メルカリ激動の5年間は挑戦の連続だった。日経編集委員の奥平氏がメルカリ小泉に切り込む『THE BUSINESS DAY 02』レポ

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2016年からスタートしたメルカリが主催する「THE BUSINESS DAY」。「THE BUSINESS DAY」とは、経営やコーポレートを担うビジネスパーソンが学び、出会い、実行するためのカンファレンスです。第2回目となる今回も、ビジネスの第一線で活躍するキーマンが一同に集い、「IPO」「成長戦略」「組織マネジメント」など、多岐にわたるテーマについてディスカッションを交わしました。

最終セッションのテーマは「メルカリのミッション達成への道筋」です。ゲストには日本経済新聞社編集委員の奥平和行さん、そしてメルカリ取締役社長兼COOの小泉文明が登壇。メルカリ創業から東証マザーズ上場までの約5年間のなかで、小泉がターニングポイントになったと話す出来事や施策を一気に振り返ります。

小泉がメルカリの「ミッション」と「バリュー」に託した願い

奥平:創業からわずか5年という時間で東証マザーズ上場を果たしたメルカリですが、この間どんなターニングポイントがあったのか。そして、今後どのような展開をしていくのか。その点を本日は伺いたいと思います。まず、小泉さんがメルカリに入社された当時の状況から教えてください。

小泉:わたしがメルカリに入社したのは2013年12月。コーポレート部門の初期メンバーでした。ちょうどアプリが100万DLを突破した頃で、創業者である山田進太郎(代表取締役会長兼CEO)を中心にプロダクトを磨き上げるというフェーズから、会社としてのあり方をしっかり構築していくフェーズへ徐々に移行しようとしていたタイミングだったんです。

奥平:アプリのローンチが2013年7月なので、それから約5か月後に入社したと。当時のコーポレートの課題は何だったのでしょうか?

小泉:課題というよりも、手付かずなものが多くあるカオスな状態でしたね。会社というよりも良いアプリをつくるために集結したプロジェクトチームといった方が適切かもしれません。唯一、明確な課題だと感じたのは、会社のミッションやバリューがなかったこと。まずはそこから着手しようと、入社早々に経営陣4人で合宿を行い、メルカリのビジョンについてディスカッションしました。そうして完成したのが、1つのミッションと3つのバリューになります。

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メルカリグループが大切にする3つのバリュー

奥平:スタートアップって、ただでさえ忙しいじゃないですか。プロダクトも改良しなければならないし、カスタマサービスや採用活動だってある。そんななか合宿を行い、ミッションをつくると‥…。一見、優先順位が異なるようにも思うのですが。

小泉:個人的な話ですが、会社のミッションやバリューを決めたいと思う背景にはミクシィ時代の個人としての反省があります。ミクシィのようなプロダクトが強い会社は、プロダクトの成長が組織を牽引していきます。つまり、ミッションやバリューが浸透してなくても、自然に組織がまとまるんですよ。楽といえば楽なんですが、逆にプロダクト任せになって、人や組織に向き合い切れていなかったと振り返って思うんです。

奥平:つまりプロダクトの業績が悪くなると、人や組織がバラバラになってしまうということでしょうか。

小泉:そうです。これはミクシィに限らずスタートアップならどの会社でも起きうることですが、プロダクトにはライフサイクルがあるので、良いときもあれば悪いときもある。ただ、悪いフェーズに入ると、社員一人ひとりの価値観や判断軸がブレはじめるんですよね。そうなると一人ひとりが好き勝手にやりはじめ、組織がバラバラになってしまう。もちろんメルカリの場合、プロダクトは山田を中心にしっかりつくっているという大前提がありますが、会社とプロダクトをある程度切り分けて考える必要があると思ったんです。

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メルカリ取締役社長兼COO 小泉文明

奥平:ミッションやバリューをつくってからのメルカリはいかがでしたか? まず社員にしっかり浸透することが大事ですよね。

小泉:おっしゃる通りで、一般的に理念をつくって満足してしまうパターンが多いですよね。そうさせないために一番大切なのは、経営陣が自らバリューを体現したり口に出すことです。

奥平:というと?

小泉ミッションとバリューを経営陣一人ひとりに担わせたんです。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションは会社を統括する山田に。「Go Bold(大胆にやろう)」は当時USを担当することが決まっていた石塚(共同創業者)に。「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」はプロダクトの担当役員の富島(共同創業者)に。わたしは会社全体の雰囲気をつくるコーポレートとして「All for One(全ては成功のために)」を担いました。このように経営陣一人ひとりに言葉を担ってもらい、行動や意識を通じて社員へ浸透させる。そこまでやらないと、言葉ってなかなか浸透しないんですよ。そのほかにも、「Go Bold」とプリントしてあるTシャツをつくったり、会議室に「All」や「One」と名付けたりするなど、日常的に目に入り、呼び合うような仕掛けをつくりました。ビジョンを唱和する会社って怖いじゃないですか(笑)。なので、できる限り自然と馴染むような工夫をしました。

奥平:ミッションやバリューが浸透したことで、どのような効果がありましたか?

小泉会社の生産性は確実に上がったと思います。なぜなら、仕事上の判断軸がバリューのなかに必ずあるから。事業や制度など、バリューに基づいて考えているので、1つの筋が通るんですよ。「この判断はGo Boldではないな」という会話が、日常的に飛び交いますしね。社員が何かに迷ったり、つまずいたりしたときに、この言葉たちがフックになり、助けてくれる。そんな効果があるように思います。

創業1年のベンチャーが、広告費に約4.5億円を投資。その狙いは?

奥平:これからは、なぜメルカリという名もなきサービスがここまでの急成長を遂げたのかについて伺っていきたいと思います。たしか創業当時、とあるメディアのフリマアプリ特集にメルカリが紹介されていなかったことがありましたよね(笑)。

小泉:メルカリは「その他」に入っていたくらいで、まったく振り向いてもらえなかった(笑)。楽天さんのフリマアプリ「フリル」(現「ラクマ」)は、メルカリよりローンチが1年くらい早かったですし、当時は10社以上の競合がひしめき合う状況でした。「Winner takes all」と呼ばれるように勝ち残るのは一社のみですので、後発のサービスとして大胆に攻めるほかに選択肢はありませんでしたね。

奥平:2014年3月から5月にかけて、大型の資金調達やカスタマーサービスセンター(仙台オフィス)の設置、テレビCMなど一気に仕掛けていますよね。

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日本経済新聞編集委員 奥平和行さん

小泉:良いプロダクトをつくるだけではなく、良いマーケティングもしなければならない。プロダクトとマーケティングは、たとえるなら車の両輪で、その両輪をしっかりワークさせるガソリンの役割がファイナンス。2014年3月に約15億円の資金調達ができたので、その年の5月にテレビCMを打ちました。でも実は、2013年の年末からCMを制作していて、ファイナンスのタイミングをずっと伺っていたんです。

奥平:十分なキャッシュが手元にないのにテレビCMをつくっていたと?

小泉:そうです。3月末に資金が振り込まれているのを確認してから正式に発注し、5月に放映するという突貫スケジュールでしたね。

奥平:まさに大胆ですね(笑)。当時、メルカリのようなサービスがCMを出すなんて前代未聞だと思います。でもテクノロジー分野の発想として、ちょっとひどい言葉を使うと「邪道な手段」ではないかと(笑)。プロダクトが良ければ自然に認知されていくと思うんです。

小泉:テレビCMについては、ある経営者からアドバイスをいただいたことがあったんです。サービスが200万DLくらいまで伸びていると口コミも含めてワークするから、想像以上に効果があるぞと。ちょうどCMが放映される直前の2014年4月末に200万DLを突破したタイミングでしたし、いましかないと。意を決してテレビCMに3億円、オンライン広告に1.5億円を費やしました。資金調達した15億円のうち、約1/3を広告に投資したんです。もちろん成功する前提でやったので、東京のカスタマーサービスセンターだけではパンクするだろうと、CM放映前の4月に仙台オフィスを設けました。

奥平:すべては日本で勝ち切るための戦略だったのですね。

小泉:そうです。わたしがミクシィにいた当時、SNSに取り組む企業は20社以上ありました。でもそのほとんどの企業がSNS事業から撤退し、唯一残ったグリーはゲーム事業にピボットした。なので、わたし自身がWinner takes allの怖さを一番知っているんですよ。あの怖さは二度と味わいたくないという一心で、チャレンジを続けました。はじめてヤマト運輸さんにらくらくメルカリ便を提案したのも、2014年の2月でしたね。アプリをローンチして半年後くらいでしたが、お客さまの体験価値をより高めるためには、アプリ内だけではなく配送面というリアルな部分を強化する必要があると思ったんです。新卒で入った証券会社の上司にお願いし、ヤマトさんの重役の方を紹介してもらい、提案させていただきました。

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メルカリDL数と主な施策

奥平:資金調達もしていない、実績もない、無名のスタートアップが、どうやってヤマトさんを口説いたんですか?

小泉:多くのスタートアップって想いを伝えて満足してしまうパターンが多いのですが、それでは当然実現しません。わたしがやったのはヤマトさんの過去2年分の決算資料を読み込み、彼らのストラテジーに合わせた提案です。当時、インターネットの普及によってtoBの物流が減少傾向にありました。そうなるとtoCを増やさないといけないわけです。その大きな流れのなかに、メルカリが入ることでどう変わるのかというヤマトさん側の戦略に沿った提案を行いました。それから時間は経ってしまいましたが、丁寧にディスカッションを重ね、実現に至ったんです。

奥平:自分たちの言いたいことだけを言うのではなく、彼らの頭のなかを覗くようにし、逆算して提案したと。

小泉:基本的に他社へ提案する場合は同様です。資料も相手が大企業であれば彼らが社内に展開しやすいようにつくるんです。たとえば文言を切り貼りできるよう、PowerPointではなくWordで資料をつくるなど、お作法的に行っていましたね。

失敗は成功確率を上げるための重要プロセス。メルカリの新規事業と採用戦略の考え方

奥平:メルカリは創業から現在まで急成長を遂げている印象が強いですが、スタートアップとしての苦悩や失敗はなかったのでしょうか?

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小泉:細かい失敗はたくさんしていますよ。最近でも、メルカリNOW、teacha、メルカリメゾンズのサービス終了を発表しました。新規事業って10やって1当たればいいくらいで、ほとんど成功しないじゃないですか。重要なのはミスをどう昇華するかだと思っています。単にミスをしてしまったと捉えるか、ミスにより選択肢が1つ減って成功確率が上がったと捉えるか。わたしたちは圧倒的に後者のマインドで考えています。そこから何を学べ、次に繋げるのかの方が大事ですし、常に手数が多い会社でいたい。失敗は成功するまでの重要なプロセスだと思っています。

奥平:失敗に対して潔癖になってはいけない。むしろ失敗を経験するからこそ、どんどん前に進んでいるのですね。

小泉:会社のリソースは限られるので、経営者として大切にしていることは「やるやらないの判断」と「どこにリソースを割けば会社が成長するか」の2つです。新規事業の難しさは、経営陣が誰よりも知っている。だからこそ、手応えを感じない場合は早く撤退し、別の事業にリソースを割くなど、検討すべきではないかと。経営や起業の経験がないと事業を止めることって、もの凄く怖いんですよ。でもそれをしないと、誰も幸せにならないので、絶対にダラダラとやり続けないことをルールとして決めていて。経営者と新規事業担当者が馴れ合いにならないよう、適切な距離感を維持し、時には厳しいコミュニケーションをとるようにしています。

奥平:日本の企業の大きな問題点って、はじめたことを止められないことだと思うんですよね。撤退が決まったとしても、何らかの例外措置をとったり、誰かの顔色を気にして止められないとか……でも逆に、心血を注いで取り組んできた事業を止めることになったら、彼らは会社を辞めてしまうのではないかと心配になります。

小泉:事業を止めるときに、彼らのメンタルケアは必ずしています。でも会社として常に考えていることは、社員が企業に紐付いているのか、プロダクトに紐付いているのかということ。先ほども話したように、メルカリのミッションやバリューがないと、プロダクトに紐付いてしまうので、事業が終わるとすぐ辞めてしまうと思うんです。たぶん彼らに、事業が好きなのか、それともメルカリという企業が好きなのか尋ねたら、きっとメルカリと答えてくれるはず。たとえ自分の事業が失敗に終わったとしても、すぐに切り替えて次のチャレンジに向かってくれると信じています。

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奥平:それは新規事業だけではなく、福利厚生や人事制度、採用活動にも共通しますか? メルカリといえば、リファラル採用が隆盛ですよね。

小泉:リファラルはフェーズによって方法を変えています。まずは経営陣だけが実践するフェーズ。いきなり社員経由でのリファラル採用を推奨する企業が多いと思うんですけど、そもそも社員はリファラルのやり方がわからないので、まずは経営者がお手本を見せることが大切です。なので、創業1年目の頃は社員経由のリファラル採用はほぼゼロですね。リファラル経由で採用された社員が徐々に増えはじめたら、リファラルで入った社員を中心に行うフェーズに切り替えます。リファラルで採用されているので、やり方がわかっているし、メルカリへの理解も深いんですよ。

奥平:メルカリは新卒採用にも積極的に取り組んでいますよね。経験者を多く採用したほうが効率的かと思うのですが、その狙いは何なのでしょうか?

小泉:新卒採用をはじめた当初の募集要項には「メールアドレスとGitHubのアカウントを送ってください」しか書いていないんですよ。しかもGoogleフォームから……(笑)。名前もいらないし、学歴も問わない、超実力主義の新卒採用です。わたしたちの求めている人材というのは、そんな企業に応募してくるGo Boldな若者。最近はインターンにも力を入れていて、2017年度はアメリカの50州に学生100人を送り込むという壮大なプログラムを実施しました。

奥平:本気でグローバルチャレンジしていくというメルカリのメッセージを含めた取り組みですね。でもいろいろなリスクもありそうです。

小泉:そこはGo Boldという言葉が背中を押してくれるというか。どんな難題が舞い込んでも、決して逃げずにチャレンジしていこうとわたしたちは考えているので、それにインターン生もしっかり応えてくれました。今後はさらにGo Boldなプログラムをやっていきたいですね。

人とテクノロジーに懸ける。メルカリのミッション達成への道筋

奥平:今年6月、東証マザーズに上場を果たしたメルカリですが、小泉さんは投資家にどのようなコミュニケーションをとっていたのしょうか?

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小泉:基本的にはメルカリの既存事業と新規事業の両方の側面における成長戦略を共有しました。既存事業に関しては、まだまだアクティブユーザーを増やす余地は大きいですし、アパレル分野以外のジャンルへの強化戦略などを共有しましたね。一方、新規事業の代表格であるメルペイに関してはマーケットプレイスとペイメントの関係性を説明し、将来性を訴えました。あとはメルカリのUSやUKへの展開。海外での成功はメルカリのミッション達成にも直結するので、それに向けて着実に前進していることを伝えました。

奥平:そのようにして投資家の深い理解と信用を得るわけですね。今後メルカリが強化したいことはありますか?

小泉:メルペイなどの新しいサービスが展開されることによって、メルカリ全体の世界観やシステムが複雑化したりする可能性もあるので、全体を統括する人やチームが必要になると思っています。たとえば現在、CXO(Chief Experience Officer)室を準備しているのもその一環です。メルカリの世界観を統一する人がいないと、サービスが一人歩きして、企業としてのブランドイメージがバラバラに見えてしまう。そこには今後、注力して取り組んでいきたいですね。

奥平:この会場のなかにはスタートアップの経営に関わっている方も多いと思います。小泉さんが考える、組織の課題解決に必要な処方箋は何だと思いますか?

小泉:1つの処方箋ですべての課題を解決することは不可能ですが(笑)、ベースとして大事なことは「社員を信じること」ではないでしょうか。どれだけ責任や権限を現場に委譲できるかだと思っています。そもそも1,000人を超える組織が、経営陣だけで意思決定をすることなんて不可能なんです。これからはマネージャー陣が中心になって組織を強くすることが大事だと思いますね。また、メルカリには現在25か国以上の国籍を持った社員が働いていて、その数は年々増え続けています。急速にダイバーシティが広がっているからこそ、ミッションとバリューを浸透させることがより重要になると思っていて。全社員が経営陣と同じようにバリューを自分ごととして語れる。そんな組織にしたいですね。

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奥平:小泉さんが入社当時に行っていたことを、もう一段高いレイヤーで取り組んでいるんですね。では最後に、今後の目標について聞かせてください。

小泉:テクノロジーの可能性を信じて、お客さまのライフスタイルをグローバルレベルで変えるようなチャレンジをしていきたいと思っています。「テクノロジー×グローバル」という難しい掛け算の答えを出すためには、社員全員が一丸になるほか方法はありません。上場日の日経新聞に、山田からのメッセージと野茂英雄さんの写真を掲載しました。23年前、野茂さんが先陣を切ってメジャーに挑戦したからこそ、いまのイチロー選手や大谷選手が活躍できているように、わたしたちも良い事例にならなければならない。もちろん批判に晒されることもあるでしょう。でも「テック業界にメルカリが出てきたおかげで、日本のトレンドが変わったよね」と言われたいじゃないですか。次の時代を担う企業として、大胆に世界へ挑戦していきたいと思っています。

登壇者プロフィール

奥平和行(Kazuyuki Okudaira)
日本経済新聞編集委員。産業部(現企業報道部)、名古屋支社、米州総局シリコンバレー支局などを経て現職。IT、自動車、スタートアップなどについて取材・執筆をしている。


小泉文明(Fumiaki Koizumi)
株式会社メルカリ取締役社長兼COO。2003年大和証券SMBC(現・大和証券)入社。投資銀行本部にてインターネット企業の株式上場を担当した後、07年ミクシィ入社し、取締役CFOに就任。13年12月メルカリに入社。14年同社取締役に就任。17年4月から現職。