「Mercari X」もお披露目。メルペイCTOが描く、信用と価値交換「Mercari Tech Conf 2018」レポ

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2017年からスタートしたメルカリが主催する「Mercari Tech Conf(MTC)」。「Mercari Tech Conf」とは、メルカリをはじめとするメルカリグループ各社が、これから目指す方向や、これから取り組む技術的なチャレンジについて紹介する技術カンファレンスです。

第2回目となる今回は「Evolution(変化)」をテーマにこの1年間でメルカリグループ内に起こった、もしくは起こりつつある変化が紹介されました。

基調講演の最後に登壇したのは、メルペイCTOの曾川景介。講演の最後、サプライズで発表された「Mercari X」とは何か? そもそもなぜメルカリが金融事業に取り組むのか? メルペイが考える新たな信用と価値交換のかたちを明かします。

信用を創造して、なめらかな社会を創る

メルペイは2017年11月、メルカリの100%子会社として設立されました。2018年7月には、今後提供予定のサービスの法人(加盟店)利用基盤の拡大を目的とした子会社「メルペイコネクト」を設立するなど、少しずつ会社の規模は拡大。「信用を創造して、なめらかな社会を創る」をミッションに掲げ、金融関連の新規事業に取り組んでいます。

「なぜ、メルカリが金融事業に取り組むのか? そう思った人も多いでしょう。」(曾川)

曾川はそう語り出し、まずはメルペイの存在意義について触れました。

「メルカリはCtoCマーケットプレイスとして、多くのお客さまにご利用いただき、モノの流動性を生み出してきました。私たちはその流動性が生み出した『お金』に注目し、お客さまからお預かりしているお金の流動性を高めることで、さらにモノの流動性を高められるのではないかと思ったんです」(曾川)

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曾川景介(メルペイCTO)

「新たな価値を生み出す、世界的なマーケットプレイスを創る」。メルカリはこのミッションをもとに、価値を交換する場所として利用いただいてきました。

それを踏まえてメルペイでは、ひとりでも多くの人が新たな価値を生み出すために必要な信用を創造していきたい。分かりやすく言い換えるならば、お金がなくても使えるようなメルカリをつくりたい──曾川はそう語ります。

「今メルカリでは価値を交換し、かつ新たな価値を生み出すためにはお金を持っていることを必要条件としています。お金に代わる信用を創造することは、その必要条件がいらない画期的なものになると私たちは確信しています」(曾川)

メルカリのミッションを達成するために、メルペイのミッションを達成する。それにより、ひとりでも多くの人が価値の交換を行い、やりたいことを実現したり、欲しいものを購入したりする“なめらかな社会”が創造されていくのです。

取引データをもとに「信用スコア」をつくりたい

メルカリ取締役CPOである濱田のオープニングトークでも話題に挙がった「信用」に関する話。UberやAirbnb然り、信用がなければ知らない人同士の取引を成立させることはできません。CtoCのサービスにおいて信用は不可分であり、信用を創造することは至上命題と言えるでしょう。

先ほどから何度も出てきている「信用を創造する」という言葉ですが、そもそも「信用」自体が抽象度の高い言葉。他者を信じられるかどうか、それ以外にも貸す・借りるといった貸借的な概念やお金や貨幣的な概念もあります。

それを踏まえたうえで、メルペイはどのように信用を創り出そうとしているのでしょうか──曾川の口から語られたのは「取引データをもとにした、信用スコアの創造」でした。

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メルペイにおける「信用創造」の考え

「スコアリングを行い、さまざまなアプリケーションを生み出す基盤として活用していきたいと考えています。例えば、それはシェアリングエコノミーやレンタル、予約などが挙げられます。そして与信。これまで与信は給与や職業など、割と大きい単位で取り扱われてきたと思うのですが、私たちはもっと小さい単位で与信をつくれるのではないかと考えています。これらはメルペイだけで完結するものではなく、メルカリグループ、パートナーのみなさま、そして開発者のみなさまと一緒にオープンなプラットフォームをつくっていきたい。そんな風に考えています」(曾川)

簡単に見える「価値交換」に裏に潜む問題と「信用」は解決の鍵となりえるか

信用について語った後、曾川が語ったのは「価値交換」について。曾川はこう切り出していきます。

「通貨の登場や信用創造によって、商取引を積み重ねてきた私たち人類にとって2者間で取引を行うことは当たり前になっています。しかし、よく考えてみてください。それは本当に簡単なことでしょうか? 任意の2者間での価値の交換は難しい問題なはずです」(曾川)

知らない人はちゃんと発送してくれるのか送られてきたものは偽物じゃないのか。2者間で安心かつ安全に取引を行いたいと思うと、途端にさまざまな問題が顔を覗かせます。

そうした問題に対して、メルカリは「エスクロー」という仕組みを導入することで2者間の取引を安全で安心に行うことを可能にしました。

「これ以外にも2者間での取引を行うための課題はたくさんあります。私たちがいま当たり前だと考えているもののなかに信用や通貨も含まれていますが、これらが無い、あるいは無かった社会を考えたとき、問題はさらに困難になる。信用や通貨が価値交換の媒介ではなくなってしまうと、価値の交換は完全な物々交換の世界に戻ってしまいます」(曾川)

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2者が物々交換を行おうと合意したタイミングにおいて、自分が欲しいものを相手が持っていること、相手が欲しいものを自分が持っていることが一致しなければ価値の交換は行われない。経済学では、この問題のことを「欲求の二重の一致」と呼んでいます。

「おそらく多くの人は、これを任意のタイミングで行うことが難しいのは直感でも理解できるでしょう。価値の交換が難しく、欲求の二重の一致の解消が難しいのは確かに事実です」と語ったうえで、曾川はこんな疑問を投げかけます。

「しかし、信用や通貨がない状態が存在した社会はあるのでしょうか?」(曾川)

曰く、デヴィッド・グレーバーは著書『負債論』の第2章で「物々交換の神話」と呼び、古今東西探しても、そのような文明はなかった。経済学者が考えた空想社会だと断言していると言います。

「欲求の二重の一致はアダム・スミスが『経済学』という学問分野をもたらした頃から働いている神話であると『負債論』では述べられています。この真理をみなさんと解き明かしたいところですが、通貨がどこから来て、どこに向かおうとしているのか、その謎に迫ることはまたの機会にすることにしましょう」(曾川)

信用とは何か、簡単に見える価値交換が実は難しい問題があるといった話を踏まえ、曾川は「信用と価値交換は密接な関係にあり、不可分なもの」と言います。

両者は密接な関係のなかで発展してきたものであり、そしてこの先も不可分な関係のなかでつくられていく。曾川はそのように考えています。

「『おやおや、ブロックチェーンのことかな……?』と思った方、もう少しだけお待ちください。先にこの話を終わらせましょう」(曾川)

信用や通貨という媒体によって物々交換を成立させ、インターネット上の仮想的な共同体として存在しているメルカリ。それを踏まえてメルペイが目指すもの──それは新たな価値交換の媒体として「信用」を創造していくことです。

「まずは物理的な貨幣を必要としない状態を目指さなければなりません。そして通貨的な価値を持たない人でもメルカリを使える人や、価値の交換を通じて新たな価値を生み出せる人に『信用』というかたちで、眠れる力を引き出したいと考えています」(曾川)

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価値交換の新たなモデルとそのプロトコル化を目指したプロジェクト「Mercari X」

「信用」と「価値交換」という壮大な2つのテーマについて話をした後、曾川から語られたのは極秘プロジェクトの存在でした。

「極秘プロジェクトというのは……Mercari Xです」(曾川)

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「Mercari X」の使用画面

Mercari Xはブロックチェーンのような技術を取り入れて、次のメルカリのコンセプトモデルとして開発されたものです。リスティング機能とエスクロー機能を備えており、CtoCの初歩的な取引を行うことができます。

すでにMercari Xはメルカリ社内での取引に使われていて、取引にはアプリ内の独自通貨「メルコイン」が利用されています。

曾川は「あくまで実験的に開発されたプロダクトなので、一般公開は今のところ予定していません」と言い、続けてメルペイのブロックチェーンに関する技術的な取り組みについて語りました。現在、メルペイではブロックチェーンコア技術、仮想通貨セキュリティ、ブロックチェーン応用といった3つの領域を軸に研究開発を行っています。

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メルペイがブロックチェーンに関する研究開発で取り組む3つの領域

ブロックチェーンコア技術に関してはブロックチェーン技術の基本的なリサーチ、暗号アルゴリズムやP2P・コンセンサスアルゴリズムといった周辺技術のリサーチ、ブロックチェーンの標準化に関する国際的な会合への参加などを実施しています。

続けて、曾川は「ブロックチェーンや仮想通貨を取り扱ううえで、重要な技術のひとつがセキュリティですと言い、仮想通貨セキュリティに関する取り組みを説明。セキュリティに関しては、個別のセキュリティの話のほか、秘密鍵の管理や不正トランザクションに対する対処、ブロックチェーンや仮想通貨に対する攻撃手法の分析を行っています。

「そして、Mercari Xのようなブロックチェーン応用の研究も行っています。Mercari Xは任意の2者間で行われる価値の交換に必要なリスティングとエスクローをプロトコルとして定義し、価値交換のモデルを確立することを目指しています」(曾川)

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会社の設立から、間もなく1年を迎えるメルペイ。今度はみなさんに“ネクスト・メルカリ”となるようなサービス「メルペイ」を提供できるよう、現在開発を進めています。メルペイのサービス開始、そして今後の進化を楽しみに待っていてください。

登壇者プロフィール

曾川景介(keisuke sogawa)

2011年京都大学情報学研究科修了。2011年にシリコンバレーの FluxFlex社にてWebPayを立ち上げる。ウェブペイ株式会社の最高技術責任者(CTO)としてクレジットカード決済のサービス基盤の開発に従事、LINEグループに参画しLINE Pay事業を経験。2017年11月、株式会社メルペイ取締役CTOに就任。

プレゼンテーション映像

 

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