急変する時代において、メルカリの人事戦略で起こった「10の変化」 #thebusinessday3 イベントレポート

経営やコーポレート部門に携わるビジネスパーソンが知見を共有し合うコミュニティとして、メルカリが主催しているカンファレンス「THE BUSINESS DAY」。2016年からスタートした同カンファレンスは、今年で3回目を迎えました。

今回は、初のYouTubeライブ配信によるオンライン開催。昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、IT企業を中心にリモートへワークフトするなか、経営・組織戦略や企業の課題は今後どのように変化していくのか。withコロナ時代の成長戦略について、メルカリの各部門責任者が取り組んでいる施策が語られた「THE BUSINESS DAY #3」のレポート記事をメルカンでは、全3回に渡ってお届けします。

最初のセッションに登壇したのは、執行役員CHROの木下達夫。新型コロナウイルスによって変化する今後の働き方、人事制度(採用・評価報酬・育成)に与える影響に対する考えを明かしました。

この記事に登場する人


  • 木下達夫(Tatsuo Kinoshita)

    P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヶ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。


新型コロナによって引き起こされた「10の変化」

“コロナショック”と呼ばれるほどの大きな変化が社会に起きています。そのなかで企業の経営や人事戦略も、大きな影響を受けて変化が進んでいます−−。

ーセッションの冒頭、木下は力強くこう言い切ります。具体的にどのような変化が生じているのか。木下は経営戦略、人事戦略において「10の変化が起きている」と説明。

新型コロナウイルスは、長期化が予想されています。先行きが不透明な状況で、多くの企業が手元の資金を確保する“セーフモード”に入り、人事戦略もメンバーの安心・安全を第一、そして採用は抑制、もしくは凍結せざるを得なくなっています。

また、社会的な不安が増大するなかで、企業の社会的責任も高まっています。今後はより一層、お客さまの目も厳しくなりCX(Customer Experience、顧客体験)も真価が問われる。人事においてもミッション・バリューの重要性が増し、EX(Employee Experience、従業員体験)の高い企業が選ばれる時代になっていくのではないか、と思います。

ー事業の選択と集中も進んでいき、人事においてはメリハリのある人材マネジメントが求められるようになっていく。「だからこそ、企業は“コア人材をどのように育成、抜擢し、登用するか”がより重要視されるようになる」と木下は言います。

リモート環境下でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速。人事は、リモートワークになったメンバーが引き続き高い生産性を保てるよう、活用できるITツールを多く取り入れる必要が出てきました。それにより、人事戦略もデータドリブンになっていくでしょう。メンバーの不安が高まっているからこそ、経営陣は透明性の高いコミュニケーションを重視する必要があります。

こうした状況下で、イノベーションを起こし続けていくには「自律分散の組織」を構築することが大事であり、そのためにはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を今まで以上に尊重する。場所や時間にとらわれない新しい働き方に切り替わっているからこそ、リモートワークでもインクルージョンが実現しているかどうかも意識すべきです。

eNPSのスコアが3カ月前に比べて「10%以上アップ」

ー今の環境下では、メルカリの働き方にも大きな変化が生じています。これまでメルカリは「リモートワーク非推奨」としていましたが、2020年2月に東京オフィスではリモートワークがスタート。4月に緊急事態宣言が発令されてからは、全社でのリモートワークに完全移行しました。

組織カルチャーを浸透させることを目的とし、メルカリでは対面コミュニケーションを重視してきました。フレックス制度ではありますが、コアタイムは12〜16時に設定。基本的にはオフィスに出社してもらい、チームでコミュニケーションをとることを大事にしていたのです。リモートワークに完全移行したことは、メルカリの歴史において非常に大きな変化でした。

ーリモートワークを開始してから、約3カ月。新しい働き方への移行について、木下は「比較的、順調に対応できている」と言い、サーベイの結果も「ポジティブな回答が多い」と言います。実際、個人で「生産性が向上した」と回答した人は32%、「変わらない」と回答した人は54%を記録するなど、8割がポジティブな意見を回答。また、チームにおいては「生産性が向上した」と回答した人が19%、「変わらない」と回答した人が72%を記録するなど、9割がポジティブな意見を回答しています。

メルカリでは3カ月おきにエンゲージメントサーベイを実施。ここではeNPS(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア、従業員エンゲージメント)を計測しているのですが、3カ月前のスコアと比較すると10%以上アップしている。これは非常にいい傾向だと思います。

ハイコンテクストからローコンテクストへ

ーなぜ、メルカリは新しい働き方へスムーズに移行できたのでしょうか。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大前から取り組んできた「ハイコンテクストからローコンテクストへ」のシフトがある、と木下は説明します。

4年前、メルカリの従業員数は約300人ほどでしたが、2020年3月末時点で従業員数は約1,800人へと増員。急速に拡大した組織規模に適応するため、メルカリでは「ムラ(村)からマチ(都市)」へのシフトを推し進めているのです。

組織規模が小さかったころは、ITベンチャー出身など比較的似た経歴のメンバーが集まり、暗黙知も非常に高いレベルで共有されていたので、言語化や仕組みは必要ありませんでした。しかし、現在は1,800人を超えるメンバーがいて、国籍も約40カ国から集まっている。またGAFAなどのグローバルテックカンパニー出身や、メルペイには金融機関出身者がいるなど、多彩なバックグラウンドを持ったメンバーが働いています。

こういったメンバーたちが効率的かつ効果的にコラボレートするためには、形式知の共有やガイドラインの提示、わかりやすい仕組みづくりが重要。言語も日本語から、英語化への対応を一気に進めているところです。

もともと、「ハイコンテクストからローコンテクスト」への変化は、社内のスケールアップ、内なるグローバル化に向けた対応として進めてきたものでした。それが新型コロナウイルスによってリモートワークとなった状況下においては、ポジティブに働いています。

withコロナ時代、メルカリがアップデートする「4つの領域」

ーとはいえ、新型コロナウイルスは終息まで長期化が予想されており、今後は「withコロナ時代」に入っていきます。組織や人事戦略は「オンライン化」を前提に設計しなければなりません。そんなwithコロナ時代において、メルカリはどうやって新しい働き方を実現していくのか。木下は「4つの領域」にフォーカスし、話を続けます。

1:組織文化を体現するEXもデザイン

メルカリには「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのコアバリューがあり、採用から育成、評価、登用まですべてこれに基づいて運用をしています。また、組織カルチャーにおいては「Trust & Openess」の考えを重要視し、信頼し合うことを前提にしたオープンなカルチャーの実現を目指しています。

コアバリューやカルチャーをどう体現していくか。メルカリが新しい働き方を設計するうえでは、これが軸であり、出発点です。昨年から、今まで暗黙知としてあったものを形式知にするべく、カルチャーや人・組織に対する考え方を「Culture Doc」として明文化し、全社公開しました。また今年から、各部署の代表が集まって「EXコミッティー」を組成。メルカリがどのようなEXを提供したいかという「EX Journey」の明文化を進めています。

このEX Journeyをつくるうえで最も大事なことは、期待値のアライメント。会社が期待すること、メンバーが期待することをどう擦り合わせるか。EXは恒常的なものですので、定期的にサーベイを実施し、データドリブンに向上していくことを重要視しています。

2:社内コミュニケーション

リモートワークへシフトしていく過程で「社内コミュニケーション」に課題を抱えている企業は多くあります。メルカリでは、リモートワークでも効果的なコミュニケーションを実現するために、「ローコンテクスト」「心理的安全性」「CONNECT」という、3つのコンセプトを重要視しています。

ローコンテクストは、いかにわかりやすい話し方をするか。結論から言う、データを使うといった心がけを英語、日本語でも意識しています。心理的安全性はオンライン環境でも率直に反対意見を言える環境をつくるほか、個人の悩みや不安を気軽にマネージャーやメンバーに相談できる関係性の構築を重視。CONNECTでは、リモートで離れていても、繋がっている感を生み出せるかどうかを意識しています。

また、社内コミュニケーションは「PERSONAL」なコミュニケーションと、全メンバーを対象にした「ALL」のコミュニケーションの2つがあります。PERSONALなコミュニケーションでは、リモート状況下では今まで以上に1on1が重要になります。もともと、メルカリでは1on1の文化が根付いていますが、この仕組みをリモートでもしっかり実現。そうすると、メンバーから何を期待されているかわからない、評価されているかわからないといった不安を払拭できます。実際に、サーベイの結果で7割のメンバーが「上長とのコミュニケーションはよくとれている」と回答し、新型コロナウイルスの感染拡大前と比較しても改善されています。

その一方で、PERSONALなコミュニケーションは、チームにおいても重要です。メルカリにはAll for Oneというバリューがあり、この考えに基づいて、チームに一番フィットするやり方をボトムアップ的にアイデアを出し合い、楽しみながらコミュニケーションの場をつくりだしています。具体的には、Slack上に雑談チャンネルを開設したり、カジュアルなオープンランチをしたり、いろんな情報共有の仕方を試したり。こういった創意工夫が、リモート状況下でもうまくワークしているな、と感じています。

両手を組み、CONNECTポーズをとる木下

ーメンバーを対象にした「ALL」のコミュニケーションでは、これまで対面で実施してきた全社定例でのコミュニケーションや、経営陣とのOpen Door、エンジニアを中心とした社内ハッカソンの開催をすべてオンラインに切り替えました。

実施してみたところ、オンラインでも上手くいくと思いました。特に全社定例は、ニコニコ動画みたいに共有チャンネルをつくり、参加しているメンバーたちがワイワイと即時トークをしてみました。すると、対面にはなかった盛り上がりを見せていて、すごく楽しんでいるんです。

社内ハッカソンでは、エンジニアが1週間、自分のやりたいテーマに取り組んで発表し合う「Hack Week」を開催。これもまったく遜色がないどころか、それを上回るアウトプットが示されていたんです。私も審査員して参加したのですが、非常に感動した。社内コミュニケーションにもGo Boldなアップデートを必要に応じて適宜、取り入れていきます。

3:人事制度・プロセス

ー人事制度・プロセスのアップデートについては、おもに「採用」「評価報酬」「育成」という3つを軸に説明。リモートで面接をし、オファーを受け、入社する。こうした採用プロセスがwithコロナ時代で標準化されていくにあたり、木下は「ミッションへの共感、バリューへのフィットの重要度がますます上がっていく」と言います。

スカウト、ミートアップ、オリエンテーション、すべて採用活動をオンラインに切り替えていますが、個人的にはうまくいっている手応えを感じています。今、一番大きな課題はオンボーディングです。入社したメンバーが、オンラインのオンボーディングでいかにカルチャーに馴染み、必要な人間関係を構築できるか。ここに関してはメンターの導入といった工夫をしていますが、もっともっと改善の余地はあると感じています。

ーメルカリでは、会社の業績や組織づくりに対して貢献したメンバーが評価される「メリトクラシー」の考え方を導入。これについて木下は「リモートワークによって、ますます強化されている」と語ります。

私たちが評価の対象としているのは、What(パフォーマンスやアウトプット)とHow(バリューの発揮度)の2つのみ。この2つをどんな多様なバックグラウンドを持ったメンバーにもフェアに適用して、評価していく。今、人事が主導して進めているプロジェクトは多様な人材に対してもわかりやすい評価報酬制度の見直しです。評価基準の具体化、昇給の明確な仕組み化を進め、納得感を高める仕組みを導入できればと思っています。

そこでも大事なのが、いかにバリューを体現できるか。評価報酬においても、いいパフォーマンス、バリューを発揮しているメンバーには、市場の平均を上回るようなGo Boldな報酬を提示できればと思います。

ーさらに、メルカリはここ数年で「育成型組織」へのシフトを進めています。育成に関しては、今まで以上に大胆な人材マネジメントを実施し、執行役員といったキーポジションの内部登用率を高めていく考えを明かす木下。

人が成長する近道はGo Boldな挑戦をし続けること。ポテンシャルの高い人材が成長の機会を確実に得られるように、社内ではタレントレビューを実施したり、経営陣のメンタリングプログラムを実施したりしています。研修の機会については、オンラインのワークショップを増やしていて、ここでは参加者同士が経験を共有できる場をつくっています。最近実施した研修では、対面の研修よりも、リモートの方がスコアが高い結果になりました。

4:環境

ー最後の環境のアップデートについては、「仕事環境、プライベート環境、外部環境」の3つに分けて説明。

2020年2月にメルカリがリモートワークへ移行した際、まず直面した課題が「いかに在宅での仕事環境を整えるか」でした。メルカリ社内はITインフラも整備し、業務もペーパーレスで実施。そのため、オフィスにおける業務上の支障はありませんでしたが、自宅は人それぞれ環境が異なります。インターネット環境や机、椅子など仕事環境が整っていない声が社内から多数あがりました。そこでPCのモニターをレンタルしたり、在宅勤務手当を出したりといった施策を導入しました。

ープライベート環境について、メルカリは「Trust & Openess」の考え方に基づき、副業を認めるなど柔軟な働き方をサポートしてきました。リモートワークに移行した際も、木下は「最初は問題ないと思っていた」と言いますが、4月に緊急事態宣言が発令されて以降、保育園や小学校などの登園・登校自粛が始まり、そこから「育児と仕事の両立が難しくなった」という声が多発。コアタイムありのフレックス制度から、フルフレックス制度の導入を決めたのです。

導入してから2カ月ほど経ちますが、ポジティブなサーベイ結果が出ており、試験導入の延長を決めました。また、メルカリでは健康管理も重要視していて、コンディションサーベイを定期的に実施し、メンバーの健康状態をモニタリングしています。また、外部環境においては、状況も刻一刻と変化しています。そのため、メルカリでは今後も外部環境をモニタリングし、タイムリーに適応していく方針を固めています。

そして、これからに関しては、リモートワークを継続することを決めました。そのなかで、今後の新しい働き方についても、現在新たなプロジェクトとしてキックオフしています。「Work from Anywhere Anytime(いつでもどこでも働ける)環境」をいかにメルカリらしく実現できるか。どのようにイノベーションを創出し、コラボレーションを誘発できるオフィスをデザインできるか。そういった原点に立ち戻り、ワクワクする議論をしています。

ーそして最後、木下のこの言葉とともに、最初のセッションは幕を閉じました。

正直、私たちも模索しながら、さまざまなことを進めています。正解がわからないなかで、みんなで一緒になって新しい働き方を確立していければ、と思っています。

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