メルカリが多様性のあるプロダクトになるために。CEO 山田進太郎・社外取締役 篠田真貴子が「D&I」に見ているもの

多様性を受け入れ、認め合う――ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)は、これからの世の中を支え、人間の価値観を変えていく大切な考え方です。メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎も「よりよいプロダクトをつくっていくために、D&Iは欠かせない」と話します。

D&Iを社内に広げたいという想いから有志が結集し、2018年に草の根的な活動をスタート。徐々にその重要性が増していくなかで、2021年1月にはD&Iを推進するための社内委員会「D&I Council」も誕生しました。

メルカリのプロダクトや組織に、どうしてD&Iが必要なのか?そこには、社会の要請だけではない理由があります。メルカリが取り組み続けるD&Iの現在地と、これから向かう課題について、山田と社外取締役の篠田真貴子に聞きました。前編・後編でお届けします。

※撮影時のみ、マスクを外しています。

この記事に登場する人


  • 山田進太郎(Shintaro Yamada)

    メルカリ代表取締役CEO(社長)。愛知県瀬戸市生まれ。早稲田大学卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、株式会社メルカリを創業。

  • 篠田真貴子(Makiko Shinoda)

    メルカリ社外取締役(独立役員)。東京都新宿区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入社。米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士取得後、マッキンゼー・アンド ・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後ノバルティス 及びネスレにて、事業部の事業計画や予算の策定・執行、内部管理体制構築、PMIをリードした。2008年にほぼ日入社、取締役CFO管理部長として同社の上場に貢献した。2018年に退任後、充電期間を経て、2020年3月エール取締役に就任。


D&Iは多様なお客さまへ、よりよいプロダクトを届けるための手段

―まずは、今のメルカリを取り巻く状況について聞きたいです。創業から8年が経ち、プロダクトや組織が進化していくなかで、特に目立つ変化はありますか?

山田:メルカリを使うお客さまの層は大きく変化していますね。2013年にメルカリがはじまったとき、メインターゲットは「国内の」「小さな子どもがいる」「若い女性」でした。我々も、まずは目の前にいるその方々に、便利に使っていただけるよう、サービスをつくり込んでいきました。その頃に比べると、今は日本から海を超えてUS(米国)まで、老若男女に使っていただけるサービスへと成長することができた。でも、これからグローバルにもっと力を入れていくことを考えると、ダイバーシティは大変重要なトピックになってきていると思います。

メルカリ代表取締役CEO・山田進太郎

―メルカリのプロダクトにとって、ダイバーシティはどうして重要なのでしょうか。

山田:まず、僕は基本的に、プロダクトがお客さまとの最大の接点だと思っているんですね。今、日本では月間1,802万人のお客さまにご利用いただいていますが、その数を2倍、3倍に伸ばしていこうと考えたら、あらゆる方々にメルカリを使っていただく必要があります。そして、多様なお客さまに提供できるサービスがつくれないと、それ以上の成長は難しい。当然、多様な方々のニーズに対応していくためには、プロダクトをつくる我々も、より多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されなければいけない。年齢も国籍も宗教もジェンダーも、すべてにおいて多様な人たちが、多様な議論をして、それをプロダクトに落とし込んでいく必要が出てきたと思っています。

―多様なお客さまに対応するプロダクトをつくるには、組織の多様性も必要になってくる、と。

山田:そうです。ある意味、社内の多様化はプロダクトを追求した“結果”であって、「ダイバーシティ自体を実現したいからやる」みたいな“目的”ではないんですよね。より多くの方によいプロダクトを提供しようと思ったら、法務であろうと人事であろうと、組織のあらゆるセクションが“D&Iを体現する必要がある”ということ。だからこそ経営戦略上の重要な要素として、D&Iに取り組んでいます。

グローバルスタンダードを目指す意識が、ぐっと高まった

―2014年にはUS、2016年にはUKへ進出(※UKは2018年に撤退)しているメルカリは、多様なプロダクトを開発する現実的な機会にも恵まれていたかと思います。海外でゼロからメルカリを立ち上げる経験を経て、D&Iにまつわる学びや気づきはありましたか?

山田:僕らの理解はまだ追いついていない部分があるな、と実感しました。やっぱり、日本でプロダクトをつくっていると、どうしても日本人に最適化されたサービスになっていくんです。たとえば、検索ポータルなんかを見てみても各国でかなり仕様が違う。「Google」は検索バーやボタンしかないシンプルなつくりだけど、中国のポータルは文字がすごく多くて、「Yahoo! JAPAN」はその中間ぐらいの感じですよね。でも、グローバルの視点を踏まえれば、これからはサービスのバリュー・プロポジションをシンプルに伝える必要があるんです。

―そのために、US版やUK(英国)版ではどんなカスタマイズをしたんですか?

山田:たとえばUS版は、JP版メルカリにあった細かい注意書きを全部なくしました。最初はそのまま翻訳しようと思ったんですが、現地のPM(プロダクトマネージャー)やお客さまから「何これ?」みたいなリアクションがあったので、すべて削除したんです。そのタイミングで日本版からも同じように注意書きをなくしてみたら、まったく問題ありませんでした。

山田:GoogleやAppleなどのプロダクトを使っていても、そんな注意書きなんて確かにほとんどないんですよね。でも、プロダクトそのもののUI/UXで「これはやっちゃいけない」「こうしたほうがいいよ」と、自然にわかる。そういうものがつくれるのはやっぱり、USという国そのものが多様だからだと思うんです。いろんな土地からの移民で構成されている国で、言語も文化もばらばらだから、サービス自体がわかりやすくならざるを得ないんですよ。僕も前の会社をZynga(USのソーシャルゲーム会社)に売却したとき、シリコンバレー流のやり方を見ていろいろ学んだつもりだったけど……それでもやっぱり、日本でつくっていると日本っぽくなっちゃうんだなと感じました。それ以降は「グローバルスタンダードに合わせていこう」という気持ちがより強くなったし、多様な社会に向けてサービスを提供するからには、社内にもダイバーシティが広がっていかなきゃいけないと再認識したんです。

篠田:私はずっとメルカリの1ユーザーでしたが、メルカリがどんどん使いやすくなっていく背景には、そういう考え方があったんですね。進太郎さんから今伺ったことと、まったく違和感がないなと思いました。

メルカリ社外取締役・篠田真貴子

「いいプロダクトをつくるために、どんな組織であるべきか?」を突き詰める

―D&Iは「目的」ではなく「手段」である。その考え方に沿って、メルカリはこれまでどんなアクションをとってきましたか?

山田:ここからは議論が生まれるところかもしれませんが、僕らがまずひとつ掲げているのは「数値目標をつくらないこと」です。たとえば「マネージャーの半数を女性にしましょう」「何年までに外国人比率をこれだけ上げましょう」「組織を英語化しましょう」みたいな基準って、世の中が変化していくなかでどんどん変わっていくと思っているんですね。我々がサービスを提供している国や扱う事業も増えていくにつれて、自分たちやお客さまにとっての最適・理想もどんどん変わっていくだろう、と。だからこそ、D&Iが目的化しやすいし、しちゃいけない。

―それらしい数値目標を達成することがD&I、ではないですもんね。

山田:そうです。自分たちがいいプロダクトをつくるためにどんな組織であるべきか。どうしたら競争力を持てるだろうかという視点で考えていきたいと思っているんです。そして、その先できちんと成果を出せるのが、一番いい。つまり、いいプロダクトを目指して、D&Iを推進する。多様性のある会社になったからいいものをつくれて、競争力も高まる流れです。そうやって我々がD&Iを体現する存在になれれば、他の会社もD&Iに興味を持ってくれるかもしれない。メルカリのD&Iが進んだ結果として、世の中にそういう企業がもっと増えたらいいなとも思っています。

グローバル化は進んだ一方、ジェンダーのD&Iはまだこれから

―メルカリのD&Iは、Multicultural/Pride/Women(多文化多言語の理解促進/LGBT+支援/女性のエンパワメント)の3本軸で展開されてきました。これまでにどのような成果を出し、今どのような課題を抱えていますか?

山田:グローバル化に必須な多国籍採用については、4年ほど前から、ある程度の結果が出せていると感じています。日本はエンジニアの数が圧倒的に少ないこともあって、新しく入社するエンジニアの8~9割は、もう日本国籍以外の方々です。それに伴い、全体ミーティングの資料やSlackの通知を日英併記にするなど、社内のいろんな整備が急速に進んできました。ただ、そっちのダイバーシティに重心が寄ってしまっていた、という部分はあるかもしれませんね。グローバルスタンダードにミートしていくことで、海外から来ても働きやすい会社だと思ってもらえたし、そちらのD&Iは勢いをつけて進められた。その一方で、ジェンダーの面におけるD&Iは遅れを取っているのが現実ですね。

篠田:私もメルカリに入ってきたとき、実は「思ったより女性が少ないな」という印象を抱きました。なぜなら、入社前からずっとメディアやイベントでメルカリのお話を伺ってきて、女性の採用候補者やメンバーに対するユニークなサポートが記憶に残っていたんです。たとえば子育て中の女性には「子どもを預けることがハードルになって採用面接に来られないかもしれない」とまで考え、人事が配慮している話を聞いたことがあります。そこまで手を打っている会社なのだから、女性がいっぱいいらっしゃるんだろうと思ったら、意外とそうでもなくて。

山田:そうですね。ジェンダーのダイバーシティについては、今後どう進めていくかが大きな課題です。篠田さんに社外取締役として入っていただいた理由の一部もそうですし、今の採用においては積極的に女性を受け入れようと活動しています。それでも、なかなか進んでいかない。そこで今年の1月からはD&Iを組織横断で推進する社内委員会「D&I Council」なども立ち上げて、本格的に力を入れはじめたところです。

D&Iをさらに推進するための社内委員会「D&I Council」の体制図

―ジェンダーのダイバーシティがなかなか進まなかった要因は、何だと思いますか?

山田:技術職の側面でいうと、エンジニアの女性比率はもともと低いんです。だから普通に人を集めていると、どうしても男女比が偏ってくる。ただ、世の中の比率が偏っていたとしても、メルカリ社内はもっと違う比率でやっていかなくちゃいけないと思っています。そういう意味では「この課題を解消できれば、メルカリにとっての競争力につながる」という理解も、少し足りていなかったんじゃないかなと。女性も平等に働けて、ちゃんと活躍できる環境さえ整えられれば、なんとかなるのではないか。もちろん簡単なことではないとしても、諦めるつもりはないですし、一つずつ解決していくことで道は拓かれていくと思っています。

必要な枠組みを考えながら、一歩ずつ進んでいく

―具体的に、どんな環境や制度を整えたらいいでしょうか。

山田:妊活支援や男性育休も含めた人事制度「merci box」などもそうですが、それ以上に、ジェンダーバイアスみたいなものを取り払う仕組みづくりをしていかないといけないでしょうね。社内では、すでに無意識バイアスを適切に理解するワークショップなどを取り入れています。国籍や文化、ジェンダーなどの違いが、採用や評価のプロセスに影響しないようにすることが大切だと考えています。

先日一般公開した「無意識バイアス ワークショップ」に関する社内研修資料

―仕事をする場面では、どんな男女の違いが想定されますか?

山田:キャシー松井さん(元ゴールドマン・サックス証券副会長)の本を読んでいて興味深かったのは、アピールの差ですね。たとえば女性は、自分の仕事や業績をあまりアピールしない方が多い。「リーダーをやりたいですか?」と尋ねても、男性なら「やらせてください!僕にはこんなことができます!」と言うのに、女性は「これとこれができていないから、私にはまだちょっと早いかもしれません」などと言う。こういう点も踏まえて、個人のニーズに応じて適切に後押しをすることも必要です。もちろんこれも一つの傾向に過ぎませんが、具体的なポジティブアクションをとるところまで、進めていけたらいいなと思います。

篠田:たしかに、そのようなジェンダーによる傾向はあるかもしれませんね。そのうえ、バイアスという無意識なものには、自分たちではどうしても気づきにくい。以前、ある会社でジョブディスクリプション(募集要項)をつくったとき、内容を外部の専門機関にチェックしてもらったそうなんです。すると、人種やジェンダーなどのさまざまなバイアスにちょっとずつ拠った表現が、いくつも見つかって。それを全部修正したら、応募してくる方のダイバーシティが何ポイントも上がったと、明確な結果が出たといいます。だから、外部の目を取り入れながらアクションしていくのもいいかもしれませんね。

山田:面白いケースですね。社外の専門機関ではないですが、メルカリもジョブディスクリプションについてはWチェックを社内で徹底していて、ジェンダーや職種にまつわるバイアスを取り除く意識はしているところです。

―今年1月に実施した全社向けのD&Iに関するサーベイでは、「D&Iがメルカリにとって必要な手段のひとつだと思う」と回答した人が約85%。「D&Iを自分の言葉で説明できる」と回答した人は約60%でした。この数字を率直にどう思われますか?

山田:数字をどう見るかという話でもありますが…この結果を見て「15%はダイバーシティが必要だと感じられていないんだ、ダメじゃん」ではなくて、やっぱり少しでも前に進んでいくことが、今必要かなと思います。社内にもギャップはあるんだろうけど、それはたぶん埋めていけると感じているし。経営でも4年くらい前からずっと議論を重ねてきて、一応今の到達点まで来ているけれど、それでもまだ完璧ではありません。スパッと解決する課題ではないから、みんなで時間をかけながら、認識をすり合わせていくしかない。

―もうひとつサーベイで興味深かったのは、子どもがいるメンバーのポイントが高かったことです。子育てしながらの働き方に困る人が世の中にたくさんいるなかで、メルカリはわりと、そこで希望を見いだせている。

篠田:それはすばらしいですね。この成果は、merci boxのような制度だけの話ではない気がします。子育てしながら働くメンバーがきちんと力をつけられる環境があり、しかもその成長がちゃんと周囲に承認されていることを実感できているからこそ、このような結果につながったんじゃないかな、と感じました。

いろんなレイヤーで、D&Iに関する議論が生まれていくといい

―メルカリのD&Iはそもそも、2018年に有志が集まった草の根的な活動がスタートでした。当時、進太郎さんはその動きをどのように受け止めていたのでしょうか。

山田:経営陣ではもうD&Iが重要だという認識もあったし、ある程度の仕組みづくりも進んでいるタイミングでした。なので、そういう意味では改めてのメンバーから“追認”を受けたような思いがあったかもしれません。

―経営だけでなく現場も動き出すことには、どんな意義があると思いましたか。

山田:みんながいろんな議論をすることで考え方を合わせていけるはずだし、そこにはすごく意義があると思っています。育ってきた環境やふれてきた情報なんかを考えてみても、自分自身の無意識バイアスみたいなものって当然あるんですよね。文化としてもあるし、社会にもそういうものが根強く残っている。それでもD&Iを進めようとするには、経営からも勢いをつけないとダメなんだろうと思うんです。D&I Councilをつくろうというアイデアも、そんな話のなかで出てきました。

―D&I Councilは、今後どのような役割を果たしていけそうでしょうか。

山田:Councilでやろうとしていることは「D&Iはこういうものですよ、だからやってください」と、注意喚起するようなことではありません。「みんな一緒に、ここでD&Iについて考えていきましょう」という場をつくりたいんです。そのなかで「こういう考え方じゃなくて、こう考えたほうがいいよね?」みたいなことや、現場でもちゃんと腹落ち感がありつつ「メルカリのD&Iはこうだよね」って思えるところを見つけていけると、さらにいい。そうじゃなければ、字面ばかりきれいなだけで、血肉にはなっていない、実際の組織にはインプリメントされないものが出来上がっちゃうだけだなと。終わりがない話だから、とにかく丁寧に「自分たちってどういう組織でありたいんだっけ?」とアラインしていくしかないと思っています。

―社内のいろんなレイヤーで、いろんなメンバーが、D&Iを議論していく。その流れのなかに見えてくるものがあるだろう、と。

山田:そうです。だから、なにか問題があったとき、率直に話せるような環境づくりが大事なのかもしれませんね。誰かを糾弾するためにやっていることではないし、Councilのメンバーや経営陣だって間違っているところはたくさんあるはず。そういうことをお互いに認め合ったうえで、メルカリらしいD&Iを少しずつつくっていきましょう、というメッセージを伝えていきたいですね。

対談の後編は3/10に公開予定です

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