「UX」という見えない価値を可視化するため、リサーチとデザインによっていかに共通言語をつくるのか?

メルカリでのあらゆる体験をデザインする「デザイン組織」は、新たなグループミッションの元でどのような「お客さま体験」を構築しようとしているのか?広義の「デザイン」という観点から、カスタマーエクスペリエンス(CX)、開発プロセス、組織づくりの中で、いかにデザインの力が発揮されていくのか、全4回にわたってデザイン組織のいまを多面的にお伝えしていきたいと思います。

第3回は、UXデザインを社内で当たり前にするために、リサーチとデザインの連携によって開発チームの中にデザインプロセスの浸透する取り組みを行う、UXデザイナーの安藤慶子(@keiko)、UXリサーチャーの久保隅綾(@A-ya)とプロダクトマネージャーの古澤智裕(@furufuru)に、UXの重要性にはじまり、「捨てる」という概念の価値の転換まで、拡散と収束を行き来しながら対話してもらいました!

この記事に登場する人


  • 安藤慶子(Keiko Ando)

    国内家電メーカー、ポータルサイト企業を経て、2016年に友人3人と起業。BtoCとBtoBサービスの立ち上げに参画。事業計画、UIUXデザイン、ブランディング、カスタマーサポートなどを通して顧客価値の創出に従事。2018年にメルカリに人事評価サービスを売却するとともに入社、社内人事システムの開発に取り組む。2020年からマーケットプレイスのUXデザイナーとしてメルカリのマッチング領域の体験改善に情熱を燃やす。


  • 久保隅綾(Aya Kubosumi)

    東京出身。日本の電子部品製造業者やガス会社、共同創業した小規模のコンサルティング企業にてデザインリサーチャーとしてのキャリアを築く。人やコミュニティにとってポジティブな変化や価値につながるインサイトを生み出すことに情熱を持ち、ホリスティックな観点からの人々の生活を深く理解している。2018年、家族の仕事の都合で日本から米国に拠点を移し、3年間フリーランス業に従事。2022年2月、プロダクトデザインチームのUXリサーチャーとしてメルカリに入社。2児の母(長女7歳、長男3歳)でもある彼女は、プライベートと仕事、その他諸々を絶えずやりくりする日々を送る。


  • 古澤智裕(Tomohiro Furusawa)

    大学院卒業後、図書館情報学をバックグランドとして情報検索や情報推薦のプロダクト開発に従事。2019年5月より株式会社メルカリに入社し、検索評価やレコメンドシステムのプロトタイプ開発に取り組む。その後レコメンデーションチームの立ち上げを経て、現在はプロダクトマネージャーとしてディスカバリー体験全体を改善するような開発の推進をしている。

最良のお客さま体験ために「一番良いものは何か」を追求し続ける

──まずはみなさんの役割や業務内容について教えてください。

@A-ya:私はメルカリのお客さまに、どのようにアプリを使っているのか対面やオンラインでインタビューを行い、アプリのペインポイントや課題、お客さまが求める体験は何かを分析し、それをデザインや施策に落とし込むためのレポートを作成して、メンバーに伝える仕事をしています。また、中長期的な戦略に資することとして、メルカリのお客さまと競合のお客さま、将来のメルカリのお客さま像を含めて理解し、新しい世界を作っていくためにメルカリに必要な要素は何かを考えていく業務もしています。

@Keiko:私はUXデザイナーとして、ユーザーフィードバックから紐解いた仮説やペインポイントをベースに、私たちがどのようなソリューションを生み出せるか、生み出したソリューションがお客さまとビジネスKPIにどのようなインパクトを与えるのかを視覚化し、それらをUI / UXに落とし込んでいきます。そこから、プロトタイピング、実装、デリバリーまでの一連のデザインプロセスを通し、お客さまへの価値提供をend-to-endで推進しています。

実際にソリューションがデリバリーされてから、お客さまにどのような価値を提供できたか、お客さまからどんなフィードバックを得たか、常にこの点に着目してUXの向上を目指しています。

安藤慶子(@keiko)

──furufuruさんはExperience Design チームの所属ではないですが、UXリサーチャーやUXデザイナーとの協業が多いんですか?

@furufuru:そうですね。メルカリにはプロダクト開発の機能性を担保できるよう、いくつかのキャンプがあるのですが、私は商品とお客さまのマッチングを増やすための施策を考えるキャンプNSM(ノーススターメトリック)のマッチングエリアに所属するプロダクトマネージャーです。具体的には、ホーム画面などの推薦機能をどうすると良いかを考え、実際にリリースして、評価・分析して、チームメンバーと共に改善しています。

──今回、専門領域の異なる3人に集まってもらったわけですが、メルカリにおけるデザインの独自性を感じている部分があれば教えてください。

@furufuru:それで言うと、いま私が関わっているメルカリのホーム画面は独自性がかなり高いと思っています。使った瞬間からその人に最適なコンテンツを届けるべく、圧倒的なパーソナライズがなされるよう裏側のシステムを作り込んでいます。また、アプリ全体の観点でいうと簡単さと一貫性を重視していて、「UIで迷わせない」というのは最初期のメルカリから大事にしてきたDNAだと思います。

@Keiko:メルカリはアプリだけでなく、CMやメルカリステーションなど、いろいろなアウトプットを高品質に保とうと意識していて、お客さまが「いいサービスを使っている」という実感を持ってくださっているように感じます。それはメンバーに対しても感じることがあります。メルカリはメンバーそれぞれがバリューを体現していて、「良い会社を作っていこう」と意識しているところに独自性を感じますし、それが会社への信頼感につながっています。

@A-ya:私もオンラインだけでなくオフラインの体験も含めて、社員一丸となって「一番良いものは何か?」を追求し続ける姿勢がすごくいいなと感じたことが、メルカリに応募した理由の一つです。例えばプロダクトのフィードバックのチャンネルもそうだし、Slackとかも含めていろんなレイヤーで組織や個人の役割を超えて「より良い体験にしていこう」とメンバー同士でコミュニケーションし続けているのはやっぱりすごいなと。私はメーカーやガス会社で働いていたこともありますが、あくまで部門の中でコミュニケーションが完結するような組織体制だったので、コミュニケーションが同時多発的に盛り上がることはすごく少なかった。ただ、メルカリはコミュニケーションが活発な分、情報量が多くてキャッチアップするのが大変な部分もあるんですけどね(笑)。

コラボレーションの中から、見えない価値を共通言語で可視化する

──みなさんは、それぞれの専門性をどう活かすような形で連携しているのでしょうか?

@furufuru:役割がきっちりしているわけではなく、専門性を持った人たちが共通の課題に取り組む構造になっていると思います。メルカリはデザインの重要性を理解しているPMが多いと思うので、チームとして協働しやすいですし、デザイナーやUXリサーチャーの活躍が求められる場がかなりある。個人的には各チームにいて然るべきだと思っているぐらいで。

@Keiko:課題に対して専門性を越えて協業できているのが特徴ですよね。過去の職場では、「それぞれの職種で専門性を発揮しつつ、B:ビジネス、T:テクノロジー、C:クリエイティブの3つの視点をバランスよく持って協業し、一つの目標に向かっていける人になってください」と教育されてきましたが、3つの視点でバランスをとるのは簡単ではありませんでした。メルカリはそこのバランスが上手くとれている人が多いと感じます。

@furufuru:協働する上でロールを定義し直すのも重要なのではないか思っています。例えばエンジニアは、PMが作った仕様書に基づいてただ単にコードを書く人ではないはずです。「あなたたちは課題解決のスペシャリストです」と伝えることで、エンジニアリングのバックグラウンドや、その人たちの強みを活かして働いてもらえているように感じます。

@A-ya:furufuruさんとKeikoさんとのチームは、まるでジャズの即興演奏のような連携ができていますよね。その時々で課題はあるけれど、それぞれのバックグラウンドや知見、経験などをもとにして、お互いがさまざまな形で貢献することは意外とできないことですし、そうやって支え合えることに心地良さを感じます。「こうするべき」という明確な指示の元ではなく、お互いが先読みして即興演奏のように仕事が進められるというのは、組織としてもかなり高度な状態なんじゃないでしょうか。さらにスケールしていくにはどうしたらいいのかを、このチームで考えられたらと思っています。

──デザイン組織はここ1年ぐらいで拡大してきたかと思います。とは言え、UXの重要性の社内での理解はまだこれからという課題があるとうかがいました。これはなぜなのでしょうか?

@Keiko:やっぱり、UXによって何がもたらせるかが、言語化できていなかったからですよね。つまり「どういう未来がお客さまにあったらいいのか」をまだ言語化しきれていない。以前メーカーにいたときは、形あるモノを通した体験やデザインがダイレクトに数字に響くのですごく分かりやすかったのですが、メルカリのようなサービスの場合、一連の体験の何にお客さまが価値を感じていて、デザインやUXがどの部分に貢献しているかが見えにくく、また人によってその捉え方がさまざまだったりします。だからこそ、見えない価値を共通言語で可視化していかないといけない。

@A-ya:メルカリがスタートアップだった頃は、0→1、1→10でMVPを作り込み、KPIを次のグロースに向けて設定して改善していくことで成長できました。しかし、創業から10年が経ち、これから10を100、100を1000にしていくためには、目の前のKPIや数値を中長期的な視点としてどう捉えていくか、そのときにデザイン、UXが一つの重要な指標になってくると思うんです。

自分たちがどのお客さまを大切にして、どんな関係性を構築して、どういう世界を作っていきたいのかを、ビジネス規模や利用者数などの数値だけでなく、お客さまに届けていくべき価値や体験のストーリーをUXが橋渡ししていく。そうした変革の必要性を経営陣も感じているように思います。

@furufuru:私は機械学習エンジニアがバックグラウンドなのですが、ある意味でUXを考慮しなくても、単に「KPIを達成するロジック」を作りこむことはできるんですよ。ただ、それだとまったく本質的ではなく、「その数値を上げた後にどういう行動を促していきたいか」とか「それによってお客さまの気持ちがどう変化していくか」を考えるときに、お客さまの膨大なコンテクストから体験を設計する上での共通言語が必要となってきます。いままでは単発の施策を素早く成功させてきて、その積み重ねでここまでやってこられた気がするんですけど、会社が大きくなってくると、自社の各種サービスだけでなくオフラインに至るまで、あらゆる体験の接続をなめらかにしないといけない。だからこそUXの意味と、それを実行する必然性をみんなで理解していく必要があると思います。

古澤智裕(@furufuru)

──こうした一連の課題に対して、これからどのように取り組んでいくべきしょうか?デザイナー、リサーチャー、PMが連携することによって発揮される価値について教えてください。

@furufuru:いきなりものづくり哲学のような話になるのですが、誰かにとって価値のあるものを作ることによって利益が出て、会社として成り立ちますよね。ですから、「”誰にとって”の価値なのか」を定義することで、大人数で協働しやすくなると考えています。いまのメルカリは提供するサービスの対象がかなり幅広く複雑になっているので、「誰かにとっての価値」というものを一元的に言語化するのは難しいと思うのですが、少なくともチームの中の共通言語にすべきだと思っています。ただし、この共通言語を作ってもお客さまにとっての価値は変化し続けていきます。ですから、変わっていく価値についても定義し続けることが大事だと思います。

@A-ya:言語化は重要ですし、リサーチャーとしての一つの重要な役割だと思っています。お客さまが見ている世界と、私たち作り手が見ている世界がどうしても遠かったり、うまくブリッジできてなかったりする。KPIを追うために、買ってもらうことだけに終始するとか、消費するためだけの出会いとか、ビジネスを推進していく上でお客さまが実現したり達成したいこととのコンフリクトがあると思うんです。お互いに見えてない領域が何なのか、リサーチャーとして両方の世界を上手く翻訳して伝えたいと思っています。また、そのコンフリクトを解消するための優先順位づけが必要だと思っています。「どんなUXメトリクスがあったら、ビジネスの意思決定や開発をスピードアップさせることができるか」はチームの課題であり、テーマですね。

@Keiko:お2人が組織の観点で話してくれたので、私は個人の観点から。A-yaさんやfurufuruさんに問いかけたことや伝えたことが、自分の期待していた以上の形、もしくは想像もしていなかった形で返ってくることや、私がデザインで課題やソリューションを視覚化したものに対して2人から評価されることに、脳が活性化されてアドレナリンが出るんですよね。それによって私のモチベーションが維持されているし、その結果が良いパフォーマンスにつながると思います。連携することの良さって、1人では出せないアドレナリンを出してくれることなのかな、と思っています。

人々の「捨てる」という概念を変えるプラットフォームを目指して

──デザインを通した取り組みによって、どのようにお客さまの行動を拡張したり、変容をさせていけるか、イメージされていることがあれば聞いてみたいです。

@Keiko:日本には元々「もったいない」という言葉があったぐらい、モノを大事にする、受け継いでいく精神があったと思うんですけど、資本主義の波に飲まれて、新品主義になってしまいましたよね。モノを繋いでいくというより、モノや過去を切り捨てて、売ること、得すること、儲けることにばかり意識が向いてしまった。

一方、ヨーロッパなどは街づくりや教育を見ても、「未来永劫、この国やヨーロッパを良くしていこう」という精神が個々人に根づいている気がしています。メルカリはそういう世界を目指していると私は思っているんですよね。それに対してデザインチームはどう貢献できるのか、壮大なテーマですがワクワクしますし、みんなで課題や認識を共有した状態で進んでいきたいです。

@A-ya:モノを「捨てる」という概念は変えたいですよね!メルカリの提供するプラットフォームに参加するだけで、努力しなくても誰かに譲れてリユース・リサイクルできる、結果的に「捨てる」という概念が変わってる状況を実現できたらと思っています。将来的には、モノを介して生まれる人との関係性だったり、新しい価値の交換やつながりに、もう一度フォーカスが当たるのではないかと期待しています。

@furufuru:自分の興味関心としては、検索や推薦という技術領域ですね。それをベースに、メルカリをより愛されるプロダクトにしたいと思っています。個人的な野望としては、Googleがあらゆる情報にアクセスできる世界を作ったので、メルカリを通じてあらゆるモノの情報にアクセスできる世界を作りたいです。欲しいタイミングで欲しいモノの情報が、メルカリに問い合わせると一瞬でわかるという状態です。

「捨てる」という概念を変えていきたいというのは僕も同感です。お客さまがメルカリで商品を出品するモチベーションは大きく2つあると思っていて、そこにもっと向き合っていくべきだと考えています。1つは不要になったモノを別の価値に変えたい、それは売上をつくりたいということをもちろん含みます、もう1つがモノの売り買いを通じて人と人との繋がりを感じたいということだと思います。今後は後者によりフォーカスしていきたいですね。例えば、楽器を使っていた人が捨てるのではなく、次に楽器を始める人に引き継いでいけるようになることで、儲からなくても得られる喜びがあるから出品する場合もありますよね。その結果として、捨てる行為がなくなっていくのが理想です。

──現状、お客さま同士の売買の場合で、コミュニケーションに不信感を抱く方がいないわけではありませんが、UXやデザインで解決することはできるのでしょうか?

@A-ya:メルカリでは本当にたくさんのお客さまにお使いいただいており、トラブルや不安なく、取引を楽しんでいただけるような体験にするというのは、私たちの最重要視している提供価値です。でも実際には、お客さま個人間での価格交渉やコメントをやりとりすることが煩わしく感じられるといった意見もよくインタビューで伺います。商品説明文に「値下げ交渉具体的な価格で打診してください」とか「即購入OK」と掲載するなど、トラブルの余地をなくしたECサイトで購入するようなコミュニケーション体験にするという方法はあると思います。

他方で、コメントのやり取りができることで、モノを介した時だけかもしれないけれど、何か関係性が生まれるようなコミュケーションも自然発生しています。例えば、推しのグッズを購入するときに、「この人推しなんですか?いいですよね〜」と推しの存在を分かち合ったり、商品が送られてきた後に「子供が欲しがっていたのですが、売り切れで見つからず、助かりました。ありがとうございました」といった、感謝コメントを受け取って嬉しい気持ちになったりと、情緒的な価値も生み出しています。私個人としてはこれを失わずに、トラブルや不安がないように、その人が楽しみたいようにコミュニケーションしたり、取引できるようにするにはどうしたら良いかということを考えたいと思っています。

「こういう取引は良い取引だよね」とか「こういうコミュニケーションが良いコミュニケーションだよね」と、良いやり取りをコミュニティの中で推奨していくUXが実現できたらと個人的には思っています。良い関係性を作っていこうと気持ちで関わることによって、結果的に良いコミュニティになると思うんです。端的に言うとリワードされるとか、そういうものを推奨し合う仕組みを取り入れたいですね。

久保隅綾(@A-ya)

@Keiko:SNSなどもそうですが、あらゆるプロダクトは「こういうプラットフォームをつくりたい」「こういう価値をお客さまに提供したい」というミッションのもとにモノづくりをしています。アプリのボタン一つひとつ、機能の一つひとつを丁寧に提供し、お客さま同士のコミュニケーションも心地よいものになるように検討されてきていると思います。Instagramであれば「魅力的で心地よいビジュアルがタイムラインに流れる」というのは、サービス側が指定したわけではなく、自然とそのサービスの特性、良い体験を感じ取ったお客さまが作り上げていると思うんですよね。お客さまたちによって作られるプラットフォームをメルカリも提供していきたいので、そういったUXづくりを進めていくことが大事だと思っています。

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