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メルカリの研究組織R4Dはどんな山を登るのか? 研究者兼起業家・尹祐根氏✕R4Dマネージャー対談

2017年12月に発足したメルカリの研究開発組織「mercari R4D(以下、R4D)」では、メルカリグループのサービスや、将来的な事業におけるイノベーション創出を目指し、量子コンピューティング・ブロックチェーンをはじめとした領域で研究開発を行っています。

2019年9月、社外の有識者の視点で、研究開発に関する意思決定プロセスを強化していくことを目的に、「研究開発アドバイザリーボード」を設置。ボードメンバーには、Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング」に2年連続で10位入りする起業家であり、現在は産総研・人工知能研究センターでロボット研究に従事している尹祐根(ユン・ウグン)氏にもメンバーに就任いただきました。

起業経験もある研究者・尹氏が考える、「これからの企業内研究所が目指すべき姿」とは?R4Dのマネージャー・髙橋三徳との対談をお届けします。

研究開発アドバイザリーボード設立の背景

髙橋:R4Dは2017年12月に発足した、メルカリの研究開発組織です。設立当初からいろいろな研究機関を含めて、外部と連携しながら研究開発を進めてきたのですが、研究実績の蓄積や知見も少なく、試行錯誤していました。そこで、知見のある外部の先生方からアドバイスをいただきたく、今回R4Dボードを立ち上げました。尹先生は産総研での研究開発を続けながら、起業もされており、研究成果をビジネスに繋げることに第一線で取り組んできたバックグラウンドがあります。R4Dではロボットというハードウェアについても、事業についても知見がある方からアドバイスをお願いしたいと思い、今回ボードメンバーに就任いただきました。

:私の考えとしては、ロボティクスや情報通信系の研究者は、研究実績を積むだけではなく、その成果を外に出し、ビジネスに繋げて、世界で戦えるような事業に成長させるところまで取り組まないと意味がないと思っています。メルカリはユニコーン企業と呼ばれ急成長してきた企業ですが、グローバルでの成功という観点ではまだまだ道半ば。日本発で世界を見据えた成功を目指す企業に貢献できればということで、今回研究開発部門のアドバイザリーという形で協力させていただいたのです。

尹祐根氏(研究開発アドバイザリーボードメンバー)

R4Dは「企業内研究所」である

髙橋:現在R4Dで扱っているテーマは、ブロックチェーンや量子コンピューティング、ロボティクス。プロダクトでの技術活用が進んでいるAIも、R4Dで研究開発を進めていきたいと考えています。2017年12月の立ち上げ時、R4Dは「日本を代表するテックカンパニーを目指す上で、技術で差別化するフェーズになってきたのではないか」という課題感からスタートした背景があります。研究開発組織としてはまだまだ未熟なので、改めてビジョンとロードマップをブラッシュアップしている段階です。

:ハードウェアやブロックチェーンを企業で研究し続けることって、本当に大変ですよね。例えば創薬の分野はある程度、研究開発から製品化までのエコシステムが確立されています。でも、ハードウェアやブロックチェーンの研究開発はエコシステムがありません。また、ハードウェアは事業化まで10年程度の時間軸を想定する世界。しかし、IT企業にとっての10年は長すぎるといった時間軸の問題もあります。研究対象によって時間軸の中で何をどう進めていくかを整理して、順番に取り組まねば、うまくやるのが難しいと思います。

髙橋:IT企業はまだ新しい分野であり変化も激しいので、研究開発と事業の時間軸の違いは難しいですね。

:産総研のような研究所と、R4Dのような企業内研究所でもまた違いますよね。なぜメルカリが研究開発を行いたいのか。どういう手段をとり、どうやって事業に繋げていきたいのかなど、全体像をしっかり描くことも必要です。もちろん、経営陣もコミットしながら研究開発のロードマップを描いていかないといけません。

髙橋三徳(mercari R4Dマネージャー)

髙橋:それは、いろいろな企業内研究所が課題として感じている点だと思います。

:経営の風向きが変わったときなど、研究開発はコストセンターとして予算を削減されやすいんですよね。でも、研究開発は財務状況によって左右されるべきではありません。研究開発は、常に未来を切り開く手段であるべきだと考えています。この分野は、研究領域がビジネスからあまりに遠いとうまくいきづらいので、研究テーマも含めてしっかり設計していく必要があります。まず手探りでスタートするのは良いですが、きちんとビジョンやロードマップを確立していかないと、いつまでたっても研究者は事業にコミットしないよね、という話になってしまいます。

髙橋:たしかに、研究者に何を期待しているのかを、きちんと会社として示すことは重要ですよね。

:研究者が活躍するためには、「どの山を登るのか」を示さねばなりません。そして、登る山を決めるのは、研究者の仕事ではなく、起業家・経営者の仕事。企業内研究所において、どの山を登るかはすごく大事です。登る山が決まれば、研究者はどうやって登るのかを研究するんです。

研究者の次のキャリアを、企業内研究所としてどう支援するか

髙橋:尹先生がライフロボティクスを創業された際、研究者として企業経営をするのはどういった部分が大変でしたか?

:まず、研究コミュニティと起業コミュニティの断絶が挙げられます。研究と起業コミュニティを繋ぐチャネルがなく、相談先もない、すべてのことが手探り。誰を信用すればいいのかもわからない。ハードウェアのロボット分野はスタートアップ界隈から縁遠いので、その見極めや人脈の開拓については特に難しかったですね。

髙橋:今の話を伺って、コミュニティの断絶のような問題は、我々のように事業会社で研究をすすめることで、研究者のビジネス機会を増やすことにつながるのかな、と感じました。また、研究者には仮説検証の能力があります。事業が一度当たればそれで良し、ではなく、研究開発を通じて再現性を高めることで、ビジネス的な側面でも貢献できるのではないか、と考えています。

:私も、研究者は起業家にも向いていると思います。起業家も、研究者も仮説を持ち、それを検証していく。研究開発はスタートアップと同じような側面がありますね。

髙橋:現在R4Dでは3〜5年後のメルカリに実装できるテクノロジーを研究開発対象としていますが、例えば「5年後のテクノロジー」は、当然ですが2年後には「3年後のテクノロジー」になり、4年後には「1年後のテクノロジー」になっています。そのタイミングごとに、きちんと事業化を考えなければならないと思います。

:最近の若い研究者には、「事業化まで自分でやりたい」という意思を持つ人も増えています。私は、事業の立ち上げまでは、研究者自身でやるのがいいと考えています。なぜなら、研究内容を一番理解しているのは、研究者だから。そして、研究成果をビジネスに接続して、研究者としてのキャリアを終わらせるわけではなく、事業が立ち上がった後に、再び研究の世界に戻ってくればいいと思います。こうしたサイクルを経ることで、次の研究をするときには新たな世界が見えてくる。ビジネス化する際に必要なことを研究できるようになり、意味のない研究はしなくなる。そこまでしないと、社会実装なんて到底できません。

髙橋:そうですね。企業内研究所として、研究者のアカデミックな面だけではなく、ビジネス面でのキャリア形成を支援することも、考えていければいいかもしれません。

これからのR4Dが目指す「山」とは

:今、R4Dが目指したい山ってどんなところなんでしょうか?

髙橋:R4Dとして目指しているテーマの1つは、価値交換です。これまでは大量生産・大量消費の社会でしたが、メルカリが成し遂げたいのは、本来捨てられていたモノも含めて、必要なモノが、必要な量だけ、必要な人のもとに巡っていく循環型社会の実現。値段がつかなかったようなものにも価値がつく。そうした経済学的な領域の研究も、今後はやっていきたいと思っています。現状研究を進めているブロックチェーンは価値交換というテーマと親和性が高いですし、量子コンピューティングの研究開発も行っています。圧倒的な計算力をもつ量子コンピュータが出れば、テクノロジーの世界を大きく変えていくだろうなと思います。

:なるほど。

髙橋:AIについては、メルカリのプロダクトの実装までコミットするAIチームがかなり力を入れて開発しています。その一方で、今後はプロダクト実装という側面だけではなく、研究としても力を入れていきたいですね。今後、研究者の最初のキャリアとしてでも、最後のキャリアとしてでも、R4Dを選んでもらえるような組織にしていければと思いますので、これからもよろしくお願いします。

尹祐根(Woo-Keun Yoon)

ロボット研究者、起業家、投資家。兵庫県生まれ。九州大学工学部卒業、九州大学大学院工学研究科修士課程修了。東北大学大学院工学研究科にて博士(工学)取得。マニピュレーション技術を中心に、遠隔操作・人の技能解析とロボットへの実装・肘関節のないロボットアームなどの研究に約20年従事。東北大学助手、産業技術総合研究所の主任研究員を経て、2007年に産総研発ベンチャーのライフロボティクスを創業。同社で、15億円の資金調達を実施しつつ、世界で唯一、肘のない協働ロボットCOROを開発し、販売。2018年に同社をファナックに売却し、完全子会社化。2018年から産総研に復帰。

髙橋三徳(Misato Takahashi)

mercari R4D、マネージャー。2007年に株式会社Speee創業、取締役に就任、2010年楽天株式会社入社、国際版の開発や市場アプリの開発をリード。2011年株式会社スポットライトCTOに就任、2013年に楽天株式会社に売却、退社後、スタートアップの支援や大手企業のコンサルティングを行う。2017年8月よりメルカリ。2019年3月より現職。

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