「知的財産は守る」「でも、他社を出し抜きたいわけじゃない」担当者が明かすメルカリ知財戦略への道のり

お客さまやステークホルダーと信頼関係を築くために知財の力を活用し、同時に事業を保護して他社からの脅威に抵抗するための力を持つ──これは、メルカリIPチームが掲げる「Open & Defensive戦略」の全容です。

そんなメルカリIPチームでは現在、新しい仲間を募集中です。現在3名でありながら、メルカリグループ全体の知財業務を担うIPチームはどのように発足し、前述の知財戦略を確立させていったのでしょうか?

2020年にIPチームの上野がインタビューを受けた知財誌「IP Business Journal 2020/2021」(P6〜8)で取材・執筆を担当したライターの友利昴さんを迎えて、雑誌では語りきれなかったIPチームと知財戦略の裏側に迫ってもらいました。

※撮影時のみ、マスクを外しています。

この記事に登場する人


  • 上村篤(Atsushi Kamimura)

    複数のインターネット企業にて知財部門の立ち上げやマネジメント業務を担当。2017年2月、メルカリに入社、リーガル、知財チームを経て、現在は政策企画チームのマネージャー。


  • 上野英和(Hidekazu Kamino)

    電機メーカおよびゲームメーカにて特許の権利化および係争を担当。2018年8月、メルカリへ入社、知財全般を担当。


  • 友利昴(Subaru Tomori)

    企業で法務・知財業務に携わる傍ら、著述家として活動。企業の知財活動に詳しい。著書に『知財部という仕事』(発明推進協会)などがある。


メルカリIPチームは「落としがちな仕事」を自ら拾いにいく

友利:まず、このタイミングで新たに採用活動をすることになった背景を教えてください。

上野:本当のことを言うと、欠員補充なんですけどね。

友利:いきなり、素直すぎる事情ですね(笑)。

上野:(笑)。とは言え、それがなかったとしても、事業の拡大に合わせて仕事が増えてきています。採用背景の根本はここですね。私たちは、メルカリの企業活動のなかで、常に「何か知財が貢献できる場面はないだろうか」と探し、見つけていくスタイルの仕事。当然、仕事を見つければ見つけるほど、業務量は増えていきますよね。

上野英和(Hidekazu Kamino)

友利:一般的に、企業における知財部の仕事とは、特許や商標などの調査、出願、ライセンス…と、わりと定型的なイメージもあります。メルカリは、そういうものではない?

上村:そうした典型的な知財業務もありますが、もっと事業活動と密接に絡む場面が多いんです。例えば、フリマアプリ「メルカリ」内で出品されるさまざまな類型の模倣品、不正出品をいかになくすか?という問題にも対処しなければなりません。また、アプリの開発場面ではオープンソースソフトウェアの利用が欠かせないので、そのためのコンプライアンス体制も整えなければならない。これらは典型的な知財活動ではありませんが、かたや法務部門にとっての典型業務でもない。つまり、大事なのに、落としがちな仕事なんです。そういうものを、自ら拾っていくようなスタイルです。

友利:それは、応募者にも求めたいスタイルと言えそうですね。しかし、仕事をどんどん探し、拾っていくと言っても、場当たり的にやっているわけではないんですよね?

友利昴(Subaru Tomori)

上野:もちろん、軸となるポリシーがあります。それが「Open & Defensive戦略」です。Open戦略とは、社会から信頼される、お客さま・パートナーなどのステークホルダーと信頼関係を築くために知財の力を活用すること。Defensive戦略とは、事業を保護し、他者からの脅威に対抗するために知財の力を活用することです。その両輪を意識して、知財活動を行っています。

友利:Open & Defensive戦略をもう少しくわしく教えてください。

上野:Defensiveの方は、伝統的な知財業務に近いですね。ようするに、知的財産権を取得して、当社のマーケットプレイスが他者からの権利行使によって脅かされないように防御することです。また、これにはパテント・トロール(ライセンス料や和解金などを目的に特許権侵害を主張する、実事業を持たない個人や団体)対策も含まれています。そのため昨年、パテント・トロールに対抗する特許防衛団体に加入しています。

友利:Open戦略の方はいかがでしょう。

上野:知財を使って他社を出し抜くのではなく、ステークホルダーとの良好な関係構築のために知財を使い、その結果として社会から信頼を得る──そうした方針を、Openという言葉で表現しています。例えば、メルカリは、自社プログラムのソースコードをオープンソースとして公開する方針を積極的に発信していますが、この取り組みはまさにOpen戦略に基づくものです。「情報を発信するところに情報は集まる」とよく言いますが、Open戦略を採った方が結果的に得るものが大きいだろうという考え方ですね。メルカリでは、社内のポリシーやガイドラインなども、社会にとって有益だと思えば積極的に対外発信していますが、そうした社風とも親和性が高いです。

上村・上野は「前職でも一度採用面接をした仲」

友利:Open & Defensive戦略にたどり着くまでにいろいろ試行錯誤があったと思います。IPチームが立ち上がり、人が増えていくなかで、どのようにして今の体制に至ったのでしょう?

上村:私は前職で、知財部門のマネージャーをしていました。2017年にメルカリに転職してきたのですが、当時はリーガルチームの人数も少なく、知財も含めて法務全般を扱っていました。当時はメルカリを使ってくださるお客さまが急激に増えていて、現金出品の問題への社内外での対応や、模倣品対策のための権利者との関係構築といったリーガルイシューも頻発していたんです。さらに海外展開と上場も見据えていた時期でした。そこで、リーガル部門の強化策として、部門を専門分化したうえで、IPの人材を採用することにしたんです。そのとき、採用したメンバーの一人が上野さんでした。

上村篤(Atsushi Kamimura)

上野:2018年ころですね。

上村:上野さんは、私の前職時代にも応募してきたことがあったんです。そのときのことはよく覚えていて、最初の面接から上野さんはとにかく質問が細かい(笑)。2時間半くらいいろいろ聞かれて、私がそれに答えて…。それを3〜4回くり返しました。

友利:それで採用になったんですか?

上村:はい。ところが、彼は辞退したんですよ(笑)。ものすごく時間をかけて面接して、絶対に良い関係が築けたと思っていたのに辞退されたので「えーっ!」となりました。その後、付き合いがあったわけではないですが、メルカリの面接で再会。前に話した経緯があるので、上野さんがどんな人なのかは、だいたいわかっていましたね。

友利:そのとき上野さんは、気まずくなかったんですか?

上野:いえ、応募するにあたって、上村さんがいることには気づいていました。話したことのある人がいるのは、安心感がありましたね。メルカリについては乗り気で、迷わずに入社。ただ、入社早々、大変な目に遭いまして…。

上村:上野さんを採用する直前に、メルカリの米国事業である「メルカリUS」に現地採用のCTOが入社したため、USの知財管理体制をしっかり話さないといけないと思っていたところでした。メルカリUSのCTOと出張の日程調整をしたら、どうしても上野さんが入社する週しか空いてない。そこで入社してすぐだった上野さんにもアメリカ出張に同行してもらうことにしたんです。

上野:入社早々どころか、私がまだ前職の有休消化で海外旅行中に、上村さんからメールが来て「行ってくれます?」って聞かれましたからね。断ったら試用期間で終わってしまったりして…と思って(笑)。「行きます」と返事したら、「せっかくなので、現地で会いたいシリコンバレーの人がいたら、アポを取って日程調整してください」と言われました。まだメルカリのメールアドレスももらってないのに、旅先から個人のメールで面談のアポを取っていたんですよ。採用面接時に「メルカリでは”Go Bold(大胆にやろう)”というバリューもある」と聞いていましたが、「これがそうか」と思いましたね。

友利:Boldってこういうことなのかと(笑)。上村さん、まだ部下じゃないんですよ。なんでそんなことしたんですか?

上村:いやぁ、普通なのかなぁ…と。でも、人は選んでます。嫌がりそうな人にそういうことは言いません。それに、アメリカ行ける機会は何度もあるわけじゃない。行けるタイミングで行ってほしかったという想いもありましたね。

入社2日目でメルカリUSと話し合うため、アメリカ出張へ

上野:話をそのまま続けると、その出張がきっかけになり、メルカリUSのリーガルのトップとミーティングの機会を定期的に持てるようになりました。なので、結果的には良かったです。でも、さすがに入社初日の午前中に、上村さんから明日からの出張で、メルカリUSの経営層と知財戦略を議論したいから、そのための資料を作ってください」と言われたことにはびっくりしました(笑)。まだ日本のメルカリのこともよくわからないのに…「この人はなにを言っているんだ」と思いましたよ(笑)。

上村:上野さんはすごくレベルが高いんです。前職時代に応募してきたときも、事業戦略について、競合他社の特許マップをつくってきて「こういう事業分野は、もう他社の特許で埋まっているけど、どうするんですか?」みたいな話を僕にしてきたんですよ?そのときの資料が、もうお金を払って買いたいくらいのレベルだったんです(笑)。そんな経緯があったから、資料はチャッチャとつくれるんじゃないかという期待がありました。

友利:上野さんは、あらかじめメルカリの知財分析もしていたんですか?

上野:メルカリが属するネット業界では、侵害のわかりやすい特許は回避が容易であるなど本当に強い特許をとりにくい事情があると思います。メーカーが従来してきたように、大量に出願して、特許ポートフォリオを大きくして、競合とはクロスライセンスして、紛争リスクを減らして…というような戦略は当てはまらないのだろうと入社前から思っていました。むしろ、アメリカのテックジャイアントが近いのでは、と。彼らも事業規模や企業価値からすると、特許ポートフォリオは小さい。その代わり、パテント・トロールに対抗する防衛団体での活動や、オープンソースソフトウェアの取り組み、知財政策のロビー団体を通して、知財業界でのプレゼンスを高めています。それを参考にして、従来のメーカーとは異なる知財戦略を立てるべきだとは考えていましたね。

友利:上野さんが、メルカリの目指すべき知財戦略を早くからイメージできていたからこそ、上村さんもムチャしても大丈夫だろうと思われたんでしょう。そして、上野さんもその期待にしっかりと応えていらっしゃるんでしょうね。

上村:「特許の数」というアプローチを使わず、どうやって知財の力でGAFAと競っていけるのかを考えていたところで、それを一緒に考えてくれるパートナーが来た感じです。なので、頼もしかったですね。アメリカ出張中も、2人でずっと議論していました。「SNSとしては後発で特許もあまり保有していないLinkedInはどのような知財戦略をとったのか?」「パテント・トロールに狙われるフェイズが来たときにどう対処すべきか?」なんてことを、Airbnbで借りたアパートでずっと語り合っていましたね。

上野:シリコンバレーはそれほど都会ではないので、夜は何もすることがない。出張中は、5日間くらいずっとしゃべってましたねぇ。

上村:夜通しいろいろな話をした結果、上野さんは異動することになったんですよね(笑)。

友利:えっ!? IPチームに配属され、入社2日目でアメリカ出張して、そんなにアツく知財戦略を語っておきながらすぐに異動?

上村:当時リーガル部門の傘下にあったIPチームごと、R&D部門の傘下に異動する組織変更をしたんです。事業リスクへの対応に重きを置くと、IPチームはリーガル部門にあったほうがいい。けれど、当時のメルカリの成長フェーズだと、R&Dに近いポジションにいたほうが、事業の根幹から知財が関与できることが多いだろうと考えたんです。2回目のアメリカ出張中、Airbnbで上野さんと「明日担当役員に異動したいって言っちゃおう」と決めて、翌月から異動することになったんです。

友利:ものすごいフットワークですね。

上村:その後、結局はコーポレート部門に戻ってくるんですけどね。ちなみに、私も今はIPではなくて、政策企画チームでマネージャーをしています。

メルカリには「従来の知財部門におけるの仕事の評価や価値」はない

友利:お話を聞くと、異動や組織変更がわりと頻繁なんですね?一般的に、知財や法務部門は人も組織も固定しがちな職種ですが。

上野:フレキシブルですね。入社2日目で海外出張に同行させられ、その次の出張中にビデオ会議でチームごと異動が決まる風土ですから(笑)。そんな状況に適応できるような人は、メルカリと相性がいいと思います。

友利:上野さんは、電機メーカー、ゲームメーカーと、伝統的なメーカーの知財部門からの転職というキャリアですよね。そのフレキシブルな世界に飛び込むにあたって迷いはなかったのですか?

上野:今思えば、上村さんが前職時代にオファーを出してくれたのに結局辞退したのは、そのころはまだ迷いがあったからでしょうね。メルカリを受けたときは、「mercan」で会社のポリシーや社内の雰囲気に関するの情報発信が充実していましたし、なにより、上村さんはなんでもあけすけに話してくれました。おかげで、入社することに迷いはなかったです。

友利:働き方も、経営や事業を追いかけて知財部門ができる仕事を能動的に見つけていくスタイルだとおっしゃっていましたよね?

上野:メルカリで働いていると、いろんなチームの取り組みから、新しいイシューが次々と飛び出してきます。それを自分でキャッチして、仕事にしていく。「新しく出てきた課題について知財で何かできないかと常に考えながら日々を過ごしています。知財の仕事をする人は、基本的には新しい技術やアイデアが好きな人が多い。この環境を楽しめる人もいるはずだと思います。

上村ただ「特許出願を年間何百件やる」「中間処理を何百件やる」といったことが従来の知財部門における仕事の評価や価値だとすれば、メルカリでは、まったくそのキャリアではなくなります。応募者のなかには、それに対する怖さ…「今まで当たり前のようにやってきた仕事のスタイルや評価軸を捨てて、もし上手くいかなかったときに、元の知財の世界に戻れるのか?」と不安を感じる方もいらっしゃいますね。

上野:私自身は、特定の技術分野の特定の業務だけという知財キャリアに戻ることはなさそうです。固定化された仕事をやり続けることは、安心感がありますし、専門性の深化になると思います。一方、そのキャリアが安定と言い切れない時代になりつつあります。専門分野の事業全体が海外に売られてなくなってしまうことも起きる。むしろ、今まで良しとされた世界に残り続けるほうがリスクだと感じている方もいるんじゃないでしょうか。

友利:そういった危機感を持っている人は、たくさんいると思います。

メルカリの「Open & Defensive戦略」も不変のものではない

友利:最後に、応募を検討している方へのメッセージをお願いします。

上村:今、私たちはOpen & Defensiveというポリシーを打ち出しています。でも、それすらも決して不変のものではなく、将来的には変わることもあり得ます。その時々で必要なことをどんどん実行し、提案したことをすぐに実行に移せるのが、この会社の良さです。いろいろなことにチャレンジしたいと思っている方からのご応募をお待ちしています。

上野:本当にそのとおりで、固定化されていることがほとんどないんですよね。だから、自ら「メルカリをこういう風にしたい!」という想いがある人がいいですね。スリリングな世界ですが、合う人には本当に合う職場だと思います。

友利:良い出会いがあることを祈っております!

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