グッドデザイン賞W受賞!──メルカード&ビットコイン取引サービスのデザイナーが語る、コンセプトの具現化と“らしさ”の表現

株式会社メルペイと株式会社メルコインが提供するクレジットカード「メルカード」および「ビットコイン取引サービス」が、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「2023年度グッドデザイン賞」(以下、グッドデザイン賞)の保険・金融サービス・システム部門においてグッドデザイン賞をW受賞しました!

これまで、お客さま体験を高めるためのデザインの向上を追求してきたメルカリグループですが、新しいサービスが広く認知され、そのデザインが評価されるのはやはり喜ばしいことです!今回はそれぞれのサービスのデザインをリードしてきた、高山遊(@UT)と東野雅也(@mhigashino)に、いかにしてコンセプトを具現化し、「らしさ」を表現していったのかをうかがいました。メルカリのデザイナーの思考をのぞいてみましょう!

この記事に登場する人


  • 高山遊(Yu Takayama)

    広告制作プロダクションにてデザイナーのキャリアをスタート。インハウスデザイナーとして株式会社Origamiでブランド&クリエイティブ デザインに従事、トヨタファイナンス株式会社ではUX / UI デザイン・ディレクション領域でデザインを推進。2022年4月に株式会社メルペイに入社。プロダクトデザイナーとして、メルペイの体験に関わる幅広い領域のデザインを担当。


  • 東野雅也(Masaya Higashino)

    2006年4月、株式会社キノトロープに新卒デザイナーとして入社。2008年6月、グリー株式会社でSNS、グローバルプラットフォームを担い、シニアマネージャーとしてマネジメントに従事。2014年7月、クービック株式会社にてクリエイティブディレクションを担当。2018年7月、株式会社メルペイに入社。ネット決済、加盟店向けスタートキット、メルペイスマートマネーのデザインを担当。2022年3月から株式会社メルコインに所属。

「メルカード」「ビットコイン取引サービス」それぞれのデザイナーは“メルカリらしさ”をどう表現した?

――グッドデザイン賞W受賞おめでとうございます!本題であるデザインについて聞いていく前に、「メルカード」と「ビットコイン取引サービス」がスタートした背景から教えてください。

@UT:メルカードは、メルカリのお客さまの「売る・買う・支払う」の行動をなめらかに循環させたいという背景からスタートしました。これまで「メルペイ」が担っていた、メルカリの売上金をメルカリの外で使うという役割に対し、メルカードには独自のロイヤリティプログラムである「メルカリご利用特典」を用意し、お客さまの決済の選択肢(決済インターフェース)を増やすことを目的としています。

メルカード
グッドデザイン賞受賞理由:ナンバーレスで必要な情報はアプリで管理し、シンプルなカードデザインという昨今のカードデザインのトレンドと、あえてコーポレートカラーを排し、リサイクル率の高い素材を使用する等、カードに求められる様々な要請を高いレベルでデザインとして融合している点が評価された。

@mhigashino:ビットコイン取引サービスは、「貯蓄から投資へ」という流れの中で暗号資産に興味・関心があるという声が拡大していたという社会的な背景があります。

ただそこには、暗号資産はボラティリティ(価格変動率)の高いリスク資産で、多額の現金投資は「損しそう」とか「怖そう」といったイメージや、手続き上の面倒さといった障壁があります。それらに対し、メルカリアプリ内の慣れた操作で、使わなくなったモノを売って得た売上金や、ポイントをビットコインに替えることで、誰でもかんたん・安心に利用できるサービスを提供しようと考えました。

ビットコイン取引サービス
グッドデザイン賞受賞理由:日本最大のフリマアプリとそれを通した決済事業を営む同社による、既存のサービスとほとんど変わらない操作感で誰でも暗号資産取引を始めることを可能にしているサービスデザインと、「価値の循環」という会社のパーパスを新しい領域にも果敢に適用していく姿勢が評価された。

また、国内の暗号資産業界に目を向けてみると、投資を目的とした一部の方だけが利用するサービスとなっています。そこで「暗号資産を民主化しよう」という考えのもと、暗号資産事業開始を機に、これまで暗号資産取引をしたことがない方にもビットコインを身近にし、国内の暗号資産利用者数を広げ、暗号資産の価値を循環させる世界観をつくろうとしています。

――では、まずはビットコイン取引サービスからデザインで注力したポイントなどを教えてください。

@mhigashino:ビットコイン取引サービスは、まず「メルカリで始める、初めての暗号資産」というコンセプトを設定することからスタートしました。このプロジェクトは長期間になることをあらかじめ見越していたので、途中から関わってくれるメンバーへの説明責任が伴ってくるのでコンセプトを明快にする必要がありました。

このコンセプトは、メルコインのミッションである「多様な価値がめぐる新しい経済をつくる(Circulate your value, anywhere and everywhere)」からブレイクダウンした結果生まれたものですが、「なぜこのデザインなのか?」を言語化できることがすごく大事ですし、自分たちがブレないよう立ち戻れる場所にもなりました。

とは言え、情報設計にはとてつもない難しさを感じました。一般的な暗号資産サービスとは違い、メルカリエコシステムに付属する暗号資産サービスなので、お金の流れが非常に複雑です。ひとつひとつのアクションに対して、「何(誰)が主語なのか?」「対象は何(誰)なのか?」という自問自答を常に繰り返しながら、フレームワークを整理しました。

東野雅也(@mhigashino)

@UT:モノの循環の中に、今あるものを使いやすく取り入れるのはメルカリらしいですよね。既に多数取引所が存在するなかで、ビットコイン一本に絞って挑戦した理由はなんですか?

@mhigashino:そこはメルカリのグループミッションである「あらゆる価値を循環させ、 あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」につながっています。不要なモノを売って、売上金でビットコインを買う、その価値が上がるのか下がるのかわからないけど、上がったときには日本円に替えて、新しいモノが買える…という循環をビットコイン一本にすることで自然につくっていける。売上金を動くお金(ビットコイン)に変えてワクワクしてもらうことを目指しました。

――「メルカリらしさ」を機能に落とし込むために、UI/UX面で工夫されたことを教えてください。

@mhigashino:お金(日本円)の循環の情報設計を大事にしました。「暗号資産事業をメルカリグループがやるなら、どんな形がいいのか」を考えていたときに、ちょうどMercari Design Systemが立ち上げられました。ビットコイン取引サービスは、Design SystemがUIのベースとなっています。

例えば、メルカリアプリのビットコイン取引サービスの「売る」「買う」のボタンの色は同色になっています。一般的な暗号資産取引所の「売る」「買う」ボタンの色は、通例的に赤と緑なんですね。メルカリアプリの中で、初めて暗号資産に触れるお客さまがボタンを見たときに、その違いは意識されないだろうと。それよりも、メルカリで採用されているDesign Systemに準拠した方が、お客さまにとっては認識しやすく、かつ安心して選ぶことができると考えています。

――ビットコイン取引サービスの預かり金額を、「BTC」表示をせずに日本円で表示している理由も、初めて暗号資産に触れるお客さまを考慮して設計されているからですか?

@mhigashino:そうですね。例えば、他社の暗号資産サービスでビットコインを覗くと、「1ビットコイン=400万」という表示がされます。それをそのままメルカリに取り入れたとしても、メルカリの平均的な売上金とケタ数の乖離があって、暗号資産取引を自分ごとにできない。なので、他社の暗号資産サービスは意識せず、あくまで「自分の資産」として持つビットコインを日本円に表示して、メルペイ残高、ビットコイン、日本円の3つの資産が行き来する世界観を目指そうと考えました。

――では、メルカードについてもうかがっていきたいと思います。「ナンバーレスデザイン」や「コーポレートカラーを排した素材(ホログラム)」など独特な特徴が、グッドデザイン賞でも評価されましたね。

@UT:メルカードは「生活に寄り添うクレジットカード」を目指しました。無駄なものを削ぎ落とし、何色にも光るホログラムを施したデザインは、「お客さまの多様な生活スタイルや価値観に寄り添う」というコンセプトがもとになっています。メルカードの体験の中では、メルカリはあくまでも黒子であり、主役はお客さまです。

高山遊(@UT)

@higashino:メルカードの場合、「循環を加速させるためのメルカード」と「ご利用特典を受け取るためのメルカード」のどちらを主語にして進められたんですか?

@UT:表向きは、「循環の装置としてのメルカード」です。でも、それではお客さまには伝わりづらい。両方併せて訴求するとより複雑になるし、サービスのユニーク性を押し出しすぎると「メルカード=クレジットカード」だと伝わらなくなると思っていて。正直、正解は今でもわかっていません。今後のチャレンジだと捉えています。

「メルカリ」の体験で一番を目指すため、「新しい概念を生み出さない」

――ここまでのお話を振り返ると、どちらのサービスも「お客さまに本当に必要とされるものをつくる」ということと、「メルカリのミッションとの一貫性」の両面を考慮した情報設計が大変そうだと感じました。リリースまでに苦労したこと、そしてそれをいかに解決したのか教えてください。

@mhigashino:このプロダクトを任せていただいたとき、「このサービスは本当に求められているのか?」「メルカリグループが暗号資産取引をやる意味って何だろう?」と、僕はずっと考えていました。

以前に担当した、「メルペイスマートマネー」のプロジェクトでも、「メルカリでお金を借りられる意味って何だろう?」と同じような壁にぶつかっていて。その疑問に向き合っていく中でわかったことは、「良し悪しは自分たちが決めることじゃない」ということ。暗号資産も貸金も、使う・使わないの判断はお客さまがすることであり、その「選択肢そのもの」がお客さまにとっての価値になるはずなんですよね。

@UT:メルカードは、カードを発行することからスタートすることや、新しいプログラムに対して没入してもらうことも考慮して、コンセプトに“多様”という言葉を用いています。ただ、主語がメルカリであることがネックでした。

――だから「メルカリでカードを発行する」「メルカリからカードが届く」「アプリで認証する」といった工程の中で、徐々に自分の色に変えていく設計になっている、と。

@UT:そうですね。徐々に自分の色にパーソナライゼーションされていく形を実現したいと思っていました。メルカリ自体、自分の好きなものが集まっているサービスだと思うので、メルカードも自分色に染めやすいようなデザインになれるよう意識しています。

ただ注意すべきは、メルカードを持っているお客さまとそうでないお客さまとの間で、サービスの優劣が生まれるのかと言うと、そういうことではない。そこの匙加減には難しさを感じました。

@mhigashino:僕だったらメルカリに寄せちゃうかもしれませんね。なんだったらメルカードの存在を感じさせないような見せ方にするかも(笑)。ビットコイン取引サービスって、実はメルカリ上の呼び名をつけてないんですよ。 それはできるだけフラットにして、お客さまに浸透させたいからです。「箱」らしきものをつくってしまうと、やはり「箱」だと思われてしまう。新しい概念を増やしたくないんですよね。

――「新しい概念を増やしたくない」というのは興味深いですね。

@mhigashino:理想は溶け込んでいる状態なんです。ただただ「メルカリの体験で1番良い選択肢だよね」という感覚だけを残せるようにしたいと思っています。UTさんに聞きたかったのですが、グッドデザイン賞の受賞理由にもあったように、あえてメルカリのトンマナを排して、ホログラムを採用したのはどのような理由があるのですか?

@UT:そうですね、先ほども言ったようにメルカードのデザインはやっぱりコンセプトありきなんですね。そのうえで「多様性」や「パーソナライズ」をどのように表現するかを考えて、ホログラムを使っています。

僕自身も「概念を増やしたくない」派なんだけど、物理的なカードとなると「自分が使ってるものはこれだよ」と言える、目印になるものは必要だなと感じていて。

@mhigashino:なるほど、スタイルやファッションの一部である側面もあるんですね。そういえば、僕がメルペイスマートマネーのデザインを担当していたときに、お客さまから「紫のやつね」と言っていただいたことがあって。キーカラーはデザインの1つの要素ではあるけど、それが同時にプロダクトのアイデンティティでもあるんだな、と感じたことがありました。

メルカリ内の新たな体験づくりの鍵は「PMF(プロダクトメルカリフィット)」?

――ビットコイン取引サービスとメルカード、それぞれリリースしてからの反響や手応えなどいかがでしたか?

@UT:メルカードは、全てのお客さまがお申し込み可能となったタイミング(2022年12月1日)から約9ヶ月で150万枚以上発行されて、実績値としてすごく嬉しいですね。カードを申請して、発行されるまでの流れがなめらかであることを「メルカリっぽい」と言っていただくことが多いです。これまでメルカリのメンバーたちが培ってきた、お客さま体験を重視するスタンスをメルカードでも引き継いでいるのかな、と。

とはいえ、僕はまだ完成してるとは思っていません。「メルカリらしさ」と「メルカードらしさ」の合いの子というか、この2つの「らしさ」の間にある体験には、まだ改善の余地があると感じています。

@mhigashino:「PMF(プロダクトマーケットフィット)」って言葉があるじゃないですか。僕は、ビットコイン取引サービスは「プロダクトメルカリフィット」したと思っているんです。リリースから7か月で利用者数100万人を突破したのも想像以上のスピードでした。

今だから言えるんですけど、リリース当日にサーバー負荷を考えて、エンジニアさんと一緒に出社してしていたんですけど、初日はなかなかお客さまが増えなくて、めちゃくちゃ暗い気持ちでした…(笑)。

でも、各種マーケティング施策やPRの甲斐もあって、初月で利用者数10万人を突破して、お客さまに受け入れられたんだなって、ひと安心しましたね。

――最後に、メルカリでフィンテックのデザインに関わることの面白さについて教えてください。

@mhigashino:メルカリはデザインプロセスが柔軟だと思っています。コンセプト設計の言語化など、プロダクトによって必要なプロセスが異なり、最適なアプローチを探してUXリサーチャーとタッグを組んで進めていく面白さがあります。

@UT:そうですね。プロダクトに対しては、裁量というより、責任を持つことができます。「工程としてデザインがある」というより、デザインがプロダクト開発の軸になっている感じですね。それほど会社として大事なものだと捉えられているので、チャレンジしがいがあるはずです。失敗するとめちゃくちゃ凹みますけど(笑)。

@mhigashino:(笑)。責任を持てることはチャレンジングですけど、怖さもありますよね。「本当にこのデザインでいいのか…?」という気持ちは常にありますが、カンパニーで一丸となって進めている心強さも感じています。

@UT:それくらい、自由に、責任を持ってプロダクトに関わることができているってことなんでしょうね。

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