「プラネット・ポジティブ」のさらなる追求を深める──制作メンバーに聞いた、サステナビリティレポートに込めたメッセージ

メルカリは、事業や企業活動を通じて環境や社会に影響を与えるさまざまな活動をまとめたサステナビリティレポート「FY2022.06 SUSTAINABILITY REPORT」(以下、サステナビリティレポート)を2022年8月に公開しました。サステナビリティレポートは、2020年より年に一度発行しており、3回目の発行となった今回は、ポジティブインパクト(メルカリの事業を通じて生まれた環境貢献量​​)の算出・開示など、さまざまな新しい試みを行っています。

100ページ近いボリュームとなった本レポートはそもそもどのようにしてつくられたのか、ポジティブインパクトを伝えるためにどのような​​工夫をしたのか、サステナビリティレポートの制作を推進した山下真智子(@mattilda)、石川真弓(@mayumine)、大山奈津美(@natsumi_o)の3名に改めてインタビューしました。

この記事に登場する人


  • 山下真智子(Machiko Yamashita)

    2015年メルカリ入社。Culture&Communicaions Teamのマネージャー、2度の育休を経て2021年よりESGプロジェクトに参画。サステナビリティレポートや教育プログラム、ネガティブインパクト算出のプロジェクトオーナーを務めたのち、2022年10月よりESG経営を推進する経営戦略室のマネージャーに就任。現職。


  • 石川真弓(Mayumi Ishikawa)

    2018年メルカリ入社。 PRチーム、ブランディングチームを経て、2022年10月よりESG経営を推進する経営戦略室に所属。サステナビリティレポートの作成、TCFD提言に伴う情報開示、ESG委員会の運営、ポジティブインパクトの算出と開示、メルカリエコボックスの開発、自治体連携、教育プログラムの推進等、さまざまなESGプロジェクト推進を担当。


  • 大山奈津美(Natsumi Ohyama)

    2017年10月メルカリにCSメンバーとして入社。入社半年後、CSの知見を活かす形でリーガル/政策企画チームにて権利者対応に従事。その後Community teamにてお客さまイベントの企画・運営を担当。2020年7月からは循環型社会実現に向けた小中高生向け教育施策や環境問題にまつわるプロジェクトに参加。現在は経営戦略室の一員としてYour Choice制度を活用しながら小笠原諸島父島よりリモートワーク中。

2022年版はポジティブインパクトにフォーカスしてアップデート

──2022年8月に公開した、2022年版のサスティナビリティレポートは約100ページにのぼるボリュームですが、どのような構成になっていますか?

@mattilda:サスティナビリティレポートの構成は、メルカリが定義する「5つのマテリアリティ」に沿って、<1年間の取り組みの結果>と<メルカリが目指す先>を記載しています。

1年目は20ページ弱、2年目は約50ページ、3年目は約100ページ……とボリュームが増していったのは、マテリアリティ推進のための施策や実績をファクトで書けることが増えたからです。サステナビリティレポートを初めて公開した当初は、メルカリが取り組んでいることをシンプルに伝えようとしていましたが、公開後の投資家などのフィードバックを踏まえながら毎回アップデートを行っています。

山下真智子(@mattilda)

──前回と比較して、アップデートしたポイントや新たに盛り込んだポイントを教えてください。

@natsumi_o:2021年版は「プラネット・ポジティブ」という考え方を打ち出したり、ネガティブインパクトに対してメルカリがアクションした情報が中心でしたが、2022年版はポジティブインパクトにフォーカスして実際に定量化して情報公開したことが大きなアップデートポイントですね。レポート全体としてポジティブな情報が大きく占めていると思います。

@mayumine:今回のサステナビリティレポートから新たに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示を今回初めて行いました。TCFDとは、気候変動に対してレジリエントな経営の実践と開示を企業に要求するもので、コーポレートガバナンス・コードにおいてもTCFDに基づく情報開示が推奨されています。

例えば「2030年、2050年といった未来で、世界の平均気温が2度〜3度上がった」とき、その企業にはどのような機会とリスクがあるか、リスクがある場合はどのような策を講じるのか?というような気候変動が自社の事業活動や収益等に与える影響について、TCFDでは必要なデータの収集と分析を行うことを求められています。

でも難しいですよね。2050年に会社そのものがどうなっているかもわからないのに、未来の気候変動に対するリスクや機会を予測して分析して開示しなくてはならないので、ハードルは高かったです。

石川真弓(@mayumine)

──テックカンパニーであるメルカリがTCFDを示すにあたって、どのように情報を整理したんですか?

@mayumine:ここは専門性をお持ちのコンサルティング会社と提携しました。ガバナンスチームやリスク管理チームとも連携し、気候変動に伴うリスクなどについてまとめていきました。また、ESG委員会では、各カンパニーごとに選任されたESG担当役員とともに、メルカリの各事業におけるリスク・機会の洗い出し、シュミレーションを行うことで整理していきました。Webサイトでも、TCFD提言に基づく情報開示を公開していますが、結果、メルカリとしては、気候変動リスクよりも環境意識の高まりや消費者行動の変化によって創出される市場機会の方が大きいと評価しています。

──では、今回のサステナビリティレポートで、ステークホルダーから特に関心を集めたポイントはどこですか?

@mayumine:最も関心を集めたのはポジティブインパクト(メルカリの事業を通じて生まれた環境貢献量)ですね。今回のサステナビリティレポートでは、「メルカリで衣類を取引することによって2021年は約48万トンのCO2排出量を回避できた」という定量的な数字を示すことができました。

環境貢献量を定量的に公表することは初めての試みです。実は2〜3年前からこうした試みを考えていたんですけど、「どのようなロジックでCO2に換算すべきか?」については様々な考え方があり、なかなか実現に至りませんでした。「メルカリでリユースすればするほど環境に良さそう」というのはなんとなく頭では分かるものの、実際にそれらをどう数字で示すのかが難しかった。だから、今回データとして可視化できたことは、メルカリにとって大きな一歩だと感じています。

@natsumi_o:経営陣からも「もっとポジティブインパクトにまつわる情報を開示していきたい」という想いが強かったですし、それこそ一字一句に対するこだわりも強かったですよね。

大山奈津美(@natsumi_o)※取材当日はオンラインで参加

@mattilda:「メルカリのESGの取り組み」として、日経新聞さんに取り上げていただいたのも本当に嬉しかったです。また内容だけでなくレポートのデザインのクオリティについても多くの反響をいただきました。

@mayumine:今回出したレポートがいろんな方の目に触れてもらえたこともあり、他の企業の方々から「どこに発注したんですか?」と聞かれることがありました。「全部内製です」と答えるとビックリ&ガッカリされていて(笑)。

@mattilda:本気でESGに向き合い始めた企業が増えてきたと感じます。他社の発信も参考になりますし、社会全体として熱量が年々高まってきているのは嬉しいことですね。

「これを読んでメッセージが伝わるのか?」を何度も何度も確認した

──ここからは具体的な話に入っていきます。全体のストーリーラインの構築が肝だと思うのですが、軸にしたことはなんだったのでしょうか?

@mayumine:メルカリのマテリアリティ(重要課題)の1番目は、プラネット・ポジティブへの道筋に必要な「循環型社会の実現/気候変動への対応」という2つの側面が大枠としてあり、そして「ダイバーシティ&インクルージョンの体現」「地域活性化」「安心・安全・公正な 取引環境の実現」「コーポレートガバナンス / コンプライアンス」のマテリアリティが存在します。

@mattilda:サステナビリティレポートの冒頭、進太郎さん(メルカリ代表取締役CEO・山田進太郎)と川原さん(東京大学大学院工学系研究科教授・川原圭博)の対談を引用しています。このインタビューによって、メルカリが目指す姿がより明確になりましたし、メッセージの解像度が高まりました。

──なるほど。では、届けたいメッセージを決定した後、どのように情報の構造整理を行ったのでしょうか?

@mattilda:2022年版のサステナビリティレポートは8月上旬に公開したのですが、プロジェクトのキックオフは4月上旬頃。5月には連休もあったので4ヶ月に満たない短い制作期間でしたが、ゴールが明確だったので関係各所と調整してとにかく推進するのみでした。

最初の1ヶ月は2021年以前のサスティナビリティレポートから、アップデートすべきポイントを選定しながら「自分たちの届けたいメッセージ(プラネット・ポジティブ)」という大方針を決め、経営陣に確認する。大方針が決まったら、各マテリアリティのキーメッセージを固め、さらに細かいことを決定していく。そうした作業をひたすら続けてきました。

──経営陣との議論を進めてきて、特に論点になったポイントはありますか?

@mattilda:Scope 3の目標設定ですね。目標値を決めてしまうだけなら簡単ですけど、決めたらそれに伴うアクションが必要になりますから。本当に達成できるのか、人とお金のコスト管理のバランスが適切なのか、アウトプット的にはレポート1枚の小さな文字ではありますが、経営陣と本気で議論した結果が凝縮されています。

──「レポート1枚の小さな文字」へのこだわりが伝わりました。では、全体を通してワーディングや、デザインで意識したポイントは何でしょうか?

@natsumi_o「これを読んでキーメッセージが伝わるのか?」という点を、複数の目、関係者に何度も繰り返し確認してもらって修正しました。それは図の見せ方1つとってもそうです。妥協せず、読み手によりよく伝えるにはどうすればいいのかを意識して作成にこだわりました。

あと、これまでGoogle Slideで作成をしてきましたが、、今回からAppleのKeynoteを使いました。最初は使いこなせるか不安でしたが、デザインチームに尽力いただいたことで、文字も図も綺麗に書き出せて、クオリティを底上げできたと思います。

@mayumine:Google Slideは作業者全員が同時に修正ができる利便性がある一方で、テンプレートやフォントの幅においてデザインの表現の限界があります。今回は内製でスピーディーに作る必要があったのでKeynoteの採用に踏み切りました。

Keynoteはmercari sans が使えますし、グラフのデザインの再現性が高く、レイアウトも綺麗にできます。それに加え、クラウド上で同時編集やバージョン管理ができて、コメントも追加できるのでベストエフォートだったと感じています。

@mattilda:レポート公開後にチームで振り返りをしたんですけど、「Keynoteで制作して良かった」という意見が満場一致でしたね。

それと、個人的には同日に英語版を公開できたことが良かったと思っていて。日本語のレポートを制作する裏で並行してGlobal Operations Teamに翻訳作業を行っていただきました。他社の英語版のレポートは、翻訳作業の関係で、日本語版から遅れて公開されることが多いと思います。今思うといろんな人に迷惑をかけたなと反省することばかりですが、そのときは「絶対に同日公開する!」という執念を持って全員でやり切ったと感じています。

──大きな発信なのに、英語版が遅れて公開されるのは英語をメインに使う社員にとっては、あまり良い体験ではないと思うので、同時に出せたのは素晴らしいことですよね!

@mayumine:そうですね。また、海外の投資家やESG評価機関は英語の情報を基に評価をする傾向にあるので、日本のレポートとラグなく公開することで評価を早められる可能性も期待できますね。

「メルカリ×価値交換工学」から生まれた1つのロジック

──では、あえて聞いていこうと思いますが、今回のレポートで情報を“絞った”ことなどあれば教えてください。

@mayumine:今回、メルカリの事業を通じて生まれた環境貢献量​​を「衣類」に限定して算出しているのですが、その理由としてはメルカリの取引ジャンルとして3割強を占めていることもそうですが、LCA(life cycle assessment)という概念に基づくとCO2の排出量が算出しやすかったからです。

それにファッション業界は大量生産・大量廃棄の文脈で着目されていて、環境省が様々なファクトを集めて問題提起をしています。こうした背景もあり、第一弾は衣類に絞りました。

参考記事:環境省 | サステナブルファッション

──少し突っ込んだ質問ですが、LCA的な考え方からすれば、メルカリで中古の服を買ったからといって、新品の服が製造されなくなるわけではありませんよね。その辺りはどのようにロジックに落とし込んでいるんですか?

@mayumine:調整係数をかけています。例えば「余寿命係数」といって中古の服の寿命を、新品の服と比較して割引いたり、「新品置き換え率」という、中古品が新品に対して置き変わる割合をアンケート結果から推計していたりなど、さまざまな調整係数をかけて計算しています。ロジックのベースは、海外の大手EC企業が私たちと同様の考え方でインパクトレポートを一般公開されていたので、それを参考にしつつ、メルカリなりのロジックにアップデートしています。

──そのロジックはどのようにアップデートしたのでしょうか?

@mayumine:東京大学の価値交換工学専門の先生に監修してもらうなかで、ロジックの考案に至りました。メルカリが持つ膨大な取引データを使って算出できるのは1つのチャレンジだと思いますし、メルカリの事業を通じてもたらされるポジティブインパクトを定量化することで、ステークホルダーに伝えやすくなるというメリットがあります。メルカリが存在することによって循環型社会の実現に繋がることへの定量的なファクトを作っていけるので、事業にとっても研究にとっても価値の高い取り組みだったのかなと私は思っています。

環境省の「デジタル技術を活用した脱炭素と循環経済を同時に達成する資源循環システムの実証事業」に採択いただいたので、その実証事業を通じて東京大学、環境省、(委託事業者の)みずほリサーチ&テクノロジーズとともに、衣類以外のカテゴリーの算出に挑戦しようとしています。

@mattilda:今回、東京大学の先生とご一緒できたのは、mercari R4Dがこれまで良好な関係性を築いていた影響が大きくて、私たちだけで実現するのは不可能に近かったと思っています。

実は、一昨年もR4Dチームと東京大学の専門の先生と一緒にポジティブインパクトを概算で算出していました。残念なことに公開には至らなかったですが、そうした積み重ねがあったからこそ、よりリバイスした形で公開ができたと思っていて、R4Dチームにはとても感謝しています。

ESGの観点を事業戦略にさらに落とし込み、融合させる

──最後に、次回の課題や改善していきたいポイントを教えてください。

@natsumi_o:毎週毎週、経営陣とのミーティングに参加して、彼らの「思い」を垣間見れたことは、個人的にはとても勉強になりました。本気でプラネット・ポジティブを実現していきたい思いがとても伝わったので、その「思い」の部分をもっと表現していきたいですね。

@mayumine:このレポートはサステナビリティチームとして制作してきたのですが、現在はサステナビリティチームメンバーは経営戦略室に異動しESGと事業戦略を融合させていく動きを加速させています。次のサスティナビリティレポートでは、その成果を伝えていきたいと思っています。

@mattilda:mayumineと同じかな(笑)。今回は私がPM的な立場で制作を引っ張ってきましたが、今年はmayumineが中心となってやっていきますからね。

@mayumine:いやいや、そこはみんなで作っていきますよ(笑)。

@mattilda:みんなでね!あとチームメンバーが1人増えるので、さらに強固になったチームでレポートを作っていきたいと思います。それに、話は振り出しに戻りますが、これまでのレポートは過去の実績をかき集めて出すことが多かったんですよね。なので、私たちが「こういうことをやっていきましょう!」と提案できるようなレポートにしたいです。事業戦略と融合するってことは正にそういうことだと思うので、そういったところでより進化していきたいと思っています。

──道のりは違うけれど、同じような志を持つ企業と話す場があるといいかもしれないですね。

@mayumine:宣伝みたいになってしまうんですが、実は早速あります(笑)。「Mercari ESG Talk」というオンラインコミュニティイベントを1月27日にマネーフォワードさんと​、ユーザベースさんをお招きして情報開示をテーマにしたイベントを開催しようと企画しています。興味のある方は是非参加してみてください。

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