『エコメルカリ便』はアナログなイノベーション——物流業界の課題を「お客さま体験」の観点から変えていく

2024年3月、メルカリの新配送サービス『エコメルカリ便』がスタートしました。大きな特徴として挙げられるのが、利用者の利便性向上と物流業界の課題解決を同時に実現するという点。100サイズまでの梱包材活用で梱包のわずらわしさを解消し、一律の送料設定でわかりやすさを追求。さらには、CO2排出量の削減も期待できる取り組みです。

この『エコメルカリ便』では独自の配送ネットワークを構築し、出荷時の伝票をそのまま配送に使用することで、ドライバーの手間を削減するなど、パートナーと一緒に工夫を凝らしつつ、”やさしくておトク”な配送方法を実現しています。

こうした工夫の裏には、物流業界の慢性的な人手不足をはじめ、さまざまな課題が横たわっていました。

物流業界とIT業界、オフラインとオンライン…カルチャーや常識の違いをいかに乗り越えたのか。キーワードとなったのは、お客さまの「体験」や「感度」でした。このステークホルダーも変数も多いプロジェクトの、ビジネススキームとオペレーションをゼロから構築してきたキーマンたちに1年半の道程を振り返ってもらいました!

この記事に登場する人


  • 上原美佳(Mika Uehara)

    自動車関連の品質・購買の経験を経て、小売業向けのセキュリティソリューションプロダクトのサプライチェーン海外担当を経験。2012年から2021年まで大手米国ECの自社配送ネットワークの設計及びラストマイルサービスの立ち上げに携わる。2022年にメルカリに入社し、現在は輸送ネットワーク開発でエコメルカリ便の全国展開のプロジェクトマネージャーを務めている。


  • 中村拓磨(Takuma Nakamura)

    新卒で食品専門商社に入社し、ロジスティクス部門で倉庫管理業務を担当。担当倉庫のオペレーション改善および倉庫管理システムの改修プロジェクトを経験。2022年にメルカリに入社後、既存サービスのオペレーション業務の改善に従事した後に、事業開発チームに転向。現在はプロダクトチームと共にエコメルカリ便のグロースを企画するベンダーマネージャーを務めている。


  • 岡村淳(Jun Okamura)

    DHLで大手顧客向け3PLサービスマネージャーを経験。その後2007年にIBM、2018年アクセンチュアにて国際物流・SCMを軸にインダストリーコンサルタントとして複数の大規模グローバルプロジェクトに従事。2021年マイクロソフトに入社し米国HQ直属のデジタルアドバイザーとして日系クライアント向けDXコンサル経験を経て2022年にメルカリに入社。現在はロジ領域の新規事業開発チームのマネージャーを務めている。


物流業界の課題に対して、自分たちでサービスをつくることからはじまった『エコメルカリ便』

――まずは『エコメルカリ便』構想からリリースまでにおける、みなさんの役割について教えてください。

@umika:前提として『エコメルカリ便』は、最終的に全国拡大を見据えているサービスです。現在のフェーズは、出品者と購入者の居住地が「一都三県」である場合のみご利用いただけますが、次のフェーズでは「東名阪」へのサービス拡大を目指しています。その中の私の役割は、全国拡大を見据えたスキームが「どうあるべきか」を考えることです。

私たち Business Development チームは、『エコメルカリ便』の構想にあたって新たなビジネススキームを策定しました。具体的には、お客さまから発送されたモノを「どうやって運ぶのか」「どの配送会社さまと協業しサービスを成長していけるか」という大枠の流れとオペレーションスキームを構築し、「いくらで実現できるのか」というコスト構造を組み立てました。

上原美佳(@umika)

@takuma0413:私はumikaさんのサポートとしてチームにジョインして、おもにサービスリリースまでのスケジュール管理、外部との契約締結の部分をリードしていたのですが、現在はベンダーマネーシャーとして、サービスがどうすればグロースするのかを考えています。

@juno:私はDesign&Implementation チームとして、Business Development チームで策定したビジネススキームをもとに、オペレーション設計を担当しました。このプロジェクトは社内だけでなく、複数のパートナー企業が関わるプロジェクトですので、パートナー企業に対してメルカリ側の意向を反映したオペレーション設計のコンセンサスを得る部分に携わってきました。

また、社内のCSと連携してハッピープロセスやイレギュラープロセスを洗い出し、メルカリのCSとパートナー側のCSの間でフラットな役割分担を行ってきました。

――『エコメルカリ便』のコンセプトができあがるまでの経緯を改めて教えてください。

@umika:『エコメルカリ便』構想は、2022年の秋頃から動き出し、およそ1年半でリリースに至ったサービスです。これまでお客さまの発送体験の向上では、ヤマト運輸さんや日本郵便さんと協力しながら取組んできましたが、当時、2024年問題や燃料の高騰による物流業界の変化が目に見えてきたことで、私たちはメルカリのお客さまにとってより利便性の良いサービスを提供し続けられるのか考え始めました。

また、メルカリはこれまで配送のペインを解消する様々な施策を検証してきましたが、それを実現するまでのハードルが高く、解決できていない配送のペインがまだまだ存在していました。

私たち自身がサービスをつくることで、お客さまにとっても、物流業界にとっても新しい価値を生み出せるんじゃないか?という思いがロジスティクスチーム内でふつふつと沸きあがる中、SBS即配さんとパートナー関係を結ぶことができたことで、スタートを切ることができました。

様々な困難を乗り越えて誕生した、“アナログなイノベーション”

――『エコメルカリ便』にはサービス概要以上に、新たなチャレンジが詰め込まれていると感じます。サービスの独自性やお客さまの体験、サスティナビリティなど考えることが尽きない中で動き出しはじめて、どのような苦労や難しさがありましたか?

@takuma0413:最初の壁は「コスト問題」でしたね。どのようなオペレーションを実現させればお客さまに提供するサービス価格を最適にすることができるのかを何度も社内で議論しました。

@umika:発送のタッチポイントの交渉もタフでしたね…。タッチポイントの集荷方法によってコストモデルが変わるし、頭打ちな状況でしたから。なので、交渉のたびにjunoさんチームに具体的なオペレーションを言語化・定量化してもらって、材料を用意してきました。

@juno:発送におけるお客さまのペイン、物流業界の課題、コストの問題など、それぞれの目標を達成するために、私たちのチームは様々な“How”を検討してきました。例えば、「配送業者が取りに来る場所」と「お客さまが発送する場所」にどれくらいバリエーションがあるのか。タッチポイントのパターンを網羅的に洗い出し、その中からコストに見合った新しいオプションを十数パターンを出しました。実現性を考慮していく中で評価を行いましたね。

――なるほど、“How”の検討段階でも変数が多く、網羅すべき事項がかなりあったということですね。では、サービス実現に向けて最もチャレンジングだったポイントについて教えてください。

@juno:メルカリ便には、「完全匿名」という特徴があります。出品者から購入者、購入者から出品者の個人情報が見えない仕様です。これは、ヤマト運輸さんや日本郵便さんが配送時に出品者の個人情報が貼られたラベルを、購入者に届くまでの間に変えているから実現できています。

岡村淳(@juno)

一方、『エコメルカリ便』では、バーコードのみが記載されたラベル1枚が荷物に貼り付けられ、配達まで完了することができます。荷受け時にバーコードを読むと、目的地まで運ぶ流れをシステムが判断する仕組みです。これにより、置き配によって玄関先に置かれてた荷物から個人情報が晒されるリスクを解消することができました。個人情報保護の観点で、業界として大きく前進したと思います。

これまで論理的に考えられてきた仕組みですが、「紙を持って配達する」という既存の仕組みを変えることは難しく、実現・導入までのハードルが高い仕組みでもありました。合意いただいたSBS即配さんには非常に感謝しています。

@takuma0413:コストの観点では、「100サイズまで一律料金格」を実現したことです。既存の宅配サービスはサイズによって金額設定が違うので、できるだけ配送料をかけたくない出品者が箱を小さくする努力をしなくてもよくなりました。

また、「置き配限定」に絞ったことも大きなチャレンジだったと感じます。「置き配限定」というコンセプトがお客さまに選んでいただけるか不安もありましたが、置き配自体はすでに多くの人に選ばれていることは事前のリサーチで分かっていましたので、このサービス設計で挑戦することができました。

@umika:「置き配」自体は世の中に浸透しつつありますが、『エコメルカリ便』の場合は、代替え品のない唯一の商品を「置き配」でお届けするわけですから、BtoCよりもお客さまに利用してもらうハードルは高いと思います。『エコメルカリ便』のコンセプトに共感されたお客さまの期待に応えられるようにサービスをブラッシュアップしていきたいです。そして私たちは今後、お客さまの「使ってよかった」という声とその信用の輪をより大きく広げていきたいと考えています。

――テックカンパニーであるメルカリが、文化の異なる業界と手を組んで新たなチャレンジができた要因は何だと感じますか?

@takuma0413:物流の知見が深いメンバーが集っているからです。私はお二方に比べて経験が浅いので、いつも「話が難しすぎる…!」と感じています(笑)。そもそも、インフラが何もない状態から、オペレーションをつくり上げないといけないプロジェクトなんですよ。これを何の知見もない人が任されたとしたら、1年かけても何もできないと思います。

私はここまでの流れを、サービス設計はもちろんのこと、リアルな輸送のオペレーション設計までもできるスーパーマンたちから生まれた「アナログなイノベーション」だと捉えています。

中村拓磨 (@takuma0413)

@umika:褒められちゃいましたね(笑)。でも実際、すごく難しかったと感じます。一番苦労したのはお客さま体験のつくり方です。

BtoCの場合は、倉庫や工場から荷物が配送されることが分かっているので、「1対n」の考え方ができるんです。バルクでたくさん運ぶことができます。ですが、『エコメルカリ便』はCtoCなので「n対n」の考え方でなければならない。発送のタイミングが違えば、お客さまの体験、感度も違います。例えば、お客さまが今すぐに欲しい商品なら、お客さまが求めるスピード感で応えなければいけません。

@juno:オペレーションを設計する立場からすると、『エコメルカリ便』の構想当初は「必ずしも速くなくてもいい」という考え方がありました。なので、プロジェクト中盤までチーム内でのコンセンサスが固まりきらずにいたんです。

しかし、お客さまの「体験」や「感度」のようなキーワードが頻繁に出てくるうちに、リードタイムへの意識が強くなりました。それからは、SBS即配さんと何度も膝をつき合わせ、既存の配送企業と同じレベルのサービスを提供するにはどうすればよいのか、複数の視点で確認しましたね。全く文化の違う会社でつくっていく事業だからこそ、しっかりとした一枚岩(コンセンサス)をつくっていくことを意識しました。

「突破力」こそが、エコメルカリ便を進化させていく

――最後に、『エコメルカリ便』は今後どのような未来を構想しているかを教えてください。

@umika:直近だと、東名阪の拡大ローンチが2024年6月19日に開始され、今夏には東名阪に設置されているすべての『スマリボックス』から発送可能になります。

その先のフェーズでは、発送のタッチポイントを増やす予定です。具体的には、自宅から発送できる仕組みを検討しています。アプリで登録した住所の玄関先からの発送を実現したいです。また、置き配ならぬ「置き発送」が実現できれば、全国のお客さまがタッチポイントに出向かなくても発送ができるようになるので、配送ネットワークを徐々に拡大することを目指して走り続ける予定です。

@takuma0413:私は、『エコメルカリ便』をお客さまにとって当たり前の発送方法にしたいです。そのためには、「体験」を磨いていくべきだと考えています。まだまだ“How”が詰めきれていないと思っているので、ご利用いただいてるお客さまの声をしっかりと見極めてサービスに反映していきたいですね。直近だと、『エコメルカリ便』がグロースしていくために解決しないといけない課題とソリューションをいち早く解明して実装しようと思います。

@juno:『エコメルカリ便』の現在地をマラソンで例えるなら、まだ「履く靴が決まった」くらいの状況です。東名阪への拡大で、ようやく「靴紐を結んだ」状態になります。個人的にはフルスペックでサービス展開ができて、やっとマラソンに参加できると思うんですよね。

現在の限定的な制約を掛け合わせると、まだまだ利用者のパイが小さい状況ですので、広げていくことが急務となります。そうすると、配送ネットワーク構築によって地域格差がなくなったり、運ぶモノのサイズの制限がなくなる可能性もあるわけです。今、私たちはどれだけ良いスタートをきるための準備をしていけるのかが重要だと感じます。

@umika:まだまだ未来は大きく語れると思います。ここまで一緒につくってきたメンバーを見ると、「突破力」を持つ人ばかりだと感じました。いろいろな会社のいろいろな工程、いろいろ人がいるので、壁はたくさんあって、その高さもそれぞれ違う。それを突破する推進力がプロジェクトを進める上で最も大事ですし、そんな力を持つメンバーたちと『エコメルカリ便』を進化させていきたいと思います。

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