「新技術の活用ヒントはすべて現場にある」メルカリプロデューサーのあたまのなか by 森山大朗

f:id:mercarihr:20180320164539j:plain

メルカリではAI技術を絡めた新機能がリリースされていますが、そもそもプロデューサーが専門性の高い新技術領域へ踏み込んでいくにはどうすればいいですか?ーー

メルカリJPのプロダクトオーナーである伊豫健夫が、メルカリで働くプロデューサーに実際の企画と結果、そして各々のバックグラウンドに迫るインタビュー企画第7弾。今回は、メルカリで検索技術やAIを活かしたプロダクトマネジメントを行うプロデューサーの森山大朗さんです。

※メルカリ社内では「プロデューサー」「プロダクトマネージャー(PM)」を職種として同じ意味で捉えています。

森山大朗(Tairo Moriyama)※写真右
早稲田大学卒業後、リクルートやHR系スタートアップ立ち上げを経て株式会社ビズリーチに入社。求人特化型検索エンジンの開発と自然言語処理技術を駆使した検索改善に従事。2016年11月にメルカリに入社してからは、プロダクトマネージャーとしてUS/JP版メルカリの検索改善やパーソナライズ、AIを活用した新機能をリリース。2018年1月からは並行してCREを立ち上げ、メルカリCSの技術的な改善を推進する。


伊豫健夫(Takeo Iyo)※写真左
大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)、株式会社野村総合研究所を経て、2006年に株式会社リクルート入社。中長期戦略策定および次世代メディア開発など、大小問わず多数のプロジェクトを牽引したのち、2015年3月に株式会社メルカリへ参画。2016年8月より執行役員。US版メルカリのプロダクトマネジメントを担当後、2017年4月より国内版メルカリのプロダクト責任者を務める。

AI技術×検索技術で実現した「感動出品」

伊豫:森山さんの得意領域は検索改善で、最近ではそのための技術としてAIや機械学習を活用しています。

今回一番聞きたいと思っているのは、森山さん率いるチームがリリースした「AIを活用した出品画像からの商品名推定」「タイムラインパーソナライズ」、そして今年1月から本格稼働したCRE(Customer Reliability Engineering、顧客信頼性エンジニアリング)についてです。

まず「AIを活用した出品画像からの商品名推定」についてですが、これはどういった経緯で誕生した機能だったんでしょうか?

森山:そもそもメルカリには「出品に手間がかかる」という課題がありました。出品物の正式名称や価格相場を調べたり、それを入力したり…といろいろな作業があるわけですよね。そこで、画像検索の技術によってはこの手間を解消し、少しでも簡単に出品してもらいたいという目的から誕生しました。

f:id:mercarihr:20180320164454j:plain

この機能は、社内では「感動出品」と呼ばれているのですが(笑)。お客さまが出品するときに撮った写真を解析し、商品名やカテゴリー、ブランドといった項目を自動で入力する機能です。

出品物の写真を撮るだけで、パパッと必須項目が自動入力されると楽ですし、なにより驚きますよね。なので、ネーミングにも「感動」が入っています。

f:id:mercarihr:20180320164524j:plain
出品物の画像データから情報を取得し、商品名やカテゴリが自動入力される(黄色のマーカー部分)

伊豫:まさにAI技術×検索技術ですね。「この機能はつくれそうだ」と思ったのはなぜですか?

森山:実は前身に「画像検索」を実験していて、その過程で感動出品の手応えを得たという経緯があります。

海外のECには、写真を撮って似た商品を探す「画像検索機能」があります。これをメルカリにも実装しようと試行錯誤していたんですが、「購買側ではなく、出品側でお客さまの手間を省くのにも利用できるのではないか?」と気がついて。そこでリリースに踏み切ったんです。

技術的には、深層学習と言われる機械学習の技術と自然言語処理技術との組み合わせです。僕は前職で検索エンジンを作っていたこともあり、この2つの技術を組み合わせて感動出品のような新機能をリリースできたのはうれしかったですね。

伊豫:技術側から出た施策だったんですね。実際にリリースしてみてどうでしたか?

森山:新規のお客さまの出品完了率や1人あたりの出品数が数%以上改善しています。これはおそらく、出品作業が楽になったことと「これも感動出品できるかな?」といった興味から複数出品を促している可能性もあると感じています。

昨年夏〜年末は、AIを使ったメルカリの新機能が花開いた時期でもありました。それを象徴するのが、感動出品だと思っているんです。先日、首相官邸で安倍首相に感動出品機能のデモをやると聞いて冷や汗をかいたりもしましたが(笑)。ただ、そういったシーンで使われるという意味でも、メルカリ×AIのインパクトを感じられる機能として、リリースして良かったと感じていますね。

mercan.mercari.com

メルカリの最初の画面で何を見せるか

伊豫:そしてもう1つ、アプリを開いた最初の画面であるタイムラインのパーソナライズをリリースしていますよね。これはどういった経緯から誕生したのでしょうか?

森山:これは、僕がもともとやりたいと思っていた機能なんです。

メルカリでは日々、さまざまなものが出品されています。お客さまの中には、「最近はどんなものが出品されているのかな〜」とメディア的な使い方をする方もいますし、欲しいものだけをピンポイントで探しに来る方もいます。なので、社内では「興味のあるジャンルだけではなく、最初の画面にさまざまなジャンルのアイテムを見せたほうがいい」「いや、お客さまごとに興味があるものにある程度パーソナライズしたほうがいい」と意見が分かれていました。

僕個人としては、パーソナライズしたい気持ちがありました。なぜなら、当時はまだ、どちらかというと女性のお客さまによる出品のほうが多く、男性のお客さまがメルカリを見たとき、最初に口紅や香水といったものが登場するケースもありました。

自分もメルカリの利用者として、もう少し、お客さまごとに興味関心に合ったものが表示されるようにしたかった。そう思っていたところに、パーソナライズに関して経験豊富なメンバーがジョインしたので「やっちゃおう!」となったのが始まりですね。

f:id:mercarihr:20180320164532j:plain
例えば子ども服を閲覧していた場合、同じジャンルの出品物がタイムライン上に表示される

伊豫:どうやってパーソナライズしているんですか?

森山:お客さまの検索や閲覧履歴から興味のあるジャンルを推定して、タイムラインに出しています。

シンプルですが、これは非常に効果がありました。具体的に言うと、総取引額が数%レベルで底上げされるくらい、大きなインパクトがありました。

おもしろかったのは、検索しなくてもタイムラインに欲しいものに近いものが表示されているため、検索経由からの購買は減ったのかと思いきや…逆に増えていた点です。タイムラインに欲しかったものが表示されることで「そういえば探していたなぁ」と思い出して再検索されているのかもしれません。

今は、さらにパーソナライズ機能を改善しようとしています。例えば「購入直後に同じものを見せなくて良いのでは」と、見せ方もより最適化していく予定です。

お客さまのお問い合わせ・通報をAI技術で解決する「CRE」

伊豫:AI技術を絡めて、お客さまのニーズにより近づくための施策として始まったのがCRE(Customer Reliability Engineering、顧客信頼性エンジニアリング)です。これについてはまだ試行錯誤中だと思いますが、どういった目的があるのでしょうか?

tech.mercari.com

森山:CREは、おもに以下の2つを実現することが目的です。

  • お客さまがお問い合わせをしていただかなくても解決できることを増やす
  • お客さまから通報をいただくような出品物を事前にチェックする

「お問い合わせ」は、お客さまが取引をした際、なにかしら困ったことがあった際に発生するものです。代表的なものとして「出品したものを送ろうとしたけど壊れていた」「だから取引自体をキャンセルしたい」などがあります。今までそういったお問い合わせはカスタマーサポート(以下、CS)のメンバーが対応していました。

「通報」は、お客さまから「これって規約違反じゃないですか?」とご連絡いただくものです。メルカリは今、多くのお客さまに使われています。そんなお客さまの中には、意図せず規約に反するものを出品してしまう方もいらっしゃいます。そういった事態をお客さまからのアクションで運営側に教えていただくのが通報です。

矢継ぎ早に新たなプロダクトや新機能をリリースしていく一方で、どうしてもCSが後手になりがちだったことはメルカリグループとしても反省点でした。CREはお客さまの手間を大胆に省くほか、メルカリの安心・安全を脅かす状況を技術の力で解決するため、メルカリが優先度を上げて注力することを決めた象徴的なプロジェクトでもあります。

プロデューサーが判断すべきなのは「AI技術が必要かどうか」

伊豫:森山さんが挑んだAI技術×検索技術は、プロデューサーとしてもかなり専門性の高い領域だと思っています。

f:id:mercarihr:20180320164513j:plain

プロデューサーの仕事はアイデアをビジネスとして企画していくことでもありますが…こういった技術を活用した領域へ踏み込んでいくことになった場合、あるいは自ら踏み込んでいきたい場合、どうすればいいのでしょうか?

森山:結論から言うと、AIを活用した機能開発で一番大事なのは「課題設定能力」です。これは正直、現場で経験を積むのが一番早いです。

もちろん、システムに関する知識があるに越したことはない。しかし、例えばそれほど知識がないプロデューサーがCREチームに入ってきたとしても、現場でプロダクト改善のためのリリースを繰り返していく中で課題設定能力が身についていきます。

AIに関して言うと「その課題解決にAIが必要かどうか」「その課題はAIでの解決に向いているかどうか」がわかるようになっていきます。

伊豫:AIの使いどころを現場で学ぶということですね。

森山:そうです。少し泥臭いことを言うようですが、現場のメンバーがやっていることをプロデューサーもまずやるべきなんです。

例えば「偽ブランドを見抜くためにAI技術を使えるかどうか」を考えた場合、実際にCSの現場を見てみると、偽ブランドかどうかは専門知識のあるメンバーでも一見してわからないというケースがあったりします。そうすると、その大量のデータをAIに学習させても精度としてはどこかで頭打ちになるんですね。そういったことを、現場の実態とデータ構造を通じて実感していくことで徐々に判断力が上がっていきます。

伊豫:AIはデータに基づいた判断しかできない、という特徴があるからこそですね。

森山:そうです。AIはデータ構造に大きく依存します。また、僕の経験上言えるのは「AIを使った新機能のリリースは、通常のシステム開発における新機能のリリースとは違う」ということです。

従来のシステム開発では、実現したい要件に沿ってまず仕様を決めます。そして、その仕様どおりに動くかどうかをテストしてからリリースします。仕様策定の段階で想定できなかったケースは「仕様漏れ」になる代わりに、決めたとおりにはきちんと動いてくれます。

しかし、AIを使った機能の場合は、過去の大量のデータから未知の結果を推定するという性質上、100%想定通りの結果が得られるとは限りません。常に数%〜数十%の確率で間違う可能性を含んでいます。「決定論」ではなく「確率論」に頭を切り替える必要があるのです。

プロデューサーやエンジニアはもちろん、事業責任者や経営者も、AIのこの特性を理解し、ある意味で「腹をくくって」プロジェクトを進める必要があります。それができていないと、ほんの数%の誤差をめぐって無意味な議論をしたり、リリース直前になって新機能が世の中に出ない、といった事態は容易に起こります。

このように、AIの導入には独特なポイントがありますし、ある程度の慣れは必要ですが、やっているうちに理解できるようになると思います。

AI領域に向いているのは、育成ゲームが好きな人

伊豫:AIなどの新技術を活用する領域のプロデューサーに向いている人は、どのようなタイプなのでしょうか?

森山:AIは一定の確率でしか当てられない性質があるので、勝負心の強い人。あとは、育成ゲームが好きな人も向いているかもしれませんね。

伊豫:その心は?

森山:AIは、リリースしてからも新しいデータを追加していく必要があります。常に学習させないと、新製品を判断できないからです。

f:id:mercarihr:20180320164503j:plain

例えば、メルカリの感動出品機能では、Google Homeが発売された当初は、写真から自動で項目を推定しきれなかったんです。新製品なのでメルカリ内で売れた実績がないからですよね。でもその後、最新データでモデルをアップデートしたら当てられるようになりました。

僕はAIに最新データを学習させる=「食べさせる」と表現することがあるのですが、これがなんとなくペットを育てている感じに似ているんです(笑)。

伊豫:なるほど、まさに育成ゲームですね(笑)。機械学習エンジニアは、求人でも人材としても増えています。それは現場でも感じていたりしますか?

森山:感じていますね。しかし、先ほどお話ししたような事業全体を見渡した上で「ここにAIを使うべき・使うべきじゃない」といった判断ができ、さらにエンジニアとプロジェクトをリードできる存在は極めて不足しています。

伊豫:森山さんはプロデューサーの採用面接もされています。どういったところを見ているのでしょうか?

森山:2つのポイントを見ています。1つ目は、論理で自分のアイデアを構造化できているかどうか。2つ目は、情熱というか「自分なりの知的好奇心や興味関心を持てる対象がある」ことです。その人なりの「感情」ですね。

つまり、プロデューサーの素養とは、論理を使って自分のなりの強い思いを構造として組み上げられるかどうかということです。これができないと、そもそも自分のやりたいことを説明できませんし、論理で説明だけできても、その人なりの考えが入ってないとおもしろくないので周囲から共感を得られません。

伊豫:プロデューサーのベースとなる部分ですね。

森山:そうですね。「やりたい!」という強い思いがあり、それを実現させるために企画として落とし込めるかどうか。それさえできれば、たとえAIといった新しい技術領域に踏み込むことになっても、学び続けることで必ずインパクトのある仕事ができると思いますから。

mercari - Jobs: Product Manager - Apply online