新体制になったメルカリグループのFintechのエンジニアリング。新CTOとVPたちが語る、グループLTV最大化のためにFintech事業が果たすべき役割

2023年6月、メルカリのFintechは新体制を発表しました。CTOには、AIを中心とした研究開発や、社内のPlatform開発をリードしてきた木村俊也(@kimuras)、VPoEには、ソウゾウのHead of Engineeringも務めた渡部啓吾(@keigow)と、CTOとしてSupership社の技術全般を率いてきた宇都宮紀陽(@nu2)が着任します。新体制になったメルカリグループのFintechは、どのような価値創造を目指すのか。3名からメルカリのFintechの現状と課題、今後の展望を聞きました。

この記事に登場する人


  • 木村俊也(Shunya Kimura)

    2007年よりSNS企業にて研究開発を担当。機械学習の知見を活かして、レコメンデーションエンジンやグラフマイニングエンジン開発を担当。その他、自然言語処理学の知見を活かした広告開発や マーケティングデータ開発にも携わる。その後、技術を統括する組織の責任者を経て、インフラからアプリまで幅広いマネジメントを経験。2017年よりメルカリにて研究開発のマネージメントを担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。現在は、執行役員 CTO Marketplace 兼 株式会社メルペイ 執行役員 CTO Fintech 兼 株式会社メルコイン 執行役員 CTO Fintechとして、メルカリグループ全体の技術を統括している。


  • 渡部啓吾(keigo Watanabe)

    2010年DeNAに入社、ソーシャルゲームや新規事業のBackend/iOS開発を担当。 2016年にメルカルグループに参画。Software Engineer/Engineering Managerとして、新規アプリの開発、メルペイやメルカリShopsなど新規事業の立ち上げを行う。ソウゾウのHead of Engineeringを経て、現在はメルペイのVP of Engineeringを務める。


  • 宇都宮紀陽(Noriaki Utsunomiya)

    2001年ヤフー株式会社に入社し、データマイニング業務に従事。その後検索エンジンのコアコンポーネント開発や検索プラットフォーム構築を担当。2013年KDDIグループ傘下となった株式会社スケールアウトに入社し検索事業を起業、2015年Supership株式会社に統合以降は開発した検索技術ソリューションの提供を推進。2020年からCTO,CISO に就任し経営課題に取り組む。2023年5月からメルペイに参画しVP of Engineeringを務める。

蓄積してきたFintech事業のデータを用いて、新たなお客さま体験を創造する

——まずは、メルカリのFintechのこれまでと現在地について聞かせてください。メルカリグループにおいて、Fintech事業が果たしてきた役割とはなんでしょうか?

@kimuras:Fintech事業は、グループミッションにある「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」の一歩目を実現したと思います。あらゆる価値の循環というのは、マーケットプレイスで交換されるモノとお金だけの話ではありません。メルペイは信用とお金の交換を、メルコインはビットコインやデジタル資産の交換を可能にしてきました。直近の大きな出来事としては、メルカードによってクレジット決済が可能になったことと、メルコインでビットコイン取引が可能になったことが挙げられます。

木村俊也(@kimuras)

——技術的な観点から見て、メルカードとメルコインの開発はグループにどのような価値を生み出したと思いますか?

@keigow:メルコインは、これまでのメルカリで最もセキュアな要件が求められる開発、あるいはサービス作りだったと思っています。開発の観点でいうと、どうセキュアさを保っていくのかがテーマでした。これまでのメルカリは、基本的には同じKubernetesのクラスターの上でMicroserviceを動かすという形でしたが、今回はそこを切り分けて独立性を担保していくチャレンジができた。一度、安全面に振り切ってみた価値はあったのではないかと。

メルカードもチャレンジとしては大きいですね。アプリではなく、そもそも物理カードというところもありますが、仕組みとしては既存のあと払いの仕組みをうまく活用している。メルカードをきっかけに、決済のシステムを一段階拡張できたと思っています。

@nu2:両サービスとも、既存サービスとの連携を前提に開発できたことの価値は大きいと思います。メルカードは、新しいアーキテクチャをゼロから作るのではなく、iD決済やバーチャルカードで利用していたプリペイド決済のシステムを拡張することで実現しました。それによって、既存の決済サービスの運用を止めることもなかったし、想定よりもはるかに小さなスコープで開発できたんです。

@kimuras:メルコインの技術的な進歩は、各サービスのデータの分離と通信を可能にしたことです。事業の特性上、メルコインは会社から独立させたセキュアなゾーンを作りました。そして、独立したうえで、メルカリやメルペイと連携が可能なアーキテクチャを構築したんです。それによって今後サービス間の相乗効果が生み出しやすくなります。メルカリグループにとって大きな資産になりました。

——あらゆる価値の循環に一歩近づいただけでなく、グループ全体の連携を実現する技術基盤も開発できたんですね。この先はどのような価値提供を目指しているのでしょうか?

@kimuras:大きな方向性としては、Fintech事業で得た知見やお客さまに関するデータをマーケットプレイスに還元し、グループLTVの最大化に寄与したいと考えています。

例えば、メルペイには、お客さまがメルカリ上で行った売買の情報が蓄積されてきています。それらのデータを分析することで、お客さまのユースケースやより最適化された使い方を見出すことができるはず。そこから、よりお客さまが満足できる体験や、日常から頻繁に使ってくださる方々がもっと使いたくなるような体験を提供していきたいです。

——新たにVPに就任したおふたりは、今後のFintechの方向性についてどう考えられていますか?

@nu2:世にある決済サービスのなかには、安全性や信頼性を担保するために、システム自体を自社サービスと切り分けているものが多くあります。そうしたなか、メルカリはSoR(システム・オブ・レコード)とSoE(システム・オブ・エンゲージメント)を両立することで、決済とマーケットプレイスのシステムをなめらかにつなげている。Fintech事業のデータをお客さまの購買体験の向上に還元できるのは、そのためです。メルカリらしい挑戦であり、金融領域にある「ガチガチ」なイメージを覆すことにもつながると思います。

宇都宮紀陽(@nu2)

@keigow:事業として大きく捉えると、キャッシュインとキャッシュアウト、その中での循環を増やすことが注力すべき領域だと思っています。キャッシュアウトのところはこれまでもかなり力を入れてきましたが、メルカードが出たことによって、コード決済、iD決済、さらにバーチャルカード、メルカードと、網羅的に使うことができる状態になってきています。キャッシュインの部分では、現状メルカリでモノを売ってお金が入るというのが一番のメルペイの強みで、銀行接続からお金を入れることもできる。ただキャッシュインの領域や資産運用など循環させる部分には事業として伸びしろがあると考えています。

私自身メルカリでのキャリアは長いのですが、Fintechの面白さは「世の中にまだない」ものを作れるところかなとは思っています。例えば、ECにはすでに強者がいるので、ある程度「世の中の正解はこれです」みたいなものがある中で、「どの機能を優先して作っていくか」という考えになりやすいのですが、Fintechでは、メルカリのマーケットプレイスでの体験と組み合わせることで今までにない体験をつくれるのが魅力ですね。

それこそ、メルカリのグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」にすべて繋がっていると改めて感じています。モノやお金、ビットコイン、そういったやり取りがメルカリの中でよりなめらかになる、それを媒介できている状態。それによってお客さまが「Unleash(解放)」されていることが目指すべきことですよね。

いっそう求められるマーケットプレイスとのコミュニケーション強化

——マーケットプレイスとFintech事業の連携を強化していくために、直近で課題になっていることや取り組んでいきたいことを教えてください。

@kimuras:メルペイではデータプラットフォームの改善が必要だと思っています。具体的にはコストオプティマイゼーションとセキュリティ強化の2つです。ペイメントサービスやメルカードはグロースすればするほど、扱うデータ量やクエリが増えていくので、最適化しなければインフラコストが上がり続けてしまいます。サービスの提供価値は変えずに運用コストを削減していくことが、メルペイの一つの挑戦です。

また、なめらかなUXを維持しながらセキュリティをどう強化するかも、大きな課題だと思います。一般的にセキュリティを強化すると、UXの利便性は落ちてしまう。両者を高度にバランスさせることがメルカリの独自性ですし、エンジニアリングの腕の見せ所です。

——メルコインはリリースわずか3ヶ月で利用者数50万人を突破するなど順調な滑り出しをしていますが、改めて見えてきた課題はありますか?

@kimuras:おかげさまで、Day1リリースのために全社が一丸となってリリースを実現することができました。今後は開発プロセスの改善や、Day1ではリリースしきれなかった機能追加に力を入れていきたいと思っています。まだまだ成長の伸びしろがたくさんあるので、リリース後まだ間もないのですがアーキテクチャを刷新させながら、新しい機能をスムーズに提供していくための仕組みづくりを並行して行っていきたいと思います。

——keigowさん、nu2さんが、新しいVPとして注力していきたいことも教えてください。

@keigow:まず注力すべきはQuality Assuranceだと思っています。金融事業の品質を保とうとしたときに、やはりQuality Assuranceは重要です。法的な要件が絡む部分に対しては一つもミスがあってはいけないので丁寧に見ていかざるを得ない。とはいえ、コストとリソースを無限に増やせるわけではないので、どうしても現場に負荷がかかってしまうという構造的な問題がある。

これからは、ちゃんと守るべき品質の定義をしていかなくてはいけないと考えています。法的な要件として守らなければいけない範囲と、リスクベースのアプローチができる部分を定義して、負荷を下げていかないと組織としてのサステナビリティがない。ここはエンジニアリングとしても解決していく必要があるし、組織全体としてサポートしていく必要があります。

いまのメルカリのFintechの組織状態を見ていて、もっと良くできる部分はたくさんあると感じています。それを変えていくことは簡単ではないですが、もっとこうした方が良いという解が見えている部分もあるので、そこを一つずつ改善していきたいですね。

渡部啓吾(@keigow)

@nu2:これまでのアセットは最大限に生かしつつ、メンバーの創造性や挑戦的なアイデアを引き出す旗振り役になっていきたいと思います。リリースから10年が経過し、メルカリアプリは成熟期に入りました。それに伴い、求められるビジネス的な要件も高くなっています。数値的な目標をクリアしながら、数値だけでは表せない新たな価値の創造を目指していきたいですね。

@keigow:あとは、kimurasさんがマーケットプレイスとFintechのCTOを兼任されているので、管掌範囲がかなり広い。kimurasさんを支えるうえで、少なくともメルペイのことは僕とnu2さんとである程度決めていける体制にしていく必要があると思っています。

——では、kimurasさんから、お二人に期待していることはなんでしょうか?

@kimuras:「マーケットプレイス側とのコミュニケーション強化」です。より連携をスムーズにし、プロダクトを通して実現したい世界観をきちんと落とし込めるチームを作っていってほしいと思います。ロードマップや戦略、予算関係、マーケティングについて、CPO Marketplaceのfukuyama(福山誠)さんや、VP of Marketingのtakeshi(永沢岳志)さんを交えて議論するなど、現在すでに始まっている取り組みもありますが、その動きを加速してもらいたいです。

グローバルスタンダードなものづくりの環境で、臆せず挑戦できる人を求む

——今後のFintech事業は、サービス自体もその作り方においても、グループ全体との連携を強化していくんですね。この大きな変化のフェーズでジョインすることは、採用候補者にとってどんなメリットがあると思いますか?

@nu2:先ほども少しお話しましたが、Fintechのドメイン知識を手に入れつつ、守りだけではなく攻めにも挑んでいけるのは、メルカリだからこそできる経験です。

また、目的意識を強く持って働きたい人にとって、とてもいい環境だと思います。メルカリエンジニアリングのコアにあるのは、どこまでいってもミッションやバリュー、グループ成長への寄与です。技術を大事にしつつ、そこだけに固執することなく、本当にお客さまにとって価値あるサービスを探求できます。

@kimuras:グローバルな環境で働けるのも、大きなメリットだと思います。それは英語を使ってコミュニケーションをするということだけではなく、グローバルスタンダードのものづくりや技術に触れ、かつFintechという世界トレンドでもある領域に携われるのは、貴重な体験になるはずです。

また、メルカリグループにジョインすると、Fintech領域以外の新規事業に関われる可能性があります。新しい技術的・ビジネス的挑戦がしたい方におすすめの環境です。

@keigow:kimurasさんがおしゃっているように、エンジニアにとっては面白い環境だと思います。やはりFintechの領域は、クオリティとともに安定性が求められます。それは、ある意味エンジニアリングの技術力を要求される場だし、そこで価値を発揮することが競争優位になりうる。

一般的なアプリケーションだと、技術の部分をがんばったとしても、それがそのまま競争優位にならない領域がけっこうあったりすると思います。それが、Fintechの領域では、技術によって提供される安定性や品質がそのまま競争優位につながることが多いのでやりがいを持ちやすいと感じています。

@kimuras:メルカリのFintechは、今後も常に新しいバリューを生み出していきたいと思います。そのため、ピボットや戦略変更をすることも往々にしてあるとは思いますが、それをポジティブに楽しみながら、臆せずに新しいチャレンジをしていけたら嬉しいです

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