「クラブ経営ができればいい」わけじゃない、鹿島アントラーズが“地元”と歩む道を選び続けてきた理由

「鹿島アントラーズは『ノンフットボールビジネス』に注力する」。これは、鹿島アントラーズが2011年から掲げていた経営方針の1つです。そこにメルカリが経営参画したのは、2019年のことでした。

サッカークラブにおける経営戦略と言えば、チケットやグッズ、スポンサーセールスの事業戦略を策定したり、スタジアムやグラウンドの投資計画などをつくることがメインです。そのなかで鹿島アントラーズが掲げた「ノンフットボールビジネス」では、どのような事業を立ち上げようとしているのでしょうか。また、一般企業の経営戦略にはない“鹿島アントラーズならでは”の難しさとは?

今回のメルカンでは、鹿島アントラーズの経営戦略チームである金子有輔と神戸佑介が登場。他企業でも経営戦略の立案と実践を担ってきた金子とJリーグで全国のクラブと向き合ってきた神戸が感じた面白さと特徴を語りました。

※撮影時のみ、マスクを外しています

この記事に登場する人


  • 金子有輔(Yusuke Kaneko)

    朝日アーサーアンダーセン(現PwCコンサルティング合同会社)、ITベンチャーの新規事業担当を経て2008年株式会社ミクシィ入社。内部監査室Mgr、社内システム部部長を歴任。ミクシィ退社後、2社教育ベンチャーの事業企画・経営企画室マネージャーを経て、2017年6月メルカリ入社。内部監査室、コーポレートプランニング等複数の部門を経験し、2019年9月株式会社鹿島アントラーズ ・エフ・シー経営戦略チームのマネージャーとして出向(メルカリSportsBusiness マネージャーを兼務)。東京都立大学大学院経営学研究科修了。CISA、CRISC。鹿嶋市出身、住友金属工業蹴球団からのアントラーズファン。


  • 神戸佑介(Yusuke Kambe)

    株式会社静岡新聞社静岡放送で報道記者を担当後、2009年社団法人日本プロサッカーリーグ(以下Jリーグ)入局。ファンデベロップメント、競技運営を担当後、2012年10月株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下鹿島アントラーズ)に出向。地域連携、新規事業開発などを担当する。2015年1月Jリーグ帰任後、広報、事業を経て、2016年10月株式会社Jリーグメディアプロモーションに出向。Jリーグ公式映像制作のプロデューサーとして事業化を担当した。2020年2月鹿島アントラーズに入社。経営戦略チームにて映像事業を中心に複数のプロジェクトを担当する。静岡県静岡市(旧清水市)出身。中学3年間は清水エスパルスのアカデミーに在籍。


鹿島アントラーズが「新たな収益の柱」を創出することに決めた理由

ー「鹿島アントラーズの経営戦略チーム」というと、基本的にはフットボール事業を推進するイメージなのですが?

金子:鹿島アントラーズでは、100億円企業になるためのロードマップを描いています。そのなかで明らかになった現実と理想のギャップを埋めるため、経営戦略チームはおもに2つの役割を担うことになります。

1つ目は「企業としての利益を上げること」。実は、フットボール事業は利益率がそれほど高くないんです。伸びしろはあるのですが、フットボール事業だけだと100億円に到底届かない。そのため、鹿島アントラーズでは「ノンフットボールビジネス」を収益の柱の一つとして掲げ、売上・利益貢献できる新事業立ち上げや施策にも注力しています。

2つ目が「既存事業をドライブさせること」です。既存事業では、目の前のことに全力投球しすぎて、一歩先のことを考えられなくなりがち。そこで経営戦略チームが「もっとドライブさせるにはどうすればいいのか」と成長曲線を伸ばす方法を一緒に考え、支援していきます。

金子有輔

神戸:「ノンフットボールビジネス」は、鹿島アントラーズが2011年から掲げていた考えでもあります。鹿島アントラーズで経営ロードマップを描いてみたところ、入場料収入、スポンサー収入、グッズ収入といういわゆるプロサッカークラブの「主要3事業」以外の収益の柱が必要である考えに至りました。Jリーグの興行のない日でも収益を生むことができる「ノンフットボールビジネス」は、その考えから誕生しました。そして今、指定管理権を保有している県立カシマサッカースタジアムを拠点に、病院やスポーツジム、ミュージアム、芝生(スポーツターフ)の4つの事業を立ち上げています。

ープロサッカークラブの収益構造はどうなっているんですか?

神戸:一般的には放映権料などを原資とするリーグからの配分金と入場料収入、スポンサー収入、グッズ収入がメインです。経営戦略チームとしては、ここにあといくつ収益ポイントをつくれるかが勝負どころとなります。それに、鹿島アントラーズは地域の中ではとりわけ発信力や媒体力があります。地域とともに課題解決につながるような事業をつくり、アントラーズを媒介して世の中に発信していくことは、他には変えられない魅力ですね。

神戸佑介

金子:また、鹿嶋市を含む鹿行(ろっこう)と呼ばれる地域は都心から公共交通機関を使っても90分ほどかかります。集客する条件としては、かなり悪い。スタジアムやクラブハウスのような施設に関しては潤沢なアセットはあるものの、物理的な距離はどうにもできません。そのなかでどう戦うかが問われます。さらに我々はJリーグという枠組みのなかでビジネスをしています。制約条件を気にしつつ、柔軟な発想で乗り越える方法も考えていく。ここが“プロサッカークラブならでは”の経営の難しさであり、面白さです。

「地域密着」に長けたサッカークラブ

ー神戸さんは、いつから鹿島アントラーズへ?

神戸:私はもともとJリーグで働いていて、2020年2月から鹿島アントラーズに加わりました。ただ、Jリーグ在籍中の2012年10月から2014年末まで、鹿島アントラーズに出向というかたちでお世話になっていたんです。当時は事業部でホームタウン行政の方々やスポンサーさんとの連携事業をおもに担当しつつ、スタジアムの新規事業に関連する業務も担当していました。特にアントラーズスポーツクリニックの事業開発では、前例のないことが山積みでしたので、ビジネスパートナーと連携しながら開業に向けてさまざまな法規制を調査したり、親会社(当時の新日鐵住金)に理解してもらえるような事業計画を立てたり、地域の民業圧迫にならない方法を模索したりと…プロジェクトの事務方として、汗をかく仕事を一手に引き受けていましたね。

ー「鹿島アントラーズならでは」と感じるところはありますか?

神戸:Jリーグで働いていたころ、全国のほぼすべてのクラブと向き合っていました。そのなかで、鹿島アントラーズの「地域密着度合い」の高さに驚きました。具体的に言いますと、あらゆる事業をホームタウン(Jリーグ、Bリーグなどのスポーツクラブチームが本拠とする地域)にうまく巻き込んでいる。

そんな鹿島アントラーズ最大の武器が「スタジアムの管理権を持っていること」です。一般的に、国内のほとんどのプロサッカークラブが独自のスタジアムを持っておらず、行政保有のスタジアムを貸してもらっています。鹿島アントラーズも行政保有のスタジアムを貸してもらっているところは同じです。ただ、大きく違うのはスタジアムの指定管理者として、県から業務を請け負っているところ。おかげで、興行の開催や事業開発にある程度の自由度があります。ちなみに、スタジアムの指定管理者を受託できているクラブはわずかです。

金子:スタジアム運営に自由度があれば、新規事業を考えるうえで「4万人を収納できるスタジアム」をアイデアに組み込める。先日、鹿島アントラーズ主催で開催したピッチコンテスト「Pitch & Match」でのお題を「スタジアムを使ってPoCをやりませんか」とできたのもこの条件があったからこそです。

神戸:そのほかにも、カシマスタジアムには試合中継ができるほどの映像設備が備わっています。つまり、地域のためにライブ配信を含めた何らかの映像事業を始めることだって物理的には可能です。鹿行地域にはケーブルテレビ局もないので、スタジアムを情報発信基地とし、大きなインフラにする可能性を持っています。

金子:神戸さんの言うとおり、鹿島アントラーズの地域への刺さり方はほかと比べものになりません。経営していくなかでも、みんなが地域の温度感やカルチャーを重んじて仕事をしています。鹿島アントラーズで働きたいという県外在住の方から「全部リモートでやったらどうでしょう?」と言われることがあるのですが…。我々は「地域の理解と共生を考えること」も重要なので、地域の方々としっかり連携していくことになる。そうなるとリモートのみでは難しいと思います。

鹿島アントラーズの事業と決して切り離せない「地域の想い」

ーでは、鹿島アントラーズでの事業を考えるうえで「地域」は欠かせない要素ということ?

金子:そういうことになりますね。事業をつくっていくにしても、鹿島アントラーズへの利益だけを追求するのではなく、地域への還元や地域からの協力などを考える必要があります。鹿行地域(鹿嶋市、鉾田市、行方市、神栖市、潮来市)を良くして活性化し、回り回って鹿島アントラーズも盛り上がっていくような…そういったロングタームで経営を進めていくことが大事なんです。だって僕らは、鹿行地域あってのサッカークラブなので。

ー「鹿行地域あっての鹿島アントラーズ」?

金子:鹿島アントラーズは、鹿嶋市を中心とした地域の想いからできたサッカークラブです。それ以前の鹿行地域は人口も少なく、大型ショッピングセンターもなかった。僕は前身の鹿島町出身ですが、当時はマクドナルドもなくて「あれはテレビで見る食べ物」と思っていたくらいです(笑)。周りも、雑木林があるだけでしたし。

そんな地域からサッカークラブが生まれ、世界的スーパースターが選手として加わっていく過程は、衝撃が走りました。その後、鹿島アントラーズはメジャーになり、地域の名前も全国区で呼ばれるようになりました。不調なときもあれば、優勝へ駆け上がるシーンもあった。そのたびに、鹿嶋市も変わっていきました。鹿島アントラーズは、この地域の発展の歴史を象徴する存在でもあるんです。今年で30周年ですが、その物語はまだ続いています。

神戸:パブリックな一面があるからこそ、正直、ビジネスの難しさはあったりします。ビジネスを重視しつつも、地域の公器として使命を果たすという相反するところを突き詰めなければいけないわけですから、安易に利益率が高いものばかりに手を出すことはできませんよね。

ー地域に愛されたサッカークラブ特有の利点と悩みがあるんですね。

金子:多くの人々の想いが詰まったサッカークラブなので、ロジカルに物事が進まないことも多いです。それくらい、自分が「こうだ!」と思ったものより、地域の想いを優先し、柔軟に動けるかどうかが問われます。僕もわりとロジカルに考えてしまいがちなところがあり、鹿島アントラーズでも度々「経営戦略上はこうすればうまくいくのに!」と頭を抱えつつ、事業に向き合っていますね。

ーそんな経営戦略チームに求められる人材ってどんな人ですか?

金子:サッカーに例えて話すと、どれだけパスやドリブルで上手くボールをつなげても、ゴールを決めないと意味がない。ゴールするために、時にはサイドバックが無駄な走りをしなくちゃいけないときもある。そういった動きができる経営戦略チームでありたいですよね。ですが、今の経営戦略チームにはボランチ人材が多め。今後はボランチよりも「メインはサイドバックです。必要であればどこでも走ります」という自分のポジション(得意分野)を持ちながら、チームのために他ポジションにも意欲的にとりかかれる人に応募いただけるほうがうれしいです!

神戸:確かに、戦術評論家になるだけでは鹿島アントラーズにマッチしにくいかもしれないです。当然、全体を俯瞰して見て動ける能力も必須だと思いますが、いちプレイヤーとしての役割も担える人が好ましいと思います。

「こんなにも人の想いを感じる仕事はない」

神戸:先日あったエピソードなのですが…。今シーズンは鹿島アントラーズが創設30周年で、私が映像制作を担当していることもあって、事業コンセプトを周知するようなムービーを何パターンか制作したんです。その1つにナレーションを入れたパターンを制作してみたんですが、映像を見た社内メンバーからしきりに「企業広告っぽい」と言われてしまいまして。

ーえっ?(笑)

神戸:もともと、他の企業やブランドの周年事業をいくつか参考にさせていただいていて、いわゆる企業ブランディングムービーっぽいものをつくろうと思ってつくっていたんですけれど(笑)。そうした反応があり、改めて気づいたのは、鹿島アントラーズは単なる「企業」でも「ブランド」でもないのだろうということでした。金子さんも言うように、鹿島アントラーズは、クラブの創設から今に至るまで、この地域を発展させたいと関わってきたすべての方々の夢や希望みたいなものを具現化したような存在。鹿島アントラーズの存在自体が、壮大なストーリーテリングなんです。だからこそ、企業ブランディングのようなテイストとは親和性がない。僕らも、そういったスタンスで新たな物語をつくるように経営を考えていかなければいけないのだと思いましたね。

金子:完全同意です。僕らは企業における経営戦略と言うより、ホームタウンと一緒に鹿島アントラーズという物語をつくろうとしているようなものです。新規事業でも既存事業でも、常に感じるのは「人と人のつながり」です。過去に鹿島アントラーズをつくってきたOBの方の想いを仕事のところどころで感じますし、街に出れば、たくさん声をかけてもらえますし。こんなにも人の想いを感じる仕事は、なかなかないかもしれません。

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