一度目の失敗を乗り越え、メルカリのホーム画面リニューアルを支えた開発体制

2020年3月末、フリマアプリ「メルカリ」のホーム画面がリニューアル(Androidは6月末にフルリニューアル)。これまでは「ファッション」「スポーツ」といったカテゴリーごとに分かれていた10個以上のタブを4つに絞り、お客さまが思い思いに使える状態となりました。

──と、ここだけを聞くと簡単にできたように思えますが、そうではなく!

実は、今回のリニューアルはプロダクト開発チームのなかで1年以上前から進められていたプロジェクトでした。さらに言うと、一度リニューアルに踏み切ったものの、訪問率を下げてしまうという失敗も…。

リニューアルした現在のホーム画面

そこでメルカンでは、ホーム画面リニューアルを担当したプロジェクトオーナー(PO)の菱井康生と、テクニカルプロダクトマネージャー(TPM)のAki Saarinen、そして開発を担当したiOSエンジニアの芳賀優樹の3名をインタビュー。聞き手は、Product Divisionのマネージャー、與田祐樹です。

この記事に登場する人


  • 菱井康生(Yasuo Hishii)

    富士通に新卒入社し、インフラエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、ITベンチャーでアプリケーションエンジニアやPMを経験した後、2018年7月にメルカリへ入社。現在はPMとして機能開発や分析を推進中。

  • Aki Saarinen(アキ サーリネン)

    8歳でプログラミングに出会い、それ以来ずっと「素晴らしいプロダクトをつくること」を目指し続けている。いくつかのベンチャー企業を経て、2019年10月にメルカリへ入社。現在はPMとして、パーソナライゼーション領域をリードしている。

  • 芳賀優樹(Masaki Haga)

    2018年4月にメルカリへ入社。UK版メルカリやJP版メルカリのUX関連プロジェクト(画像検索、ホーム画面など)を担当。現在はPersonalizationチームでiOS開発のテックリードを務めている。

  • 與田祐樹(Yuki Yoda)

    大手印刷会社系列のITベンチャーを経て、2011年にグリー株式会社入社。2015年に株式会社ファーストリテイリングへ入社し、PMとしてユニクロアプリやジーユーオンラインストアの開発を担当。2018年2月に株式会社メルカリ入社し、US版メルカリのPMを担当。その後、2019年7月よりJP版メルカリにてProduct divisionのマネージャーを務めている。

一度目のリニューアル、失敗の原因は「大胆に変えすぎた」

與田:ホーム画面のリニューアルは、メルカリ社内でずっと議論され続けてきたものでした。菱井さんは当初からプロジェクトを担当していましたが、リニューアルのきっかけは何だったのでしょうか?

菱井:ホーム画面は、いわばアプリの顔。多くのお客さまの目に触れる、大事な部分です。しかし、リソースの問題もあり、ホーム画面の改善は後手になりつつありました。「そろそろ着手できそうだ」となったとき、改めて調べてみるとホーム画面を利用しているお客さまは10%以下。なかには「ぐちゃぐちゃしているからあまり見ない」「すぐ検索するから見ていない」と言うお客さまもいらっしゃいました。つまり、確実にお客さまの目に触れる部分なのに、目的を持って使える状態になっていなかったんです。

リニューアル前のホーム画面

芳賀:開発側からすると、当時のホーム画面は初期のころからずっとある古いコードが使われていました。サービス全体のリアーキテクチャは進めていましたが、ホーム画面に関しては手を付けられなかったんです。そのため、開発側としては、このリニューアルを機に新しいアーキテクチャをつくり、いろいろなコンポーネントを加えられる状態にする目的がありました

與田:サービスとしても開発としても、ホーム画面のリニューアルは重要だったんですね。具体的な行動に移したのはいつごろですか?

菱井:2019年2月ごろです。約半年かけて、1回目のリニューアルを実施。ところが、これが非常によくなかった。

菱井康生(PO)

與田:よくなかった?

菱井:以前までのホーム画面は、「ファッション」「スポーツ」「ハンドメイド」など10個以上のタブに分かれていたんです。それを、一度目のリニューアルでは複数タブを1つにまとめ、デザインもガラッと変えました。しかし、これによって訪問率がガクッと下がってしまって

與田:それは…。

菱井:はい…“アプリの顔”として役割を果たせていないことになります。さらに問題だったのが、大胆に変えすぎたことで「何が悪いのか」がわからなかったこと。原因を究明しきれず、仮説の立てようがなかったんです。3ヶ月ほどかけていろいろトライしましたが、プロジェクトの停滞感は拭えませんでした。

一度目のリニューアル時のホーム画面

芳賀:停滞感はありましたね。新しいアーキテクチャはつくれましたが、その有用性を図れるものもありませんでした。

足りなかったのは、細かなステップ

與田:そこから、プロジェクトは再始動しているんですよね?

菱井:そうです。再始動したのは、2020年1月ごろ。このとき、メルカリではお客さまそれぞれにあったサービス体験をつくることを目的とした「パーソナライゼーション」に注力する方針ができ、それに特化したチーム体制が誕生しました。そのなかで、ホーム画面のリニューアルを進めていくことになったんです。そこで新たにTPMとして加わったのが、Akiさんでした。

與田:Akiさんがメルカリへ入社したのは2019年10月でした。初めてホーム画面を見て、どう思いました?

Aki:前職では、UXのリニューアルや、機械学習を利用したサービス開発をしていました。なので、初めてメルカリのホーム画面プロジェクトの状況を見たときに思ったのは「完成させようとしているものがどれも難しすぎる」(笑)。

Aki Saarinen(TPM)

菱井:(笑)。Akiさんと話してわかったのは、前回の大きな反省点は「メルカリにはいろいろなお客さまがいて、さまざまな使い方をされている」という部分に、しっかり目を向けられていなかったこと。もちろん、お客さまの声を無視していたわけではないです。ただ、運営側である僕らの想いが強すぎた。だから、どーんと一気に変えすぎたんです。本来は「最も変えなければならないポイント」を絞り、そこへ注力すべきだった。細かいステップが足りなかったんですよね。

Aki:メルカリは、本当にさまざまなお客さまに使っていただいています。そんなお客さまのサービス体験を一気に上げるのは難しい。なので、菱井さんの言う「最も変えなければならないポイント」を絞り込むためにも、ある程度の時間をかけて、お客さまにどんなコンテンツを提供できるか、どんな反応があるかを試す必要があったんですよね。

菱井:ですね。そこでAkiさんと話し合い、ホーム画面の表は変えず、裏の仕組みだけを変更し、お客さまの反応を見る実験的な取り組みをスタート。どこまでならお客さまのユーザビリティを大きく変えることなく馴染んでもらえるのか。お客さまのニーズが最も高いポイントはどこなのかを探る細かなテストをくり返しました。こうしたステップをいくつか踏んだおかげで、リニューアルで注力すべきポイントがわかったんです。そして、一気にアクセルを踏むようにして開発を進めていきました。

與田:ちなみに、テストは何回くらいしたんですか?

與田祐樹(Product Division、マネージャー)

菱井:3ヶ月で4パターンほどテストしています。UIに関しては、10回以上変更していましたね。

ホーム画面リニューアルを支えたスクラム開発

與田:3ヶ月で4パターンを試すというのは、開発がスムーズじゃないとできないスピード感ですよね?というのも、メルカリは開発組織としてもある程度の規模になりつつあります。そして、チーム間のコミュニケーションが疎遠になり、業務もサイロ化する問題も起こり始めていました。このあたりの問題は、どうやって解決したんですか?

菱井:その課題感はありましたね。そのため、メルカリでも一部でスクラム開発をスタートさせています。ホーム画面のリニューアルでも、そのやり方を導入していました。スクラム開発のいいところは「この期間でここまでやろう」と決め、みんなでアイデアを出し合いながら動けること。定期的に状況や進捗を確認しつつ、メンバーそれぞれがいいリズムで開発に向き合えていました。

Aki:開発スピードだけでなく、メンバー間でマインドセットを合わせられたのもよかったですね。コミュニケーションを活発に行えるスタイルなので、僕と菱井さんで話し合ってきたことも、チームの共有財産にできました。

與田:エンジニアとしては、どうでしたか?

芳賀:スムーズでしたね。前回のリニューアル時に新しいホーム画面のアーキテクチャは完成していて、モジュラー化できていました。おかげで、新しい大枠のUI自体の開発と、新しいホーム画面をはめ込んでいく作業を同時に進められました。

芳賀優樹(iOSエンジニア)

與田:前回分の開発が活きたんですね。

芳賀:ですね。今回のホーム画面リニューアルでは、各コンポーネントがビューコントローラになっています。親ビューコントローラと各コンポーネントが疎に設計されているので、いろいろなコンポーネントを簡単につくれるようになりました。そのため、他チームのPMから「こんなコンポーネントがほしい」と言われても、すぐ対応できる。メンバーがより自由に動ける体制になり、技術負債の改修と同時に新しいクリエイティブを試したり、プロトタイプを試したりできるようになったと思っています。

與田:スクラム開発自体が、コミュニケーションをたくさんとることを推奨するフレームワークになっています。ホーム画面については細かなテストを同時並行させていたこともあり、コミュニケーションも多くなる。そういう意味では、このチームにフィットしたやり方だったんですね。

菱井:ですね。スクラム開発でやると決まったとき、みんなで話していたのは「俊敏性を失わないように気をつけよう」。このチームは、業務の枠をあまり気にせず「これ良さそうじゃない?」と発言したものを前向きに試してくれました。例えば、芳賀さんが「このほうが気持ちいい」と自発的にSlackで発言し、盛り上がるみたいなシーンもたくさんありました。

Aki:スクラム開発のいいところは、目的やゴールから逆算しながら業務に集中できること。そのなかで、新しいアイデアがあれば柔軟に組み込んでいけるところも強みですよね。それに、菱井さんが言うように、ホーム画面開発チームの団結力はすごかった!メンバーの誰かが困っていたら一緒に問題解決しようとする姿勢も見られました。

「お客さまとの関係性がわかるホーム画面にしたい」

與田:リニューアルは「やったら終わり」ではありません。次のフェーズではどんなことをやろうとしているんでしょうか?

菱井:僕は、メルカリというサービスがお客さまのパートナーになれればと思っています。そのためにも、サービスを使うごとにパーソナライズが進み「メルカリと築いてきた関係はこれだ」と感じられるよう、ホーム画面をよりブラッシュアップしたいんです。メルカリは不要品の売買だけでなく、メルペイでの決済も可能。そのバランス感を見つつ、新しいものを取り入れていきたいですね。

Aki:賛成です!お客さまにとって、「使う意味があるアプリ」になるには、まだまだやることはたくさんあります。今後は機械学習も取り入れ、お客さまそれぞれに合ったサービス体験を届けることを考えています。例えば、お客さまの行動から最適なレコメンドやサジェスチョン、UXにするなど。そのための試行錯誤は、すでに始めているところです。

現在のホーム画面

芳賀:開発面では、すでにアーキテクチャはできているので、相当変なものが入ってこない限りは対応可能です。データだけ入れ替えるのであれば開発なしでリリースできますし、コンポーネントの追加も1スプリントあれば開発できます。ただ、僕らが管理できるコンポーネントの数は限られています。今後さらに数が増えることを考えると、すべてマニュアルテストするのは難しい。そこをどうやって自動化していくかは、課題ですね。

Aki:パーソナライズも、課題は山積みです。お客さまのなかには毎日メルカリを使う人もいれば、時々しか使わない人もいる。そういったユースケースを一つずつ検証し、お客さま体験を向上させていく。今後はもっと多くのチームやメンバーを巻き込みながら「何が必要なのか」「どんな効果があるのか」を、専門知識も組み合わせつつやっていきたいですね。

芳賀:巻き込みは大事ですね。開発に関しては「自分はiOS」「Android」と意識しすぎて、専門領域以外に興味を持たなくなることは避けたいです。他のメンバーが何をやっているのかに興味を持ち、そこからどんなUXをつくれそうか、何が必要かを考えていく。そうやってお互いに足りないものを補いながら、お客さまにとってよりよいものをつくっていきたい。そのためには、失敗したことにとらわれず「ほかの方法もやろう」とトライしていけるチームでありたいです。

菱井仮説を持ってトライして失敗することは、学びにつながります。だから、称賛されるべきことだと考えているんです。失敗を無駄にしないためには、さまざまな効果検証を高速で回していくこと、そして、チームのマインドがポジティブであることが大事。そういう意味では、今のチームは「なぜ、この結果になったのか」「結果を検証しよう」「なるほど、じゃあ次へ行こう」といったコミュニケーションができています。今の雰囲気は維持しつつ、スケールさせていきたいですね。

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