「女性だけのサポート」にしたくなかったんです──メルカリが福利厚生に卵子凍結を導入するまで

「今回のアップデートで最も大きいのは『卵子凍結』などの内容だけでなく、対象範囲を“メンバー本人のみ”から、配偶者やパートナー、ペットにまで広げたことです」

メルカリで働くメンバーが「Go Bold(大胆)におもいっきり働ける環境」を充実させるため、2016年2月から導入された人事制度「merci box(メルシーボックス)」。2021年5月1日からは新たに「卵子凍結支援制度」「0歳児保育支援制度」の2つの制度を試験導入。さらに、病気や怪我を理由とした休暇「Sick Leave」の対象範囲をメンバー本人だけでなく、配偶者やパートナー、ペットも含めた家族に拡大しました。

merci boxは、働き続けるうえでの不安を減らすためのサポートを行うことをポリシーに、メンバーの働き方にあわせて改良が続けられていました。「卵子凍結」などの制度を導入した背景、そして対象範囲を大幅に広げた理由は何だったのか?制度設計を担当したPeople Experience(Payroll)チームの幸野俊平と井山友葉に聞いてみました。

※撮影時のみ、マスクを外しています

この記事に登場する人


  • 幸野俊平(Shunpei Kohno)

    People Experience(Payroll)チーム、マネージャー。新卒で建設機械メーカーへ入社し、本社及び工場の人事労務業務、オセアニアや東南アジア地域の海外駐在員管理に従事。2018年にメルカリへ入社後、組織拡大期におけるPayrollOperationの構築や効率化、福利厚生制度の企画・運用を主に担当。またグループ会社である株式会社鹿島アントラーズFCの労務業務支援も担当。


  • 井山友葉(Tomoha Iyama)

    メルカリPeople Experience(Payroll)チーム。2018年4月にメルカリへ入社。総務として社内コミュニケーション・カルチャー醸成を担当。2020年1月にPeople Experienceチームへ異動し、現在は入社受け入れ、社保手続き、退職/私事休職、アスリートマネジメントなどを担当。


卵子凍結は「女性メンバーだけでなく、配偶者やパートナーも対象」

ー今回新たに「卵子凍結支援」「0歳児保育支援」の2つを試験導入、そのほかSick Leaveの対象範囲を広めるアップデート内容でした。なかでも気になるのは卵子凍結ですが、試験導入の理由は何だったのでしょうか?メンバーからリクエストが多かったとか?

幸野:いえ、卵子凍結はメンバーから「導入してほしい」という声が多くあったわけではありません。我々としては「今は顕在化していない課題かもしれないが、将来的に多様な働き方の選択肢の一つ」として必要なサポートと判断したため、試験的に導入することにしました。

merciboxを導入した2016年当時から、不妊治療費用のサポートは制度の1つでした。なぜなら、このときはまだ不妊治療が保険適用外だったからです。merciboxの大前提は、メルカリで働くメンバーの不安を軽減し“Go Boldにおもいっきり働ける環境”を充実させること。不妊治療も、国のサポートを受けられないかつ働くうえで負担になることだと判断したため、サポートしてきた経緯がありました。現在、国として不妊治療の保険適用へ向けて本格的に動き出しています。しかし、卵子凍結に関しては制度化に時間がかかると考え、サポートすることにしたんです。

幸野俊平(People Experience(Payroll)チーム

ーなぜ「卵子凍結」だったんですか?

幸野:そもそも「妊娠・出産」のライフイベントは、キャリアを優先したい時期と被りやすい。場合によっては、どちらかを諦めることにもなりかねませんでした。この「どうしようもない」と感じる状況での不安を、卵子凍結支援制度でサポートしたいと考えました。卵子凍結制度自体は、海外の大手IT企業を中心に導入され、注目されていたこともあります。そういった企業を参考に、日本とアメリカの医療費の差にも着目しつつ、制度設計していきました。

また、卵子凍結は女性メンバーに限らず、全メンバーに適用。配偶者やパートナーもサポートの対象にしています。サポート範囲も卵子凍結に関する費用に対し、既存の不妊治療サポートの一環として200万円/子を上限として支援。雇用形態や勤続年数で制限せず、入社直後のメンバーも利用可能にしました。

井山:卵子凍結支援は「正しい知識」とセットになるようにしています。ご存知のとおり、卵子凍結をしたからといって、確実に出産できるとは限りません。それに、体への負担も大きい。単に制度として試験導入し、費用だけを補助するのはなんだか違うと感じていました。そのため、事前に専門医にヒアリングし、国内外の状況をいろいろ踏まえたうえで判断。merciboxでも、卵子凍結の正しい知識もセットになるよう、専門医を招いて講座などしています。

看護休暇・介護休暇でカバーできない家族のケアをサポートするため、Sick Leaveの対象範囲を拡大

ー卵子凍結とあわせて0歳児保育支援を導入したほか、Sick Leaveも対象を拡大させています。これはどういった経緯だったんですか?

幸野:メルカリは事業も組織も変化するスピードがはやい企業です。そのため、育休から復職するメンバーが状況をキャッチアップするのに苦労したという声がありました。また、0歳児を認可保育園へ入園させるハードルは高く、早期復職するには保育費用の負担が発生。そのため、国からの給付金が支給される期間は休職を継続し、結果的に早期復職を断念するケースもあったんです。保育費用を会社がサポートすることで復職時期の選択肢を増やし、キャリア形成やライフプランの柔軟性を高められると考え、0歳児保育支援の導入に至りました。

井山卵子凍結の試験導入と同様ですが、0歳児保育支援も、対象範囲を「配偶者・パートナー」まで広げています。女性メンバーだけをケアしても根本的な解決にはなりませんので。

井山友葉(メルカリPeople Experience(Payroll)チーム

ー 一方、Sick Leaveの対象範囲も拡大させていますよね?

幸野:もともと、メンバーが体調不良のときに使ってもらうために2019年から導入していました。しかし「子の看護休暇制度」「介護休暇制度」などでカバーできない家族のケアのために有給休暇を使っているケース、または「何かあったときのために」と有給休暇を残さざるを得ないケースがあるとわかりました。有給休暇の本来の目的は「心身のリフレッシュに使ってもらうこと」。なのに、家族の万が一に備えてとっておくというのは…少し違いますよね。そこで、Sick Leaveの対象範囲を拡大させ、そういった不安を取り除くことにしたのです。

メルカリは「多様性ある組織」を目指しています。そして、働くメンバーの数だけ家族のカタチがあります。メンバーによっては別居している家族がいるかもしれないし、ペットを家族と感じている人もいるかもしれない。ならば、家族やパートナーはもちろん、別居している家族やペットも「すべて大切な家族」と考え、種別問わず、働くメンバーにとって「家族」であれば取得対象としました。

最も注意したのは「一般的な福利厚生制度の先入観にとらわれない」こと

井山:あの、一点いいですか?

ーはいどうぞ。

井山:このインタビューで私たちが強調したいのは、今回のアップデートは「メンバー本人」に限らないということです。

特に「卵子凍結」は、女性メンバーを対象にしている印象が強いかと思います。恥ずかしながら、私も幸野さんもそう考えているところがありました。制度内容を考えるタイミングでメンバーにヒアリングして初めて「卵子凍結=女性メンバーが抱える課題」という無意識バイアスに気付かされたんです。卵子凍結に限らず、Sick Leaveと0歳児保育支援の対象範囲を大幅に広げたのは、この気付きがあったからこそです。

幸野:井山さんの言うとおり、働き方が多様化する社会でさまざまなメンバーがキャリア形成やライフプランを考えられるよう、より幅広い選択肢を提供することを目的としています。そのため、今回のアップデートは「卵子凍結」といった内容だけでなく、対象範囲を大幅に広げたことも大きな変化と言えます。

ー制度内容を決めるための話し合いはどのように進めたんですか?

幸野:30〜40案くらいのアイデアを出し、その中から今の会社のフェーズを踏まえながら社内の声を拾い絞っていきました。案を絞るときに大切にしたのが「多様な人材が活躍できる環境創りに繋がるか」という視点。そこに注力できる施策を選びましたね。

ー働き続けるうえで必要なサポートであると同時に、組織としての多様性をもたらす視点で制度を選んでいたんですね。では、全メンバーにヒアリングもした?

幸野:公募などはしていませんが、HRBP(HR Business Partner)を通じてメンバーのニーズを検証したり、実際に育休から復帰したメンバーの意見を参考とさせてもらったり多くのヒアリングをしました。

私は前職も含め人事労務領域で働いてきたのですが、だからこそ感じるのが「一般的な福利厚生制度の先入観にとらわれない」「本来の有りたい姿から逆算して打ち手を考えること」の大切さです。今回の制度導入でも、メンバーの声を聞く過程は重要なポイントだと捉えていました。

井山:また、アライ(支援者)が集まるD&I Community、Women@MercariやPride@Mercariで活躍しているメンバーもいるので、彼らへのヒアリングも実施。「D&I目線での配慮は欠けていないかな?」と意見を出し合いながら集めていきましたね。先ほどお話しした気づきは、ここから得たものでもあります。

私たちは、「あらゆる価値観が尊重されること」が多様な組織に求められると考えていました。「出産や育児をするのが当たり前」という価値観を強くイメージされがちな卵子凍結ですが、決してそうじゃないと伝えるため、全社向けへ発表するときは誤解を生まないようメッセージングも配慮しました。

制度導入を発表後、社内からの反応は?

ー導入を発表後、社内の反応はどうでしたか?

幸野:卵子凍結は、我々としてもGo Boldな制度導入でもありましたし、さまざまな考え方があるので、賛否あるだろうと思っていました。でも、反応は思っていた以上によく「卵子凍結をちょうど考えていた」という声が多かった印象です。そういう意味では、ニーズにフィットしていたのかもしれません。

井山:「なぜやるのか」「どんな影響があるのか」も含め、制度の奥にある「多様なメンバーが“Go Boldにおもいっきり働ける環境”づくりをしたい」というPXの想いを受け止めてくれた印象もありましたよね。メンバーから「会社に大切にされていることを感じる」という反応もあって…。私たちPXが目指す「多様なメンバーが“Go Boldにおもいっきり働ける環境”」に近づけているのかなと、とても励みになりましたね。

幸野:なかには「定期的に制度がアップデートされ続けているのって、ちゃんと制度が使われている証左だよね」というコメントもありました。「働くメンバーを支えるための制度」として、状況やニーズにあわせて制度をアップデートし続けてきた意図が伝わっていることがわかり…少しホッとしました(笑)。

井山:私もですよ(笑)。

ーmerci box含め、メルカリの人事制度の作り方はけっこう独特なところがあるように感じていますよね?

幸野:ですね。メルカリではまだ国内での先行事例がないような制度を導入する面白さがあります。ただ、前例がないからこそ、社内での対話もたくさん必要ですし初めてわかることも多いです。これもメルカリで人事の仕事をする魅力の1つ。社内にD&Iチームがあり、すぐに話を聞きにいけるというのもありがたい環境です。どうやって制度設計するのかは難しいですが、結果的に社内からいい反応をもらうとやりがいを感じられる。今後も現状に満足せず、しっかりと導入後のサポートもしていきたいですね。

井山:本当に大変なんですけど、メンバーの働き方に直接関わる部分なので、やりがいは大きいですよね。メンバーそれぞれの考え方やバックグラウンドがあるのですべてを網羅するのはなかなか難しく、もどかしく思うこともあります。でも、多様な価値観に触れる機会があるのはうれしいです!

先ほどお話ししたとおり、卵子凍結支援は「正しい知識」とセットになるようにしています。どんな情報があれば卵子凍結を「する」「しない」の判断をメンバーにしてもらえるかを考え、メンバーが判断できる情報提供はこの制度において必要不可欠。私としては、専門医ともすり合わせし、講演会を行うなど、情報提供は今後も力を入れていくつもりです。

世界的な競争力のある組織にするべく、福利厚生の側面からサポートし続ける

ー今後も、merci boxのアップデートは続くんですよね?

幸野:merci boxは、基本的には、働き続けるうえでの不安を減らすサポートを行うことにより「“Go Boldにおもいっきり働ける環境”を整える」というポリシーに基づいて制度内容の検討を行っています。

以前からアップデートは続けてきましたし「制度を導入したら終わり」ではありません。福利厚生制度は、私たちPXチームがが提供しているサービスでもあります。これを定期的にアップデートし、形骸化させないようにすることは、自然なアクションです。「現行の制度が使われているのか、いないのか」「会社が注力したいポイントはどこで、社会的な課題を踏まえるとどのような制度が求められるのか」など、多くの観点からブラッシュアップ。追加する施策もある一方で、廃止する施策も出てくると思っています。常にメンバーの想いを大切にしながら、Go Boldに働ける環境を整えたいですね。

井山:何度も言いますが、人事制度は導入して終わりではないです。社会の変化と会社のニーズに合わせながら、引き続き制度を追加したり見直したりしていきます!

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