「客観的なデータ」と「主観的なこだわり」を武器に意思決定をドライブさせる!——経営メンバーとチームマネージャーが語る、メルカリAnalyticsチームの存在意義

近年、DXの取り組みが加速するなど、企業におけるデータ活用の重要性は高まっています。Eコマース・決済・物流などの事業多角化とグローバル展開を進めるメルカリにおいても、その状況は同じ。特に、扱うデータが生活に密着したものであり、因果や相関を分析することが容易ではないことから、よりメルカリらしいデータ活用法が求められています。

そんなメルカリのデータ利活用を推進するのが、「メルカリの成長を主導するブレインになる」というビジョンを持つAnalyticsチームです。メルカリにおけるデータ活用の歴史は古く、創業された年から行動ログのトラッキングや各種KPIダッシュボードが存在し、経営判断やプロダクト開発の意思決定に広く活用されてきました。メルカリの歴史そのものとも言えるデータ活用は、実際にどのような思想のもとに実践されているのか、そしてどのように他チームと連携して事業成長に寄与しているのか。3回にわたってキーパーソンへのインタビューを実施していきたいと思います。第1回は、長らくAnalyticsチームを牽引してきたマネージャー 飯田修一(@shuichi)と、執行役員 Marketplace COO 長利一心(@osarin)の2名。Analyticsチームの存在意義とともに、メルカリ経営陣から期待することも聞いていきます!

この記事に登場する人


  • 飯田修一(Shuichi Iida)

    メルカリAnalyticsチームディレクター。DeNA, DeNA San Francisco を経て 2014年にメルカリ入社。 メルカリUSにて米国でのメルカリの立ち上げに参画した後、2020年に日本に帰国しメルカリJPに転籍。 現在は分析チーム全体の責任者を務める。東京大学数理科学研究科卒(博士)。シリコンバレー在住歴は計7年半。


  • 長利一心 (Kazushi Osari)

    京都大学大学院航空宇宙工学専攻修了。戦略コンサルのベイン・アンド・カンパニー マネージャー、株式会社セガゲームス社長室長を経て、2018年3月メルカリに参画。ファイナンスIR、リスク・コンプライアンス、ガバナンスのコーポレート各所でメカニズム化やプロジェクトを推進したのち、2019年7月より経営戦略室(元会長室)ディレクター。2020年2月以降はフィンテック領域にて、メルペイおよびメルコインの取締役 VP of Corporate and Complianceとして財務、経営企画、法務、コンプラ、リスクを管掌。2022年1月にMarketplace COO就任。2022年5月よりソウゾウ取締役兼務。

メルカリAnalyticsの役割は、データに基づいて「神の見えざる手」に近づくこと

——社内にデータ活用の専門チームを抱える企業が増えています。「データを活用して事業を成長させる」という点では共通する部分があると思いますが、あえてメルカリAnalyticsチームが扱うデータの特徴を挙げるとしたらなんでしょうか?

@shuichi:「生活に密接したデータ」を扱っていることが特徴だと思います。社会情勢や世の中のトレンドに、より詳しくないといけません。また、メルカリのマーケットプレイスは出品する側と購入する側が、どちらもコンシューマー(CtoC)であることも特徴です。両者が干渉しあって需給バランスが動くだけでなく、お互いが逆側の立場になることもある。例えば「売る側」としてアプリを開いたタイミングで、欲しかった商品が出品されていることを知って、つい「買う側」になってしまう、など。CtoCの本質的な難しさなのですが、そこに面白さがあると思っています。

——社会のトレンドを鑑みながら、複雑に影響し合う購買行動を分析することが求められるんですね。

@osarin:そうですね。そこが社内やプロダクト内のデータのみを扱うアナリティクスとの違いです。前職のゲーム会社の例を出すと、「ゲームのルール変更」という“神の手”によって、利用者の行動をある程度コントロールすることができます。難易度を下げれば、課金額の少ないプレイヤーが楽しみやすくなるし、逆に難易度をあげれば、重課金者が有利な環境を作れる。しかし、扱うデータが生活に根付いているメルカリでは、そう簡単にはいきません。メルカリの場合は「ゲームのルール≒社会のルール」であり、影響する要素があまりにも多いからです。しかし、「コントロールできない」で終わりにはできません。Analyticsチームには、そうした難しい条件をクリアしていくことを求めています。

@shuichi:経済学で有名な「神の見えざる手」。僕らの役割は、ある意味それに近づくことなのかもしれません。メルカリは、サービス提供者側が商品の在庫を常にコントロールすることはできないため、需給バランスが勝手に擦り合うことはない。そこをなんとか調整しながら、お客さまにとってより良い価値の交換を実現することが、Analyticsチームの存在意義ですし、社会にとって必要なマーケットプレイスの構築への貢献だと思います。

飯田修一(@shuichi)

「過不足ないデータ分析」を盛り込んだ、精度の高い意思決定プロセスの構築

——チームの存在意義を語っていただきましたが、実際に社内においてはどのような役割を担うのでしょう?

@shuichi:わかりやすく言えば、「意思決定の質を上げること」です。事業の特性上、データから因果関係を正確に把握するのは難しいので、誰でもバイアスをもとに意思決定してしまう可能性が常にあります。データをもとにフラットな目線を取り入れることは、客観的に議論する助けになる。

@osarin:shuichiさんが「わかりやすく」という言葉を使ったのは、その奥にもう少し本質的な価値があるからだと思います。そもそもメルカリはデータドリブンのカルチャーがある会社で、どんな意思決定においても必ずなにかしらのデータを用いています。ですから、「意思決定にデータの客観性を入れる」だけでは価値発揮にならない。大切なのは、「どこまでデータを深掘りすれば、信頼に足る意思決定ができるか」ということです。時間的な制約が常にあるなかで、大量のデータをどこまで深掘りすればよいか、どこから先は判断や感覚で意思決定すれば良いか、その根拠や信頼の土台であって欲しいと思います。

——データ分析をするのは当たり前。そのうえで、あえて感覚的に意思決定したほうがいいところを明確にする、と。

@osarin:例えば、プロダクトのUXにおいては、「いちユーザーとして見て、文句なしに必要」と思えるところがあるんですよ。そこにわざわざ複雑なデータ分析を入れるのは効率的ではなく、PMやデザインチームなど関わるメンバーの経験にもとづく“感覚”で意思決定したほうがいいはず。一方で、「これ盛り上がりそうだよね」と思っていたマーケティング施策が、全く意味をなさなかったことがデータによってわかることもあります。そのケースは、感覚に頼るのではなくデータを活用すべきです。

そんな試行錯誤から見えてきたのは、「データを活用すべきか否か」と「どのタイミングで活用すべきか」を考え、決めることが大事だということ。タイミングとは、施策を意思決定する前に分析に重点をおくか、実行した後の振り返りに重点をおくかです。それぞれのプロジェクトにおいて、どのタイミングで、どう分析するか、あるいはしないのかを見極めなければいけません。

長利一心 (@osarin)

@shuichi:そう考えると、Analyticsチームの役割は「意思決定の精度を上げること」だけではなく、「精度の高い意思決定プロセスを作ること」と言えますね。

——過不足ないデータ分析を盛り込んだ意思決定プロセスを構築するということですね。具体的な実例はありますか?

@shuichi:先ほどのマーケティング施策の失敗から学び、投資判断プロセスにAnalyticsチームが深く入るようになりました。また、プロダクトの施策においても、プランニング段階から入っています。過去の施策の結果を踏まえて想定される効果を事前に評価するんです。その分析結果をもとに、PMと一緒に優先度を判断しています。もちろん、こうやってきちんと入り方が決まっている領域もあれば、まだこれからの部分もあります。

@osarin:マーケとプロダクトの分析が重要視されているのは、経営から見ても正しい優先順位です。経営の2大リソース「お金」と「人」を一番使うのが、マーケとプロダクトですから。その領域の意思決定に、もっとも高度な分析が求められますし、定量的なファクトも必要です。Analyticsチームには大いに価値発揮をして欲しいと思っています。

「市場データ×内部データ」で新規事業開発に貢献

——社内外におけるAnalyticsチームの存在意義が理解できました。では、目下注力していることを教えていただけますか?

@shuichi:プロダクトにとってもっとも重要な「継続率」の向上に取り組んでいます。メルカリはサービスのリリースからかなり時間が経っているので、アーリーアダプターの割合が減り、マジョリティーの方が増えている。そうした方々は、プロダクトに深い愛着を持つというより、カジュアルに使えることを好みます。他の選択肢が増えると移ってしまう人もいる。データからインサイトを抽出して、継続率を向上させることが目下の課題です。実際、「この属性のお客さまのロイヤリティが高い」という分析結果を、マーケティング施策の根拠づくりに使ったりしています。

@osarin:Analyticsチームがそうした重点領域に集中できるようにするためにも、メルカリ全体としては、いわゆる「データの民主化」を進めています。かつてのメルカリは、Analyticsチームに分析の依頼を集中させていました。しかし、最近はありとあらゆる業務にデータ活用が求められるようになったため、ニーズが多く、Analyticsチームだけでは対応するのが難しくなっています。また、分析の中にはAnalyticsチームのような高度な経験やスキルがフル活用されないものも多い。Trust & Opennessを掲げるメルカリは、多くのデータが社内で公開されているので、適切なデータを引っ張ってくれば、メンバー自ら分析もできるはずです。同時にメンバーの定量的な分析スキル向上も期待できると思っています。そんな背景から、メンバー自身がデータ分析できる状態を目指しています。

——新規事業にもAnalyticsチームは関わっていますね。既存サービスのグロースと新規事業における役割の違いはありますか?

@shuichi:本質的な違いはありませんが、使うデータの規模感によって少し変わるように思います。データアナリストは、ある程度のサービスの規模があったほうが貢献しやすいんです。既存のプロダクトの機能改善をして、2%売上を伸ばすほうが、事業の成長には寄与できますから。ただ、新規事業における市場やターゲットの選定に対して、僕らができることは確かにあります。市場データやプロダクト内部に蓄積されているデータ、その他すべてのデータを用いて、総合格闘技のように貢献の仕方を模索していく必要がありますね。

@osarin:一般的に新規事業に求められるデータ分析の役割は、新しい市場機会を見つけることです。でも、メルカリにおいてはもう少し複雑だと思います。10年間もサービスを継続してきたので、ほとんどの市場機会はすでに見つけているし、なんらか試してもきている。メルカリがこれから注力しようとしている新規事業のなかにも、まったく新しいアイデアではないものもあります。そこで大切なのは、過去に試したアイデアをそれ以上に成功させるための、適切なタイミングを見極めたり、最適な実行の仕方を考案することです。Analyticsチームには「前はうまくいかなかったが、このタイミング、このやり方ならうまくいく」という新しい可能性を見出すことを期待しています。

また、現在のお客さま、もしくは過去に使ってくださっていたお客さまに、メルカリの新規事業を使ってもらえるようにすることも大切です。そのためには、過去のお客さまの行動データから、どのような特性やニーズを持っているかを把握する必要がある。

つまり、新規事業においてAnalyticsチームに求めるものは、「市場機会から新しい可能性を見出す」というマーケットリサーチに特化した分析と、「既存のお客さまのさらなるニーズを発掘する」という内部データの分析の両面です。そのためには、多様なバックグランドとケイパビリティのあるメンバーが、事業グロースのために力を合わせていく体制が必要だと思います。

客観性と強い意志を武器に、意思決定をドライブしていくAnalyticsチームへ

——体制の話が出たので、現在のチームのコンディション、メンバーの特徴などを教えてもらえますか?

@shuichi:今のAnalyticsチームには、エンジニアリング、リサーチ、統計、サイエンス…と、得意領域の違うメンバーが所属しています。チーム全体でマーケットリサーチもやりますし、ユーザーインタビューもします。個人としても組織としても、マクロとミクロ、客観と主観を行ったり来たりできる状態になっているのが、チームの強みです。過去には、経営からの要望やマネージャのカラーによって、サイエンス寄りの時代やビジネス寄りの時代もありましたが、今は全体のバランスを重視してます。

——チーム状況は良好だと。その上で、より理想に近づけたい部分があれば教えてください。

@osarin:これからのAnalyticsチームは、経営をデータで支える以上に、積極的に新しい提案をして「意思決定をドライブ」していくようなチームになって欲しいと思っています。そのためには、客観的なデータだけではなく、誰もやったことのないことに挑戦する強い意志や、主観的なこだわりも必要です。データを根拠に「これを絶対やったほうがいい」「これはやらないほうがいい」という積極的な提案を、プロダクトやマーケにしていく。そんな強い気持ちを持った人が、増えていくといいんじゃないでしょうか。

@shuichi:客観的に分析することと、意志やスタンスを示すことは両立できるはずだと思っています。データで分析しながらも、最後はそれだけでは判断できない部分が必ず出てくるので、そこはスタンスで示していく。分析自体にコミットするのではなく、お客さまの体験の向上や事業のグロースそのものにコミットして、より高い視座を持ちたいと思います。目の前の分析の仕事ばかりに注力してしまうと、どうしても視座が下がってしまうので、なるべくデータの民主化を進めながら、自分自身の意志やスタンスを養う時間を確保し、提案の幅と深さを広げていけるチームでありたいです。

編集:瀬尾陽(メルカン編集部) / 執筆:佐藤史紹

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