在宅勤務によって生まれた「3つの問題」とは?サイボウズ青野氏×メルペイ山本氏×石川善樹氏が見据える働き方シフト #thebusinessday4

経営やコーポレート部門に携わるビジネスパーソンが知見や最新トレンドを共有し合うコミュニティとして、メルカリが企画・実施するビジネスカンファレンス「THE BUSINESS DAY」。2016年からスタートし、今回で4回目を迎えました。

今回は、3回目に引き続きオンラインでの開催。昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、IT企業を中心にリモートワークにシフトするなか、経営・組織戦略や企業の課題は今後どのように変化していくのでしょうか。

この記事では、「withコロナ時代の企業経営に求められる新しいビジネス様式 ~withコロナ時代の働き方シフトは、ピンチか、チャンスか?~」と題したセッションのレポートを公開!登壇したのは、サイボウズ代表取締役社長の青野慶久さん、予防医学研究者/博士(医学)石川善樹さん、メルペイ執行役員CBO山本真人、そしてモデレーターとして一般社団法人at Will Work 代表理事/Plug and Play Japan株式会社 執行役員CMOの藤本あゆみさん。登壇者それぞれが考える、これからの「働き方シフト」とは?

この記事に登場する人


  • 青野慶久(Yoshihisa Aono)

    サイボウズ株式会社 代表取締役社長。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長などを歴任。近著に『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。

  • 石川善樹(Yoshiki Ishikawa)

    予防医学研究者/博士(医学)。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)『考え続ける力』(ちくま新書)など。

  • 藤本あゆみ(Ayumi Fujimoto)

    一般社団法人at Will Work 代表理事/Plug and Play Japan株式会社 執行役員CMO/一般社団法人マーケターキャリア協会 理事。大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職、マネージャー職を経て2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPR マネージャーとしての仕事を経て、2018年3月よりPlug and Play株式会社でのキャリアをスタート。現在は執行役員CMOとしてマーケティングとPRを統括。

  • 山本真人(Masato Yamamoto)

    株式会社メルペイ 執行役員CBO。2004年、東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月より現職。

コロナ禍が、サイボウズとメルペイにもたらした意外な発見

ー冒頭で語られたのは、コロナ禍が各社にもたらした働き方の変化について。かねてよりリモートワークや時差出勤、副業など多様な働き方を推進しているサイボウズでは、2月末から本格的な在宅勤務をスタート。「うまくいくだろう」と見込んでいたところ、意外な発見があったそうです。

青野:今までは私も毎日出社していたんですが、在宅勤務に切り替わって会議をオンラインしたところ、社員たちからすごく褒められました。「青野さんは今までみんなを会議室に集めていたけど、オンライン会議を活用してくれるようになって、すごくやりやすくなりました」と。申しわけない気持ちになりましたね。サイボウズにも、まだまだ改善していく余地はあるんだと思います。

ー続いて、メルペイ。メルカリグループは、2月19日より在宅勤務へと徐々に移行。もともと対面でのコミュニケーションを重視するカルチャーが根付くメルカリグループでは、在宅勤務前は不安の声もあがっていたようですが…?

山本:在宅勤務実施後にアンケートをとってみると、回答の8〜9割が「今までと同じように働けている」「業務効率が上がっている」という声だったんです。2020年6月21日の日本経済新聞では「在宅勤務を導入した企業の7割弱が生産性が低下した」という調査データもあったので、すごく驚きました。

山本:人事制度の話ですと、メルカリグループでは360度評価を導入しています。そのため、在宅勤務スタート当初は「働きぶりが見えないから評価できないのでは?」みたいな不安の声がけっこうあったんです。ただ、実際にやってみるとSlackとオンラインミーティングで発言できないのは、バリューを発揮できていることにならないという話になって。逆にハイパフォーマーが浮き彫りになったのは、興味深かったですね。

同時にこの状況をうまく活用すれば、新しい働き方を確立できると実感しました。そこで本日(7月2日)まさにトライアル開始を発表したばかりなのが、「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」「merpay work lab」。これは、多様な選択肢を用意して新しい働き方を推進していける制度です。

ーそして、コロナ禍によって変化する働き方をさまざまな企業にヒアリングしてきた予防医学研究者/博士(医学)の石川善樹さん。各社が直面する課題を3つにカテゴライズして紹介しました。

石川:1つ目が、「間(ま)がなくなった問題」です。今までは電車通勤中にプライベートモードから仕事モードに変わったり、会議室からデスクへ向かう途中でモードが切り替わったりしていたのが、まったくなくなってしまった。

2つ目は、「仕事のやりとりや雑談を耳をそば立てて聞く機会がなくなった問題」。上司が部下を指導するやりとりって、はたからみていても学びが多いじゃないですか。そういう機会がなくなってしまったということです。

3つ目が、「オンラインでのブレストが難しい問題」です。定型業務は在宅のほうがやりやすいかもしれませんが、逆にブレストはすごく難しく、苦しんでいるマネージャーの方がいらっしゃいました。私は特に3つ目のブレスト問題について考えてきたので、のちほどご紹介したいと思います。

在宅勤務で「切り替え」を生むスケジューリング術

ー石川さんの分析を踏まえ、まず語られたのが、それぞれ直面する課題(ピンチ)について。石川さんが提唱した「間(ま)がなくなった問題」を皮切りに、子連れ在宅勤務や単身者の孤独について話題は広がりました。

青野:石川さんがご紹介された問題に加えて、あとは「マネジメント難しい問題」「雑談ない問題」も起きています。本当、課題だらけですよ。

特に自分自身も強く実感しているのは「間(ま)がなくなった問題」ですね。4月に家の近所のホテルを7泊8日で借りて、こもって働こうと思ったんですよ。ところが朝から間(ま)がなく働いていると、14時にはぐったり。ホテルのベッドで寝始める始末です。人間、ちゃんと休まないとダメなんですよ。

藤本オンラインイベントも「10分ぐらいしか集中できない」と言われています。ミーティングにしても朝から切れ間がなく続いていたら、集中力も落ちますよね。

青野:セルフマネジメント力が必要ですよね。集団でいるとなんとなく相互でマネジメントしあっているけど、一人になって顔が見えなくなった途端に自分でマネジメントしなければならなくなる。これこそアフターコロナに求められる能力なのかもしれません。

石川:青野さんのように極端にやってみるのは、自分の適性を知るいいきっかけになるのかもしれませんね。私自身「間(ま)がなくなった問題」についていろいろ考えてみたんですが、結論としては食べ物や飲み物に頼るのが一番やりやすいと感じました。毎日決まった時間である必要はないんですが、食事やコーヒーブレイク、ティーブレイクは切り替えのチャンスにになる。そのスケジュールをまず抑えて、残りの時間で予定を立てていく。

画像上段中央から、青野慶久さん、石川善樹さん、藤本あゆみさん、山本真人

藤本:私の周りにも、散歩をルーティンに取り入れていた人がいましたね。ランチ後に30分の散歩時間を入れ、頭と体をリブートしてから午後の仕事をスタートさせていました。

山本:スケジュール的なルーティンじゃないんですが、僕はガジェットを活用しています。今もパソコンのカメラではなく一眼レフを使用しているんですが、ボタン1つでオンとオフを切り替えられる。カメラをオフにして、ライトも落として、パソコンもシャットダウンしたら今日は終わり、という感じですね。

青野:今回顕著だったのは、子育て世帯ですよね。学校も保育園も閉まったので、育児をしながら仕事しなければいけない。子どもが家のなかを走り回っている。ビデオ会議に乱入してくる。食事の支度もしなければいけない…働けるわけないですよ。私自身もすごく実感したので、社内に「非常事態なんだからパフォーマンスは落ちてもいいよ」というメッセージを発信しました。その言葉に救われた社員もいたみたいです。

山本:逆に単身者も苦労したみたいですよね。最初は「一人なら気楽に自分のペースでできる」と思っていたけど、オンラインミーティングが終わった途端に孤独になる。そういう精神的な辛さを感じている人もいたようです。

オンラインによって生まれた新たな企業風土

 

ー 一方、それぞれがコロナ禍を経て、チャンスと感じたことはあったのでしょうか。各社の在宅勤務を導入したからこそ得られたポジティブなエピソードが語られました。

山本:会議の効率は圧倒的に上がりましたね。オフラインの会議だと基本的にコミュニケーションは会話だけじゃないですか。でも、オンラインだと会話と同時並行でSlack上でも議論が起きていて、会議そのものがマルチストリームになるんです。それによって3倍速ぐらいで議論が進んでいくので、ものすごく効率的だと感じましたね。全社会議も、今までは社長がしゃべっていると社員は聞くだけでしたが、オンラインだとSlackにコメントや質問がつくようになって、ものすごくインタラクティブでおもしろかったです。

あとは、会議が動画で録画できるようになって、参加できなかった人もあとから2倍速とかでチェックできる。そうすると、自分の発言がより多くの人に届くようになるんですよね。今までは会議を録画するなんて面倒で誰もやらなかったことが、勝手になされるようになって、時間や場所の非同期が起きている。このあたりはすごく可能性を感じます。

青野:サイボウズだと、今まではなかなかオープンにできていなかった会議がオンラインによってどんどんオープンになってきていますね。僕も社員とのランチミーティングを開催しているんですが、今まではクローズだったものがオンラインになった途端、70名が視聴するようになりました。さらに録画によって、ちょっとした雑談やくだらない話も共有される。リアルな雑談はなくなってしまったかもしれないけど、テクノロジーによって新しい雑談の文化が生まれている感覚はあります。

また、今までは製品のセミナーにしても新卒の説明会にしても、オフィスや会場に椅子を並べて開催していたわけです。でも、オンラインを活用すればスペースを用意する必要はないし、参加者の上限はなくなるし、録画しておけば何度も使用できる。オフラインの制限がなくなったことで、いいやり方が次々に生まれています。

藤本:地方の就活生が、わざわざ東京へ行かずとも会社説明会に参加できるようになったのはすごくいいですよね。それによって新しいチャンスが生まれるかもしれないですし。

「オンラインでのブレストが難しい問題」の解決策

ー続いて、テーマは石川さんが挙げた「オンラインでのブレストが難しい問題」へ。会話のテンポを合わせづらかったり、沈黙の時間が苦痛だったりすることで、なかなかうまくいかないオンラインブレスト。まず石川さんは、ブレストが組織にもたらすメリットから話しました。

石川:ブレストのメリットは、2つ。1つは、いろんなアイデアが出ること。もう1つは、組織の学習が進むことです。

石川:どういうことかというと、ブレストによって仲間の思考回路を観察できたり、それぞれの得意分野を把握できたり、ときには人の本性が見え隠れする。組織内において言語化や形式化がしにくいものが学べるという意味で、最近のブレスト研究では「たとえアイデアが出なくてもやったほうがいい」とすら言われています。つい1つ目にフォーカスしがちですが、2つ目が重要なんです。

そして、「オンラインでのブレストが難しい問題」を解決する方法は、ブレスト内で「観察するブレストをつくること」です。具体的な方法としては、人数は最大4名。前半組と後半組に分けて、最初の30分は前半組がブレスト、次に後半組が30分ブレストし、最後に全員で結論を出すというやり方です。ポイントは、前半組がブレストしているときに、後半組がオブザーブすること。後半組がブレストしているときは、前半組がオブザーブする。観察しながらチャットツールに思ったことを書き出し、自分たちがブレストする前に前半の足りなかったところを振り返る。ここで、メタ視点が身に付くんですよ。

石川:そうすると、「足りなかったところを話し合おう」という視点で取り組めるため、議論のシフトが起こりやすい。時間としてはトータル2時間弱ですが、本当にあっという間に感じます。「メタ視点が身に付くブレスト」なので“メタスト”と名付けたんですが、一度やってしまうとオフラインのブレストには戻れませんね。

藤本:注意するポイントとしてはどんなことでしょうか。

石川:ZoomならZoomの同じ部屋に入ることですね、そしてブレスト中はデジタルホワイトボードに書き込みながらやっていく。特に前半組はすごくベタな話をしたほうがいいですね。ベタの先にメタがある。ちなみに私は100回以上やりました。

藤本:メタストを実践した方の反応はいかがでしたか?

石川:「やりやすい」「おもしろい」と言った反応をいただくと同時に「リアルの場だとどうしても上司・部下といったヒエラルキーを意識してしまうけど、オンラインだと気にしないので発言しやすい」と言われましたね。前半と後半でメンバーも入れ替えるので、より発言しやすいのかもしれません。

あと、僕自身が最近注目しているのは「ハートマーク」です。

青野・山本・藤本:えっ?

石川:テキストでコミュニケーションするときに「がんばります!」とするじゃないですか?それと「がんばります♡」とするんです。そうすると、伝わり方が変わる。「!」だと言葉が強調されすぎる。でも「♡」だと、「!」ほど強くないけれど、頑張ろうと思える。これに変えるだけで、コミュニケーションがもっと円滑になると感じているんです。

日本企業に在宅勤務は普及・定着するか

ーオンラインブレストのハウツーが明らかになったところでセッションもいよいよクライマックス。「日本企業に在宅勤務は普及・定着するか」というテーマで、青野さん、そして山本がそれぞれの意見を述べました。

※石川さんは通信が切れてしまったため、不在。

青野:普及はするけど、今、東京で盛り上がっているような温度感では広がっていかないと思います。全国的な分布を見ても、東京と大阪がメイン、名古屋や福岡ですらニッチです。これが今の日本ですね。

藤本:働き方改革も、地方だと「東京の話でしょ?」で片付けられることがあります。それと似ていますね。

青野:ただですね、東京で在宅勤務が流行ったら、地方へ移住する人が徐々に出てくると思います。実際、サイボウズ社内にはいますし。そういうカタチで地方に在宅勤務が広がる可能性は大いにあるのではないでしょうか。

山本:同意ですね。極論、海外企業と影響を及ぼし合うことも増えてくると思います。今はシリコンバレーの企業も働く環境を整えることで人材競争をしているところが多い気がして。ところが、在宅勤務が普及すれば、日本人だろうがインド人だろうがヨーロッパ人だろうが働きたい国で働けるようになる。ある意味、僕らはそういう働き方を推進して対抗していかなければいけないとすら感じています。

藤本もしかしたら在宅勤務は1つの過程で、その先にもっとすごいことが起こる……なんてこともありそうですよね。では、最後のひと言ずつお願いします。

青野:新型コロナウイルスは確かにピンチです。でも、働き方や教育みたいな文脈だとポジティブに捉えることもできる。ぜひピンチをチャンスに変えていきたいですね。

山本:当たり前だと思っていたものを疑って、失敗を恐れずにトライアルをしていくと、新しいものは生まれてくると思います。何も特定の会社に限った話ではないので、こういうムーブメントを大きくしていきたいと思っています。メルペイでも新しい働き方をどんどんトライアルして、成功・失敗問わず、発信していきます。そういうところを期待いただけたら嬉しいですね。

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