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平時と戦時で経営戦略はどう変化するか? メルカリ、withコロナ時代の「サバイブ論」 #thebusinessday3 イベントレポート

経営やコーポレート部門に携わるビジネスパーソンが知見を共有し合うコミュニティとして、メルカリが主催しているカンファレンス「THE BUSINESS DAY」。2016年からスタートした同カンファレンスは、今年で3回目を迎えました。

今回は、初のYouTubeライブ配信によるオンライン開催。昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、IT企業を中心にリモートワークにシフトするなか、経営・組織戦略や企業の課題は今後どのように変化していくのか。withコロナ時代の成長戦略について、メルカリの各部門責任者が取り組んでいる施策が語られた「THE BUSINESS DAY #3」のレポート記事をメルカンでは、全3回に渡ってお届けします。

最終回は、「withコロナ時代のメルカリ経営戦略」。このセッションにはスピーカーとして取締役President (会長)の小泉文明、執行役員VP of Strategyの河野秀治が登壇しました。新型コロナウイルスは今後の経営戦略(意思決定、事業継続性、企業としての社会への貢献)に、どのような影響を与えると考えているのでしょうか?小泉、河野それぞれの考え、そして経営の視点から実施した各施策の真意を明かしました。

この記事に登場する人


  • 小泉文明(Fumiaki Koizumi)

    早稲田大学卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2006年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月取締役社長兼COO就任、2019年9月取締役President (会長)就任。2019年8月より株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長兼任。

  • 河野秀治(Shuji Kawano)

    執行役員VP of Strategy。ライブドアの投資銀行部門、ゴールドマン・サックス証券とSBIホールディングスによる合弁の投資ファンドを経て、戦略コンサルティング会社である経営共創基盤(IGPI)に入社。その後、起業も経験。さらにGunosyの経営戦略室長として上場を経験したのち、2018年7月メルカリ入社。


メルカリが取り組む「3つのメカニズム」

──これまでのセッションでは、人事戦略やコーポレート部門におけるワークフローのDX化など具体的な施策についての話が多かったです。最後のセッションでは“経営の視点”から、そうした施策を実現するに至った話をしていければと思います。まず、メルカリでは経営力がある状態を、どのように捉えているのでしょうか?

河野:経営がどのように構成されているのか、という話をする際によく使われる方程式があります。これはメルカリが提唱しているものではなく、インターネット業界で語られているものです。経営力は「組織の実行力」「意思決定力」という2つの要素で構成されており、特にインターネット業界は動きがはやく、競争変数も多いので、素晴らしい戦略を描くよりは実行力が大事とされているため、この方程式があります。

河野:意思決定力に関しては、非常に曖昧な言葉なのですが、これ自体も独立の変数ではなくて。例えば、AとBという2つの選択肢があり、Aがベストな選択肢だけれど、組織の実行力においてハンディキャップを抱えているとします。その際、どれだけ優秀な経営者であっても、セカンドベストの選択肢であるBを選ばざるを得ない。

そういった観点から意思決定力に関しても、組織の実行力が大きく影響を与えます。メルカリでは組織の実行力をどう高めていくか、そして意思決定力のメカニズムをどう変革していくかは試行錯誤をくり返してきました。その事例の1つが、調整コストの削減。意思決定力においては、調整コストが増えると組織の実行力が大きく目減りしていく。そのため、メルカリは規模の小さいスタートアップから組織規模を急拡大させてきましたが、その過程で「いかに調整コストを削減できるか」に取り組んでいます。

小泉調整コストとは、利害関係者への説明ですね。メンバーが増えれば増えるほど説明責任も出てきますし、説明するコストも上がってきます。説明だけであればいいのですが、そこに納得感など、その人たちの心や行動を動かそうとすると労力がかかってくる。さらに、人が増えれば増えるほど労力がかかるので、結果的に実行するスピードが遅くなります。この調整コストは、スタートアップが組織規模を拡大するうえで解決すべき課題だと思いますね。

河野:調整コストは「縦」「横」の調整があります。縦は、さまざまな人にお伺いを立てながら物事を決めていくこと。そういった調整事が多いと、意思決定のスピードは極端に落ちます。また、横の調整はチーム間でのボールの受け渡しのこと。ここがスムーズにいかないとオペレーション力が落ちますし、各チームが優先順位に左右されてやりたいことができない状況になる。そうすると、組織の実行力は目減りしていきます。

メルカリではそういったことを“メカニズム”と称して試行錯誤しています。今回はおもに「意思決定モデルの変革」「ルーチン改革」「パラダイムシフト後のニューノーマルに備えた『攻め』」という3つの取り組みについてお話しできればと思います。

河野:まず「意思決定モデルの変革」についてですが、平時と戦時で切り分けて考えるようにしたり、ガバナンスの改革にも取り組んでいます。「ルーチン改革」については、企業活動の大部分はルーチン活動で構成。このルーチン活動をどう硬直化させずに、アップデートしていくか。そのアップデートしたルーチン活動が組織の成長を決定づけます。

「パラダイムシフト後のニューノーマルに備えた『攻め』」に関しては、新型コロナウイルスによって大きなパラダイムシフトが起きた後、もとのワークスタイルに戻るのか、もしくはワークスタイルを変えていくかで、稼げる会社と稼げない会社の2極化し、パフォーマンスする個人、パフォーマンスしない個人にも2極化が進みます。これは間違いなく大きなターニングポイントだと思います。そうした状況下でメルカリが上記の3つの取り組みについて、どんなチャレンジを行っているかを、このあとお話ししていきます。

戦時では、情報と権限を一極集中させる

──意思決定をする立場の2人が「Beforeコロナ」「Afterコロナ」で、平時と戦時という表現をしていますが、どのように意思決定モデルを変えたのでしょうか?

小泉:平時はリーマンショック以降の日本経済のことで、平時においては高度な意思決定がそれほど発生しません。経営者が何を考えるかと言うと、予測可能性なんです。ある程度、自分たちの予測の範囲内で社会が変化していくと、ポジティブな施策も打ちやすい。メンバーの意思決定や会社全体での意思決定としての余地がそれなりにあり、多少間違えたとしても致命傷にならず、問題なく生きていけます。

画面右上から小泉文明(取締役President)、河野秀治(執行役員VP of Strategy)。画面左下は、今回モデレーターを務めた川口萌(Management Strategy Office)

小泉:一方で、新型コロナウイルスの感染拡大などで社会が不況期へ突入すると、一気にサバイブできるかどうかが大事になってくる。意思決定を1つ間違えると会社が沈没するかもしれないなかで、最悪のプランを想定した意思決定が求められます。現場に任せきりのマネジメントが通じなくなり、時には厳しい意思決定をしていかなければいけない。

自分たちも、今はコストを圧倒的に縮小するようなプランニングをしていますし、平時であれば実施していたものを朝令暮改で一気に変えています。ともすると、メンバーたちから「やばくないですか?」「大丈夫ですか?」と思われるのですが、これが危機下での意思決定モデルとして、経営者の頭の中で変えていかなければいけません。戦時は会社の意思決定モデルを変えるタイミングであると思っています。

河野:平時はボトムアップの力を信じ、自律性を重視するためにも、とにかく現場に判断を任せて高速でPDCAを回していくことに注力しています。その一方で、戦略としてトップダウンの選択と集中を行い、勝ち筋を整理していくこともやっています。

例えば、メルカリでは平時から英国事業から撤退したり、子会社や新規事業を止めたりしている。こういった厳しい意思決定を平時でしておく。それによって戦時のときの意思決定の深刻さは変わってくるので、これが平時の戦い方だと思っています。

そして戦時は小泉が話したことそのままですが、とにかく情報と権限を一極集中させて、瞬発的に物事を判断していく。それをしないと生き死にに直結するので、現場の腹落ち感を気にしている場合ではありません。会社によっては嵐が過ぎ去るのを待つかたちもあるかもしれませんが、それではどんどん淘汰をされていくと思っています。

「方法論」に陥らず、達成すべき目標から逆算する

──コロナの時代になってから、最初の1〜2年と、その後の5〜10年で経営はどのように変わっていくと考えていますか?

河野:BCP(事業継続計画)はあらかじめプランニングしていますが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような危機は突然訪れるんですよね。それを事前にプランニングしておくのは難しく、正直言って将来の予想がつきません。

予想がつかないのであれば、どんなシナリオにも対応できる体制を整えておく。そして素早く判断していくことが重要になります。メルカリは戦略的な投資を一気に抑えて雇用計画を練り直したり、ファイナンスオプションをきちんとつくったり。即座に手元資金を残し、どんな危機でも対応できる財務体力や生産性の確保に集中して動きました。

河野:とはいえ、霧はいつか晴れるので、どんな危機にでも対応できる体力をつけたのであれば、今後の攻めの準備も今から仕込んでおかないと、どんどん2極化が進んでいく。そのため、今は攻めの準備も行っているところです。

小泉:その攻め方に関しても、今後は優先順位が重要になってくると思っています。5年スパンで物事を考えると、時代が大きく変わり、投資が必要なものも出てくると思います。

先ほどのセッションで捺印の話が出ましたが、気をつけなければいけないのは、世の中がどれだけデジタル化しようと、それが目的になってしまい、本質的ではない議論をしていては意味がないということ。企業経営において重要なのはデジタル化ではなくて、競争優位性を得ることなので、このプロセス自体は必要なのか、この業務は何のためにあったのか、この業務は5年後にあるのかという“そもそも”を確認をしたうえで取捨選択をし、投資の意思決定をしていく。

「既存の業務をデジタル化すれば5〜10年後も安泰」は大きな間違いで、僕からすると、それでは会社の競争力は上がらない。5年、10年スパンで何が変わるのかを考え、全部の業務を確認し、攻めるポイントを取捨選択することが大事だと思っています。

河野:自然と固定概念のなかでしか考えられない癖がついているので、そこをどう突破していくのか。一つひとつ時間をかけながら考えることが重要なのかなと思います。

例えば、リモートワークに関しても、今まではオフィスに出勤してやる方が生産性は高いという既成概念に囚われていました。しかし、実際にリモートワークをやってみて生産性高く働ける人もいることがわかった。リモートワークも働き方の多様性の1つとして、今後も積極的に取り組んでいくことを考えています。

小泉:企業経営で本質的に大事なのは、ミッションを達成することや競争に勝っていくこと。リモートワークは、それを実現する手法の1つですよね。さっきの捺印の話もそうなんですが、こういうときは「方法論」を議論しがち。働き方改革もそうですが、残業時間を減らす、つまり早く帰ることがゴールになってしまっている。

そうではなく、大事なのはその先にある「何を達成したいか」。達成したいことから逆算して、パラダイムシフト後のニューノーマルに備えていく。会社の経営者として、この考えを持っておくことが大事だと思っています。

属人化はリスクの温床になる

──Work from Home(在宅勤務)での働き方もそうですが、日々改善をしていくことが重要になる、と。とはいえ、現在は日々の仕事をどうやってルーチン化、体得していくかも不安定な状況にあると思います。

河野:ルーチン化については、先ほどのセッションで鹿島アントラーズでは議事録をとり、共有する話がありました。メルカリでも、すべての議事録をオープンにしていて、あらゆる情報にアクセスできる環境を整えています。

河野:また経営会議、定例会議でも1日前にはアジェンダ、論点が整理されていて、意思決定すべきことなのか、相談事項なのかを明らかにし、あらゆる選択肢のプロコン、そしてメリット・デメリットが整理されています。参加する経営陣は、事前にミーティングの資料を読み込んでおくことが必要で、質問がある場合はあらかじめメモを準備する。メルカリでは、この状態から会議が進むんです。

これが習慣化、ルーチン化されているので意思決定も早いですし、説明を聞いて曖昧な部分を質問する無駄な時間がないので、すごく機敏に経営会議をやれています。特に、このメモを書くのは極めて重要で、最初の木下のセッションでも話があったように、暗黙知を形式知にしていくということ。暗黙知は属人化したスキルや知識なのですが、それを形式化することで組織の資産に変えていく。

河野:メモをとることは新卒の仕事だと思っている人は多くいるかもしれませんが、実は全然違っていて。経営会議においては執行役員がメモをとることもありますし、取締役同士なら取締役がメモをとる。この形式知化はスキルが必要なので、メルカリにおいては極めて重要なルーチンになっています。

小泉:ルーチンと聞くと退屈なイメージ、ネガティブなイメージがあるかもしれません。ですが、通常の業務を高速でまわすことで意思決定のレベルを上げたり、意思決定のブレをなくしたりできる。それにより組織が正しい方向に最短距離で全力で走れる。

メルカリが常にメモや議事録をとり、全体へ共有することをやり続けてきたのは、情報の透明性を上げ、各所で起きている意思決定のクオリティとスピードを上げるためです。それが、その後の実行力のスムーズさを生んでいきます。

河野:属人化はリスクの温床になるんですよね。メルカリも組織規模が大きくなるにつれて、同時多発的にいろんな部署で、いろんな問題が起きたタイミングがありました。その原因は、業務の属人化やオペレーションの重複化だったんです。

僕たちは、「村から都市へ」という話をしています。村は全員の顔がわかり、誰が何をやっているのか、特段ルールがなくても阿吽の呼吸で共有されている。つまり、暗黙知で成立しているのが村なのです。都市になっていろんなビルが立ち、道路が敷かれて車が通るようになると、法律やルールが必要になりますし、ガードレールがないと車はちゃんと走れない。そして、ガードレールがあると、速く走れる。

そういったガードレールづくりを意識しながら、ルーチン活動によってリスクを下げ、同時に生産性を上げていく「メカニズム」を織り込んでいく。その延長線上にDXがある、と個人的には考えています。

──ルールをつくって終わりではなく、改善をしていく必要があると思います。会社を経営するにあたって改善の意見は上から出すものなのか、それとも下から出てくるものなのか、どちらでしょうか?

小泉:当然、両方あるべきだと思いますが、改善は、ゴールが明確にあったうえで取り組む作業なので、どのゴールに向かっていくかは経営陣が指し示すべきだと考えています。特に戦時のときの改善は、トップがどこに旗を立てるのかが極めて大事です。

この1〜2年で、本当の意味で勝敗がつく

河野:最後にマネジメントツール、ガバナンスツールについても話をさせていただければと思います。メルカリではまず最初にどの時間軸でどういう姿になっているのか、ミッション達成までのロードマップをつくるようにしています。これはグループ全体と各カンパニー、部門毎までを一貫してまとめたもので、すべての議論の出発点になっています。

それを財務の数字に落としたものが、中期経営計画。これは、3ヶ年の事業計画数値です。それと同じライン上に1年単位のものが予算であり、さらにロードマップ、中期経営計画もある。それに対して期待以上の成果をあげるために、OKRという目標設定の仕組みを用いています。

OKRは全社的な目標と各個人の目標がつながっている仕組みなのですが、それを使ってロードマップに対して期待以上の成果を出していこう、と。強い目標を立てて、それに向かって各クオーターで全力で取り組んでいく。こういった目標設定の仕組みをつくり、経営陣からあるべき姿を示す。

一方で、現場では日々のルーチン活動の改善アイデアをボトムアップで出してもらう。やっぱり、日々オペレーションをまわしている現場には肌触りがあって、具体的な改善の要点がわかっている。現場がそこを判断をして、いろんなアイデアを生んでいく。その素晴らしいアイデアに対して表彰や報酬を用意し、讃えていくのがメルカリのカルチャーとしてあります。

会社を変革する力とは、間違いなく個人に宿っている。それをどう組織に反映させられるか。それを1人ひとりが考える必要があると思っています。

小泉:そういう意味では、ミドルマネジメント層、マネージャーの役割も変わってくると思っていて。メルカリは改善活動も含め、現場力を引き出すためにどう立ち振る舞うか、を大事にしています。戦時においては、マネージャー自身の役割も、リーダーシップを発揮するかという点で1歩踏み込んでいかないといけない。同時に、取捨選択をする意思決定、クオリティを上げていくことも大事。中間管理職的も働き方が変わらなければサバイブできないフェーズに入ってきているのではないか、と思います。

河野:ただ、モチベーションマネジメント=ご機嫌伺いしかしていない中間管理職、情報格差で偉そうにすることは、こういった環境では圧倒的に不利に働いている。情報を透明にすることは、こうした管理職を淘汰する施策でもある。つまり、リーダーシップのあるべき姿に立ち戻るとことでもあると思っています。

河野:ビジョンを示し、仕事のフォーメーションを示し、役割スケジュールを決めて、ルーチン活動のメンバーから提案される課題感に対して一定の示唆を述べ、最後に何とか帳尻合わせる。こういったリーダーシップの基本能力に立ち戻れる人こそ働ける環境になってくると思います。

小泉リモート時代になると、ハイコンテクストなマネジメントからローコンテクストなマネジメントへと変わります。今、河野が言ったことができないと、メンバーから何をやっているのかわからない人だと思われる。そうすると意思決定が進まないので、マネジメントのクオリティが問われる。危機的な状況下ほど、良い会社とダメな会社の差がどんどん開くのは、過去を見ていても如実に出ています。そういう意味では、新型コロナウイルスによって、ここ1〜2年にかけて、本当の意味で勝敗がつく状況の分かれ目が「今」なのかと思います。

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