循環型社会を世界中に広げていくためのグローバル展開。必要なことは「究極的な好奇心」

メルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げ、創業翌年の2014年より米国事業を開始するなど、グローバルなサービス展開を目指してきました。

メルカリのグローバル展開の新たな施策として、フランスおよびベルギーにてベビー・キッズ用品専用のフリマアプリ『Beebs』の企画・開発・運営を行う、Beebs SASへマイノリティ出資を実行しました。『Beebs』はフランスのCtoCマーケットプレイス市場にて堅調な伸びを見せており、将来的にはヨーロッパ市場全体への拡大を目指していることから、メルカリが目指すミッションと親和性が高く、今回の出資に至ったという背景があります。

読者の中には、もしかしたら「メルカリが出資」と聞いて驚いた方もいるかもしれません。自社でサービス/プロダクト展開ではなく、なぜ出資という戦略を選択したのか、SVP of Global Expansion(グローバル推進担当)としてグローバル展開を推進する、田面木宏尚(@tamosan)を中心としたGlobal Expansionはこれから何を目指すのか、これまでの歩みととも展望を聞きました。

この記事に登場する人


  • 田面木宏尚(Hirohisa Tamonoki,@tamosan)

    早稲田大学を卒業後、GMOクラウド株式会社へ入社。CS業務、サーバーホスティング事業、および新規事業の立ち上げ等に従事。2010年にピクシブ株式会社へ入社し、取締役としてシステム開発、マーケティング、グロース等の事業統括に従事。2016年1月より株式会社アニメイトラボ代表取締役社長CEOに就任し、小売領域におけるIT事業推進を実行。2017年2月に執行役員としてメルカリに参画。2018年10月執行役員メルカリジャパンCEO就任、2020年9月上級執行役員メルカリジャパンCEO就任。2022年1月からはSVP of Global Expansion(グローバル推進担当)に就任。


  • 正木貴大(Takahiro Masaki,@tak)

    大学卒業後、HR tech企業で、企業向け採用支援サービスのプロダクトマネージャーやバックエンドエンジニアを担当。2016年10月にメルカリに入社。UK版のプロダクトマネージャーとして立ち上げに従事。その後メルカリJPのプロダクトマネージャーを担当。一度退職し、男性化粧品会社の海外事業企画を経験した後、2021年12月にメルカリへ復帰。2022年1月よりGlobal Expansionに参画。


  • Shida Schubert(@shida)

    日本で外資医療系企業でウェブのデザイン、管理、SFA開発や取引先のイントラネットの企画からローンチを担当。2000年に株式会社デジタルガレージに入社。テクニカル・ディレクターとして社内インキュベーション・プロジェクトや大規模なインテグレーション・プロジェクトをリード。2004年カナダでコンサル事業を立ち上げ、小中企業のウェブサイト、システム構築からSEOなどのマーケティングを含めたインターネット戦略を支援。2012年にパシャデリック(Amanaに買収)のCTO/Co-founderとして、プロダクト/システムの開発を統括。2014年にデジタルガレージの子会社であるDGUSにCTOとして入社、DG Incubationのディレクターを併任しながら、投資先の支援、評価から社内インキュベーション・プロジェクトの設計などに参画。2016年7月にメルカリUSにプロダクト・マネージャーとして入社、2017年の8月にVP of Product就任、USのプロダクトを統括。2021年9月にVP of Product & Engineering, Product Innovation就任、2022年1月よりGlobal Expansionに参画。

フィールドリサーチから見えてきたグローバルでの戦い方

──まずはGlobal Expansionの歩みと、なにをミッションに活動しているか教えてください。

@tamosan:昨年まで、国際戦略(Global Strategy Team)というチームがあり、グローバル展開についてはこれまでも継続的に検討を行ってきました。

それが2022年1月の新経営執行体制で、新たなグローバル展開を加速させていくことを意思決定しました。メルカリジャパンのCEOはJeff(LeBeau)に引き継ぎ、私はSVP of Global Expansionとして、新規参入国の選定および立ち上げに専念することになりました。また、Mercari, Inc. CEOのJohn(Lagerling)は、SVP of Global Strategyとして国際戦略の立案などを共に推進することとなり、メルカリのビジネスをUSだけでなく、第三国以降に広げていく役割を担うこととなりました。国内事業においては(青柳)直樹さんをSVP of Japan Regionとして、各事業の自律性を高めながら日本事業全体の戦略をより強化し、さらなる成長を実現できる体制を構築しました。

新規参入国の選定および立ち上げにあたっては、これまでも国際戦略チームが外部パートナー企業と一次調査を行ってきました。それを引き継いだ上で、私たちが行ったことは「フィールドリサーチ」です。現場に赴き、実際のプロダクトを使ってみる、様々な現地の方と実際に話してみる、ということを世界各地で地道にやってきました。

メルカリのようなプロダクトは意外と世界中にあるんですよね。USはマーケットプレイスの市場が成熟していて、専門領域に特化したサービスがたくさんあっておもしろいです。例えばスニーカーだったら、StockX、Grailed、GOAT、女性ファッションで言えばPoshmark、NFTだったらOpenSea、トレカの​​TCGplayer…などなど。一方、ヨーロッパは環境問題への関心が高いことが特徴で、マーケットプレイスアプリが流行りつつあり、まだまだプレイヤーも少なく、市場的には今ようやく盛り上がってきた状況かなと思います。

これまでの外部パートナー企業とのリサーチも非常に参考になったんですけど、それだけでなく「実際に現地で起こっていることの答え合わせをすることで解像度がより上がるのではないか?」という仮説を立ててフィールドリサーチを行いました。いろんなアプリに実際に触れてみることで分かることがたくさんあります。各国によって決済や物流の事情もそうですが、一次流通の状況もファッショントレンドの在り方もそれぞれ異なっています。

実際にフィールドリサーチをしてみると、「表面上で見えていることはこうだけど、実際には起こっていることは違った」というケースはたくさんあって、外部のリサーチ+フィールドリサーチが有効そうだということがわかりました。

フィールドリサーチの一環として、各地のフリーマーケットも視察。特にフランスのファッションへの関心が高さを目の当たりにした。「おしゃれを楽しんできた歴史が長くビンテージへの関心も高い、みんなそれぞれのスタイルを楽しんでいる」と@tamosanは述懐する。

──こうしたフィールドリサーチを進めるにあたって、メンバーそれぞれの役割はどのようなものなのでしょうか?

@tamosan:この3人はけっこうプロダクトのカバー率が高く、それぞれ得意分野があります。僕はJPのCEOでしたし、shidaはUSのプロダクトを黎明期から支えていて、 takはUKの立ち上げに携わり、JPのPMもやってきました。僕はジェネラルに経営全般とJPで起こってきたことを理解しているし、takはUKとJPでのPM経験があり、shidaはUSでのPMおよび技術面での経験がある。それぞれの特性をフィールドリサーチのバリエーションに活かしていきました。

──ちなみに、チームに共通している思想やルールなどはありますか?

@tamosan:やっぱり、全員が『Oura Ring』(フィンランドのメーカー『Oura』が販売するスマートリング)をして睡眠と体調管理を徹底していることですかね。これは半分冗談ですが、みんな「データドリブン」「プロダクトドリブン」なところがあるので、新しいプロダクトについて語りだすと、みんな話が尽きないんですよね(笑)。

私たちが大事にしているのは「実際に使って体験すること」と「現地の人に話を聞くこと」。実際に使ってみないと、机上のデータだけでは分からないことは多いと感じています。たとえば、各国のApp Storeではどのように掲載されているか、それぞれの国でアカウントをつくってみたり、現地のサービスで購入や出品をやってみて、何がどれくらいの速度で売れるか、どうやって発送するのか、届くのにどれくらいかかるか…など。オンラインだけでなく、オフラインの体験も重要だと考えています。

ベースにある循環型社会を世界中に広げていきたいという思い

──では、第三国に進出する必要性はどこにあるのでしょうか?

@tamosan:ベースにある「思い」は、メルカリが推進しているこの循環型社会を世界中に広げていきたいということに尽きるかなと。ヨーロッパは環境への関心が非常に高いことに加えて、コロナによってeコマースの普及が後押しされた状況があります。私たちがこれまでつくってきたマーケットプレイスは、限りある資源を有効に使うことのできる循環型社会を世の中に広めていく手助けになっていると信じています。必要なくなったものをかんたんに売り買いできるようにすることで、サステナブルにつなげていくことをしたい。それを世界で加速させていくのに、ヨーロッパ市場は良いタイミングであると考えています。

──自分たちで新たにつくるのではなく、出資という選択をしたのは?

@tamosan:正直にいうと最初は「自分たちでEU版のアプリを作って進出するぞ!」という雰囲気でした。僕らが、JPやUSの現場でやっていたときは「自分たちでつくって、自分たちで伸ばす」という思いが強かったです。だから、出資やM&Aをするという発想にはなかなかならなかった。今にしてみれば、「自分たちでやるべき」という思い込みが強かったところがありましたね。

@tak:出資やM&Aと並行して自分たちでプロダクトを立ち上げるシナリオも想定はしていました。ただ、すでに現地に同じようなサービスが存在し、広く使われているなかで、「より優れたプロダクトを提供して、より早くお客さまに価値が提供できるのか?」という問いを自分たちに投げかけたとき、疑問が残りました。自前での立ち上げにこだわったUK進出と撤退からも多くの学びを得ており、より多くの可能性を排除せずに検討するように心がけてきました。

@tamosan:自分たちで立ち上げるという手段に絞らず、出資やM&Aなどあらゆる可能性を検討していくべきだとフィールドリサーチを通じて感じました。それは現地で様々な人と話し、市場をつぶさに観察した結果です。自分たちで立ち上げたときにかかるコストや時間、不確実性を考えると、M&Aのほうが速くて確実性が高いのではないか、そういうマインドチェンジがあったのは確かですね。それだけ、この循環型社会への寄与を早く確実に進行していきたい、という思いに突き動かされていたというのはあります。

@tak:実際にお客さまがどういう使い方をしていて、どういうプレイヤーがいるのか、しっかり現地に入ってリサーチしたことは大きいです。そこを見ている、見ていないとでは、方向性が全然違ってきたと思います。

@shida:はじめは自分たちで開発することを具体的に計画していたからこそ、いざ出資やM&Aを検討するようになった時に、投資相手を的確に評価できるようになったと思います。

惹かれたのはBeebsの人柄とカルチャー

──Beebs SASを出資先として選んだ理由について教えてください。

@tamosan:これは「人柄」と「カルチャー」ですね。『Beebs』の成り立ちにメルカリのカルチャーとのシナジーを強く感じました。

Beebs SASの共同創業者である、CEOのMorgan(Hilmi)とCTOのArsène(Huot)は、ふたりとも2019年に父親になり、衣類やおもちゃなどの子供用品が購入してから数週間から数カ月で使えなくなってしまうことに課題を感じていました。親の財布にとっても環境にとっても負担が大きく、こうしたペインを解決するため、中古の子供用品に特化したC2Cマーケットプレイス『Beebs』を2020年につくったんですね。

Beebs SASは2020年にフランスにて創業し、2020年11月より衣類・おもちゃ、ゲームなど、400カテゴリー以上のベビー・キッズ用品を取り扱う『Beebs』の運用を開始。現在『Beebs』は累計流通額(2021年1月から2022年10月までのフランスおよびベルギーの累計流通額)が400万ユーロを突破し、累計約100万人のお客さまに利用されている。

まさにメルカリが目指す循環型社会のミッションと合致していますし、なによりもこの2名のプロダクトに対する情熱と、リーンな組織運営、スピーディーな開発を実現するモダンなシステム基盤など、私たちが学ぶところも多いです。お互いに成長し、お互いのミッションを体現していくことができそうだなと実感しています。まだ創業2年強の会社ですが、GMV(総取引高)はこの経済情勢の中、驚異的な成長率を実現しています。

CTOのArsène(左)とCEOのMorgan(右)とともに

@tak:あと、「僕らが自分たちでヨーロッパでプロダクトを立ち上げるなら」というシナリオで考えた時、『Beebs』のプロダクトの構築の仕方や考え方が自分たちの考え方とすごくフィットしましたよね。「あれ、この話って自分たちでも議論しなかったっけ…?」ということがたびたびあるぐらい(笑)。

@shida:そうそう(笑)。私はプロダクトの思想や開発プロセスも含めて「人柄」だと思っています。実際に彼らと話してみると分かることですが、優秀な人の周りには優秀なメンバーが集まってきている状況がありました。Beebs SASという会社に出会えてなかったら、いまでも自前での進出にこだわっていたかもしれないですね。

@tamosan:システム周りが良い意味でスタートアップっぽくなくて、「ここを直したほうがいい」とか言う必要がないぐらいモダンで、とても洗練されていました。

@shida:同じミッションを掲げていて、現地の土地勘を持っている仲間を探していたわけだし、さらに良いシステム基盤ができている、となると「これは話が早い!」というわけですね。

──ちなみにBeebs SASからはどのような期待を受けていますか?なにか印象的なメッセージなどあれば。

@tamosan:まず、とんでもなくたくさんの質問をされます(笑)。彼らはかなり意欲的に僕らから学ぼうとしています。そして、そこで得たアドバイスやナレッジを即実行に移す。

@tak:そう、そこはすごい愚直ですよね。自分たちがまだできてないことに対して、すぐに直していくアジャイルな姿勢がすごい良いですよね。

@tamosan:そのスピード感は私たちも学ぶところが多い。開発イテレーション(一連の工程を短期間で繰り返す開発サイクル)も普通は1〜2週間とかですが、CTOがOne Dayでやる、みたいな。まさにスタートアップ的な感じです(笑)。

@tak:前週にディナーで話したことが、次の週には実装されていて、驚かされましたよね。

@tamosan:当然、彼らはスタートアップで私たちとはフェーズも違いますが、「なぜそんなに早くできるのか?」というところは、モダンなシステム基盤から私たちのビジネスにフィードバックできるところはあると考えています。やっぱり、お互いが学べるというのは大きい。私たちは日本やUSでのビジネス知見はあるけど、ヨーロッパでのビジネスの知見はほとんどないに等しいです。彼らからは最新のシステム開発もそうですし、ヨーロッパでのビジネスのやり方も学べる。彼らは私たちからスケールする方法を学べる。お互いがお互いのグロースに寄与できるオポチュニティと言えます。

グローバル展開で必要なのは「究極的な好奇心」

──これから、Global Expansionはなにを目指し、なにを拡張させていくのでしょうか?

@tamosan:フランスを足がかりに、循環型社会をグローバルに広げていくチャンス。メルカリが大切にしている考え方を世界に広げていきたいですね。

@tak:全部メルカリだけでやっていくことよりも、世界中で売り買いをする文化を根付かせていく仲間を増やしていく、そういう世界をつくっていく活動をするのがGlobal Expansionの使命だと思っています。

@shida:USとJP以外にどう基盤をつくっていくかが目下のミッション。この10か月、いろいろな国でリサーチをしてきて、各国の文化やプロダクト、はたまたインフラの違いなど、さまざまな知見を得ました。既存のビジネスにそれをどう活かして、支援していけるかも考えていきたいですね。

──非常に難易度が高く、エキサイティングな環境ですが、これからの仲間にはどんなことを期待しますか?

@shida:私は「究極的な好奇心」が必要かなと思っています。いろんなところへ行って、ユーザーインタビューをするときに「なぜこういう行動をするんだろう?」というキュリオシティ(好奇心)がないと見えるものも見えてこない。

現地に行って全体像を観察するなかで、一次的な情報だけでなく、「なぜこうなっているのか?」を突き詰めて多角的に探求する必要があります。これから、仲間になる人にはそういうキュリオシティを期待したい。tamoさんはそういう好奇心がありすぎる人で、観察眼が非常に鋭いので、近くでそういうことを学べるのも楽しいです。

@tak:僕らはプロダクトドリブンな人間の集まりだから、「どうにか実現しよう」ととことん突き詰めるんですが、これからのGlobal Expansionはそうした攻めの姿勢だけでは足りないと感じています。どこかしらでブレーキをかける、守りの視点も必要になってくる。ファイナンスやリーガルの知見を持っている人がそれに当たると思っています。「この事業はこう攻められそうだぞ」となったときに、「それにはこういう整理が必要だろう」と思考できる人がチームにいると、上手く歯車が噛み合っていくのではないかなと思います。

@tamosan:冷静に判断する「眼」かな…。その軸が「プロダクト」にあると、より楽しくなると思います。当たり前ですけど、世界は本当に広くて、常識だと思っていたことが非常識な場面にたくさん出くわします。頭が混乱するときもあるし、カルチャーを包括的に見たり、バイアスを排除して冷静に評価するのは意外と難しい。そうした時に、「軸」となるプロダクト視点をもって俯瞰することが重要だと考えています。自分とは違った価値観に出会ったときに柔軟に受け入れることができる方は、自分の世界がびっくりするくらい開けていくような、おもしろさを感じられるはずです。

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