循環型社会が実現した先にある未来。メルカリが「プラネット・ポジティブ」を目指す意思と意図──山田進太郎×川原圭博

「プラネット・ポジティブ」──それはメルカリが掲げてきた循環型社会を実現するための理念であり、その先にある未来をイメージすること。

まだ耳馴染みのない「プラネット・ポジティブ」という言葉が意味することはつまり、限りある地球資源を世代を越えて共有し、人々が新たな価値を生みだし続けることができる世界であり、それを推し進めるための考え方でもあります。

では、あるべき未来からバックキャスティングしたとき、メルカリの現在地はどこにあるのか、そして「プラネット・ポジティブ」な企業になるためになにをすべきなのか。メルカリ代表取締役 CEOの山田進太郎と、東京大学大学院工学系研究科教授であり、メルカリの研究開発組織「mercari R4D」の所長である川原圭博に問いかけました。

「プラネット・ポジティブ」という考え方に端を発し、この対談から見えてきた新たな兆しは、社会全体の「価値観の転換」、そして「人の可能性」の在り方でした。

この記事に登場する人


  • 山田進太郎

    代表取締役 CEO(社長) 。1977年9月21日愛知県瀬戸市生まれ。早稲田大学卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立ち上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、株式会社メルカリを創業。


  • 川原圭博

    1977年生まれ 東京大学大学院工学系研究科教授。2005年 東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻博士課程修了。博士(情報理工学)。東京大学大学院情報理工学系研究科助手、助教、講師、准教授を経て、2019年工学系研究科教授に就任。2015-2022年 JST ERATO川原万有情報網プロジェクト研究総括。2019年インクルーシブ工学連携研究機構長。また2019年よりメルカリR4D アドバイザリーボードメンバー、2022年4月よりmercari R4D Head of Research(所長)を兼任。

事業活動を通じて「プラネット・ポジティブ」を目指す意思を打ち出す

──循環型社会をつくっていくうえで、メルカリにとって「プラネット・ポジティブ」は重要なキーワードです。「プラネット・ポジティブ」という言葉にはどのような意図が込められているのでしょうか?

山田:メルカリが「循環型社会で必要不可欠な存在になる」という社会課題を意識したコンセプトを掲げていますが、私たちの理念がより伝わりやすい言葉として言い表せないかと以前から考えていました。「プラネタリー・バウンダリー」という言葉がありますが、これは人類が安全に生存できる地球資源の限界点を概念として表したものです。これに対してメルカリは、事業の成長を通じて地球環境に対してポジティブなインパクトを生み出し続けていく存在でありたいという思いを込めて、「プラネット・ポジティブ」という言葉を用いることにしました。

そして、プラネット・ポジティブを追求することによって、限りある地球資源が世代を越えて共有される循環型社会が実現し、その基盤のもとに、あらゆる人が可能性を発揮できる社会をつくっていきたいと考えています。

当然、いまの事業活動の中で削減できるものは削減しつつ、メルカリの事業で生まれる「ポジティブな側面」というのを知ってもらいたいという思いがあります。

──そうした考え方は、いつ頃から固まってきたのでしょうか?

山田:「循環型社会の実現を目指す」というメッセージは、2019年頃から発信し続けてきましたが、「プラネット・ポジティブ」については、昨年のサステナビリティレポートで初めて使った言葉です。サステナビリティレポート全体のキーとなる言葉ではありますが、まだ世に出して1年ほどしか経っていないので、社内ではようやく浸透しはじめてきたけれど、世間の認知という意味ではまだまだこれからです。

──川原さんは「プラネット・ポジティブ」という言葉から、どのようなイメージを持ちましたか?

川原:循環型社会を意味する言葉は「プラネット・ポジティブ」以外にもいくつかあると思いますが、この言葉を聞いて最初に感じたのは、定量的な指標を伴った“サイエンティフィック”さです。「もったいない」や「グリーン」などの言葉は概念的で、どこか押し付けっぽさや、曖昧な印象がありますが、「プラネット・ポジティブ」はサイエンティフィックな態度を伴うのが良いですよね。

──現在の社会情勢をはじめとする、さまざまな外的要因が複雑に絡み合うなか、この1年の歩みでいうとどのような変化が起こったのでしょうか。

山田:新型コロナウイルス(以下、コロナ)の流行や、ロシアによるウクライナ侵攻、経済インフレなどの影響もあり、社会全体に大きな変化はありますが、メルカリとしての姿勢自体は、実はあまり変わらないかなと思っています。

メルカリはこれまで、「エコ」とか「地球のため」といったメッセージを積極的に発信してきたわけではありません。しかし、地球資源が限られていることは明白であり、先進国の人々だけがその資源を享受した生活を送っている一方、それ以外の新興国の人々は必ずしもそうではない。そうした不均衡な構図そのものもそうですし、サステナビリティへの社会的な関心が高まっていくなかで、メルカリもサステナブルにできることに取り組んでいこうという姿勢が加速しています。

メルカリのプロダクトを使うなかで「プラネット・ポジティブ」を感じられるような体験をつくっていこうと本格的に動き始めたところです。どこかでそういうタイミングが来るとは思っていましたが、コロナの感染拡大によってだいぶそれが早まったという感覚があります。

──川原さんは、近年の社会全体の変化をどのように感じられていますか?

川原:昔から資源を大切にしようという話はありましたが、現代はより差し迫った危機と結びついています。20世紀後半までは大量生産・大量消費が、より良い社会をつくっていくための原動力になっていたので、エネルギー消費の伸びが経済成長にダイレクトにリンクしていました。大量にエネルギーを使い、マテリアルを消費することによって、社会が成長していく実感があったので、「アクセルを踏むことが気持ちいい」時代が確かにあったんですね。

そうした時代に陰りが見えてきたことから、循環型社会をつくっていこうという機運が高まってきました。ただ、本当に「転換のブレーキを踏んでいいのか?」というためらいもあり、すぐに社会全体として大きく変化は訪れなかった。しかし、このままアクセルを踏むと壁にぶつかる局面を迎えたのが2020年代だと思います。

また、効率を求めて生産地が一極集中していることによって、資源の奪い合いになってきています。日本のように資源が少ない国は、国内にあるモノをいかに上手く循環させていけるかが問われています。これには、ただブレーキを踏むだけではなく、「アクセルを全開で踏まなくても十分豊かな生活を営んでいけるんだ」という、「価値観の転換」が自発的に起こりはじめてきたのが、いまの状況ではないでしょうか。

全ての課題を自分たちだけで解決する必要はない

──「価値観の転換」が起きていることに多くの人が気がつき、それぞれの考えに基づいて行動に移していると思います。では、メルカリが「プラネット・ポジティブ」な企業を目指すときに、どのくらいの未来の視点からいまを逆算して考えるべきでしょうか?具体的な期間や数値のポイントはあるのでしょうか?

山田:国際機関や政府などからのさまざまな要請にもちろんアラインしていきますが、「それがあるからやる」という風には考えていません。いついつまでにこういう状況にするというよりは、メルカリが存在し、メルカリの事業によって生み出される「ポジティブな側面」を最大化することが重要です。トレードオフで何かをやらなくてはいけないというよりは、メルカリの事業そのものを推進していくことそのものが「プラネット・ポジティブ」に繋がっていくという考え方です。

もちろん、そうした影響を精緻に定量化していくべきではあるものの、メルカリのような二次流通のマーケットプレイスの必要性はますます高まっていくと思いますし、それは一次流通そのものの成長とも密接につながっています。メーカーが0からモノをつくれば、資源を多かれ少なかれ必ず使うことになりますが、それ自体を否定するものではないですし、一次流通があるからこその文化が生まれ、人々の暮らしを豊かにするものです。

一方、メルカリの事業を通じてリユースが促進されると、モノがこれまで以上に有効活用されるので、そこから生まれるポジティブな影響が循環型社会をつくることにつながっていく。それらをトータルで見た時に、「プラネット・ポジティブ」な状態にしていくことこそが重要。それが最終的に社会全体として目指すべきことだと思います。

川原:いま世の中にある多くの無駄は、ビジネスや生産の仕組みで最適化が進みすぎたことによるものだと思うんですね。作る人や売る人と買う人の距離がどんどん遠くなった結果、ミスマッチが起こり、そこに無駄が発生している。ファッションや日用品など、流通の小売で売り捌けなかったものや、飲食店で余分につくったものが売れ残っていますが、それは「流通」や「レストラン」のように業態がそれぞれ分かれていることにも要因があります。

山田:コロナの感染拡大がきっかけでレストランや生産者が困った状況になった時に「手軽に出品できるメルカリのプラットフォームを活用ができたら便利なのではないか?」というシンプルな発想から、昨年ネットショップサービスの『メルカリShops』がリリースされました。

『メルカリShops』はいい例だと思うのですが、メルカリはさまざまな課題に対してソリューション提供をしていますが、全ての課題を自分たちだけで解決しようとは思っていません。ただ、自分たちができることを、地道にやっていこうと考えています。メルカリがサービスを開始した2013年当時は、当然誰にも知られていませんでしたが、多くのお客さまに使い続けていただいたことで、いまの状況を築くことができました。だから、目の前のお客さまにどう満足していただけるかがまずは重要です。

その過程で、教育機関や外部の事業者とのコラボレーションが生まれ、より便利なものを提供してきた実感があります。そういうことを自然に継続していければ、本当の意味で循環型社会が実現したときに、メルカリが必要不可欠な存在になれると信じています。

川原:少し話がそれるのですが、大学は教育・研究両方の側面があるのですが、大きな予算をもった事業体でもあるんです。数万人規模の教員や学生がいることもそうですが、実験用のクリーンルームなどでは、24時間体制で大量の空気を循環させているので、人がいなくてもエアコンが常に稼働している現状があります。

また、最新の設備がどんどん導入され、残念ながらまだ使えるものが廃棄されている課題もあります。それはもったいないので、法的な観点やユーザビリティの問題などを考慮しつつ、教育機関で流通させる仕組みはないか、価値交換工学の社会連携研究部門の中で検討しています。

最初は機器が余っていてもったいないという動機からはじまってはいるのですが、メルカリのようなプラットフォームをつくることで、新たなコミュニケーションや「知の創造」が生まれることも実証しようとしています。そこから、日本全体に広がっていくこともあるのではないかと思っています。

「価値交換」の研究を通して、これからのビジネスの可能性を探索する

──では、改めての質問となりますが、循環型社会の実現のためにメルカリが「果たすべき役割」とは何でしょうか?

山田:メルカリのコアにあるのは「簡単に・安全に・モノや価値が交換できるマーケットプレイス」という考え方です。この考え自体は、古来からある人類の営みであり、文明の起源と言えます。起源が古いからこそ、あらゆる可能性を秘めている。メルカリもマーケットプレイスだけでなく、暗号資産やブロックチェーン、物流もあったりと、事業の幅がかなり広い。

そういう意味では、東京大学と連携して「価値交換工学」について研究することも、これからの可能性を「探索」する意味で重要なんです。すぐにメルカリのビジネスに繋がらなかったとしても、いろんなジャンルや領域への広がりがある面白いテーマだと思います。

川原:先ほどの研究機材の譲り渡しというところでも、単純に安く譲ってもらえるという話だけではなく、「そこで生まれるコミュニケーション」にこそ意味がありますよね。

例えば、古い建物を壊して新しい建物を立てるか、リノベーションするかというテーマにして、損益分岐点をさまざまな観点から定量的に分析するということをしています。単にコストだけの面で言うと、更地にして収容率の高い建物を新たにつくった方がメリットがありますが、リノベーションすることで特別な価値が生まれて、それを目当てに人が集まることで商店街が潤ったりという別のメリットが生まれることもあります。

「いま捨てた方が得か損か」という近視眼的な価値判断ではなく、もっとサイエンティフィックに、定量的に測れるようにするというのが価値交換工学におけるミッションだと思います。メルカリのプロダクトで取引されているものにも、そういう要素が多分にあるのではないでしょうか。

山田:価値交換というと、「AとB」とか「モノと値段」みたいな、一対一のイメージがあるかも知れませんが、実際はそうではないですよね。時を超えて生まれる価値もあるし。

川原:そうですね。「Aさんが買ったタイミング」と「Bさんが買ったタイミング」で価値が変わることもあるし、AさんよりもBさんの方が「モノそのものの価値」を最大化できる可能性もありますよね。また、「AさんとBさんのコミュニケーション」によって、別の次元の価値が生まれるということもあります。

メルカリの強みは、プラットフォームのシステムをつくれることです。エンドユーザーにとって敷居の低い形で、CtoCマーケットプレイスに参加してもらうための仕組みづくりが得意だと考えています。いま持っているリソースを活用したい人、つまり価値を循環させたいと感じている人に寄り添ってプラットフォームを拡充することが肝だと感じています。

──循環型社会の実現に向けて、テクノロジーが果たす力は大きいと思うのですが。

山田:テクノロジーは非常に重要です。スマートフォンが生まれたことがメルカリという事業を考えるうえでも転機でした。世界中で多くの人に使われているサービスも、スマートフォンがないと成立しないものも多いのも事実です。個人間取引に関しては、大学時代にインターンとして楽天オークションの立ち上げに携わっていて、すごく面白みや魅力を感じていたけれど、パソコンしかない時代には可能性が限られていました。スマートフォンが普及し、世界中の人が1人1台持つようになったことから、世界レベルでの個人間取引の構想が実現できると確信しました。

また、より多くのお客さまにサービスを提供しようと考えるならば、グローバルとダイバーシティの観点は最も重要です。マイノリティからの意見や視点があることで、新しいものが生まれる力になるし、インパクトを出すことができる。ダイバーシティであることが、結果的にレバレッジがかかると思っています。だからこそ、グローバルテックカンパニーを目指すことが、より自分たちの実現したいことに近づくことになっていくのです。

循環型社会は手段であり基盤。目指すのは「その人の可能性が引き出されている」こと

──では、私たち一人ひとりは「プラネット・ポジティブ」という考え方をどう捉えていくべきでしょうか。

山田:全てのお客さまに「こういうこと目指してるよ」と言うのは、違うのではないかと。声高らかに言うこともできますが、プロダクトを使ってもらうなかで共感を増やしていくことが、理想的な体験だと思っています。

サービスを使うなかで「いいことをしてるな」と自然に感じてもらえる、それが少しずつ蓄積されていき、プラネット・ポジティブな取り組みに参加している感覚が自然に生まれるようにしていきたいです。

川原:政府や国、プラットフォームが、国民やユーザーに対してなにか押し付けるをするのはよくないと思うのですが、有効な呼びかけはあるのではないでしょうか。「あなたがこれをすると他の人がこんな風に助かるので、よかったらやってみませんか」という呼びかけをして、善意の輪を広げることに役立つ。単に自分にとって損か得かということではなく、「プラネット・ポジティブ」の定量的な利点を伝えつつ、実感が持てるようになれば、一人ひとりの行動が変わってくると思います。

山田:そうなると、価値交換の在り方も変わってくるのではないかと思います。対価がモノやお金でなくていいかもしれないし、それがNFTになっていくことだってあり得る。インセンティブの設計はこれから重要になってきますね。

──最後に、循環型社会の実現の先に、メルカリはなにを目指すのでしょうか。

山田:私の課題意識としては、先進国はリソースも教育も潤沢にある状況がありますが、新興国ではそれらが限られているので、そこに暮らす人々の可能性が狭められていると思っています。

循環型社会はある意味ファウンデーション(基盤)であり、何があっても達成しなければならないこと。それができなかったら、50年後100年後には人が生きられない惑星になってしまうので、達成しなければならないという大前提の上につくるものは、「人々がやりたいことをやりたいだけできる」状況です。

──あくまで「人」が起点であると。

山田:そうです。人間は社会的な生き物だから、その人の可能性が引き出されていることで、社会になにかしら価値を提供できているという実感を得ることができます。単にモノを交換するだけではなく、人々が活躍できている状況こそがメルカリが最終的に目指すべきこと。つまり「人」が起点だと言うことです。循環型社会はそのための手段です。そうした未来をつくることが、メルカリが「プラネット・ポジティブ」を追求していくことの意味。創業当時から抱えていた問題意識を忘れることなく、これからも追求していきたいと思います。

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