お客さまを喜ばせたいという気持ちが本質的にあるか?──メルカリのデザイン組織がつくるべき価値と体験

メルカリでのあらゆる体験をデザインする「デザイン組織」は、新たなグループミッションの元でどのような「お客さま体験」を構築しようとしているのか?広義の「デザイン」という観点から、カスタマーエクスペリエンス、開発プロセス、組織づくりの中で、いかにデザインの力が発揮されていくのか、全4回にわたってデザイン組織のいまを多面的にお伝えしていきたいと思います。

第1回は、VP of Experience Designの前川美穂(@Miho)に、今後デザインチームとして提供していくべきお客さま体験、そのために取り組んでいることの全体像を語ってもらいます!

この記事に登場する人


  • 前川美穂(Miho Maekawa)

    米国美術大学を卒業後、Microsoft 本社にUXデザイナーとして入社し、ポータルサイトの立ち上げとグローバル展開に従事。2008年に同社の日本法人に移動後はアジア圏を担当し、ニュースメディアのUXデザイン開発に携わる。2015年にFast Retailingの一人目のUXデザイナーとして入社し、デザイン組織を設立。店舗・業務システムから、各ブランドのECサイトのデザイン統括を経て、2022年5月にメルカリMarketplaceにHead of Designとして参画。2023年1月VP of Experience Designに就任。

「あえてメルカリを使いたい」と思い続けてもらうために

──まず、現在のメルカリのデザイン組織はどのようなことをしているのか教えてください

ひと言で言うと、お客さま体験を戦略からプロダクトのエクセキューション(実行)まで、end-to-endで担っています。今後、実現していくべきことは、メルカリの事業戦略にCX戦略が内包されている状態です。それを推進していくために、お客さまのニーズや課題をきちんと把握し、お客さまの行動変容を促すような新しい体験をつくっていくことを目指しています。

また、「広義のデザイン」と呼ばれている領域である、「ブランド」から戦略をつくっていく必要があると考えています。私たちはどういう価値をお客様に伝えたいのか、メルカリのマーケットプレイスがどういう場であるべきなのか、その中でお客さまにとってより良い体験はどういうものなのか…そういったコンセプショナルなところから、具体のデザインに落とし込んでいくことがやっていきたいことですね。

──なるほど。現状で言うと、メルカリのデザイン組織は何が実践できていて、なにに課題を感じている状態ですか?いわゆる、UI / UXにはかなり注力してきたと思いますが、先ほどの「ブランド」というところはまだ課題はありそうですが。

プロダクトの磨き込みにはすごく情熱を注いできた歴史があるので、UI / UXは進化を続けていると思うんですけど、「メルカリ“らしさ”とはなにか」というそもそもの問いだったり、メルカリのバリュープロポジションがお客さまに伝わっているのかを考えると、まだまだ検討すべきことがあります。「メルカリ“らしさ”」がプロダクトのUIに反映されているとは言い切れないので、課題というよりはいっそう意識すべきことと捉えています。

端的に言うと、お客さまに「あえてメルカリを使いたい」と思っていただけるかという点だと思います。お客さまに価値を理解していただき、長く使い続けていただくこと、つまりファンになってもらうことが一番重要です。より愛されるプロダクトにしていくことに取り組んでいきたいと思っています。

前川美穂(@Miho)

「捨てる」という行為のあり方から変えていく

──メルカリ創業10周年のタイミングで、グループミッションが新たに策定されました。「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というミッションにどう向き合っていこうと考えていますか?

メルカリは元々フリマアプリから始まっていて、お客さまが不要になったモノを売ったり、それを必要とする人が買ったりするマーケットプレイスでした。昨今は、サステナビリティへの配慮や、不要になったモノを役立てたいという意識が社会に浸透している状態です。メルカリとしても、フリマアプリというよりモノや価値が循環していく、いろんな人が使えるような場にしていきたいと考えています。

そもそも、マーケットプレイスはメルカリが先導してつくってきたものではなく、お客さまによって「つくり上げられてきた」ものだと思っています。お客さま同士が繋がることによる新たな発見があったりとか、誰かの役に立つことができて嬉しいとか、そういう感情を動かすような場をつくっていくことがグループミッションと繋がっていると思います。だから、ただモノを売り買いするだけで終わるわけではなく、今後はモノ以外の価値の循環をより加速させていくことが全社的なミッションですし、デザインの力でそこに貢献できると考えています。

──「モノを売り買いするだけで終わりではない」というのは、「メルカリとお客さま」の一対一の関係だけでなく、もう少し広い周縁をつくるところまでイメージしなくてはいけないように思います。社会の大きな力をテコにしていくというか。

よくチームで話しているのですが、私たちの競合は同業他社ではなく「捨てる」という行為そのものだと考えています。お客さまが捨ててしまっているものをちゃんと生かす方法を増やしていきたい。現実的な問題として廃棄することにもお金がかかりますし、そこでいかに捨てるのではなく循環させていくか、つまり「捨てる」という行為のあり方から変えていく必要があるんです。

これは、それこそ行政と一緒にやっていくことだと思っていますし、外部パートナーとの連携は絶対的に必要です。リサイクル業者もそうですし、あとは一次流通ですね。そもそも無駄なものをつくらない、もっと言うと「いいものを長く使えるものをつくる」ところから、あらゆるステークホルダーと協力することで、あらゆる人の生活を変えていくことが達成できたら素晴らしいですね。

──新しい社会のルールというか、みんなの新しい習慣をつくるところまで食い込んでいく話ですね!

プロダクトを使う前と後。一貫した価値提供できる仕組みを構築する

──ここまでのお話をうかがって、お客さまにとっての「かんたんさ」や「楽しさ」みたいな体験を維持しながら、「循環型社会」という概念を浸透させていく、あるいは溶け込ませていくのがメルカリとしてのブランドかなと思ったりしました。デザイン組織のメンバーたちの関心はどこに向かっているのでしょうか?

メンバーは本当にプロダクト愛が強く、みんなメルカリのヘビーユーザーですが、本当に素晴らしいと思うのは、まだ使い慣れてないお客さまに「どうしたらもっとメルカリが身近に感じていただけるか」ということを常に考えていることです。そうしたお客さまに寄り添うマインドが強いですね。新しい行動変容を促すような体験をつくっていくことはもちろん必要ですが、それと同時にお客さまに寄り添うことも同時にすごく重要になってきます。

これからのCX戦略を考えるうえで、どうやってお客さまがメルカリを使い続けてもらえるのか、もっと広い領域で見ていく必要があります。CX戦略の中には、マーケの領域もあるし、Trust & Safetyもあるし、それこそロジスティックのこともある。アプリでの体験は、メルカリ全体に対する体験の一部でしかなく、プロダクトを使う前と後での一貫した価値を提供できるような仕組みにしていこうとみんなで考えています。

──そうした構想に対して、デザイン組織も徐々に変化してきた感じですか?

そうですね。Brand communication チームも新たにデザイン組織にJoinしたので、メルカリのブランディングと価値を確立しお客様に伝えるとともに、お客さま体験の中できちんと価値を提供でき、プロダクトのUXに落とし込めるようになります。

これまではお客さま体験をオンライン・オフラインも含めて俯瞰して改善を行う組織構造になっていませんでした。そこで難しいのは、ボトムアップとトップダウンのバランスです。メルカリは個々の専門性を生かしてボトムアップでプロジェクトを進めていける強さがありますが、それだとインクリメンタ(​​漸進的)な改善はできても、大きく体験をシフトさせていくことには限界があります。みんなが同じ方向を向いて、同じ戦略のもとに進んでいくというところが難しいんですね。まして、部署やドメインをまたぐと、それがますます難しくなってきて、お客さま体験が少しずつ乖離していくので、一気通貫して横断的に考えていく必要がある。ようやくですが、その足がかりができてきたと思います。

──経営陣にとっても、一気通貫のお客さま体験づくりの重要性を感じてることは間違いないと思いますが、事業への貢献や成果はどう評価していくものでしょうか?

それを測るのは難しいところですが、事業会社で働くデザイナーおよびデザイン組織は、事業貢献することがまず重要です。お客さま体験を良くしていくことと同様に、売り上げに対するコミットが求められます。デザインの役割としては、お客さまの体験を毀損させず、新たな体験を提供していくことで、事業のグロースそのものに寄与していくべきものだと思います。お客さまが使い続けていただける“循環する”UXをつくること、つまり体験を良くしていくことそのものが事業の貢献につながっていくことになります。

もちろん、LTV(Life time value)だったりとか、タスクコンプリーションレートだったりとか、そういう具体的な指標もありますが、それを注視していくことはそもそも大前提です。中長期的にはお客さまに長く使ってもらい、かつ頻度を上げることが目指す方向性です。気づいたらメルカリを毎日立ち上げているとか、何かモノを売りたい買いたいときはもちろん、その時以外にもお客さまに使っていただくことが中長期的な指標になるし、それが究極の形かなと思います。

お客さまを心の底から喜ばせたいという気持ちが本質的にあるか

──最後に抽象的な問いになりますが、デザイン組織として重視している美意識のようなものはありますか?それは「らしさ」という言葉につながるかもしれないので、あえて問いかけてみたいです。

美意識という言葉があてはまるかわからないけれど、お客さまを心の底から喜ばせたいという気持ちが本質的にあるか、ではないでしょうか。この体験は本当にお客さまに喜んでもらえるものなのか、お客さまの生活が豊かになっていくのか…そういうことを私たちは一番気にしなければいけないと。そのためには好奇心の強さが大切ですよね。個人的な話になりますが、私はけっこういろんなところに目がいってしまうんですね。その人がどういう思考を持っていて、どういう行動をするのかというのを、つい分析をしてしまいます(笑)。

あとはやっぱり柔軟性ですね。メルカリには多様なメンバーがいるので、その多様な意見を受け入れることは大切だとおもいます。もちろんそれをすべて受け容れるというわけではなく、いったんそれを否定せずに傾聴するというマインドセットは必要です。

お客さまの声をきちんと聞いて、定量と定性をちゃんと掛け合わせてプロダクトに反映させていくことがプロダクトを開発するうえでは重要です。それを推進するにはチーム自体がどんどんスキルアップをしていかなければいけない。いま足りなかったピースがどんどん埋まりつつある状況で、お客さまに提供すべき価値をちゃんと戦略からデザインし、そこからプロダクトに落とし込めるようになってきました。みんなで一つの絵を描けるようになってきたからこそ、勉強し続けていく組織というあり方を目指していきます。

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