誰もが活躍できる環境をつくりたい。LGBT+研修プログラム「Mercari Pride E-Learning」を社外公開するわけ

LGBT+とそのアライ(Ally、多様な性のあり方に理解のある、非当事者の支援者)による社内コミュニティ「Pride@Mercari」の取り組みは、これまでメルカンでもたびたびお伝えしてきました。今回はその最新の取り組みの一つをご紹介します。

プライド月間(Pride Month)であるこの6月、LGBT+への社内理解を深めることを目的に実施している研修プログラム「Mercari Pride E-Learning」を社外公開しました。

メルカリ、LGBT+に関する社内研修 「Mercari Pride E-Learning」を公開

メルカリでは、本研修を社内のDiversity & Inclusion(以下、D&I)推進の一環として、2021年より全社員を対象に実施。それを社内だけに留めずに社外公開する背景には、LGBT+について多くの人が知ることで、誰もが活躍できる環境をつくりたいというプロジェクトメンバーの強い思いがありました。

LGBT+への理解促進には、社会全体でいまだ多くの課題が残されています。そのうち最も経験率が高いのが「周囲のリテラシー不足によって引き起こされる問題」だということが東京都の調査からもわかっています。本プログラムもそうした「LGBT+に対する周囲の理解が十分ではない」という課題意識からスタートしています。

今回のメルカンでは「Pride@Mercari」コミュニティをリードし、「Mercari Pride E-Learning」を中心となってつくってきた、D&IチームのJuan D. Garcia MP.(@Juan)と、コーポレートPRとしてメルカリのメッセージ発信を担ってきた笠円香(@mryu)に、プログラム制作の背景や意図、そしてここ数年の「Pride@Mercari」の取り組みを振り返ってもらいました。

この記事に登場する人


  • Juan D. Garcia MP.(@Juan)

    アルゼンチン共和国出身。美術修士卒業後、フリーランス翻訳者として活動する傍ら、美術大学でも助教授として教鞭をとる。2012年に大学院へ入学するため文部科学省国費留学生として来日。2019年にメルカリに入社以来、翻訳通訳チームを担当しながら、「Pride@Mercari」コミュニティのLeadとしても活動。2022年5月にD&Iチームに異動し、社内コミュニティーと教育・啓発活動に携わる。

  • 笠円香(Madoka Ryu、@mryu)

    早稲田大学卒業後、2018年にメルカリの通訳翻訳チームに新卒入社。その後、人事で海外採用ブランディング・アウトリーチを担当し、2020年8月よりコーポレートPRチームに異動。PRでは新規事業立ち上げ、D&I、決算などのプロジェクトに携わる。


課題の「質」が変わってきた

―まず、大前提のところから聞きたいのですが、「Pride@Mercari」はコミュニティとしてどのような課題と向き合っているのでしょうか?

@Juan:「Pride@Mercari」は2018年に設立され、ここに至るまでさまざまな課題がありましたが、その課題の「質」が年々変わってきているなと感じています。

―課題の「質」?

@Juan:はい。最初は、社内にアライを増やす難しさが一番の課題だったと思います。そのためにステッカーをつくったり、社内イベントを行ったり、アウェアネス(意識、気づき)を高めることに注力してきたんです。2020年には社内相談窓口「LGBT+ Help Desk」もつくるなど、「私たち、LGBT+はここにいるよ」というメッセージにフォーカスし、発信を行ってきました。

@mryu:現在ではD&Iは人事組織内にチーム化していますが、2018年当時は有志で集まっているボランティアチームで活動していたこともあり、「Pride@Mercari」として何を発信するのか模索しながらのスモールスタートでしたね。2019年にメルカリのSNSロゴをレインボーに変えたのが、「Pride@Mercari」として最初の社外に向けた施策だったと思います。

@Juan:あれはとてもうれしかったなあ……。

―こうした小さな積み重ねから、社内の反応はどのように変わってきたのでしょうか?

@Juan:すでにアライはたくさんいると感じています。「Pride@Mercari」のSlackチャンネルに参加しているメンバーは90人以上いますし。コミュニティの活動自体に参加している人もすごく増えていきました。

ただ、まだ社内全体の知識が足りない。LGBT+自体に対する知識もそうですが、それが働く環境や日々のコミュニケーション、そしてビジネスにどう関係しているのか、そこまでの理解が進んでいるとは言えない状況だと思います。

―なるほど。活動が浸透してきたからこそ、新たな課題が見えてきて「質」も変わってきたんですね。

@mryu:Juanさんがいうように、これまでの継続した取り組みによってアライが増えてきたのは確かですね。以前と比較すると、組織全体にアライがいることで活動しやすくなりました。

今年の「プライド月間」に、アプリ内の「ピックアップタブ」でレインボーグッズを初めて紹介できたことはすごく大きな一歩だったと感じます。いままでは、プロダクトを巻き込むということはできなかったので、大きな前進ともいえるアクションだったと思いますね。

@Juan:僕は「Pride@Mercari」のコミュニティに誇りに感じていて、こうした取り組みができるのはプロダクトを開発するメンバーにもアライがたくさんいるからだと思っています。個人的には、メルカリはビジネスとしての影響力のある会社になったからこそ、社会に対して責任ある行動を取っていく必要があると感じています。社会に良い変化をもたらしたいという考えのもと、プロダクトでの施策をはじめ、「東京レインボープライド2022」への協賛・ブース出展などを通して、社外への働きかけにも力を入れています。

意識したのは、理解をうながす全体の「流れ」

―「Mercari Pride E-Learning」は、こうした外へ向けた発信の一環として位置づけられると思いますが、改めて制作した意図を教えてください。

@Juan:先ほどもお話したように、社内にはまだ知識が十分ではないメンバーが多くいます。僕は当事者であるけど、「Pride@Mercari」コミュニティ全当事者の気持ちを理解できているわけではありません。自分自身、きちんと勉強して、整理したいという思いがあった。だから、実はプロジェクトとして生まれたのではなく、「自分の言葉で説明できるようにしたい」という思いからスタートしたんです。

当時、僕が所属していた翻訳・通訳を担うGlobal Operations Teamとしての本業も行いながら、「Pride@Mercari」の活動に参加していたということもあって、僕自身のリソースが十分にあったわけではないので、特に明確な期日などはなく、本業と掛け持ちしながら時間があるときに少しずつ書き足す形で始めました。

―まだ知識が十分でない人に向けられた資料なので、制作において注意したポイントは多いと思います。

@Juan:「Mercari Pride E-Learning」は、最初から研修として使うことを想定して作っていたので、さまざまな情報をただコピペして入れるのではなく、全体の「流れ」にはかなり注意しました。自分が説明したいことを理解してもらうには、どういう伝え方をすれば良いのか、どういうデータを入れれば良いのか、そのデータをどう載せれば良いのか、頭を悩ませながら制作していきました。

一番大切なのは「必要な知識のインプットを楽んでもらうか?」という全体のフローです。また、ビジュアル面では、男性や女性などの性別を表す時に、ステレオタイプの表現を使わないことは重要だと思い、クリエイティブチームに意図を汲んでもらいつつ、進めていきました。

―社内や第三者機関の意見はどのように取り入れていきましたか? そこで参考になった意見はどのようなものがありましたか?

@Juan:LGBT+という共通点があって、自分がゲイだからといっても、他のLGBT+の方の気持ちを完璧に理解できるとは言えません。LGBT+の中には様々なアイデンティティが存在しますので、いろんな方からの意見を聞くことが重要だと考えています。社内でもたくさんの人に見てもらった上で、LGBT+を専門とする第三者機関にレビューしてもらいました。

例えば、「インターセックス」という表現は、当事者からすると望ましくないという声が多くあるとご指摘いただきました。DSD(Disorders of Sex DevelopmentまたはDifference of Sex Development、性分化疾患)を抱えている知人友人が自分の知る限りいないため、直接相談することができなかったこともあり、言われて初めて気づけたことです。

―では、実際になぜ社外へ公開しようという流れになったのでしょうか?

@mryu:2021年8月に社内の研修資料として公開したときから、社内の反応はすごく良かったので「いつか公開したいね」という話はしていました。

@Juan:CHROのtatsuo(木下達夫)さんが「これは公開しようよ!」と後押ししてくれたのが大きかった。それで公開することが「アリ」だなと思ったんですね。でも、社外にきちんとニーズがあるかを検討せずに公開するのは違うのではないかと思ったので、どういうデータがあると社内にも社会にも良い影響を与えていけそうか検討して、社外公開のプロジェクトとしてスタートしました。

@mryu:去年、「無意識(アンコンシャス)バイアスワークショップ」の社外公開にあたってPRを担当しましたが、「Mercari Pride E-Learning」も同様にたくさんの人に見てほしいという思いがありました。また、「誰もが活躍できる環境をつくりたい」というメルカリのスタンスを発信したいという思いもあったため、より多くの人に注目していただけるタイミングの「プライド月間」に合わせて公開の準備をしてきました。

@Juan:本当はもっと早く出したかったんですけどね(笑)。ただ、タイミングとしては結果的に良かったと思います。

@mryu:コンテンツのすべてが、他の企業でもそのまま適用できるものではないということもありますが、私たちの意図が正しく伝わるかどうかに不安はありました。「LGBT+の“ために”やっている」みたいな、押し付けがましい感じが出ないよう、リリースの細かな表現には気をつかいました。

@Juan:そうですね、これはあくまでメルカリの事例なので、テンプレートであるかのように捉えられるのは避けたい。あくまで参考にしてもらい、自分が改善できるところがあれば取り入れてもらうという使い方をしてほしいです。

―社外公開して、どんな意見が来るのを期待しますか?

@Juan:様々な視点からのフィードバックをいただきたいですね。今回の資料についても多様な解釈があるということは想定していますが、1番大切なのは、対話の「場」が生まれることです。自分達自身もこれを学びの「場」として受けとめていきたいです。

次の課題は、良い議論の「場」をつくること

―では、最後にこれからの取り組むべき課題について聞かせてください。

@Juan:メルカリは職場環境のアップデートを続けてきましたが、まだまだ改善しなければならないことがあるのは確かです。しかし、アライが多い環境であることは間違いありません。LGBT+について十分な知識がなかったとしても、どうやってサポートできるかを考えてくれるメンバーが多く、僕にとってはありのままで仕事できる環境であり、誇りに感じています。もちろん、カミングアウトしたくない人もいるし、カミングアウトしなければならないということでも当然ない。自分で選択できる環境だと思います。

@mryu:「Pride@Mercari」コミュニティの議論に参加するなかで、会社選びをするときにLGBT+についての発信をしているかを見ている人が多いことを知りました。そういう意味では、アライとして関わっていきたいという人、社会をより良くしていきたいという人にとってもメルカリは良い環境です。一方で、どうしても固定メンバーだけが関わっている状況があるので、当事者もそうではない人も含め、積極的に参加できる環境をつくっていきたいです。

@Juan:「東京レインボープライド2022」に参加した時に、いつもは固定メンバーだけで進めているところに、ボランティアのメンバーが30人くらい集まったのはすごく嬉しかったです。知識が足りないと感じている人にこそぜひ参加してほしいし、知らないことやわからないことを共有してほしい。当事者にとって当たり前のことって、意外と当たり前じゃなかったりするものなので、それを理解し合う良いきっかけになると思うんです。やっぱり、良い議論の「場」をつくっていきたいですね。

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