あらゆる人の多様な可能性を引き出すために、メルカリはいかに永続的な組織づくりを目指すのか——山田進太郎×篠田真貴子

2023年は、メルカリにとって節目の年となりました。創業から10年を迎えた2月に「あらゆる価値を循環させ、 あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people )」という新たなグループミッションを策定し、7月にはサービス開始から10年を迎えました。また、上場から5年というタイミングでもあります。

次の10年にメルカリはなにを目指し、事業の成長によって環境や社会にどのようなインパクトをもたらしていきたいと考えているのか。メルカリグループとしてのESGに対する考え方、組織の永続的な成長のためのガバナンス、新たなグループミッションのキーワードである「Unleash」の意味するところなどなど…メルカリ代表取締役 CEOの山田進太郎と、メルカリ社外取締役(独立役員)篠田真貴子の二人が、さまざまな切り口から企業の存在意義と実現すべきミッション、そして未来への約束を紡いでいきます。

この記事に登場する人


  • 山田進太郎(Shintaro Yamada)

    代表取締役 CEO(社長) 。1977年9月21日愛知県瀬戸市生まれ。早稲田大学卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、株式会社メルカリを創業。2021年7月、山田進太郎D&I財団を設立。


  • 篠田真貴子(Makiko Shinoda)

    慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入社。米ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大学国際関係論修士取得後、マッキンゼー・アンド ・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後ノバルティス 及びネスレにて、事業部の事業計画や予算の策定・執行、内部管理体制構築、PMIをリード。2008年にほぼ日入社、取締役CFO管理部長として同社の上場をリード。2018年に退任後、充電期間を経て、2020年3月エール取締役に就任。「LISTEN――知性豊かで 創造力がある人になれる」監訳。2020年9月より社外取締役(現任)。

メルカリのこれまでの10年、思い描いていたことと現在地

——メルカリが創業されてからの10年、社会には大きな変化がありました。それに伴い、メルカリというサービスは社会にどのような変化をもたらしてきたと思いますか?

山田:メルカリを創業する前に世界一周をした時に、多くの新興国にも訪れました。そこで感じたのは、先進国と同じような生活をすることはリソースの面からもすごく難しいだろうということです。旅を終えて日本に帰国すると、スマートフォンが一気に普及していたので、このテクノロジーを使ってなにかできないかと考えました。フリマアプリ「メルカリ」は、限りある資源をテクノロジーの力を通じて循環させられたら、より豊かな社会をつくることができるのではないか?という問いから生まれたものです。ただ最初はモノを売り買いする楽しさを伝え、世に広めていくことを重視して、環境やサステナビリティについてのメッセージを特に出さず、一人でも多くの方にサービスを利用していただくことに注力していました。

スマートフォンをひとり1台持つ時代になり、少なくとも日本では、それを使って個人間でモノを売り買いする営みが普通に行われるようになったと思います。モノを売り買いすることで得られる喜びや面白さは、多くの人に体験いただけたと考えていますが、これはある意味「失われた営みが元に戻った」ということでもあると思います。

山田進太郎

——「失われた営み」ですか?

山田:かつて、物々交換という形でモノを交換し合ったり、個人間での売り買いがなされていたりが日常的に行われていました。

現代は大きな資本のもとにモノが市場に供給され、また多くの人が自分が仕事をした対価に給料が支払われるという時代です。そうした状況で、自分にとって不要になったモノを売ってお金になり、それによって感謝されることは新鮮な驚きだったと思うんですね。しかし人類にとって、モノの交換・売買は根源的な営みだと言えますし、メルカリを通して根源的な楽しさを体験することによって、多くの人が継続してサービスを使ってくれることにつながっていると思います。

——2023年は創業、そしてサービス開始から10周年であり、上場から5年という節目のタイミングでもあります。上場時の新聞広告では3つの領域への投資を継続すると宣言していましたが、これまでの歩みを振り返って成果をどう評価していますか?

山田:成果を振り返る前に、まずは3つの領域への投資ついて触れられたらと思います。上場時の新聞広告では、メルカリの事業にとってコアになる「人」「テクノロジー」「海外」への投資を継続すると宣言をしました。

日本経済新聞に掲載した上場広告。「創業者からの手紙」と題した山田のメッセージと、野球界で世界へ挑戦した第一人者である野茂英雄選手の写真によって構成されている。

当時は、しっかりした収益基盤は国内のメルカリアプリのみだったため、他の事業の柱を作っていく投資に舵を切るフェーズでした。そのような背景があり、「海外への投資」としてUS事業を強化し、テックカンパニーとしてグローバル基準のものづくりをするための「テクノロジー」や「人」への投資を積極的に行っていく必要がありました。

5年経って、これら3つはある程度確立したと思ってはいます。とりわけ「人」への投資は強化され、連結従業員数は2倍近い数になりました。「テクノロジー」もフリマアプリの磨き込みを続け、Fintech事業を立ち上げ、直近でいうとメルコインやメルカードのリリースなどもありました。また、生成AI/LLMなどの新しい流れも出てきていて、メルカリグループ内においても多くの用途で活用される可能性を感じています。USも今は向かい風ですが、年間1500億円近くの流通というかなりの規模のサービスにはなってきているし、これから一層グローバルテックカンパニーを目指していくという意味ではポテンシャルはとても大きい。現在、日本におけるメルカリ利用者数は2,200万人ちょっとで、仮に日本の全人口がメルカリを利用したとしても、ポテンシャルはあと6倍ぐらいしかないわけですが、グローバルで考えたらまだまだチャンスがある。その礎を築けたことが大きかったと思います。

篠田:社外取締役として関わってきたなかで特に感じるのは、高い目標を掲げて野心的に事業を創っていくという勢いを維持しながらも、同時に事業と組織を成熟させてきた5年間だったということです。

「サステナビリティ」という考え方は、上場時の5年前にはあまり注目されていなかったと思います。上場企業に対して、社会から急速に期待されるようになったダイバーシティにしてもそうですが、メルカリの場合は事業にDNAとして埋め込まれているということを改めて自己認識をして、社会からの期待に応えるのにふさわしい自分たちであろうと、スピード感を持ちつつ地道な努力を重ねてきたように見えます。

加えて、2020年からの3年は社会全体がコロナの影響を大きく受けました。マクロな視点でいうと2022年以降は戦争による政情の不安定があったり、金利が大きく動いたりと、社会の状況が大きく変わりましたよね。メルカリというまだ若い企業が大きな外部環境の変化にさらされ、正面から荒波を乗り越えてきたことが、勢いのあるベンチャー企業から成熟した企業への成長を遂げることに大きく寄与したと思います。

改めて言語化された自分たちの根幹

——これまで3年にわたって毎年リリースしてきた「サステナビリティレポート」が、今年から 「Impact Report」に名称変更されました。その背景や意図を伺いたいと思います。

山田:元々サステナビリティレポートは、メルカリのサステナビリティに関する活動報告を中心にまとめていました。当時はESGという言葉が浸透するタイミングでもあったので、メルカリとしてもESGをある種のフレームワークとして捉えて、サステナビリティレポートもESGについてフォーカスする形になっていきました。しかし、「サステナビリティ」というと、どうしても“Environment(環境)”に注目が行きがちです。メルカリとしては“Social(社会)”と“Governance(ガバナンス)”にも力を入れて進めてきたので、環境や社会に対するインパクトを与えていくという決意のもとに「Impact Report」という名前に変えることにしました。

そもそもメルカリの事業はESGとの親和性が高いと思っていて、自然に推進してきているところがあるのですが、ESGというフレームワークを使うと「EとSとGがあって、そこにマテリアリティがあって…」というような形で、自分たちが大切にしていることがソリッドにまとまりやすくなります。今回はグループミッションの策定に伴い、3〜4ヶ月かけてマテリアリティについても構造からしっかり見直していきました。結果としてすごく幅広く網羅的に議論ができたと思います。

篠田:議論過程において特に印象深かったのが、「メルカリを使うことの楽しさはマテリアルじゃないのか?」という話が出て、それが結果的にグループミッションの「Unleash(解放)」という表現につながっていったことです。単にフレームワークに当てはめて、義務感から体裁を整えようとする議論とはまったく質が異なり、メルカリがメルカリとして事業をつくるにあたって、何を大事にすべきなのかということに立ち返っていたのが素晴らしいと感じましたね。

——なるほど、ソーシャルグッドというか社会善的なところに議論が向かいやすいと思いますが、「楽しさ」というところにメルカリという企業のあり方が現れてきたのかもしれませんね。

篠田:楽しさも社会善だよね、という確認が自分たちの中でできたように感じます。

篠田真貴子

「この世にメルカリが存在する意味」を示したグループミッション

——2023年2月には、「あらゆる価値を循環させ、 あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people )」というグループミッションが新たに策定されました。その中でメルカリの存在意義が改めて言語化されたのではないでしょうか?

山田:そうですね。これまでのミッション「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」は、「何を達成するのか」という“What”の部分にフォーカスしていました。しかし、事業が多角化するにつれて、従来の「世界的なマーケットプレイスを創る」では事業の実態を表現しきれなくなってきました。

そこで「なぜ、私たちはメルカリとして活動するのか?」という本質的な問い、つまり“Why”に立ち返り、世界中のモノやコト、そしてあらゆる人の「まだ見出されていない可能性」を引き出すためなのではないかという結論に至りました。「あらゆる人の可能性を広げる」ことが最も重要であり、そのための基盤として「あらゆる価値の循環」の実現を目指していくことを改めて言語化することができたんです。

——社外取締役である篠田さんは、メルカリが果たすべき役割をどのように捉えられていますか?

篠田:企業は単にサービスを世に出すとか、従業員を雇うということだけではなく、社会にとってポジティブな存在になっていくべきという期待が強くなっています。それに応え続けることが企業の存在意義につながると思うんです。

また、企業の責任というものは関わってる人たちだけが「いい会社だね」と言ってれば良いというものではありません。特にメルカリのように自分たちが貢献できる領域を野心的に広げていこうという会社であればあるほど、多様なステークホルダーに納得していただけるように自分たちの活動をシャープに言語化して、実践していく必要がある。厳しいフィードバックを受けた時には是正していく、そういうことも含めて言行一致させていくこと、そして透明性が求められます。

このグループミッションによって、「この世にメルカリというものが存在する意味」を自分たちなりに示したことで、さまざまなステークホルダーとの信頼の起点となるものをつくることができたと思います。

ミッション達成のために重要なのは永続的な組織づくり

——「言行一致」や「透明性」という話が出ましたが、そうした社会からの要請がある中で「Go Bold」に取り組んできたことはなんでしょうか?

山田:組織のガバナンス改革にはGo Boldに取り組めたと思います。ミッションやロードマップの議論をしていく中で、最近よく考えているのは、メルカリをどう永続的に成長していける企業にするかということ。そのためには自分がいなくても成長していく企業にしなければならない、そういう組織のメカニズムにしていく必要があると考えています。ミッション策定や指名委員会等設置会社への移行などはその象徴としてはあるんですけども、それ以外のあらゆるところで個人に依存しないメカニズムも作っていくことを決めて取り組んでいます。

一方で、ここ数年は事業面でもっと大胆なことができたのではないかと思っています。コロナや戦争がどうなるか分からないという側面があったので、後付の議論にはなってしまうけれども、振り返ればもっとリスクを取ってGo Boldにやってもよかったんじゃないかな…とも感じています。

——では、次の10年をどう見据えているのでしょうか。

山田:次の10年は、グループミッションの核である「あらゆる人の可能性を広げる」ことにコミットしていきます。そのために必要なのは、メルカリのエコシステムを通じて、あらゆるモノの価値が見い出されること。それによって人々がやりたいことをやりたいだけできる状態が生まれると考えています。グループミッションは10年後に達成すべきものとして策定しているので、理想状態から逆算して、10年後、3年後、1年後という形でロードマップも作り直しています。

私たちは、事業を通じて環境や社会に対してポジティブなインパクトを生みだし続けていくことで環境課題の解決に貢献したいという思いがあり、それを「プラネット・ポジティブ」という言葉で表現していますが、そのためには社会の中でより信頼を構築する必要があります。「社会的な信頼」は、ミッションに向かって進むことで醸成されるものですし、逆に信頼を獲得しなければ、ミッションの達成もできないと考えています。

私は創業者としてCEOを務めていますが、ある種の「創業者プレミアム」で強引に物事を進めることもできます。それが良い方向にも悪い方向に作用することもある、そこはきちんと向き合わなくてはいけない問題です。そう遠くない将来に私がCEOではなくなったときに、ミッション達成に向けて事業をドライブさせ続けていくために、監督と執行を分けることでより健全な経営ができるという考えのもと、最適なガバナンスモデルを志向して指名委員会等設置会社へ移行したいと思っています。専門家も入れながら半年以上にわたり議論し、納得感を持って合意することができました。

篠田:ガバナンス体制については、スピード感を持って意思決定ができたと感じています。やはり、本丸はCEOサクセッサー(後継者)であり、株主の負託に応えて選べる良い仕組みをどう作るかということです。もう少し手前のところでいくと、事業をグローバルに広げていくときに必要な執行体制をスピーディーに作るというところから問題を解きました。結果として日本の会社法の中で一番良い方法を選択することができましたし、問題意識において力を貸していただきたい方々に社外取締役就任を依頼しています。コーポレートガバナンスを強化するという目的をぶらさずに愚直に進めてこられたと思います。

——永続的な組織をつくっていくことは目下の大きなテーマですよね。次代のサクセッサーについて、いま考えていることをもう少し伺いたいです。

山田:これも同じくミッション達成するためにどうしたら良いのかという観点です。そのためには優秀な経営人材が欠かせない。永続的な組織をつくっていくためのメカニズムを考えたときに、サクセッションがとても重要で、それはCEOのポジション以外も例外ではありません。私も含めて、全ての経営メンバーのポジションにおいてサクセッションに取り組んでいます。

それはサクセッサーがいたら、その人が必要なくなるという話ではありません。事業が成長し続け、ミッションの達成に向かっていくときに、いまの経営メンバーにも新しいことや異なる領域を推進することが求められます。新しいことに取り組むのだったら、当然そのサクセッサーが必要になってくるということです。そういうメカニズムが組織にビルトインされているべきということですよね。

僕自身、10年後にミッションが達成されるときに、自分がCEOとしてメルカリを率いる姿はあまり想像できない。個人的な思いとしては、メルカリは常に若い人にも愛されるようなサービスであってほしいし、きっとグローバル化がもっと進んでいるはずなので、多様な価値観を持った自分より若い世代が牽引していくのが良いのではないかと思っています。それはCEOのポジションだけではなく、あらゆるところでそういうことが起こると思っているし、そこで適切な人が次々と出てくるような組織にしていきたいと思っています。

世界中の人々の多様な可能性を引き出す会社でありたい

——では、最後にご自身にとっての「Unleash」をどう考えているのかを教えてください。

山田:そうですね…。私としては個人と会社のやりたいことが一致していて、心から世界中の人々の可能性が「Unleash」されるための会社になれたらと思っています。

私は人の可能性って無限大だとずっと思っているんです。こと身体能力みたいな話だと、人と人には大きな差がないんですよね。身長とか体重は一定の範囲内に収まっているし、一番早く走れる人類でも100メートルを10秒切るくらいですが、健康な人なら20秒もあれば走れる。頭の良さや記憶力とか、様々な能力も同じようなことだと思っている。ただ人の可能性は違います。多様な能力の組み合わせや考え方ひとつで、人生にはとてつもなく大きな違いが生まれてきます。それぞれが生まれながらにして多様な能力を持っていて、それをUnleashすることができたら、みんなが生きがいを持って生きていけるのではないでしょうか。

私自身、若い時は自分になにができるのかわかっていなかったけれど、インターネットと出会って、見よう見まねでサービスをつくったことで、自分の可能性が広がっていた実感があります。もちろん、タイミングや仲間に恵まれてラッキーだったとは思いますが、人の可能性を広げる手伝いができたらとずっと思い続けていたので、それがここに来て一つにつながった感覚はあります。

篠田:自分自身の可能性を広げることって、一人では簡単にできないんですよね。そもそも自分では可能性に気がついてないということも往々にしてありますし、周りとの関わりの中で、初めて可能性に気づき、引き出されていくことがたくさんあると思います。

メルカリのもっともユニークなところは、サービスにも組織にも、その根本的な思想が組み込まれているところですよね。マーケットプレイスには売ってくれる人がいて、買ってくれる人もいるからその価値が出てくるわけだし、そこで価値が循環する。一人ではわからなかった価値がメルカリと関わることで表出される、あるいはメルカリの事業成長とともに新たな可能性を広げる機会が生まれていく。

改めて思うのは、「Unleash」というキーワードは受け取った人が心惹かれて自然と大事にしたいコンセプトになっていますよね。キャンペーン的な押し付けではなく、メルカリの皆さんの礎になりつつあるのではないかと感じます。

山田:あまり耳馴染みのない言葉で、引っかかりがあるから逆に使いやすいというか。「何だろう」と一瞬立ち止まって考えるきっかけが生まれたのかもしれないですね。「Unleash」というワードには不思議な魅力があると思います。

今はどうしても「価値」と「お金」が紐づいていますが、本来は多様な人が多様な価値を持ってるはずです。それが発揮されると自分がここにいてもいいんだと思えるし、生きがいによってより良いものや価値が生まれていく、それこそがまさに「Unleash」という言葉の意味することだと思います。

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