メルカリの事業が社会にもたらす「ポジティブインパクト」を伝えるために──2023年度版インパクトレポートをプロジェクト観点から解説します!

こんにちは、経営戦略室の石川真弓(@mayumine)です。メルカリは、9月21日に「Impact Report FY2023.6(以下、インパクトレポート)」を発行しました。

インパクトレポートとは、「事業活動が社会にどのような影響を与えたのか」を中心に、メルカリの中長期的な企業価値を伝えるために構成した約70ページの文書です。投資家をはじめ、パブリックセクターやメディア、パートナー企業、採用候補者の方、そして社内のメンバー、つまりあらゆるステークホルダーに読んでいただくことを想定しています。

今回、新グループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる (Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」の策定を機に、マテリアリティを見直し、「サステナビリティレポート」から「インパクトレポート」に名称変更するなど、大きなアップデートを行いました。

この記事では、数あるアップデートポイントの中でも、レポート内ではスペースの都合上説明しきれなかった箇所についてプロジェクトのリードメンバーである私の目線から、解説していきたいと思います。

2023年度版のインパクトレポートはこちらからご覧ください

この記事を書いた人


  • 石川真弓(Mayumi Ishikawa)

    メルカリ経営戦略室 Sustainability Team ESG Specialist。2018年メルカリに入社し、お客さまコミュニティの立ち上げと運営、その後メルカン編集部などを担当。育休取得ののち、現部署に移動。教育プログラムの開発、メルカリエコボックスの開発、自治体連携、TCFD提言に基づく情報開示、ESG委員会の運営、削減貢献量​​の算出・開示等を担当。今年の「FY2023.6 Impact Report」プロジェクトをリードする。

なぜ「インパクトレポート」に変更したのか

メルカリでは2020年から3年にわたり、「サステナビリティレポート」という名称でレポートを発行してきました。

サステナビリティレポートというと、サステナビリティ戦略に重きをおいた環境報告書の延長線上として捉えられる方もいるかもしれません。今回「インパクトレポート」と名称変更した理由は、ミッションの達成に向けて、「ポジティブインパクト等メルカリの中長期的な企業価値を伝える」に注力することにしたからです。

そもそも「インパクト」という言葉自体は、いろんな場面で広く使われていて抽象的なところもありますが、ビジネスや投資用語としては「企業または投資が環境や社会に与える影響のこと」を指します。つまり、企業が「利益追求するだけでなく、持続可能な事業活動を行うことで、社会や環境に貢献していくためには、人と地球へのインパクトを創出し、マネジメントしていく必要がある」ということになります。

また、2023年は創業10周年でミッションを新しく定めたタイミングでありました。メルカリの事業活動によって「社会や環境にどのような影響を与えたのか」、ミッションの達成と同時にメルカリの事業を通じて社会にポジティブなインパクトを与えていくという決意を示すために、名称そのものからGo Boldに変えても良いのではということで、社長の山田進太郎も含めて直接議論した上で、レポートの名称を変更することを決めました。

ちなみに「インパクトレポート」という名称で、このようなレポートを出している企業は国内では数少なく、グローバル企業では、テスラやEbay、Amazonなどの企業がインパクトレポートという名称で公開しています。

プロジェクトはマテリアリティの見直しからはじまった

ロードマップの軸となるのはマテリアリティ

メルカリではロードマップ経営を中心に据えていますが、ロードマップの中に、いかにESGやマテリアリティの観点を含んでいくかが今年の重要なテーマでした。ロードマップの中で機能させていくためにも、新グループミッションとの整合性をとるためにも、マテリアリティの見直しが求められるタイミングでもありました。

事業戦略の根幹であるロードマップを定めていくタイミングと並行して、マテリアリティの見直し議論も行っていきました。なお、この記事にもあるとおり、私たちサステナビリティチームは経営戦略室に移動し、ロードマップ策定にも関わるようになりました。

メルカンの記事では経営戦略室の山下真智子(@mattilda)が以下のように語っています。
「ESG経営とロードマップ経営は本質的に変わらないため、2つの戦略を融合させることとなりました。〜中略〜ESGのフレームワークで定めたマテリアリティ(重点課題)をロードマップの軸としても色濃く反映させることができたのは大きな成果だったと考えています。」

ぜひとも、こちらの記事も合わせてご一読ください!

マテリアリティを構造から見直した

マテリアリティとは、いわば企業の「重要課題」のことです。メルカリのマテリアリティを新たに見直すことで、三角形のヒエラルキー構造にしました。上から「社会的インパクト」「プロダクト・サービスを通じて創出する事業価値」「価値創造を支える組織・経営基盤」と再構成しています。

5つのマテリアリティにおいて「①個人と社会のエンパワーメント」「②あらゆる価値が循環する社会の実現」を上位にしているのは、ミッションの「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」と極めて同義のマテリアリティであり、この①と②が「社会に対するインパクト」であると位置づけています。

「プロダクト・サービスを通じて創出する事業価値」の中には、「③ テクノロジーを活用した新しいお客さま体験の創造」が位置づけられていて、それら「価値創造を支える組織・経営基盤」として、「④ 中長期にわたる社会的な信頼の構築」と「⑤ 世界中の多様なタレントの可能性を解き放つ組織の体現」のマテリアリティを定義しています。

「価値創造を支える組織・経営基盤」があるから、プロダクトやサービスの提供ができて、そのプロダクト・サービスを通じて、社会にインパクトを与えていく、という構造になっています。

忘れもしない、年始早々に湘南で行ったオフサイト。ここにいるメンバーが中心となって、インパクトレポートの方針とマテリアリティ改定のドラフトができました!(左から@mune、@natsumi_o、@mattilda、@hamagucciそして筆者)

マテリアリティの特定や見直しは、経営の基本方針に深く関わる重要な議題です。様々な視点を考慮に入れ、執行役会だけでなく社外取締役も参加する取締役会も含め何度も議論を重ねてきました。

マテリアリティ見直しにおいては、
● 各種ガイドラインを参考にしながらSDGs 17のゴールを軸として、社会・環境課題について、メルカリが関与する項目を選定
● リスク・機会の両面から自社による影響度評価
● ステークホルダーへの影響度評価
● ロードマップとの適合性も踏まえて自社による優先度の評価
の順序で議論を重ね、最後は「てにをは」レベルまで徹底的に話し合っていきました。

マテリアリティを見直すことでミッション達成の確度が高まるのは自明なわけで、慎重かつ大胆な議論が終始展開されました。

一時は「マテリアリティはミッションのひとつでいいのではないか」という意見も出てくるほど議論が拡張しましたが、最終的には納得度高く、見直したマテリアリティの合意ができたことで、このインパクトレポートの大きな骨子をまず定めることができました。

注目ポイントは「削減貢献量」と「人的資本開示」

今回のレポートは前回から30Pほど減っていますが、それはただボリュームを減らしたのでなく、マテリアリティの議論を経て、ミッションの達成に向けて「伝えるべきインパクト」のメッセージを整理した結果、シンプルな形で構造化できたからでです。

全体の構成を大きく3部に分けています。
PART1:ミッションの達成にむけて > メインメッセージ / 会社の意思を込める
PART2:各マテリアリティの取り組み> 各マテリアリティの目指す姿・活動実績を伝える
PART3:ESG情報 >主にESG投資家、評価機関向けの情報を網羅する

PART1からPART3にかけて情報が抽象から具体に向かっていくイメージです。まずはPART1を読んでもらうことで、メルカリのミッションの達成に向けた道筋やビジネスモデルの大枠を理解してもらえる状態をつくり、PART2からPART3でより詳細に伝えていくという構造にしました。

ではここからは、本レポートにおけるアップデートポイントであり注目してほしいポイントでもある「削減貢献量」と「人的資本開示」についても解説していきます!

「削減貢献量」の算出と開示

そもそも「削減貢献量」とは何なのかという話ですが、それは「⾃社の製品・サービスによる、他者のGHG排出量削減へいかに貢献したか」を定量化したものになります。

昨今、ESG情報開示のトレンドとして「削減貢献量」という考え方が注目されていますが、その算出方法や開示内容などについては、実は決まったルールやフレームワークはなく、各社独自に算出し開示している、いわば「自由演技」であるのが現状です。

メルカリの場合は、LCA(ライフサイクルアセスメント)手法の考え方をベースに「メルカリで商品が取引されることで、二次流通した商品が新品の代わりに利用される(=新品の生産が抑制される)」と仮定することで削減貢献量を算出しました。

メルカリは昨年から削減貢献量を算出、開示していますが、これはmercari R4D東京大学価値交換工学社会連携研究部門の先生方と一緒に、さまざまな論文や他企業の事例を参考に、算出ロジックを一緒にゼロから開発しながら取り組んだものです。

今年は算出ロジックもより詳細にアップデートし、算出対象カテゴリーも拡大し、日米あわせて約53万トン(東京ドーム約220杯分)の温室効果ガスの削減貢献量となりました。

こうして削減貢献量を示すことで、メルカリの事業が社会にもたらすポジティブインパクトは、定量的にも表現できるようになりました。アカデミックに裏付けられたロジックとファクトをもって、「メルカリが事業成長することがそのまま、循環型社会の体現となる」ことを伝えることができたと思っています。

この削減貢献量の算出にあたって、東大の先生が設計したロジックに対して議論を進めながら、必要なメルカリの取引データを取得したり、お客さまアンケートの設計と取得作業、表計算、検証、など、チームでかなり泥臭く手を動かしながら、個人的にもとても思い入れのあるプロジェクトです。

何周も議論した人的資本開示

2023年は、日本の上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務付けられたことから「人的資本の開示元年」とも言われています。企業の持続的な成長のために「人への投資」の重要性が着目されていますが、メルカリは創業時より「最大の投資先は人」であるというスタンスでさまざまな人事施策を展開してきました。

そのスタンスやアクションを、どのようにインパクトレポート上で表現するのか。これが簡単そうで難しく、でも非常に重要で、浅井宗裕(@mune)をはじめとするPeople & Cultureチームと共にストーリーを練り上げていきました。

その中でも、I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)チームが成し遂げた「男女賃金格差の解消」のアクションの公開は大きな目玉でした。

このようなセンシティブなテーマに対して、当然社内でも開示するか否かの議論がありました。事業成長とその先にあるミッション達成に向けて、I&Dが必要不可欠としていますが、I&Dを優先にした社会を作るためには、メルカリ一社での取り組みだけでは限界があります。このアクションを発信することで、社会に一石を投じることができればという思いで、開示に踏み切りました。記載内容も一言一句、慎重に議論を重ねています。

結果、世論に対しても大きな反響を呼び、NHKの『おはよう日本』で取り上げられたり、先日の衆議院の国会で、メルカリの取組みが事例として紹介される瞬間を見たときは「一気にここまで届くものなのか…!」と驚きました。

さらに人的資本ハイライトのページも、最も議論し修正を重ねたページのひとつです。メルカリの「人への投資」の結果を、最も視覚的かつ端的に表すインフォグラフィックスを、CreativeチームとI&Dチームと追い求めた末に完成したのがこちら。

会社の人数規模からD&Iの現状とアクションを1ページに収めています。

メルカリの人的資本経営に関する考えは、CHROの木下達夫が別の記事で熱く語っています!こちらもぜひご覧ください。

レポート制作はほぼ内製で

レポートはこれまでずっと、コンサルティング会社などの力をお借りせずに、基本的には社内のメンバーだけで制作しています。制作フェーズの初期は、Google Docs上で、テキストベースで全体の方針と構成、メッセージをIR Teamなど社内の関連部署と作り込んでいき、それを経営陣にも合意をもらいながら進めていきました。

次の制作フェーズでGoogle Slideで実際のページイメージをドラフトし、社内関係者の内容の確認はおもにGoogle Slide上で行いました。コンテンツがほぼ出来上がったタイミングで、Apple のKeyNoteに移植し、今年からCreativeチームと連携しながら外部のデザイナーの方の力も借りて、デザインを作り込んでいきました。

去年から、レポート制作はKeynoteを採用していますが、その利点としてはmercari sans(メルカリのアイデンティティを具現化したオリジナルの書体)が使えますし、グラフのデザインの再現性が高いのと同時に、クラウド上で同時編集やバージョン管理ができて、コメントも追加できます。グラフィック制作専用ツールと、プレゼンテーションツールでそれぞれ必要な機能を兼ね備えているのがKeynoteです。

KeyNoteの編集画面

また、Global Operations Teamと連携し、日本語版の作り込みと同時に翻訳も進め、同日に英語版も公開し、ウェブサイトの更新も日英両方で行いました。

昨年に引き続き、日英同日公開を必須として進めていますが、それを可能にできたのは、クラウド上(Keynote)で直接レポート原本を確認できる状態にしたからこそです。Global Operations Teamが並行して、チェックや修正をスピード感をもって対応してくれたおかげで、チームとしてAll for Oneに進めることができたと思います。

今回のImpact Reportのプロジェクトをふりかえって

最終的に発行したインパクトレポートには、大小さまざまなメルカリの思いが込められています。多岐にわたるステークホルダーと、それぞれ必要なフェーズでチームを組成し、議論と合意形成を重ねながら、少しずつ解像度を高めて作り込んでいきました。

骨の折れるシーンもありましたが、これはいわば全メルカリメンバーが成し遂げた「成果」を、レポートという形式で語り直す仕事です。ひたすら「組織肯定感」を感じられる、総じて楽しいプロジェクトでした。このインパクトレポートが、メルカリにとってミッションを達成するために必要不可欠なパーツになるという想いで、プロジェクトメンバー一丸となって制作しました。

インパクトレポートは、投資家の方をはじめ、メルカリに興味をもってくださる社外のさまざまなステークホルダーに届いてほしいと願っていますが、メルカリメンバーにもぜひ読んでもらいたいです。この会社で働くことの意味や意義をより肯定的なものとして捉えることができるのではないかなと思います。

みなさんからいただくフィードバックを活かして、次年度はさらによい内容にしていこうと思います。そのためにもこれからしばらくは、みなさんとの対話を積極的に重ねていきたいと思っています。X(旧Twitter)などからもぜひ、感想を教えて下さいね!

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