「法務像」をアップデートする。メルカリリーガル6年目の変化と挑戦

「『September 11』直後、イランで文化人類学調査に従事。帰国後、一期生としてロー・スクールに進学して弁護士に。横浜に自分の事務所を構えて、いわゆる弁護士業務をしながら、スタートアップに常駐してサポートをしたのち、弁護士を辞めて海外の大学院へ留学。そんな僕が辿り着いたのは、メルカリでした。」

「簡単に自己紹介をお願いします」という私が投げたボールを、見事フルスイングで打ち返したのは、2018年11月にメルカリ社長室へ参画した齊藤友紀。現在、リーガル領域に軸足を置きながら、組織設計や業務フロー、事業スキームの策定支援など、領域を越境し組織課題の解決をリードする役割を担っています。また社外では、日々進化を遂げるテクノロジーや先端技術を、法的に検討する政府の委員などを歴任。この方は、いったい何者なのでしょうか……そして、なぜメルカリを選んだのでしょうか。

これまでの齊藤のキャリアを紐解くと、法律家になることを志す以前から持ち続けている、揺るがない「リーガル観」がありました。インハウス・ロイヤーとしての使命、そしてビジネスをブレイクスルーさせるためのヒントに迫ります。

「人の手助けをしたい」。文化人類学から法律の世界へ

ー突然ですが、齊藤さんは社内で「リーさん」という愛称で呼ばれていますよね。これはリーガルの「リー」という理解でよろしいですか?(笑)

齊藤:それは過去の答えですね。今は違います!

ーどういうことでしょう?

齊藤:前職時代、社内で唯一のリーガル担当だった時代に「リーさん」と呼ばれるようになったんです。しかしある日、協業のお話をしていた取引先の方に「ところで齊藤さんの社内でのお仕事は何ですか?」と聞かれて、もちろん僕は名刺に書いてあるとおりに「法務です」と答えたんです。すると「そういうことじゃないんだよなあ」と突っ込まれて……。

齊藤友紀(メルカリ社長室 兼 コーポレートリーガルマネージャー)

ー部署や役職ではなく、本質的な役割は何かと?

齊藤:そうです。そこで咄嗟に「強いて言うなら、リベロです!」と返したら、めっちゃウケたんですよ(笑)。サッカーのリベロのようなイメージですね。ゲームを組み立てて、ラストパスも出し、シュートまで決めてしまうような。それからリベロの「リーさん」となりました。最近では、周囲から「リベロさん」って呼ばれたり、議事録に「リベロ」って書かれたりもしてます(笑)。

ー攻めにも守りにも参加する役割ですね。

齊藤:まさに縦横無尽という感じです。

ーそれはメルカリでの仕事にも通ずるものがありそうですね。改めて、本日はよろしくお願いします。まずはこれまでのキャリアについて教えていただいてもよろしいですか?

齊藤:僕はもともと文化人類学者を目指していて、学生時代はテヘランで2年間フィールドワークを行いながら、イラン文化研究をしていました。当時の研究テーマは、イラン人男性と結婚してテヘランに暮らす日本人女性のライフヒストリー。アカデミックな世界にどっぷり浸かっていましたね。

ーそんなバックグラウンドがあったとは驚きました……。なぜ研究者から法律家の道へ?

齊藤:イランから日本に帰国して、研究成果をまとめているうちに、アカデミックな世界に閉じこもるよりも、学ぶこと、学んだことを日常の世界にフィードバックしたいという想いが強くなっていったんです。ロー・スクールに進んだ理由は「法律は人を助けるツール」だと思ったから。特に法律学に興味があったわけでもないのですが、法律や法的なものの考え方にツールとして汎用性があると考えたんです。これがリーガルの世界に入ったきっかけですね。

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ー裁判官や検察官、弁護士になることが目的ではなく、純粋に法的なものの考え方というスキルを身につけたいと思ったんですね。

齊藤:そうです。自分のなかに「人を助ける」という抽象的なミッションはありましたが、弁護士や検察官になりたいかと言われると、当時の自分はあまりそうは思わなかった。「同期のみんなが司法試験に向けて勉強しているから、僕も司法試験を受けるんだな」くらいの感覚ですね。司法試験に受かったとしても、ミッションをどう達成するかが重要だと思っていて。

ーその後、リーさんは結果的に弁護士になりますよね。弁護士になってからも、その「リーガル観」は変わりませんか?

齊藤:「法律はツール」というスタンスは学生時代から一貫していると思いますね。他の法律家が持っている価値観に同化することはなく、ある種そういう価値観を客観的に眺めているような感覚もあります。このあたりは人類学出身者っぽい(笑)。もちろん法律でしか解決できないこともありますが、法律だけでは解決できないことの方が多いですからね。法律や法的なものの考え方を適用することを目的化したら終わりです。ちょっと話は変わりますが、いわゆる「弁護士先生」を商売として取り組むことに、僕自身が不向きだとも感じていて……。

ーというと?

齊藤:自分で事務所を経営していた時代は、多重債務を負った方や夫婦関係に問題があって離婚したい方などからもご依頼をいただいていたんですね。でも、例えば僕が離婚事件を弁護すると「元サヤ」に戻ちゃったりするんですよ。彼らの「問題」を突き詰めていくと、「そもそも離婚しなくていいんじゃないの?」と思うことが多くあって。そこの滞りをほどいていくと、「やっぱり離婚は止める」となってしまう。だから僕が弁護すると、素直に離婚の手続きを進めるのに比べて時間はかかるし苦労も多い割りに、お金にならないわけです(笑)。

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ーうまく別れさせることが弁護士の役割だと思っていましたが、それではビジネスとして成立しませんよね(笑)。

齊藤:そうなんです。単に事件を処理するのではなく、問題の本質を突き詰め、根っこから問題を解決したいという想いが強かったんです。ただ、それだとビジネスとして成立しづらいという課題があって。それで、僕は「弁護士先生」を商売としてやるのは向いていないと痛感したんです。でも学んだことも大きくありました。それは、世の中に存在する多くの争いは、コミュニケーションで解決されることが多いということ。夫婦間や職場のトラブルも、根本的にはコミュニケーション不足がもたらした結果であることが多いんです。そうすると僕の仕事は、防ぐことができたはずの問題を事後に都度解決する「モグラ叩き」のような仕事でしかないなと。

ーなるほど。「法律はツール」というスタンスがあったからこそ、弁護士とは異なるフィールドにシフトすることができたわけですね。

齊藤:振り返るとそうかもしれません。世の中の問題の本質にアプローチしたいという想いが、より強くなったことは確かだと思いますね。

法律の知識ではなく、法的な思考が大切

ー「弁護士」の看板を下ろし、リーさんが次にチャレンジしたことは何だったのでしょうか?

齊藤:カリフォルニアで公共政策を学び、オランダで経済学を学んだ後、スタートアップでありながら、AI技術を中心としたソフトウェアのR&D分野において飛躍的な成長を遂げていた株式会社Preferred Networks(以下、PFN)に転職しました。それ以前から、いくつかのスタートアップのサポートをしていて、特にテック分野には興味があったんです。

ーPFNには、法務として入社されるわけですよね?

齊藤:当時、オープンに募集していた職種はエンジニアとリサーチャーのみ。残念ながら、法務の募集はありませんでしたが、「経営、法務、総務、経理、営業、事業企画など、何でもできるので興味ありませんか?」とメールを送ったら、すぐに返事が届き、入社する流れとなって。

ーすごい行動力ですね(笑)。実際に入社してみて、いかがでしたか?

齊藤:最終的には法務として採用されたのですが、「入社しても仕事がどれだけあるかわからない」と言われていたんです。でも実際に入社したら仕事が次々と見つかって(笑)。いわゆる「法務」以外の領域もガンガン担当していましたね。

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ー例えば、どんなことをしていたのでしょう?

齊藤:法務以外で言えば、例えばビジネス・デベロップメントも担当していました。当時、社員の9割くらいがエンジニアとリサーチャーだったので、BtoBのアライアンスの協議などを回す担当者が足りない状況で。企画の検討、交渉から契約まで一気通貫で担当していましたね。

ー法務なのに事業開発ですか。法律から得たスキルは活かされましたか?

齊藤:法律そのものの知識が活かされるというよりも、法的な思考、法律家らしい頭の使い方が活かされるということに気づきました。論理的に物事を整理したり、関係する当事者の視点、背景をいろんな角度から探る思考法ですね。これがベースにあると、労務であろうが、ビジネス・デベロップメントであろうが応用できるんですよ。いろいろな分野や領域で経験を重ねるにつれて、どんどん新しい挑戦をしてみたくなっていきました。

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齊藤:あと、これは法律のプロの宿命ですが、法律の知識や法務の経験があればあるほど「法務をやってくれ」というニーズが強くなるんです。でも、そればかりに応えていたら新しいチャレンジができなくなるし、自分自身のモチベーションも続きませんよね。そのアンマッチな状況を変えたいと思っていたとき、メルカリと出会いました。

急成長の影に隠れた組織課題を解決することがミッション

ー数ある企業のなかで、リーさんがメルカリを選んだ理由は何だったのでしょうか?

齊藤:社長の小泉さん(メルカリ取締役社長兼COO)との面談の際に、「今のメルカリには、とにかく複雑で難しい課題が多くある。この課題解決にチャレンジできるのは今だけです」という話をしていただきました。この話が非常に魅力的だったんです。

ーそれは組織的な課題ですか? それとも事業的な課題ですか?

齊藤:どちらもですが、組織的な課題の方が大きいですね。そもそもメルカリの場合、スタートアップと呼ぶにはサイズが大きすぎる。正直に話すと、それまでは、メルカリでのチャレンジにあまり面白さや魅力を感じていませんでした。でも小泉さんの話を聞いたとき、ものすごいスピードで急成長したからこそ、解決できていない組織上の課題がたくさんあるんじゃないかと思ったんです。

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ー認識はしているけど着手できていない、いわば温存されている課題ですね。

齊藤:そうです。しかも、各イシューに対してステークホルダーがたくさんいて、それぞれが強い想いを持って仕事をしている。みんなのやりたいことをうまくアラインさせ、会社の方向性に沿いながら解決する……。それは非常に難題だと小泉さんから言われて、僕もそれはそうだろうなと思いましたね(笑)。でも、複雑で、難しいチャレンジであればあるほど、自分自身も成長できるはず。そう思い、メルカリに飛び込むことを決意しました。

ー「人を助ける」という抽象的なミッションをご自身のなかに掲げてきたリーさんですが、それはメルカリにおいても同様ですか?

齊藤:もちろんです。メルカリというマーケットプレイスは新しい経済圏を創り出している。新しい雇用を生むこともあるでしょうし、「モノ」ではなく「価値」が循環する社会、コミュニティーを実現することは、間接的に人の生活を豊かにするはず。僕が若かった頃に持っていた素朴なモチベーションとメルカリが成し得たいミッションがうまくリンクしてると感じたんです。

現場と一緒に汗を流せるコーポレートリーガルでありたい

ー現在、リーさんはメルカリ社長室とコーポレートリーガル(法務)のマネージャーを兼務していますが、最初の所属はメルカリ社長室でしたよね。

齊藤:社長室は、会社の大きな課題を組織横断的に解決しながら、未来のことも考えられる部署なので、何でもチャレンジしたい自分にとって最高の環境だと思いました。2019年2月からはコーポレートリーガル(企業法務)のマネージャーも兼務しています。

ーまだコーポレートリーガルチームにジョインして間もないですが、チームの印象はいかがですか?

齊藤:正直に話すと「アドホックな対応に追われている」というのが最初の印象でした。そもそもリーガル業務の大半はアドホックな対応であることは事実なのですが、それにしても仕事に追われ過ぎている印象を受けましたね。もちろん必要なことではあるものの、本来発揮できるはずのパフォーマンスを、十分に発揮できていないこともあるんじゃないかなと。

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ーそれは具体的にどういうことでしょうか?

齊藤:例えば、あるチームが何ヶ月もかけてつくったアイデアをリーガルチームに確認したとします。それに対してリーガルが事前に十分ケアできておらず、「YES or NO」を回答するしかないというフローがあるとすれば、非常にもったいないことだと思っていて。その段階で判断をするのではなく、初期の時点でリーガルチームからも知恵を出し、一緒にビジネススキームをつくれば、その数ヶ月は無駄にならないはず。

ーアドホックな対応に追われていると、それが十分にできないわけですね。

齊藤:もちろんリーガルチームのメンバーは強い意思と意欲を持って会社を支えようとしています。実際に他のチームを巻き込み、プロジェクトをリードしているメンバーもいる。ただアドホックな業務に追われ、投げられてきた球をひたすら打ち返すような仕事のやり方をしていると「どうしたら自分たちがもっと大きな価値を生んでいけるか」を考え、そういう価値を生むことをモチベーションにして仕事に臨むことが難しくなってしまう……。そこに一番の問題意識を持ちましたね。

ー組織やメンバーの数が増えると、コミットできなくなる以前に、情報をキャッチアップしにくくなる問題もあると思います。その点は、いかがでしょうか?

齊藤:おっしゃる通りだと思います。背の低いタケノコが横に地下茎を延ばしていく前に、縦に伸び切ってしまっている状態なんです。いまだにリーガルとの交流がないチームも多くあるのではないでしょうか。連携が取れているチームほど、例えばカジュアルな雑談のなかで常に情報を共有し合っているイメージがありますよね。

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ー単純にチームメンバーを増やすことだけでは解決できないことですよね。

齊藤:そうですね。必要に応じて人は増やしつつも、それに解決を委ねるのではなく、人と人とのコミュニケーションの数を増やしていく。僕の昔の話に戻るんですけど、まずはコミュニケーションすることが大事なんです。「昭和の価値観」と揶揄されるかもしれませんが(笑)、チームからはみ出して、リーガルチームの外のメンバーと一緒に血と汗を流すことが大事なんです。横串のコミュニケーションチャンネルをつくり、周囲との関係を構築することが、非常に重要ではないかと思っています。

ーとてもメルカリらしい解決策だと思います。

齊藤:現場感覚を持たずに提案する解決策は空理空論になりがちです。安全地帯から論評するのではなく、関係者と一緒に問題を解決するなかで現場観をつくり上げ、共有していく。当たり前の考え方かもしれませんが、今のメルカリには必要なことだと思いますね。

ーリーガルチームが組織やプロジェクトをオーガナイズしていくのは新しいですね。

齊藤:リーガルのメンバーには、そのポテンシャルがあると思っていています。リーガルシンキング、法的なものの考え方ができるということは、原理原則に基づいた思考ができるということなんですよね。それはつまり、状況を整理できる力があるということ。問題や状況が複雑になればなるほど、整理するスキルは絶対に必要です。それが既にあるのはアドバンテージです。あとはその力を他のチームを巻き込む際に、どのように活かしていくか……それだけなんですよね。

ー「実行」あるのみだと。

齊藤:実行力に加え「覚悟」も必要ですが、マネージャーとしてメンバーの責任は僕がすべて背負うつもりです。だから、とにかくメンバーにはどんどん挑戦していってほしいですね。

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ーなるほど。これまでの法務像にはない資質が求められますね。

齊藤:メルカリではメンバー全員が会社の成功のために頑張っています。これは間違いない。でもアプローチが微妙に違うだけで、一気にカオスな状況が生まれる。そんなカオスの海を泳ぎ切れる力が必要です。大きな成果を上げるためにアクションを起こす際は、自分だけが動くのではなく、他のチームや時には経営陣も、意思と戦略をもって動かしていく必要がある。受動的であったり、保守的であったり、既存の法務像に囚われている方は、厳しいだろうなと思いますね。

ー「新たな法務のあり方」を一緒につくれるのは、今のメルカリならではですね。

齊藤:そうですね。従来のインハウス・ロイヤーには求められないことも多くあると思います。でもこれからは人や組織を動かす力を持ったプロフェッショナルが必ず求められるはず。僕自身、その方法を模索しているところですが、その答えを見つけたいという熱い意欲を持った方と、是非一緒に働きたいですね。

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プロフィール

齊藤友紀(Tomokazu Saito)

メルカリ社長室兼コーポレートリーガル マネージャー。コーポレート法務から組織設計、事業スキームの策定・遂行支援、社内外での企画・調整などに従事。2017年12月から経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」委員。2019年2月から同省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会法務機能強化実装WG」委員。911直後のイランで2年間の人類学調査に従事し帰国した後、2007年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、2008年弁護士登録、2009年法律事務所を開業。2013年8月渡米し、UC Berkeley大学院(公共政策)、Purdue大学大学院(経済学)、株式会社Preferred Networksの法務等を経て、現職。Twitterは@tmczs。Slack名は@li-san (of libero)。

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