「お客さまも社員にも最高の体験を届けたい」国内メルカリ事業を担う田面木宏尚

「自分が一番驚きましたよ。なぜ、僕が国内メルカリの事業責任者なのかと。」

そう話すのは、2018年10月、フリマアプリ「メルカリ」国内事業の旗振り役を任された田面木宏尚(たものき・ひろひさ)。大学卒業後、アルバイトとしてGMOクラウドに入社し、CS(カスタマーサービス)業務からキャリアをスタートさせた田面木は、その15年後、国内メルカリ事業のリーダーとして、経営の第一線をひた走っている。

メルカリに入社し約1年半。CS、グローバル採用、人事制度、プロダクト開発など、分野や領域を超え、様々なプロジェクトに携わってきた田面木が、今メルカリに思うこととは? 事業責任者として抱く経営や組織の課題、そして想い描く未来像について、これまでのキャリアを紐解きながら一気に明かしてもらいました。

強い意志があったわけじゃなく、誰かの役に立ちたかったのかもしれない

ー田面木さんは、メルカリメンバーから「タモさん」という愛称で親しまれているので、今回のインタビューでもタモさんと呼ばせていただきますね(笑)。よろしくお願いします!

田面木:もちろんです。よろしくお願いします!

ー2018年10月、国内におけるメルカリ事業責任者に就任されたタモさんですが、まずは改めて自己紹介をお願いしてもよろしいですか? どんな学生時代を過ごされていたのかなど気になります。

田面木:はい。忠犬ハチ公の故郷として知られる、秋田県大館市の出身で、高校まで大館で過ごしました。高校時代は学校が嫌いで、勉強にもついていくことができず、とても苦労した記憶しかないですね(笑)。実は学校をあと数日休んでいたら留年が確定していたらしいですよ……。でも大学(東京)には行きたかったので、高校三年生の時期だけ猛勉強し、早稲田大学に入学しました。

f:id:mercarihr:20181116115534j:plain田面木宏尚(国内メルカリ事業責任者)

ー典型的な「やればできるタイプ」だったのでしょうか?

田面木:どうかな(笑)。追い込まれないとやらないタイプなのかも。大学時代も、最後の最後まで卒業できるかわからなくてヒヤヒヤしていたのを覚えています。何とか粘り、無事に4年間で卒業できました。

ー大学卒業後は、GMOクラウド(クラウド・ホスティングサービスやセキュリティサービスを提供する企業)へ入社されますよね。

田面木:いや、実はGMOクラウドには学生時代にアルバイトとして入社したんですよ。就職活動をしていなかったんですが、大学の奨学金を返済しなければならなかったので、アルバイトを探していたら、偶然GMOクラウドが募集をしていて。当時、僕は仲間とバンドをやっていて、独自ドメインやレンタルサーバーを借り、自らホームページをつくっていたので、何となく知識があったんです。「お、自分もできるかも!」と思い、すぐに応募しました。

ー入社当初は何をされていたのですか?

田面木:CS業務、いわゆるお客さま対応をやっていましたね。正社員登用後はサーバーホスティング事業や新規事業、子会社の立ち上げなどにも関わらせていただきました。そして、その後イラストコミュニケーションサービスを手がけるピクシブに転職します。

ーピクシブではどんな業務を?

田面木:本当に色々です。まずは、ピクシブ創業者であり当時社長だった片桐さん(現:合同会社DMM.com 最高経営責任者)の仕事を棚卸しすることからはじまりました。当時はまだ企業として不完全な部分が多くあったので、システム開発、マーケティング、HR、事業統括など、あらゆるポジションを兼務していたんです。正社員として入社し、最後は取締役までやらせてもらえて。自分の仕事における基盤をつくることができたのは、このピクシブ時代だと思っています。

ースペシャリストというよりも、ゼネラリストだったのですね。

田面木:そうですね、「何でも屋」でした(笑)。実はピクシブの取締役をやりながら、アニメイトという会社(アニメグッズの専門店)に入り、新しい子会社(アニメイトラボ)の立ち上げを行いました。2016年1月には代表取締役社長CEOに就任。アニメイトのIT事業推進を担当していました。その後、1年くらいかけて事業をスケールさせ、退職。同時にピクシブも退職し、2017年2月に執行役員としてメルカリへジョインし、現在に至ります。

ーアルバイト、正社員、役員、そして社長と、様々な役割や役職でビジネスに関わってこられたのですね。これまでのキャリアを振り返り、タモさんの仕事観はどこにあると思いますか?

田面木:残念ながら、そういう立派なものはないんですよ。メルカリは優秀なメンバーが多いので、逆に僕は恥ずかしいくらい。自分は優秀じゃないから人の倍頑張らなければならないという意識が強くて、なんとか這いつくばってきた叩き上げのキャリアだと思います。でも、強いて挙げるとすれば「求められたことを全うすること」でしょうか。

ー「求められたことを全うすること」ですか?

田面木:はい。GMOクラウドではレンタルサーバーやプログラミングの知識をベースにCSをより良くしていくことを求められていたし、ピクシブでは、より事業をスケールするために、GMOクラウドで経験した上場企業としてのナレッジを求められていたと思います。ピクシブの事業をグロースできたのもGMOクラウドでの経験があったからに他なりません。アニメイトにおいても、ピクシブでの実績からIT領域の推進を求められていましたし、これまでの経験をもとに何とか経営というフィールドで求められた価値を発揮することができたと思っています。

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ーなるほど。それはメルカリにおいても同様ですか?

田面木:メルカリも同じですね。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを達成するために、これまでの経験が求められていると感じたのでジョインしました。進太郎さん(メルカリ代表取締役会長兼CEO)のことは昔からよく知っていて、彼が思い描くビジョンにもすごく共感していて。でもメルカリで具体的に何をしたいのかということはあまり考えていませんでした。自らのやりたいことを強い意志で成し遂げようとするタイプではなく、誰かの役に立ちたいという思いが強いタイプなのかも。自分の持っているナレッジやノウハウを「どこかの、誰か」に届けたい。これは自分の特徴であり、強みでもあるかなと、今振り返って思いますね。

CtoCならではのコミュニケーションがメルカリを強くする

ーでは、これからはメルカリにジョインしてからの話を伺っていこうと思います。これまでタモさんが何に取り組んできたのか、大まかに教えていただけますか?

田面木:言い出したら切りがないですが……大きく分けて二つ。「グローバル戦略」と「CS強化」です。

ー2017年2月。入社直後は、まず何を?

田面木:入社当時、進太郎さんから言われたことは「タモさんは、色々できるから、一度メルカリ全体を見てほしい」の一言のみ(笑)。それからCS拠点である仙台と福岡、そして海外拠点であるUSに足を運び、まずは現地メンバーへのヒアリングを重ねました。その結果、当時のUSのCSにもっとも多くの課題があることに気づき、真っ先に解決へ向けて取り組みました。さらに、世界で戦うには、まずはグローバルな人材を確保する必要があるので、採用プロジェクトも実施。それと同時にグローバルメンバーを受け入れる体制づくりの一環として、社内に「Global Operations Team(翻訳や通訳サポートにとどまらない言語や文化の壁を無くしてダイバーシティを促進していくチーム)」を立ち上げました。

ー入社後、しばらくはUSにフルコミットしていたのですね。

田面木:そうなんです。現在もUSで運用されている「CSAT(お客さま満足度指標)」のシステムの基礎は、実はGlobal Operations Teamと一緒につくったものです。おかげさまで何とか日本でのグローバル採用体制も整い、うまく事業もドライブしていきました。そうこうしているうちに今度は日本のメルカリCSから呼ばれて、本格的にCSを強化していくことになって。それが2018年2月ですね。

ー当時のCSにおける課題って、具体的にどんなものだったのでしょうか?

田面木:簡単に言えば、ほとんどの業務が「属人化(職人化)」されている状態でした。現場はGMV(総流通総額)が伸びれば伸びるほど忙しくなっていき、業務がスケールするための仕組み化がされていなかったんです。

ー「属人化」ですか?

田面木:メルカリのCSは、立ち上げメンバーの経験に頼らざるを得ないケースが多くありました。今のメルカリがあるのは、彼らの力なしでは語れない。彼らのおかげなんです。でも一方で、企業や事業をスケールさせるためには、人に頼りすぎない仕組みづくりが必要になる。もちろん仕組みづくりは進めていましたが、GMVの成長スピードがそれを上回り、正直追いつくことで精一杯だった……。メルカリをより強く、より成長させるためには、覚悟と勇気を持って、「All for One(全ては成功のために)」に変えることも大切だと思ったんです。

ーなるほど。

田面木:それから東京、仙台、福岡のCS拠点を巡回し、CSチームにヒアリングを重ね、一つひとつ課題を明らかにしていきました。なので、全体を把握するまでにかなり多くの時間を費やしてしまいましたね。CSについてはドラスティックに変えたというよりも、現状を解きほぐし、地道に一歩一歩、確かめるようにして歩んできた感覚があります。現状把握に1クォーター、仕組み化するのに1クォーター、トータル2クォーターの時間をかけて、改善を行いました。

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ーまずは何から着手したのでしょうか?

田面木:CS組織の問題に向き合うのも大切ですが、まずは目の前で困っているお客さまのことを最優先に考えようと決め、お客さまからの問い合わせに対する返信速度を上げることに注力しました。当時は最初の返信まで24時間を超えてしまうことがあったんですけど、今ではほぼ99%、24時間以内、早い場合だと6時間以内には、返信を差し上げています。

ー改善するうえでのポイントが気になります。

田面木:1コンタクトあたりの対応開始から処理終了までに要した時間を指す「AHT(Average Handling Time)や、1コンタクト当たりに要したコストを示す指標「CPC(Cost Per Contact)」など、あらゆるアクションを数値化して、どこがウイークポイントなのか、そしてどこを改善すべきなのか顕在化できる土台づくりに時間をかけました。それが想像以上にうまくワークし、人員配置などにも良い影響を与え、結果的にお客さまへの返信速度を上げることに成功したんです。その後は、お問い合わせのジャンル整理やプライオリティ設計などに注力。CtoCならではの様々なジャンルのお問い合わせに迅速に対応できるCSチームをつくっていきました。実際にどんなお問い合わせがあり、どんな対応をしているのか知るため、お客さま一人ひとりへの対応履歴を穴が空くほど読み込みましたね……。本当に大変でしたが、逆に嬉しかったこともあって。

ー「嬉しかったこと」ですか?

田面木:アプリ内で、多くのお客さま同士が売買のやりとりを楽しんでいるということ。CtoCならではのコミュニケーションが自然と育まれていて、「やっぱりメルカリは面白いな」と感動したことを覚えています。それから「もっとお客さまの声を聞きたい」と思って顧客ロイヤルティを数値化する指標である「NPS(Net Promoter Score)」も取り始めました。課題が山積している状態でも、メルカリを楽しんでいただけているお客さまを目にすると、希望やポテンシャルを感じることができました。これを一つひとつ解決していったら、もっとすごいサービスになるんじゃないかなと。その影響もあってか、目の前に課題が落ちていると、どんどん解決したくなってしまうんですよ。職業病に近いかもしれませんね(笑)。

「Customer Experience × Employee Experience」の先へ

ーそしていよいよ国内におけるメルカリ事業の責任者に就任するわけですが、その背景について教えていただけますか?

田面木:これまでのキャリアと同様、「求められたからやる」というスタンスは変わっていないかもしれません。でも自分が一番驚きましたよ。なぜ、僕が国内メルカリの事業責任者なのかと。

ーそうなんですか? では少し意地悪な質問をさせてください。なぜ、タモさんが選ばれたと思いますか?

田面木:え、自らを評価するって恥ずかしすぎませんか?(笑)。なぜだろう。うーん……。結果だけで判断すると、「自ら立てた目標を達成する実行力」ではないでしょうか。なかでも、先ほども触れたCS強化についてはある程度の評価をしていただいたと思っています。そもそも企業や組織において「何かを変えること」ってものすごく体力が必要ですよね。それをちゃんと任せられる経営陣として選んでくれたことは、とても光栄なことだと思っています。

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ー進太郎さんから、何か大きなミッションを課されていたのですか?

田面木:日本の事業責任者をやってほしいと伝えられたときは、特にありませんでしたが、それからすぐにメンバーと1on1を重ねて、改めて課題を抽出しました。そして僕のなかで出てきたキーワードが、顧客体験「CX(Customer Experience)」、そしてメンバーが企業や組織のなかで体験する従業員体験「EX(Employee Experience)」でした。

ーCXとEXをセットで取り組んでいこうと?

田面木:そうです。CS業務を通じで、お客さまの声を知ることの大切さを知り、どんどんCXを良くしていきたい! という想いが強くなりました。CXを良くすることって「メルカリのお客さまを十分に理解すること」そのものなんじゃないかなって、最近つくづく思うんです。でもそれって相当難しいんですよ。世界の事例を見ても研究し尽くされていない領域で、定量と定性のバランスにいまだに最適解はない。そのCXをとことん突き詰めて、メルカリが世界基準でお客さま体験の改善に取り組んでいるという状態にしたいなと思っています。それを実現するには、メルカリで働くメンバーにも最高のエクスペリエンスを届けたい。メンバーにとってメルカリは最高の職場といえるのか? 誇りを持って働けているのか? メンバーを知り、お客さまを知る、EXはCXのためであり、CXはEXのためでもある。それらは車の両輪のようなものだと考えています。

ーメルカリメンバーからは、EXに関する不安も多かったんですか?

田面木:正直に話すと、メルカリは事業推進スピードや意思決定が早い反面、情報共有が不足してしまう側面も多いと思います。例えば「経営戦略の共有が足りない」「経営陣とのコミュニケーションが取りづらい」など……メンバーからそんな感想をいくつももらいました。正直、耳が痛い話でした。でも僕自身、「経営と現場」という二項対立的な言葉が出てくることはなんとかしたいなと思うし、できる限りシームレスにしたいという想いが強い。最近では、マネージャーのみが集まるミーティングの議事録を全社的に共有するなど、情報の透明化をより強く意識していますね。

ーなるほど。それは何が要因なのでしょうか。物理的距離なのか、精神的距離なのか?

田面木:物理的距離があるかどうかではなく、お互いに思っていることをしっかりシンク(sync)できているかどうかだと思っていて。僕らの頭のなかにあることを、もっとさらけ出してほしいという意味なんじゃないかなと。「経営陣は忙しそう」という印象は一切抜きにして、きちんとシンクする。正直、僕も充分にできていなかったかもしれません。でも、改めてそれじゃダメだということに気づきました。

ー確かに結果だけではなく、プロセスも一緒に共有しないとメンバーの納得感は得られませんよね。

田面木:そうそう。ものすごいスピードで会社のプライオリティは入れ替わるし、方向性も変わっていきます。経営判断や意思決定も速い。まるで新幹線に乗りながら新幹線をつくっているような感覚というか、カオスのなかを泳いでる感覚というか……(笑)。でも、泳ぎながらでもいいから経営のメッセージをしっかりメンバーに伝えていくべきなんですよね。

ーメンバーや事業拠点も増えていくなかで、充分なコミュニケーションを維持できる会社なんて、逆にあり得ません。ただ、それは人の意識や工夫で変えられるかもしれませんね。

田面木:そうそう。メンバーが増えたからといって、全てを効率化することは果たして正解なのか? 必要以上のルールをつくることが重要なのか? 必ずしもそうではありません。ハードル(敷居)を下げたミーティングがあってもいいのかもしれない。うまくコミュニケーションを仕組み化することで、経営やメンバー、チームのことをどんどん知ってもらいたいですね。僕も色々な意見を知りたいので、メンバーと話す機会や交流イベントをもっともっと積極的に設けたいと思っています。

ーあっという間に終わりの時間が来てしまいました。では最後にタモさんが考えるメルカリの未来像について教えていただけますか?

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田面木:メルカリグループで、新しい金融サービスを担うメルペイが、ペイメントのサービスを拡張していく未来を想像すると、メルカリはメルカリでしかできないお客さま体験の価値が求められると思っていて。そういう意味で、メルカリはメルペイも含めて、CtoCのマーケットプレイスに限らない、人・モノ・お金が交流する場所になっていき、その体験が面白くて、どんどんサービスを使ってしまう状態というか……物理的な豊かさではなく、心で満足してもらえるようなサービスにしていきたいですね。

ー「心で満足するサービス」って良いですね。

田面木:こんなにモノが溢れている時代において、購入する体験、支払いの体験の選択肢はますます増えていきます。そんな時代だからこそ、心で満足するサービスがより選ばれると思っていて。当然かもしれませんが、色々な選択肢があるなら、そこでしかできない、心で満足するサービスにお金を支払いたいですよね? そして心で満足した体験は、必ず周囲の人に伝播するはず。サービスを通じて心を豊かにすることが、もしかすると僕が考えるメルカリのゴールであり、新たな通過点なのかもしれません。お客さまが「メルカリがないと人生つまらない!」と思ってもらえたら、最高じゃないですか。メルカリがみなさんのライフスタイルに溶け込んでいる、そんなシーンをメンバーと一緒につくりあげていきたいですね。

ーそうですね。より価値のあるメルカリを一緒につくっていきましょう!

田面木:がんばりましょう! 引き続き、よろしくお願いします!

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プロフィール

田面木宏尚(Hirohisa Tamonoki)

早稲田大学を卒業後、GMOクラウド株式会社へ入社。CS業務、サーバーホスティング事業、および新規事業の立ち上げ等に従事。2010年にピクシブ株式会社へ入社し、取締役としてシステム開発、マーケティング、グロース等の事業統括に従事。2016年1月より株式会社アニメイトラボ代表取締役社長CEOに就任し、小売領域におけるIT事業推進を実行。2017年2月に執行役員としてメルカリに参画。 2018年10月、執行役員メルカリジャパンCEOに就任。

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