていったのでしょうか?

浅岡:そのとおりです。なので、本格的に開発が始まる前に、専門書などから学ぶだけでなく、当時の一部のチームメンバーで車両整備工場へ見学にも行きました。

Autoチームメンバーで車両整備工場へ見学へ行ったときの様子

田北:そう言えば、そんなこともやりましたね(笑)。おかげで、自動車の部品すべてを確認し、それぞれどういった意味があり、役割があるのか。さらに壊れると自動車はどうなるのかなどを専門家に教えてもらいつつ、メルカリが保証する106項目の部品を選定することができました。一つひとつを目視し、「これが壊れたら本当に困るよね」「走れなくなるね」を確認して回った感じです。

浅岡:ちょうど年末だったこともあり、めちゃくちゃ寒かったんですよね。

マイクロサービスの移行時期と重なった取引画面の開発

ー 一方で、開発はどのように進められていたのでしょうか?

冨永:開発側では、まず自動車に関する専門用語リストをチーム内でつくりました。自動車関連用語には「型式指定番号」「一時抹消」など、僕が今まで聞いたこともない専門用語がいろいろありました。あと、開発チームには海外から来たメンバーもいたので、彼らも理解できるように日本語と英語を併記していたんです。そして外せないのが、自動車の出品項目。これまでメルカリで多く取り扱ってきた服などで使われているブランドやサイズとは異なり、自動車本体の取引ではメーカーや車種、走行距離などの情報が重要です。そういった、これまでのメルカリ内にない情報を追加する必要もありました。

ー専門用語リスト、けっこう細かくつくられていたんですね。

開発チームでつくられた、専門用語リスト

冨永:また、自動車カテゴリーでのアプリ内取引画面は、Webベースでつくられています。しかし当時は、メルカリグループが開発手法の1つであるマイクロサービスへ移行し始めた時期。つまり、取引画面からマイクロサービスにアクセスした事例が、社内にはなかったのです。そのため、Microservices PlatformチームやItem Transaction Pageチームと「そもそも取引画面からどのようにマイクロサービスにアクセスするのか」をディスカッションしながら開発を進めていきました。

浅岡:それこそ、冨永さんがMicroservices PlatformチームとItem Transaction Pageチームの間に入り、ファシリテーションしていましたよね? 

冨永:ですね。時には、英語で橋渡しすることもありました。このころのメルカリは、マイクロサービスの移行がスタートしたばかりで、決まっていないことやドキュメント化されていないところも多かったんです。通信上での取り決めを考えるところからスタートしていたので、このあたりの調整や開発は、わりと大掛かりでした。

浅岡:当時から感じていたことではありますが、改めて振り返ってみると……。今この場にいるのは3人ですが、自動車の出品に関しては多くのメンバーがフルコミットし続けてきました。その結果、実現できたプロジェクトでもありますね。

冨永:浅岡さんの言うとおり、本当に多くのメンバーとつくってきたものばかりです。それに、実は僕、このプロジェクトで初めてテックリードを担当しました。これまではいちエンジニアとして開発に関わっていましたが、今回は全体的な技術設計や他ドメインチームとの調整などが加わり、とても新鮮でした。でも、

ーでも?

冨永:初めてだったからこそ、開発を進めるうえで「これをやっておけばよかった」という後悔がないわけじゃないんです。例えば、執行役員VP of Growthの藤崎さんがよく話すことの1つに「リスクの早期検知」があります。今回のプロジェクトはマイクロサービスの移行時期と重なることや、通信上での取り決めが必要になることは、開発が始まる前からわかっていました。取引画面の開発自体は結果的にうまくいきましたが、リスクの検知などはもっと早めにできていればよかったなと、今改めて感じています。これは必ず、次の開発で活かしていきたいです。

やりたいことは「自動車業界全体を盛り上げたい」

田北:僕、このプロジェクトをどうしても実現させたくて。なんなら一度体験したほうがいいと思って、このプロジェクトを機に中古車フリマサービスを使って自動車を買いましたからね!

浅岡:あははは(笑)。

田北:だからこそわかったのですが、やはり確かな保証がないと「この自動車を買いたいけれど、壊れていたらどうしよう?」と不安になるんです。そして、なかなか購入に踏み切れない。それくらい、自動車は大きな買い物なんですよね。今回は第一弾として、お客さまの安心感を醸成すること、手続きや出品を簡単にすることをメインに機能を開発しました。しかし、まだまだお客さまの不安を解消しきれていません。そこをインターネットの力を使ってどう解決していくかが、今後の課題です。

浅岡:メルカリでは服を売るのと同じくらいにストレスなく、かつ安心して自動車を売買できるようにしたいですね。そのためには利便性だけでなく、安心安全をいかにつくっていけるかが大事。そのあたりはまだまだ課題が残っていますので、業界内外の企業の方々と手を組みながら実現していきたいです。

自動車カテゴリーの新機能がリリースされた瞬間

冨永:ここは、まだ誰もやったことがない領域ですよね。機能で言うと、自動車の出品が増えた結果、どうやって検索しやすくするのか、取引を進めやすくするのかなどに注力したいと思っています。やりたいことも改善したいことも、山積みです。

田北:はっきり言っておきたいのは、僕らの目的は自動車の出品や購入に対するハードルを下げ、特に若い世代へ運転する楽しさを広げること。これは、本当は自動車を楽しみたいお客さまを多く抱えるメルカリが、このカテゴリーに取り組む意義だと思っています。既存業界の方々と手を取り合って、業界全体を盛り上げていくようなこともやっていきたいですね。とはいえ、僕はもうメルカリの人間ではないので、この想いは浅岡さんや冨永さんに託します!

浅岡:出向期間が終わり、田北さんはもうメルカリにいません。しかし、このプロジェクトに一番長く関わってきたのは田北さんです。田北さんのDNA、ちゃんとつないでいきますね!

冨永:はい、がんばります!

Autoチームのメンバーたち

浅岡亮太(Ryota Asaoka)

大学在学中にクルマ系メディアを立ち上げバイアウト。2015年4月にDeNAに新卒入社。Anycaの立ち上げメンバーとして、セールス/コミュニティマネージャーを兼任。2018年4月にメルカリに入社し、現在は自動車プロジェクトチームのマネージャーとして従事。大のクルマ好き。一児のパパ。

田北浩大(Kohdai Takita)

2010年4月に三井物産に入社。インターネット・通信関連の部署で海外TVショッピング事業担当、シリコンバレー駐在(研修)、新規事業投資担当などのキャリアを経て、2013年末よりインドネシアの通信会社に出向。その後、2016年6年にメルカリに参画し、海外事業・国内事業開発などを担当。

冨永健(Ken Tominaga)

大学入学後、iOSアプリケーション開発を開始し、インターンシップやハッカソンを多数経験。主な実績はImagine Cup 2018 世界第3位。2018年4月 株式会社メルカリに新卒入社。入社後はCRE、NPSチームを経験した後、現在はAutoチームのテックリードを担当。

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