会社とプロダクトのビジョンを結びつけた「メルカード」。プロジェクトリーダーが語る、そのプロダクト設計プロセス

メルペイでProduct Managerをしている川嶋一矢(@tsumujikaze)です。

2016年にメルカリに入社後、メルカリUKの立ち上げ、メルペイの立ち上げを経て、メルカードプロジェクトの立ち上げからリリースまで全体のリードを担ってきました。

長い歴史があるクレジットカード業界では後発となるメルカードですが、プロジェクトに与えられたミッションは大きく2つありました。

狭義のミッション:メルカリが培ってきたAI与信をベースとしたクレジットカードを提供する=決済手段を追加する
より大きなミッション:メルカリならではのユニークな特典 / 仕組みを構築する

必然的に、チームも決済機能と特典機能に別れて、並行でプロジェクトを進めることになりました。決済部分は、次に公開される@manaminさんに譲るとして、本記事では、クレジットカード特典にフォーカスしたいと思います。

単に決済インターフェースとして物理カードを出すだけではなく、「メルカリならではのユニークさ」を出すためにどのようにチームは動いたのか。その設計プロセスをシェアしたいと思います。

※本記事は、メルカリエンジニアリングブログとの連携による、『連載企画「メルカードの舞台裏』 として書かれたものです。

この記事を書いた人


  • 川嶋一矢(Kazuya Kawashima)

    カリフォルニア州立大学ノースリッジ校卒業後、電通国際情報サービスを経て2006年株式会社エニグモへ参画。VP of EngineeringとしてBUYMAや数多くの新規事業立ち上げを経験し、2012年7月マザーズ上場。2014年より株式会社stulioの代表取締役に就任。2016年3月よりメルカリに参画後、ロンドンへ渡りメルカリUK版を立ち上げる。2018年春に帰国し、メルペイにプロダクトマネージャーとして参画。

プロジェクト最初期のパンチラインは「最強クレジットカード」

新しいプロダクトを作る場合、まだ具体的な要件が決まっていない、ふわっとした状態からスタートすることも多いのではないでしょうか?

プロダクトの解像度が低い状態は、リスクも大きな状態と言えます。大規模なプロジェクトでは、ステークホルダも多くなりますので、いろいろな意見が出てきます。その分プロジェクトが空中分解してしまうリスクもあります。

プロジェクト初期フェーズでは、みんなが同じ方向を向くことが大事になります。そういった時に役に立つのがキーフレーズ / パンチラインです。

最初期のメルカードプロジェクトのパンチラインは「鬼かっこいい、最強クレジットカード」でした。

多くのステークホルダを巻き込む上でも、わかりやすいキーフレーズは大いに役立ちました。覚えやすく、ワクワクできる標語があることで、構想の初期段階においてメンバーの目線を合わせることができました。

会社とプロダクトのビジョンを結びつける

“鬼かっこいい”の部分については、こちらもデザイナーの記事に譲るとして、メルカリの提供する「クレジットカードにおける“最強”」とは何か…?実際に話しをしてみると、プロジェクトメンバーによっても捉え方は様々で、経営陣とも同じ絵は描けていない課題が顕在化しました。まずは解像度を上げて、言語化する作業に入る必要がありました。

メルカリは、限られた資源を有効活用できる「循環型社会」をつくりたいと考えています。メルカリならではのユニークなクレジットカードを作る上で、メルカリのビジョンとの結びつきを強めることは非常に大事でした。

そこで、会社のビジョンとプロジェクト / プロダクトのコンセプトを見える化し、実現案とともに一つの図で記載してみました。

メルカードのメインターゲットは「メルカリを使っているお客さま」です。フリマアプリを使て売買をする理由としてはお金の節約が大きいですが、それだけではなくて「自分が大切に使ってきた商品を誰かに使ってほしい」といったお金以外の欲求があることも過去のUXリサーチからわかっています。

そういった顧客インサイトがあるので、メルカードの企画を考える上でも、自分がお得になるクレカという王道訴求とともに、それだけではない情緒的価値を届けることも企画の肝として入れ込むことができています。

このように、会社とお客さまとメルカードを結びつけることで、企画に筋を通すことができました。

最終的には違う形に着地するのですが、会社、プロダクト、顧客の関係性をシンプルに表現することで、プロジェクトメンバー間の目線合わせに役立ちました。

プロダクトを考える際には、大きく3つのレイヤーを意識することが大事だと思っています。

1. プロダクトビジョン
2. プロダクト戦略
3. プロダクト戦術

※3は今回の記事のスコープ外

プロダクトビジョンに関しては、ある程度目星がついてきたので、プロダクト戦略の具現化に進みました。

サービスストラクチャ

メルカリとメルペイは2つの異なる会社であり、マーケットプレイスとフィンテックという異なるドメインを担当しています。そのため、一部のプロジェクトを除けば、普段はそこまで連携が必要なわけではありません。

一方、お客さまから見れば一つの「メルカリ」と言うサービスです。また、メルカードでは「メルカリらしいユニークさ」が重要なテーマなので、メルカリとメルペイを横断した設計が必要になります。

メルペイにおけるコア体験は、支払いや後払い決済の清算です。一方メルカリでは、マーケットプレイスでの出品や購入がコア体験となります。メルカリらしさを追求する上では、これらのコア体験を結びつけることが必要ではないかと考えました。とはいえ、どうやってこれらの体験を結びつけることができるのかまだ統一見解はありませんでした。

そこで、メルカリとメルペイが提供する各種機能群が、どの様に連携すべきかを図示する「サービスストラクチャ」を作りはじめました。

様々なアイデアをサービスストラクチャに落とし込んでは議論するという探索的アプローチでアイディエーションを重ねました。

過去のバージョンを遡ってみると、何かしらのポイントをもらえるようにしてステージを分けるアイデアもありました。

「最強」と言う標語を、サービスストラクチャに落とし込むことで、具体的なソリューションのイメージを合わせていったのがこのフェーズです

様々なブラッシュアップを経て、最終的には以下のような形で落ち着いています。

プロジェクトメンバーでサービスストラクチャをブラッシュアップし、それを経営陣に提示してディスカッションを行うイタレーション(アジャイル開発における、短い間隔で反復しながら行われる開発サイクル)を回すプロセスを経て、プロダクトの全体像を合意していきました。新しいプロダクトを世に出す場合、プロジェクトチームと経営層の思惑を一致させるプロセスはクリティカルになりますので、丁寧な議論を重ねました。

Planning Docの必要性

プロダクトの提供する機能群の方向性が決まったので、具体的なソリューションの定義に進みました。社内ステークホルダとの議論を始めていったのですが、実は最初は議論がスムーズに進みませんでした。

ある一定規模以上のプロダクトになると、プロダクト組織を分割してプロダクトマネジメントを行う必要が出てきます。MAUが2000万人以上のメルカリでも同様で、出品、メルカリ購入、メルペイ決済といった各種機能は別々のチームが所有しています。各チームではそれぞれの目標を追いかけていますし、メルカードプロジェクトへの理解度にも差があります。

メルカードのようなメルカリ、メルペイを横断したプロダクトの要件定義を進める上で、同じ前提を共有することが必須になります。そこで、Planning Docというドキュメントを作り、メルカード開発に関わるステークホルダがいつでも閲覧可能な状況を整備しました。

Planning Docの中身の紹介

Planning Docには様々なセクションがあり、ボリュームの大きなドキュメントになりました。本セクションでは、その中でもプロダクト設計における要点セクションを紹介します。

1) UX Goal

メルカードで、どういったUXを実現したいのかを示すセクション

Goal 1) 点を線にする仕組み
「いつものメルカリ(購入、出品、決済)がより楽しくなるための仕組み」
顧客目線:いつもは目的Aや目的Bのためだけにメルカリを使ってたが、目的CもDもEも…なんでもメルカリで事を済ませたくなる

Goal 2) 中長期的なメルカリのエンゲージメント強化
Goal1で繋げたアクションに対して、自然に「メルカリならではの意味 / 意義」を持たせることで、顧客ロイヤリティ / エンゲージメントの強化を図ります
顧客目線:(今まではあまり意識していなかったが)メルカリ自体が環境に優しい存在であることを認知しはじめる。結果、メルカリのブランドイメージがポジティブに変化し、メルカリ利用に対する情緒的価値が増している状態となる。ブランドイメージ向上の補完を目指す

2) 外的要因 / 内的要因のまとめと設計原則

多くのプロダクトマネージャーとプロダクトデザイナーがサービスの要件定義を進める上で、全員が同じ設計思想を共有するために必要なセクション。

お客さまからの期待と社内的な期待を洗い出し、共通項を洗い出していくアプローチ

コアプロジェクトメンバーによるワークショップを経てまとめた成果物

お客さまからの期待と社内的な期待を元に、設計原則とDo / Don’tsをまとめた図

3) コンセプトの言語化&ビジュアル表現

前工程で定義したUX Goal、サービスストラクチャ、設計原則を元に、コンセプトとしてまとめたセクションも用意しました。

顧客中心設計の一環で、プロダクトリリース時から逆算(Working Backwards)するために、プロダクト開発に入る前に、社内向けにプレスリリースを作るプロセスについて聞いたことがある方もいると思いますが、考え方としては同じです。

「メルカードはどの様に世の中に打ち出されていくのか」、プロジェクトメンバーで意思統一をした上で進行していくことができました。

まとめ

メルカードプロジェクトにおける、プロダクトのビジョンと戦略(コンセプト)の作り込みプロセスをシェアさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

プロダクト開発では様々な要素がありますが、何を作るか(what)とともに、どういったビジョン / コンセプトなのか(why)という点も非常に重要です。日々プロダクトに向きあうプロダクトマネージャーの皆さんのお役に立てれば幸いです。

本記事では触れられなかったことはいっぱいありますので、その他の記事も「連載企画:メルカードの舞台裏 – Mercard Behind the Scenes –」をぜひご覧ください!

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