メルカリがCBで500億円の資金調達──その狙いと経緯をFinanceチームに聞いてみた

メルカリがユーロ円建新株予約権付社債(転換社債、CB)の発行で500億円を調達すると発表したのは、2021年6月のことでした。

CBとは、株式と債券の2つの特徴を併せ持った有価証券のこと。投資家から見ると株価が転換価格を上回った場合、株式に転換し値上がり益を得られ、一方で社債のまま保有し続けた場合、償還日には額面金額が払い戻されることから、ダウンサイド・リスクが限定されています。今回、メルカリでは5年、7年満期のユーロ円建新株予約権付社債をそれぞれ250億円ずつ発行し、合計500億円の資金を調達しました。

資金調達の方法としては、新株を発行して資金を調達する「エクイティファイナンス」や「デットファイナンス」と呼ばれる銀行借入や社債の発行、債権の流動化などCB以外にも多様な方法があります。

ではなぜ、メルカリはCBで資金調達することにしたのでしょうか──。

そこで今回は、CB発行を担当したFinanceチームのマネージャーである佐藤裕太(@Yuta)と、久米聡(@kumecchi)が登場。CB発行に踏み切った理由、実行までの2ヶ月間を聞いてみました。

※撮影時のみマスクを外しています

この記事に登場する人


  • 佐藤裕太(Yuta Sato、@Yuta)

    早稲田大学法科大学院 後期博士課程(法務博士(専門職))修了。2010年司法試験合格。最高裁判所司法研修所 司法修習を経て、都内法律事務所にて弁護士として勤務。2014年にSBIホールディングス株式会社に入社。ベンチャーキャピタル業務、M&A、JV設立業務、その他暗号資産やブロックチェーン、海外送金等のFinTechに関連する業務に従事し、法務コンプライアンス部部長を歴任。2018年6月よりメルペイに参画し、以来Legal、Public Policy、Financeとさまざまな業務に携わり、2021年1月よりメルカリのCorporate Financeチームのマネージャーを務める。2021年7月よりメルコイン取締役に就任。


  • 久米 聡(Satoshi Kume、@kumecchi)

    2015年に新卒でKDDIに入社。経理部に配属され、新規ビジネス(決済・EC・モバイルアプリ等)や、国内モバイル事業の会計処理を主に担当する。2018年2月よりメルカリのAccounting/Taxチームにジョイン。単体・連結決算やIPO後の開示資料作成に従事。並行してメルカリの金融機関からの借入交渉や、メルペイにおける債権流動化による資金調達にも従事。経営企画部門も経た後に、現在はメルカリ・メルペイFinanceチームに所属。


当時の株価にメルカリのポテンシャルが反映されていなかった

──今回、メルカリはエクイティファイナンスではなく、CB発行という手法で500億円を調達しています。なぜ、CBを発行することにしたんですか?

@Yuta:最初から「CBを発行するぞ」「資金調達するぞ」というゴールがあったわけはなく、まずは「メルカリグループとして使えるお金の種類を整理しよう」という議論からスタートしました。

メルカリには、IPOのときに調達した資金や銀行から借り入れた資金、債権を流動化して調達した資金などがあります。加えて、会社としてもメルペイやソウゾウ、メルコインといったグループ会社や事業もどんどん増えていて、資金管理の複雑さも日々増しています。もちろん普段から厳重に資金を管理していますが、このタイミングで改めて「使えるお金の種類」を整理し、今後の会社の成長にどのくらいの金額をどのくらいの期間で使えるのかを整理してみたのです。

その結果、「今後の海外展開や与信事業などの成長機会を逃さないためには、長期にわたり、機動的に使える資金をもう少し確保しておくべき」となりました。銀行からの借入についても過去に実施していますが、期間が比較的短いものが多く、長期投資を考えた場合にもっと長期の資金を用意したい考えもありました。そこで、長期資金を調達する手段として、市場自体も盛り上がっていたCBを実施することにしたのです。

佐藤裕太(@Yuta)

@kumecchi:CBに決まるまでには、エクイティファイナンスやデットファイナンス、またはCBとエクイティファイナンスのデュアル(混合)など、あらゆる選択肢を検討していました。

エクイティファイナンスは、現時点の一株あたりの価格をもとに、新規株式を発行して資金を調達する手法です。しかし、今のメルカリは、米国事業やメルペイも成長に向けた力強い土台ができつつある。会社としてエクイティ・ストーリーを描きやすい状態にあり、もっと高い株価を目指せる場所にいると信じていました。それらの事情を踏まえると「(当時の株価での)エクイティファイナンスは株式の価値が低すぎるではないか」「将来のメルカリグループの成長を信じてくれる既存株主の方々に対して希薄化を抑えたかたちでの資金調達ができる手法を採用したい」と考えていました。

その点、CBでは転換価格が定められます。これは、将来の株価が転換価格を上回った場合、エクイティファイナンスとして転換価格で株式を発行できるというもの。そして、経営陣と何度も話し合ったうえで、最終的にCB発行へと踏み切る決断をしました。

久米聡(@kumecchi)

──「CBを発行する」と意思決定してからは?

@Yuta:CBを発行するにあたって、アップ率(条件決定時の参照株価と転換価額の差)や償還期限、調達金額の規模感などをメルカリ経営陣と目線合わせしました。

条件を決めるとき、何より意識したのが「日本市場で発行されるCBの一般的な水準に捉われないこと」です。

メルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げています。そこで、資金調達の観点でもTwitterやAirbnbなどのグローバルテック企業の条件をベンチマークとした発行を目指そうと考えました。ちなみに、今回の調達で重要視したアップ率という条件は、2021年にTwitterやAirbnbなどが60%前後でCBを発行しています。最終的にアップ率は54.99%となりましたが、メルカリとして目線を高く持った結果だと考えています。

@kumecchi:市場環境やどの条件を重要視するかによりますが、CBを発行する際のアップ率を20〜30%に設定する日本企業は多いです。でもメルカリは「あくまでもメルカリグループとして目指したい基準はどこか」を考え、ベンチマークをグローバルテック企業の発行条件にしました。54.99%は、その結論とも言えます。CBはマーケット環境や自社の株価などさまざまな影響を受けやすく、発行直前まで条件が変わる可能性がありました。それでも「50%より低いアップ率では実施しない」と社内でも話し合い、その水準を満たせなければプロジェクトはいつでも中止する覚悟で進めていました。

「今しかない」と実質2ヶ月でCB発行へ踏み切った理由

──CBでの調達を発表したのは2021年6月末でした。キックオフはいつごろ実施したんですか?

@kumecchi:証券会社の方々とのキックオフを行ったのは2021年5月のGW明けごろ、CBの発行を開示したのが6月28日でした。実質2カ月弱ほどでプロジェクトを進めていった感じです。

──え、2ヶ月!?

@Yuta:CBでは「投資家などに発行できるのは決算発表後の一部期間」というルールがありました。そのため、そもそもCBを発行するには年に4〜6回ほどしかチャンスがなかったんです。さらに言うと、チャンスがあってもM&Aのような案件があれば、次回へスキップする必要もあります。発行タイミングが非常にシビアな資金調達なんですよね。

@Yuta:今回の発行は、僕らとしては「やるならこのタイミングで!」と思っていました。だから、どうしてもこの機を逃したくなかったんです。

というのも、前年度くらいからCBのマーケットが盛り上がっていて、さまざまな企業が発行に乗り出していました。そうした状況を鑑みたときに「これ以降での発行になると、投資家の方々にとってCBはお腹いっぱい状態になってしまうかもしれない」という感覚もありました。メルカリのような成長企業、いわゆるグロース銘柄の株価のモメンタムも変わり始めているタイミングだったので、「今しかない」と決意を固めて実行した感じです。

@kumecchi:「CBのマーケットが縮小しないうちに」と、強く意識しましたよね。仮に延期したとしても、そのタイミングで必ず実施できるわけでもない。例えば、他の案件と重なってしまったら、そちらを優先せざるを得ません。そうしたことも踏まえて、CB発行の検討・初期の準備はFinanceチームのみで行い、実施の確度が高まってきた段階で社内へ公開。そこからは全速力で、証券会社からのデューデリジェンス(企業の価値やリスクを把握するために実施するもの、以下DD)対応やドキュメントの作成などをプロジェクトチーム一丸となって対応していきました。

プロジェクトチームのメンバーたち

──「タイミングが命」とは、まさにこのこと。

@Yuta:ですね!たとえ期間が短かったとしても、僕らが忙しかったとしても、タイミングを逃すと「できないね」となってしまう。「今しかない」という気持ちは、僕や@kumecchiさんだけでなくほかのメンバーも強かったと思います。

リーガル、経理というそれぞれの経験が活きたプロジェクトだった

──実際にプロジェクトを進めるうえで意識していたことなどは?

@Yuta:僕と@kumecchiさんは、1年以上一緒に仕事をしてきた仲でもあります。そして実は、Financeチームはついこの前まで2人しかおらず…(笑)。そのなかで、@kumecchiさんの裁量を徐々に大きくしてきた過程があります。このプロジェクトに関しても@kumecchiさんをプロジェクトオーナーに任命したほうが上手く進められると考え、まるっとお任せしていました!僕の方では、経営陣への説明や証券会社への深夜・休日対応、金融機関との調整、条件面の交渉などを担当。うまく役割分担できたからこそ、完遂できたと思っています。

@kumecchi:私は、CB発行に伴うDD、ドキュメンテーション、開示などのいわゆる準備作業全般のオーナーをさせてもらいました!@Yutaさんがかなりの裁量をくれたおかげで、どうすれば最も効率よくできるかを考えながら、関係者の負担を最小化して進められましたね。あと、@Yutaさんは「何かあればいつでも相談していい」「絶対にカバーする」という心理的安全性がとても高かったです!何より、このプロジェクトに関わってくれたメンバー全員がAll for OneでBe a Proな精神を存分に発揮してくれたおかげで、かなりスムーズにプロジェクトを進められました。

──ファイナンス業務において、ここまで裁量を持って働ける環境はめずらしい?

@Yuta:重要な案件ほどマネージャーが握っておきたくなるものかなと思うので、もしかしたら他社ではなかなかないのかもしれません。ただ、僕は@kumecchiさんならプロジェクトオーナーが務まる確信がありましたし、任せた方がチームとしてスケールしていくと思いました。

@kumecchi:ありがとうございます!私はFinanceチームに異動する前までは、経理チームにいました。当時はIPOの準備にも関わりましたが、小さなお手伝いしかできなくて。それから3年半経ち、今回のCBでは中心メンバーとしてプロジェクトを遂行できたことは感慨深かったです。

そもそも、メルカリは時価総額も1兆円近くあり、メルペイにて与信ビジネスも行っていることから、ファイナンスの案件も多いのですが、Financeチームは数名しかいない。金融機関の方々とお会いしたときも、先方は10名ほどいるのに、こちらは2〜3名しかいなくて驚かれることもよくあります。でも、個人的にはそこが面白い部分だと思っています。

そして先ほどお話ししたとおり、私自身はメルカリへ経理メンバーとして入社しています。管理会計の業務も経験していたことで、開示資料や財務諸表から各種の数値取得など、リーガル以外のことが幅広く対応できる点はプロジェクトを進めるうえで力になりました。かつ、@YutaさんはFinanceチームのマネージャーであり、弁護士でもある。お互いのスキルでフォローし合いながら、プロジェクトを達成できた気がします!

@Yuta:もちろんファイナンスの知識があることは前提ですが、そこにプラスして、経理や経営企画の動き方がわかるのは、@kumecchiさんにとっても重要なことだったと思います。すごく特異なポイントですよね。

今後は「資金をどう使っていくか」まで関わっていきたい

@kumecchi:もう1つ加えると、私は「ワークライフバランスが命」みたいな生き方をしているので…。このプロジェクトに関わってくれたメンバーが「このプロジェクトのせいで家庭が壊れた」とならないようにしなきゃと思っていました。

──ワークライフバランスが命(笑)。

@kumecchi:そうです(笑)。特にファイナンス業務は忙しくなると、プライベートより仕事優先な雰囲気になりがちです。このプロジェクトでもやらなければならないタスクは大量にありましたが、関係するメンバーの工数を最小化できるようにタスクをさばき、みんなが自分の時間をコントロールできるように振り分けていました。仕事を依頼するときも夕方になって「今日中にお願いします」といったことにならないように、証券会社の方々と調整して依頼期限に猶予を持てるようにしたり、依頼内容のスケジュール感を事前に共有したり。プロジェクト終了後のピアレビュー(360度評価)で、他チームのメンバーから「すごくやりやすかった、また働きたい!」と言ってもらえたときは心から嬉しかったです。

──Financeチームとして今後やりたいことは?

@Yuta:資金調達・管理だけでなく、将来的にはM&AなどFinanceチームが関わらないといけない場面はたくさんあります。なので、もっとFinanceチームのプレゼンスを上げていきたいですね。そして、メルカリのファイナンスの知見やノウハウを外部に共有し、他のベンチャー企業への還元などもできればと思っています!逆に他の企業から学びたいこともたくさんありますが(笑)。

@kumecchi:今回のように大きな資金調達を経験できたことで、自分の知見だけでなく、会社としても将来的にとりうる戦略の幅が広がったと思います。今後は「資金をどう使っていくか」までFinanceチームとして関わっていきたいですね!

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