日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏

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「グローバルテックカンパニーを目指すメルカリにとってベストなインセンティブ制度を」ーー。

2018年12月18日。メルカリはインセンティブ制度を刷新し、譲渡制限株式ユニット、通称「RSU(Restricted Stock Units)」の導入を発表しました。なぜ、メルカリは日本では珍しいRSUという制度を選択したのでしょうか。

今回は制度導入のプロジェクトオーナーであるIncentive & Equity Planningのnoseと、People Experienceの高橋寛行にインタビューを実施。日本で初となる一般社員を中心とした1,000人規模のRSU付与を実現するまでの背景にはグローバルテックカンパニーを目指すメルカリの覚悟、そして社員に対する経営陣の強い想いがありました。

メルカリが導入する新インセンティブ制度「RSU」とは?

ーそもそも「RSU」とはどのような制度なのでしょうか?

nose:RSUとは「Restricted Stock Unit」の略で、日本では「譲渡制限株式ユニット(または事後交付型譲渡制限付株式)」 と呼ばれる制度です。簡単に言えば、社員に株式をもらう権利が付与されたあと、一定の勤務期間を経てその権利が確定され、自らの株式になるという制度です。

ーつまり権利が付与された時点で株式がもらえるわけではないんですよね。

nose:そうです。たとえば今、西丸さん(インタビュアー)にメルカリの株式を◯◯株、付与する約束をしたとします。ただし、XX年XX月まで勤務することが条件。この条件が満たされた時点で、はじめて株式が付与されるという仕組みです。権利を付与してから、株式が交付されるまでの期間(Vesting期間)はメルカリの事業成長や企業価値向上のために全社員で取り組み、その期間で得た果実を分かち合う。これがRSUの特徴です。

f:id:mercarihr:20181221135803j:plain新インセンティブ制度「RSU(Restricted Stock Units)」

ーこれまでのメルカリのインセンティブ制度はストックオプション(以下、SO)を使っていました。RSUとの大きな違いは何でしょうか?

高橋:SOに負けず劣らず、RSUは社員にとって経済的メリットが大きいインセンティブ制度だと思っています。SOは、行使価格と株価の差分が社員のメリットになる「値上がり益型」の制度である一方、RSUには「行使」という概念がなく、権利確定時の株価がそのまま全額社員のメリットになる「フルバリュー型」の制度であるという点が一番大きな違いです。

f:id:mercarihr:20181221143705j:plain新インセンティブ制度のプロジェクトメンバー

ーメルカリは2018年6月に東証マザーズ上場を果たしましたが、なぜSOを継続しなかったのでしょうか?

nose:メルカリが採用していたSOは「税制適格SO」と呼ばれるものですが、税的な優遇措置を受けられる以外にも、未上場企業としての相対的に低い企業価値を利用して、行使価格を低めに抑えられるというメリットがあったんです。

ーなるほど。上場すると未上場時のようなメリットがなくなると聞きましたが、これはどういう意味でしょうか?

nose:税制適格SOの場合、ざっくり説明すると株価が行使価額になります。1,000円の株を1,000円で買える権利がもらえても、値上がり分がないので誰も行使しないですよね。一方、RSUの場合はフルバリューでもらえる。1,000円の株であれば、1,000円を全額メリットとして享受できる。当然、会社が負担するコストは大きくなりますが、上場後のインセンティブ制度としては、SOよりもRSUの方が適していると判断しました。

ー「インセンティブは、株式ではなくキャッシュで欲しい」という声もあがりそうですよね。それについてはどう考えましたか?

高橋:前提として、メルカリが定義するインセンティブとは「キャッシュ」と「株式」の総称としています。キャッシュは「それまでの実績や成果に対して、評価を受けて支給されるもの」、株式は「これからの活躍や成果を期待して、支給するもの」。今回、インセンティブとして支給する総額の50%をキャッシュ、50%を株式というかたちで付与することにしました。なぜキャッシュだけでなく株式も渡すのかというと、経営陣の想いとして会社の成長(企業価値の向上)と結果に社員全員でコミットしたいと考えているためです。創業当時から、進太郎さん(代表取締役会長兼CEO)は「成功したときの果実や失敗したときの痛みは、全員で分け合うべき」という強い想いを持っていて。その想いがこの株式インセンティブ制度の根底にあるんです。

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ーインセンティブとは「事業の成長」と「企業価値の向上」にドライブをかけるためのものだと。

nose:おっしゃる通りです。小泉さん(取締役社長兼COO)が「メルカリのミッション達成は難易度が高い」とよく話しますが、達成するためには社員一人ひとりの自覚や責任が必要不可欠だと思っていて。

高橋:言い換えれば、社員一人ひとりの「当事者意識」ですよね。キャッシュは中長期で保有しても価値が大きく変動するものではないですが、株式は大きく上昇するポテンシャルがある。だから、キャッシュではなく株式であることが今のメルカリにとって最適なインセンティブになると考えたんです。

ーなるほど。単純に「株式にするか、キャッシュにするか」という話ではなかったんですね。RSUを導入するにあたり、もっとも大変だった点は何でしょうか?

nose:国内だけでなく、グローバルにRSUを付与することですね。上場して半年に満たないタイミングで、海外を含む社員の大半(1,000人規模)にRSUを付与している企業は日本ではメルカリ以外にありません。RSU自体の導入実績は日本にも数社ありますが、その対象は役員や一部の幹部レベルの社員である場合がほとんどです。

高橋:日本には従業員に株式を付与するというカルチャーがあまりないように感じますが、世界に視野を広げると真逆です。「グローバルテックカンパニー」を目指すメルカリにとっては、当然の選択とも言えますが、そこに至るまでには様々な壁がありました……。

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制度導入までにいくつも立ちはだかる高い壁

ー日本で似たような導入事例がほとんどない状況のなか、グローバルスタンダードな制度をつくっていく。立ちはだかる高い壁を、どのように乗り越えたのかお聞きしたいです。

nose:壁を挙げはじめるとキリがないですが、特に苦慮したものを挙げれば二つですね。一つは、「株式インセンティブの先進国であるUSとの壁」、そしてもう一つが「ローンチ直前に起きた、方向転換の壁」です。

ーでは、まず「株式インセンティブの先進国であるUSとの壁」について教えていただけますか?

高橋:USは株式インセンティブの先進国で、社員が自社株式を保有するのは一般的。法整備やオペレーションの簡素化も進んでいて、株式インセンティブの管理ツールを専門に扱うシステムベンダーまであるような環境なんです。一方、日本ではここ数年でようやく株式報酬や株式インセンティブが広まってきたという状況で、当然この領域を専門とする人材も不足しています。また、証券会社や証券代行など、外部の関係者も整理し切れていない問題があったり、そもそもオペレーションに不慣れな部分も多い。

ー例えば、どのようなハレーションが起こるのでしょうか?

高橋:USで当たり前にできていることが、日本では全然できないんです。例えば証券口座を1つ開設するにしても、USでは数分でオンライン開設できるそうですが、日本はまだまだ紙とハンコ文化の国なので、非常に手間と時間がかかる。ほかにも、記入用紙にミドルネームが書ききれなかったり、一人暮らしの社員が郵便を受け取れずに何度も再送手続きをお願いしたり……。とにかくオペレーションが煩雑で、スタート時点から早速つまずきましたね。グローバルスタンダードを目指す過程で、大小様々なルールの壁が立ちはだかるわけです。

nose:ほかにも少しテクニカルな話をすると、当然といえば当然なのですが、日本とUSでは取締役会での決議事項も違ってくるんですね。メルカリの設計内容で運用しようとすると、その決議が非常に煩雑になり、USのチームメンバーにも手間をかけることになる。USでは不要な決議だから余計に現地のフラストレーションが溜まるわけです。それをUSの経営陣に話したら「そのルールって誰に交渉すれば変えられるの? 変えようよ!」と言われて……要は日本の会社法を変えてくれと(笑)。これはほんの一例で、本当に様々な場面で日本とUSのスタンダートの差を痛感しました。どちらが良い悪いとかではないんですけど、個人的な感覚ではUSのやり方やルールの方が合理的だと感じることは正直多かったですね。

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ー二つ目の壁として「ローンチ直前に起きた、方向転換の壁」がありますが、これは何が起こったのでしょうか?

nose:実は、この上場後のインセンティブ制度の検討は少なくとも2016年には始まっていて……。今から約二ヶ月前にはRS(譲渡制限付株式)という別の制度を間もなくローンチをするところまできていたんですよ。そこから急遽方向転換しRSUになったという背景があって。

ーなんと……! ローンチまで約二ヶ月のタイミングということは、10月下旬ですか?

nose:そうです。忘れもしない、あれは10月23日でした(笑)。ローンチに向け、大詰めを迎えているフェーズで、ジョン(取締役CBO兼US CEO)から、「新インセンティブ制度はRS”U”だよね? もしかして、RSA(Restricted Stock Award・譲渡制限付株式の別称)ではないよね?」と言われて。

ーギリギリまで認識がズレていたということですか?

nose:そうなんです。現場レベルでは当然そんなことはなかったのですが、ずっと私たちが「RS」と呼んでいたのをジョンは「RSU」の略称だと認識していて。それくらいUSではRSUがスタンダードであるということですね。ジョンからは「USでは絶対にRSUを導入したい」「日本はRSA、USはRSUに分けるのも選択肢では?」など、これまでの議論が大きく後退するような意見が飛び出してきました。正直に言うと、日本ではRSUよりもRSの方が圧倒的に導入実績も多いので、当然RSの方が制度として優れているのだろうという一種の思い込みもありました。それから慌てて両方の制度のメリット・デメリットを徹底的に洗い直し、改めて経営陣に説明しました。それこそ退職者が出た場合の会計処理や将来的に会計基準を変えた場合の影響など、いろいろな書籍を読み込んだり、専門家に電話をかけ続けたり、「なんとか今夜中に回答をいただけませんか……」と泣きついたりもしましたね。本当にご迷惑をおかけしました。

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nose:その後、経営陣から「様々な観点から総合的に判断すると、RSよりもRSUの方が良いんじゃないか」というフィードバックがありました。プロジェクトチーム全員が「え、今から変えるの? これまでRSの検討に費やした時間はどうなるの?」という気持ちも正直ありましたが、メルカリの制度設計の内容と、RS・RSUの両制度のメリット・デメリットを冷静に照らし合わせると、ベストな選択はRSUだったんですよね(笑)。

高橋:長い時間をかけて、RSについて議論してきたのを、再度RSUで検討し直すわけです。このプロジェクトには「年内に制度導入」という明確な目標があったので、翌週10月30日の経営会議で決めないと確実に実現不可だなと思いました。それで一気に提案書を書いたのですが、その提案書に「今からRSUに方向転換しても年内導入は間に合う」と、はっきり書いたんですね。

ーえ! すごい自信ですね!

nose:まったく根拠のない自信ですよ(笑)。スケジュールなんて引けてなかったし、証券会社や弁護士との調整も終わってませんでした。それから急いで提案書を書き直しました……。10月28日にメルカリのコーポレート部門の合宿があったのですが、実は夜の宴会前に小泉さんの部屋に集まってプレ提案をしたんです。その内容を経営会議に上程して無事承認されたのですが、本当に怒涛の一週間でしたね。結果間に合ったのでこうやって話せてますが、もし間に合わなかったらと思うと、ゾッとします。

ーまさに背水の陣で臨んだわけですね。

nose:この規模の人数に対して、海外の居住者にもRSUを付与した企業は、調べる限り日本では過去に野村ホールディングスさんのみ。言わずもがな、野村さんはグループ会社に証券会社もお持ちですし、これまでの歴史や知見、グローバルネットワークもある。一方でメルカリはマザーズに上場してまだ半年ほどの企業で、株式インセンティブと言えば冒頭で触れたSOくらいしか知見がありません。そんな状況で、本当に年内までにRSUを付与できるのかと。RSUに限らず、株式インセンティブを有効利用していそうな会社さんにいろいろヒアリングさせていただいたのですが、みなさん準備期間に2、3年はかけられていて……。

高橋:もちろん社内にも制度導入に関する経験者はおらず、何が問題なのかすらわからないし、一つひとつ手探りで進めていくしかない。とにかく未踏の地をひたすら開拓する日々というか。目の前にある一つの課題を解決すると、その影響で今度は違う課題が出てくる(笑)。プロジェクト内で僕はそれを「桐の箪笥(たんす)の引き出しみたい」と呼んでいて、上の引き出しを閉めると、下の引き出しが出てくる状態というか。延々と、すべての引き出しを閉める作業を、幾度となく繰り返し行う……そんなイメージです。

チームを一つに導いた、メルカリのカルチャーとバリュー

ーローンチ間近で大幅な方向転換……さすがに「ちょっと待ってくださいよ!」と混乱しそうになりますが、そこは冷静に最善策を考えたわけですよね。なぜ、すぐに切り替えられたと思いますか?

nose:経営陣だけではなく、プロジェクトチームである私たちも本気で「ベストなインセンティブ制度をつくりあげたい」という意志があったからだと思います。そのベースは全員がメルカリのバリューを体現していたこと、「Go Bold(大胆にやろう)」な決断を「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」なメンバーによって、「All for One(全ては成功のために)」に進めるということが、きちんとできていたからだと思います。

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高橋:このプロジェクトメンバーは株式、人事、経理、ファイナンス、リーガルなど各ファンクションから集められた人たちです。それぞれ専門性が異なるなか、一人ひとりが何をすべきか、自ら判断してコミットしている。目的を達成するためであれば、ミーティングでも思ったことを全員がちゃんと言うし、できない理由よりも、どうやったら実現できるかを考える。僕はこの心理的安全性の高さはとても大きかったなと思います。

ーメルカリのバリューがベースにあるんですね。プロジェクトを進めるなかで、特に印象的だったエピソードはありますか?

nose:青柳さん(取締役兼メルペイ代表取締役)の一言ですかね……。

ーとても気になります。

nose:青柳さんはドイツ証券を経て、グリーでCFOを歴任しています。当然、株式に関する知見も深いわけです。そんな青柳さんからRSUに制度変更するタイミングで、「そもそもインセンティブって何なんでしょうね? ”未来に対して付与する” ということに固執しすぎてませんか?」と言われて。

ーそれはどういう意味ですか?

高橋:もともとプロジェクトチームの大前提として、「株を付与すること=未来の成果に対して支給するもの」と考えていたんです。結果(株価)が出てから渡すのではなく、先に株式(の権利)を渡することで、その価値を高めていこうとする。それが動機づけなんだと。でも、それに固執し過ぎていたからこそ、制度設計や手続きなど、あらゆることに歪みが起きていて。そんなときに、青柳さんから「未来に対するインセンティブって何?」と言われて、ハッとしたことを覚えています。

nose:私もハッとしました。一度、思考がゼロリセットされたというか。青柳さんの言葉を受けて、今まで考えてきたことを一旦忘れ、ゼロから考え直しました。あの時は、「鳥の目で考えよう」が流行ワードになってましたよね(笑)。

一同:(笑)。

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高橋:「そもそもインセンティブとは何か?」「これによって何を実現したいのか?」「経営陣の想いとして、どんなメッセージが込められているのか?」。この当たり前な3つのことを再度ブレストできたことは、とても意味のあることだったなと思います。株式付与という結果は変わりませんでしたが、自分たちがものすごく腹落ちして進めることができました。

新インセンティブ制度における「成功」とは?

ーでは最後になりますが、このインセンティブ制度によってメルカリメンバーの行動や意識がどうなれば「成功」と言えるのでしょうか?

高橋:一言で表すのは難しいですが、僕はメルカリで働く一人ひとりが、今までは自分の見える範囲の仕事の成果に意識が寄りがちになっていたところから、メルカリ全体の中長期的な成果や責任を意識するようになったら、勝ちなんじゃないかなと思っています。

nose:明日や来週の株価に一喜一憂するのではなく、もっと長い視点でメルカリの企業価値向上を意識してもらえるようになれば成功かなと思っています。それは例えば、ローンチを控えているメルペイの成功であり、メルカリUSの成功です。メルカリメンバー全員に「メルカリグループの成長にコミットしている意識がありますか?」と問うたときに、全員から「はい」と返ってくる状態こそ、私たちがこのインセンティブ制度で目指すゴールなのかもしれませんね。

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プロフィール

nose

米国UCLA、京都大学院卒。2009年にデロイトトーマツコンサルティング株式会社(現合同会社)に入社し、タイや日本国内で日系大手自動車メーカーのコンサルティング案件に従事。その後アーンスト・アンド・ヤング税理士法人(現EY税理士法人)に転職し、移転価格コンサルティングに従事。2016年4月にメルカリに入社。国際税務、メルカリUK法人の立ち上げ等を担当。現在は株式インセンティブ制度の設計・運用や株主総会等の株式実務を主に担当するIncentive & Equity Planningに所属。

高橋寛行(Hiroyuki Takahashi)

大学卒業後、新卒で株式会社インテリジェンスに入社し、人材紹介業に携わる。株式会社ミクシィにて人事キャリアをスタートさせ、エンジニア中心の採用に従事。その後、株式会社コロプラの人事労務マネージャーとして新卒・中途採用のほか、制度企画・労務等の人事全般を経験し、2016年より現職。

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Mercari, inc. – Jobs: Incentive & Equity Planning Specialist – Apply online

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