テックカンパニーを目指すメルカリ。エンジニア組織の変遷と挑戦「Mercari Tech Conf 2018」レポ

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2017年からスタートしたメルカリが主催する「Mercari Tech Conf(MTC)」。「Mercari Tech Conf」とは、メルカリをはじめとするメルカリグループ各社が、これから目指す方向や取り組む技術的なチャレンジについて紹介する技術カンファレンスです。

第2回目となる今回は「Evolution(変化)」をテーマにこの1年間でメルカリグループ内に起こった、もしくは起こりつつある変化が紹介されました。

オープニングトークで「良いテクノロジーを使って、これからは誰もできなかったことをできるようにしていきたい」と語った、メルカリ取締役CPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)の濱田 優貴。テックカンパニーを目指すメルカリはどんな変化を遂げようとしているのか。

そして「テックカンパニーは進化する組織でなくてはならない」と語る、メルカリCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)の名村卓。彼が描くメルカリにおける理想的な組織とは。

テクノロジーで世界をEvolutionさせる


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「今年のテーマはEvolution(変化)です!」

メルカリ取締役CPOの濱田による高らかな宣言で幕を開けた、今年の「Mercari Tech Conf」。「Evolution」というテーマにあわせ、濱田はまずメルカリに起きた変化について触れました。

2013年2月に私たち、メルカリは創業しました。創業から5年以上が経ち、アプリの累計ダウンロード数は日・米・英をあわせて1億ダウンロードを突破。国内登録者のMAU(月間アクティブユーザーは1,075万人を超え、GMV(総流通総額)は年間3,704億円を超えるほどに成長を遂げました。(濱田)

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創業から現在に至るまでの、メルカリの数値の変遷

そんな成長の背景にあるのがユーザビリティテストや分析基盤構築による高速改善、そして緻密なオンライン・マーケティング、大胆なテレビCMの活用です。

「これまでは徹底してUI/UXにこだわり、積極的なマーケティング施策を展開することで、メルカリを“誰もが使いやすく、誰もが知っている”状態へと変化させていきました」(濱田)

これまでの変化を語った後、濱田は続けて「これからの変化」について言及。キーワードのひとつとして挙がったのが“テクノロジーの活用”です。

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テクノロジーを活用し、ユーザーの利便性を向上

メルカリはこれまで、機械学習(マシンラーニング)などのテクノロジーを活用することで「商品画像認識(かんたん入力)」や「規約違反商品の検出」、またUS版アプリでは「商品の重量推定」などを実現させてきました。

ただ、メルカリが目指すべき変化はまだその先にある。濱田はそう言います。

「私はSF作家アーサー・C・クラークの『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という言葉が大好きです。良いテクノロジーを使って、これからは誰もできなかったことをできるようにしていきたい。そして最終的にはメルカリを魔法のようなプロダクトへと変化させていければと思っています」(濱田)

もっと出品しやすく、もっと売れやすく、もっと見つけやすい──日々、刻々と変化するテクノロジーの波に乗り遅れることなく、メルカリは常に最先端のテクノロジーを活用して、より便利なアプリへと変化していく予定です。

もちろん、変化するのはアプリだけではありません。メルカリの組織自体もテックカンパニーを目指して、変化を遂げています。

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濱田優貴(メルカリ取締役CPO)

UI/UXにこだわり、使いやすさを追い求める「プロダクトドリブン」な組織から、マイクロサービス化を推進し、エンジニア主導でユーザーの課題を解決する「エンジニアドリブン」な組織に。そして、これからは「テックドリブン」な組織を目指します。

「テクノロジーで世の中を変え、開発者にも使われるテクノロジーをつくる。例えば、GoogleやFacebook、Netflixは自分たちのプロダクトをつくる傍らで生まれたテクノロジーをオープンソースとして開発者にも提供している。これこそが目指すべき組織のあり方であり、テックカンパニーになるための条件だと思っています」(濱田)

そうしたなかで、メルカリが注力するテクノロジーは2つあります。それは「Value Discovery(価値の発見)」と「Value Exchange(価値交換の基盤)」です。売りたい人と買いたい人をマッチングできるか。取引を安全に実行できるか。この2つに取り組むことで、メルカリは「Trust(信頼)」を創出すると濱田は続けます。

「UberやAirbnbを初めて使うとき、きっと多くの人は不安を感じたと思います。ただ彼らは信用を提供することで、利用者数を増やし、大きく成長しています。私たちメルカリも同じです。知らない人からモノを買うことは不安が多い。でもテクノロジーを活用して、信頼を提供することで、『メルカリなら安心して使える』『安全だからメルカリで買おう』という状態を今後つくっていきたいと思っています」(濱田)

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そして最後に濱田から今後の取り組みが語られ、オープニングトークは幕を閉じました。

「今後、メルカリは2020年までに1,000人のエンジニアを採用しようと思っています。そのエンジニアたちがスムーズに働けるよう、スケールする開発組織も必要になってくるでしょう。ここに関してはこの後、名村が詳しく話をすると思います。そして新しい技術をつくるためのR4Dを筆頭に研究開発にも力を入れていく予定です」(濱田)

テックカンパニーとして世界を目指し、テクノロジーで世界をEvolutionさせる。これが今後、メルカリが起こそうとしている変化です。

メルカリのエンジニア組織が目指す、4つの方向性

濱田によるオープニングトークの後に行われた基調講演。トップバッターとして登壇したのは、メルカリCTOの名村卓です。「テックカンパニーに必要なスケールする組織戦略」をテーマに、メルカリのエンジニア組織の変遷と今後を語りました。

先ほど、濱田の口から「2020年までに1,000人のエンジニアを採用する予定」と話がありましたが、この1年でメルカリのエンジニア組織は急拡大。2017年10月に120人だったエンジニアの人数は、今では約3倍の350名にまで伸びています。

その結果、開発スピードの低下や個人の裁量の減少、思想の衝突といった問題が社内でも生じ始めていました。そうした状況を踏まえ、名村はこの1年で考え方を「チームから組織」へ変えていくことにした、と言います。

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名村卓(メルカリCTO)

「人数が300人を超えると、みんなで力を合わせて頑張ったり、うまくカバーしあったりといったことが通用しなくなってきました。もちろん、少ない人数での開発を希望するエンジニアも少なくありません。それでも、たくさんのエンジニアの力を結集して、パフォーマンスを発揮させるために、どういったエンジニア組織が必要か。これは絶対に考えなければいけないことだと思っています」(名村)

メルカリに必要なエンジニア組織とは何か──名村が考えた結果、導き出された答えは4つありました。

①多様な思想で開発する

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いかに多様な発想で開発できるか、をメルカリは大事にしている

「小さなチームであれば、似たような価値観や似たような人たちが多いので同じ方向を向いて開発するのは簡単ですが、組織になると多様な思想が存在します。ですからメルカリでは多様な思想のエンジニアをいかに同じ方向に向かせて開発するか。そこを組織で解決し、開発思想のダイバーシティを目指しています」(名村)

②多様な能力で進化している

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属人的な体制から脱却し、よりメルカリの可能性を引き上げられるようにしている

「優秀な才能のあるエンジニアに依存して開発するのは非常に効果が高いのですが、一方で個人のキャパシティが組織の限界になってしまうといった問題も生じてしまいます。多様な能力のあるエンジニアがお互いにシナジーを生んで化学反応を起こし、メルカリ全体の可能性を引き上げる。そんな組織の方が可能性があると思います」(名村)

③技術力=創造性

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メルカリでは「技術力は創造性である」と全員が認識している

「技術力と一口に言っても、さまざまな捉え方があります。メルカリでは生産性ではなく、創造性として技術力を捉えています。例えば、生産性だけに着目すると、エンジニアが1,000人集まっても、すでに10,000人のエンジニアがいる会社には太刀打ちできません。だからこそ、メルカリは『新しいモノ、新しい方法を創造すること』を大事にしています」(名村)

④優秀な人材が育つ組織

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メルカリは優秀な人材が育つ組織を目指している

メルカリには優秀な人材が集まっていますが、それだけではありません。優秀な人材が育つ組織への進化を目指しています。

「メルカリには優秀なエンジニアがたくさん集まっています。即戦力しか採用しないことにして組織をつくっていくことは、そこまで難しくないと思います。ですが、いま即戦力ではなかったとしても、メルカリで仕事をすることで成長して優秀なエンジニアになっていく。そんな成長できる組織をメルカリはつくっていきたいと思っています」(名村)

最小化を進めることで、弾力性のある組織に

そんなスケールしていくエンジニア組織を実現するために、メルカリが採用している戦略は2つあります。ひとつがEM/PM体制の導入です。

「エンジニアリングマネジャー(EM)とプロダクトマネジャー(PM)を分離することで、プロダクト組織をうまくつくっています。またEM/PM体制にすることで、EM以外にテックリードという役割も設置しています」(名村)

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EMは主に採用、育成、配属、組織開発を見て、テックリードはどういった技術を用いて開発するのか、設計するのか、品質を保つのかを中心に意思決定を行っています。

「いずれもエンジニアのポテンシャルが最大限発揮されるように組織的、技術的アプローチの両方を行っています。メルカリのEMはエンジニアバックグラウンドの人がほとんどで、エンジニア自身がどういった組織をつくっていくのかを考えることで、エンジニアに最適な組織をつくっていけるようにしています」(名村)

続けて、話は組織戦略から技術戦略に。名村は「組織の観点だけでなく、技術戦略の観点も組織づくりに活かしています」と言い、メルカリが取り入れている技術戦略を話ました。

現在、メルカリが取り入れている技術戦略の代表的な考え方のひとつが「Micro Decision」です。これは決断の最小化と言い、決断が起こしうる悪影響を可能な限り最小限に抑えるとともに、決断をあらゆる場所で起きるようにする、という考え方です。

「決断は本来、責任を負って大きな結果を残すイメージがあるのですが、そういったイメージを払拭し、決断がどこでも、いついかなるときでも起きる状態をつくりだそうとしています。もちろん、大きな決断をする必要もあるのですが、日常的にさまざまな決断を繰り返すことで大きな決断もできるようになる。そう思っています」(名村)

そんな「決断の最小化」を実現するためのアプローチのひとつが昨年から取り入れている「Microservices(マイクロサービス化)」。これは個別に開発された小さなサービスを組み合わせ、ひとつのサービスを提供するアーキテクチャです。

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Microservicesの概念図

「このアーキテクチャを取り入れることで、オーナーシップが各エンジニアに分離されます。技術、設計など各コンポーネントのなかでやることを、すべて各エンジニアが決断していかなければいけないので、各所で小さな決断が生まれるようになります」(名村)

また、エンジニアが選択したものを自ら進められるように、デプロイについても細かなルールで安全に行われるよう「Micro Deploy(マイクロデプロイ)」が必要と考え、導入しています。

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Micro Deployの概念図

「エンジニアがリリースする際、一般的にはいろんな承認フローを経てリリースされることになります。メルカリでは、これをより安全にエンジニアの判断で行えるよう、Featureに対して多数のデータのシグナルを集め、安全であると判断されれば次のステージに進めるリリースの仕組みを考えています」(名村)

このように最小化をどんどん進めていくことで、得られるメリットはもうひとつある、と名村は言います。それは「Resilient(弾力性)なシステム」です。

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タイタニックを例に名村はResilientなシステムの有用性を説明

「最小化を進めていくと、急な変更や予測しない事態が起きたときに、強い耐性を持つシステムをつくることができると考えています。最小化を進めることで一見、システムが複雑になり、問題が起きやすくなるのではないかと考える人も多いと思います。ただ、私は違うと思っています」(名村)

ここで例え話として、名村が披露したのがタイタニック沈没の話です。

「船は通常、バルクヘッドという船体内部を横に仕切る隔壁が設けられていて、軸が破損しても浸水しないようになっています。実はこのイラストはタイタニックの断面図なんです。なぜタイタニックは防御機能を持ちながら沈没してしまったのか。タイタニックは最大で4つのコンパートメントが浸水しても大丈夫なように設計されていたのですが、氷山にぶつかったとき、6つのコンパートメントが浸水してしまった。

その結果、水の重さで船が傾き、他のコンパートメントが浸透し、バルクヘッドが機能しなくなり沈没してしまった。ひとつの起きた不具合が他の部分に悪影響を及ぼし、想定しない事態が起き、浸水してしまった。メルカリはタイタニックのような船にお客様を乗せるわけにはいかないので、最小化を進め、高い分離性を保って、不安定な連鎖反応を防ぐことを目指しています」(名村)

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無数の決断を社内で行えるような環境をつくり、あらゆる場所で挑戦と失敗を繰り返せるようにすることで、生き物のような進化を遂げるプロダクトを目指していきます。

「テックカンパニーは進化する組織でなくてはならない」

そんな言葉で締めくくられた名村の基調講演。メルカリのエンジニア組織はこれからも絶え間ない進化を続けていきます。

登壇者プロフィール

濱田優貴(Yuki Hamada)
東京理科大学理工学部在学中に株式会社サイブリッジを立ち上げ、取締役副社長に就任。受託開発の責任者を始めM&A、新規事業の立ち上げなどに従事する。2014年10月に同社を退社後、同年12月、株式会社メルカリに参画。翌年1月執行役員就任、2016年3月取締役就任。現在、取締役CPOとしてフリマアプリ「メルカリ」のプロダクト全体を管轄している。


名村卓(Suguru Namura)
2004年株式会社サイバーエージェントに入社後、アメーバピグ、AWA、AbemaTVなどの新規サービスの立ち上げに従事。2016年7月、株式会社メルカリに参画。US版メルカリの開発を担当、2017年4月、執行役員CTOに就任。

プレゼンテーション映像


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