「メルチャリは、引き続き毎日ご利用いただけます」新体制構築の裏側と愛されるプロダクトづくり

「移動の新しい価値を生みだす」をミッションに掲げ、街の循環型プラットフォームをつくってきたシェアサイクルサービス「メルチャリ」。2018年2月に、福岡市でサービスを開始し、それ以降、順調に成長を遂げてきました。2019年5月のライド数は約12万回、月間利用者数は約1万5000人に達するなど、福岡市内のいたるところで見かけるサービスへと成長しています。

去る2019年6月13日、メルカリは連結子会社のソウゾウを解散するとともに、ソウゾウが運営していた「メルチャリ」事業を新設会社である「neuet(ニュート)株式会社」へ事業承継することを発表。今後、メルカリグループも引続き、資本を持ち続けながら、2019年8月15日からneuetをともに運営する株式会社クララオンラインと協働し、新体制で更にメルチャリを成長させていきます。

今回はメルチャリのプロダクトオーナーである横田結、バックエンドエンジニアの蛭田慎也、そしてiOSエンジニアの中村俊成にインタビューを実施。メルチャリのミッション達成に向けた、これまでの歩みと、今回の意思決定の背景を聞きました。

新体制は「メルチャリ」の成長を加速させる最善の選択

ーまずはじめに、「メルチャリ」の新体制構築までの背景について教えてください。

横田:新体制の目的はメルカリグループとしての「選択と集中」、そしてメルチャリとしての事業拡大です。メルチャリはサービスを開始して以降、順調な成長を見せていましたが、それと同時に、今のメルカリグループにとって、フォーカスすべき事業は何なのかについて議論があったんです。その結果、フリマアプリ「メルカリ」、決済サービス「メルペイ」、そしてUS版「メルカリ」、この3本の柱の確立のために経営資源を集中させることを決めました。そして、メルチャリの更なる事業拡大のために、外部パートナーを受入れ、インフラとしてのサービスを強固なものにすることを決断したんです。

横田結(「メルチャリ」プロダクトオーナー)

ーその決断に至るまで、メルカリとして迷いはなかったのでしょうか?

横田:お客さまからのニーズが日に日に大きくなってきていることは、定量的にも定性的にもわかってきていました。そこで経営陣もメルチャリチームとしてもプロダクトを成長させようと、目標を設定し、取り組みましたね。

ーそしてクララオンラインさんと協働することになったんですね。

横田:そうです。サービスや運営を改善し、直近一年間のライド数は右肩上がりに伸びていきました。これなら新体制になっても、心配なくサービスを運用することができるというレベルにまで育てることができたんです。最終的には、メルカリとクララオンラインさんの判断で、事業拡大のための新体制構築という決断に至ることができました。

メルチャリの月間利用回数は約一年で15倍に増加している

─サービス開発で戸惑うことや未来への不安はなかったのでしょうか。

蛭田:未来がどうなろうと、まずはコアな機能開発を進めようと思い、日々の業務に取り組んでいました。不安になっても、仕方ないですしね(笑)。やるべきことをやるだけでした。

ー承継先であるクララオンラインさんは、メルチャリ開始当初から事業パートナーだったと聞きました。

中村:そうなんです。実は、家本さん(株式会社クララオンライン代表取締役社長)はメルチャリをサービス開始時からサポートしてくださっている、いわば同志。メルチャリの鍵(スマートロック)の開発に関する中国との交渉もパワフルに支えてくださっていました。なので、今回の新体制構築についても違和感なく受け止めることができましたね。一番理解のある方が、サービスを支えてくれるんだと。

シェアサイクルサービス「メルチャリ」

サービス開発で戸惑うことや未来への不安はなかったのでしょうか。

横田:そもそもメルチャリという事業には二面性があると思っていて。モダンなソフトウェア起点のサービスをつくり、新しい時代の移動手段を構築する側面。もう一つは、ポート(駐輪場)の設置や自転車の回収等を通じた地元の方との連携や道交法上のルールの整備など、地域に根ざし運営する側面。メルカリという会社は、プロダクトやコンシューマー向けのノウハウやナレッジは持っていますが、後者に関する強みはありません。今後、メルチャリというサービスをより成長させるために、後者に強みのあるクララオンラインさんと協働していくというのは、非常に良い選択だと思っています。

蛭田:サービスの要である自転車の整備も、実はクララさんにサポートしていただいていて。横田さんの言う通り、自分たちでは補えない領域に長けている会社と組むことができたのは、すごく良かったと思いますね。

蛭田慎也(バックエンドエンジニア)

「お客さま、一人ひとりを大切にしたい」プロダクトの根幹

ー新体制発表の翌朝、横田さんは自身のTwitterで、「メルチャリのプロダクトオーナーとして、お伝えしたいことがひとつだけあります」からはじまるツイートをしていましたよね。あれにはどういう意図や背景があったのでしょうか。

プロダクトオーナーである横田の新体制発表翌朝のツイート

横田:とにかく私たちのチームは、「お客さま」の方向だけを見ています。新体制の発表に関して、メディアから発信されるニュースは「メルカリ、シェアサイクル事業撤退」という経営視点の内容が多く、お客さま視点で「メルチャリが今後どうなるのか」という点に触れている記事はほとんどありませんでした。ニュースを見たお客さまが「メルチャリなくなっちゃうの?」と不安になるのは避けたい。なので、シンプルにお客さまへ向けて「今日も、明日もメルチャリを安心してご利用してくださいね」というメッセージをお伝えしたい一心でした。

ーメルチャリをご利用いただいているお客さまに、まずは気持ちを届けたいという想いだったんですね。

蛭田:メディアから見聞きする「撤退」という言葉だけを受け取って、誤解している方が多かったようです。しかし、そういう意味ではないと……。当の本人である私たちは、メルチャリをもっと良いサービスに育てていくということに尽きて、やることは何も変わらないわけです。変に踊らされず、まっすぐプロダクト、そしてお客さまに向き合おうと思っていましたね。

中村:最後に判断するのは、ご利用いただいているお客さまです。どんな批判があろうと、お客さまの方向だけを見ていようと思っていましたね。

中村俊成(iOSエンジニア)

蛭田:Twitterで「メルチャリ」という言葉が含まれたツイートを流すSlackチャンネルがあるのですが、その反応は発表前後で変わりません。それが何より嬉しかったですね。

ーチーム内には「お客さま」、そして「プロダクト」に対する愛がすごく浸透していますよね。いったい、何がそうさせるのでしょうか。

横田:メルチャリはそもそも事業として、とても愚直なビジネスモデルなんだと思います。オフラインのインフラ的なサービスなので「ちょっとハックしたら数字が激増した!」なんていうことは起きない。一度使ったお客さまが良い体験をして、リピートしてくれなかったら終わりなんです。あとは、全員がサービスが好きであること。良いサービスをつくりたいと心の底から思っているメンバーが揃っているので、飽くなき向上心があるように見えているのかもしれませんね。

中村:あとは福岡に着くと、紛れもなくメルチャリに乗っている人がいて、実際に「この人たちにサービスを届けているんだ」という実感を持てるというのも大きな理由かもしれません。自分がポートで乗ろうとすると、スーツを着たビジネスマンやカップル、学生たちが利用しているんですよ。利用するシーンが実際に見れるのは、作り手としてすごく嬉しいですね。

横田:本当にそう。街なかでお客さまがご利用する姿を目の当たりにでき、より一人ひとりの体験を大切にしようと思える。KPIも「前日比何%」「失敗率が何%」だけでなく必ず「ご利用が何人」「鍵があかなかったのは何回」というように、絶対値を確認しています。パーセンテージだけでは表せない、リアルな人を必ず意識したいと思っているんです。この考え方も、メルチャリチームならではの文化かもしれませんね。

リリース直前まで開発が難航。泥臭く地道な日々がチームを一つに

ー改めて、メルチャリの歴史を振り返りたいと思います。まずはローンチ前後のことを伺えますか?

横田:話し出すとキリがないですよね(笑)。今に至るまで本当に色々なことがありました……。なかでも、もっとも難航したのは、アプリと鍵(スマートロック)の開発を同時並行して進めることですね。

蛭田:今だから言えることですが、アプリと鍵が想定通りに挙動したのは、福岡市でリリースする会見当日。しかも、会見の1時間前だった気がします。全員がヒヤヒヤしていた記憶が蘇りますね。その前にバッテリーに関する問題もありましたよね。とにかく色んなことがあって……(笑)。

横田:そうそう。自転車に搭載するバッテリーの持ちが想定より短いことがリリース直前に判明したんです。リリースの数日前にバッテリーを入れたので、このままではリリース直後のタイミングでバッテリーが切れてしまうということが判明して……。

ーそれはハプニングですね!

横田:判明した直後、メンバー全員で自転車のある倉庫へと走り、全ての自転車からバッテリーを外して充電器に戻し、そしてリリース前日に再びバッテリーを入れ直すという、今想像しても恐ろしい作業を行いましたね(笑)。

ーリリースのギリギリまで、そんなハプニングがあったとは知りませんでした(笑)。

横田:火中の栗を拾うしかないという気概でしたね。気合いと根性でなんとか乗り切ったというか(笑)。だからこそ、チームの結束力が高まったんだと思います。

蛭田:全員がカオスを楽しめるメンタリティを持っていたことは良かったですよね。

全員:確かに!(笑)。

ーまさにカオスですね(笑)、予め難航するだろうと、覚悟はありましたか?

横田:そうですね。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアも開発しなければならないので、難航するだうとは思っていましたが、想像の域を遥かに超えていましたね(笑)。

ーではローンチ後は、いかがでしたか?

蛭田:お客さまからの反応は良かったです。SNSを見ると良い反応が多く、一度使っていただいたお客さまの継続率も5割を超えている状況で、大きな手応えがありました。ただ「鍵を開けて、自転車に乗る」という一見普通の体験ですが、それを十分なクオリティにするためには、乗り越えなければならない問題が多くあって。

ー大きなボトルネックは何だったのでしょうか。

横田:ローンチ後もやはり鍵で悩まされましたね。当初は鍵とスマホアプリの通信で鍵の開閉ができる予定だったのですが、想定通りに動かず、サーバー側で制御する必要が出てきたり……。バッテリーの持ち時間や位置情報の精度、運用コストなどを含めて改善が必要でした。お客さまだけではなく、日々の運用をしていただく現地の運営パートナーへのサービス提供もすごく難しかったんです。

毎日、現地の運営パートナーがポートを巡回している

ーというと?

横田:当初はポート間の自転車の移動や自転車のメンテナンスなど、簡易的な作業だけをお願いする予定だったのですが、バッテリーを変える度に、わざわざネジを外さなければならなかったり、エラー値が出たときの対処法が複雑だったり……大きな負担のかかる業務になってしまっていて。運営パートナー向けのサービスでもユーザビリティを上げる必要があり、ソフトウェアサイドとしてはとてもヘビーな作業でした。

中村:逆に言うと、鍵さえ改善すれば更にスケールすると思っていたので、鍵の品質を改善するために、ユーザビリティや耐久性などの視点で吟味して、新たな鍵を選定しました。中国のベンダーに何度も足を運び、現地のエンジニアと何度も議論を重ね、ときには一緒の画面でプログラミングしながら、設計・開発していったんです。そして、2018年11月に完成・導入されたのが今のメルチャリに搭載されている鍵になります。

ー新しい鍵を導入してみて、お客さまからの良い反応はありましたか?

中村:お客さまの体験として一番変わったのは、鍵が開くまでの時間が早くなったことですね。これまでの鍵はLTE回線を通して、鍵に指示を送っていたので開くまで時間がかかっていたのですが、新しい鍵はBluetooth Low Energy(BLE)を通して、アプリと鍵が直接通信するので、すぐに鍵が開くんですよ。鍵の他にも、バッテリー切れがほぼなくなりました。自転車の籠(かご)にソーラーパネルが付いていて、そこから充電ができるので、バッテリーを取り外して、また入れるという作業がなくなったんです。なので、運用コストも大幅に下げることにもつながりました。

横田:新しい鍵を導入し、その直後には福岡市内での稼働自転車数を約1,000台に増強しました。それまでは300台しか稼働していなかったので、お客さまの目に触れる機会がそもそも少なくて、いわゆるアーリーアダプター層にしか届いていなかった状況だったんです。そこに新しい鍵とともに1,000台を増強したことで、一気に利用者層が広がり、そのキャズムを超えた実感を得ることができました。物理的に目に触れる回数が増え、日常の風景に溶け込み、インフラとしてのサービスに近づいたと感じています。

蛭田:もちろん、改善すべきことは山ほどありますが、新しい鍵、そして自転車1,000台の増強によって、ようやくスタートラインに立つことができたという感じですね。

メルカリへの感謝と、メルチャリの変わらぬ挑戦

ー改めて、この2年を振り返り、これからメルチャリで挑戦したいことがあれば教えてください。

中村:2年を振り返って思うことは、スタートラインに立つまでが長かったということですね(笑)。ただ、その試行錯誤が自分自身も勉強になったし、成長できたと思います。今後は目先の改善を図るとともに、自転車の台数や展開地域を増やし、同時に新たなことにもチャレンジしていきたいと思っています。

蛭田:いろいろな壁を乗り越えてきましたが、ようやく福岡市のみなさんの移動手段の一つになれたのかなと思っています。あとは私も中村さんと同じく、この土台を更に強固なサービスへと育てながら、まったく別次元のサービスにもチャレンジしてみたいです。福岡では、今まで自転車が当たり前じゃなかった人にとって、メルチャリが生まれたことでなくてはならない手段に変化してきている。同じように、「新しい当たり前」になるようなサービスをつくっていきたいと思っています。

横田:個人的には、2年間、メルチャリを愛されるサービスとなるまで一緒に育ててくれた会社に感謝したいです。その間「メルカリ」はもちろん、「メルペイ」の立ち上げもあったり、大変な状況のなか、メルチャリがスケールするまで会社は待ってくれた……そのおかげで、まだ局地的ではありますが、福岡のお客さまにご利用いただけるサービスをつくることができています。そして、今回の新体制構築にあたり何より守るべきは、お客さまのユーザビリティ。これまで通りに利用できるし、お客さまを不安にさせたくない。そんなサービスをつくることが、直近の私たちのミッションだと思っているので、そこは必ず達成したいですね。これからのメルチャリもどんどん進化すると思いますので、引き続きご利用いただけたら嬉しいです。

横田結(Yui Yokota)

2017年11月にメルカリへ入社。「メルチャリ」プロダクトオーナーとして、PMやデザインを担当。現在は「メルチャリ」チームのマネージャーを務める。

蛭田慎也(Shinya Hiruta)

2013年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、ソーシャルゲームのリードエンジニアや個人間カーシェアリング事業の新規立ち上げを経験。2017年11月株式会社ソウゾウに入社。「メルチャリ」のバックエンド設計・開発を担当。

中村俊成(Toshinari Nakamura)

テレビのアプリケーションフレームワークやモノに関するSNS、IoT機器の開発などを経験後、2017年12月株式会社ソウゾウに入社。「メルチャリ」のiOSアプリ設計・開発を担当。

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