「言葉」でメルカリを強くする。インハウスコピーライター長嶋太陽の挑戦

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100以上の職種や肩書きが存在し、会社や組織、プロダクトをつくるメルカリグループ。メンバー(社員)数は約1,350名(2018年11月時点 ※連結)。メンバー全員がそれぞれの専門領域を担うメルカリのなかに、たった一人だけが背負う肩書きがあります。それが「コピーライター」です。

メルカリ唯一のコピーライター、長嶋太陽。大学卒業後、電通でコピーライターを経験。その後、Webマガジン『フイナム 』でファッション・音楽領域の編集者として活躍。2018年、そんな彼が新天地に選んだのがメルカリでした。メルカリロゴのリブランディングプロジェクトのコピーライティングをはじめ、メルカリデザインチームが運営する『メルカリデザインブログ』の編集長など、あらゆる領域を担う長嶋が、言葉を武器にメルカリで何をなし得たいのか。これまでのキャリアを紐解きながら、言葉の裏側にある想いを明かします。

「自分は何者?」電通コピーライターからドロップアウトして得た学び

ー「電通出身のコピーライターがメルカリにいる」ということを耳にして、いつか太陽さんにインタビューしてみたいと思っていました。よろしくお願いします。

太陽:こちらこそ光栄です。よろしくお願いします。

ーそもそも「コピーライター」という職業に興味を持ち始めたきっかけは何だったのでしょうか? もし原体験などあれば、伺いたいです。

太陽:17歳、高校二年生に遡ります。実は僕、フィンスイミング日本代表としてユースの世界選手権大会に出場した経験があるんですよ。その世界大会で中国人選手と交流する機会があって。そのときの衝撃が原体験になっているのかもしれません。

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コピーライター 長嶋太陽

ー何があったのでしょう?

太陽:当時、中国では反日運動が盛んに行われていて、テレビに映るのは「本日も日本料理屋に投石が……」みたいなニュースばかり。正直、中国人ってちょっと怖いのかなと思っていたんです。でも、実際に中国の代表選手と話してみると、みんなとてもフレンドリーで、日本に対する考えもバラバラ。すぐに友達になれて、メディアを通じて知る中国とのギャップを強く感じました。そのときに「メディアとは何か?」「情報発信とは何か?」「伝えるとは何か?」という疑問を抱くようになって。

ー情報発信の仕組みが生んでしまう歪さのようなものを解消するためには何が必要なのか考えるうちに、自然と社会に目を向けるようになっていったんですね。

太陽:そうです。この問題意識は大学生になっても変わりませんでしたね。就職活動の時期を迎え、企業選びをしているなか、電通に興味を持ちました。「広告」は情報発信の仕組みそのものですし、表現そのものでもある。そのどちらにも携われることに魅力を感じて、応募したことを覚えています。

ー最初はコピーライターというよりも、情報発信という仕組みやメディアに興味があったんですね。

太陽:今でこそ、Webを筆頭にしたデジタルメディアが当たり前のものになっていますが、当時はまだまだこれから、というところでした。テレビCMに強い関心があったわけではなくて。そんな自分が、まさかテレビCMを主に制作するクリエーティブ局に配属になるとは思いませんでしたね。しかもコピーライターとして……。

ー電通の「クリエーティブ局」と聞けば、会社の花形のようなイメージです。

太陽:希望を出しても就ける部署ではないので、嬉しい気持ちもありました。ただ、先ほど触れた通り、CMに対して強い関心を持っているわけでもなければ、特別な技術や自信があるわけでもなかった。広告制作は独自のノウハウや知識が必要なので、ある種、決められたフォーマットをどれだけ理解し、使いこなすかが問われます。広告クリエーティブに対して詳しいわけではなかったので、辛かったというか、適正がなかったな、と思います。迷惑をかけることも多くて、今考えると本当に恥ずかしいですね……。

ー「辛かった」?

太陽:仕事は楽しかったです。でも、そもそも自分はマスメディアに関心がなかったので、モチベーションが保てなくて……それが辛かった。雑誌を読まない人が、雑誌をつくれるはずがないじゃないですか? 名だたる企業のテレビCMに携わり、やりがいを感じることはできましたが、自分自身の「コレだ!」と思える納得感はなかなか得られませんでしたね。電通に入社して3年が過ぎた頃、「自分自身が納得する仕事をしたい」と思い、転職を決意しました。

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ーでもエリート街道から飛び降りることに、抵抗や躊躇(ちゅうちょ)はなかったのですか?

太陽:まったくありませんでしたね。 「エリート」という考え方もあんまり好きではないです。今でこそ手に職がついてる感覚がありますが、当時の自分は「電通」という組織のなかで「コピーライター」という肩書きを持っていただけ。人をマネジメントできるわけでもなければ、一人で何かをつくれるわけでもない。まったく何もできない自分に気づいたんです。まずは実力をつける必要があるなと。

ーそれからファッションとカルチャーのメディアである『フイナム』の編集者になりますよね。コピーライターと同様、「言葉」を武器にしているようにも感じますが。

太陽:言葉を扱うといったら共通する部分も多いと思います。正直、僕はビジネスにあまり興味がなくて。もちろんビジネスの重要性はわかるけど、グッとくるものがないというか。でも、その一方で、文学や音楽、アートなど、文化芸術には何にも代えがたい価値を感じていたんです。ファッションもそのひとつ。好きなことについて考え、書いたりすることがとても楽しくて……「自分にとって、これが天職かもしれない」とさえ思いました。仕事と身体が一体となっているというか。水を得た魚のように、とにかくがむしゃらに吸収していましたね。

ー「編集者」としてカルチャーを発信しながら、社会と関わるくらいの距離感が適切だと?

太陽:そうですね。企業を主語にすることよりも、人やもの(表現物)を主語にしたい。どこかで「ものづくり」に対する憧れがあったのかもしれません。だからこそ、言葉を武器に、自分も社会との接点を持つことができるかもしれないと、一気に視界が開けたことを覚えています。すべてではありませんが、自分自身が価値があると信じられる仕事ができていたと思いますね。それが大きな変化でした。

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モチベーションの源泉は、固定化された「何か」からの脱却

ーコピーライターから編集者に転身し、順風満帆に見える太陽さんですが、なぜメルカリへ?

太陽:転職のきっかけは、いくつかあるのですが、動画メディア『BLAST』を率いる、石井リナさんの言葉が印象的でした。

―どんな言葉だったのか、とても気になります。

太陽:不意に「太陽くんにできることはもっとあるじゃん」と言われたんです。それは僕が仕事やこれからについて悶々していたからという要因もあるんですが。

ーそれは具体的にどういう意味なのでしょうか?

太陽:「メディアという限られた社会のなかで生きていくことを肯定してしまうのはもったいない」という話だったと理解しています。それは電通時代に感じていたことでもあって。電通って、就活人気ランキングの上位であり、広告代理店の最大手ですよね。そのなかで、もっとも人気のある職種がコピーライターだった。そういう情報が自分のなかにも知らず知らずに刷り込まれていて、「ここでうまくいかなかったら、もう行き先はない」みたいなことを感じていたんです。でも、世の中に仕事は沢山あるし、今の自分にとって最適な職種かどうか、常に考え続けることが重要じゃないかと。つまり「自分自身の目線を固定化してはいけない」ということを、彼女の一言によって気付かされたんです。『フイナム』というメディアは大好きですが、そこに囚われすぎているのかもしれない、と思ったんですよ。それから転職を意識しはじめました。

ーメディアというシステムそのものにも疑問を抱いていたのでしょうか?

太陽:メディアでの業務経験がある方なら共感してくれるかもしれませんが、マネタイズはかなりキツい。編集という仕事の本質的な価値はなんだろうか、と考えたんです。メルカリというマーケットプレイスは、社会のお金の流れに新しい道筋を生むもので、それは個人が主役になれる社会の姿だと思います。ものづくりをするクリエイターや表現者が、経済的に困窮しないような仕組みをつくれるかもしれないと。

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ーメディアからマーケットプレイスに場を変えるだけで、太陽さんの目的やゴールは変わっていないように思います。

太陽:僕もそう思います。根本的には、固定化された社会構造から脱却したいんですよ。僕は裕福な家庭で育っていないんですけど、貧困家庭の子どもの選択肢は本当に少ないし、そこをなんとかしたい。メルカリのようなCtoCビジネスには、これまでのビジネスや社会構造を超えてゆくポテンシャルがあると感じたんです。メルカリを工夫して利用すれば、誰でも簡単にお金を生むことができる。引いては経済が活性化していく。これは新しい価値だと思ったんです。あとは、やはり「人」に魅力を感じました。

ー「人」ですか?

太陽:面談をしていただいたメルペイHRの松尾彰大さん、そしてプロデューサーの高橋京輔さんの熱量に感化されました。二人の照れずに社会や仕事に向き合うスタンスに惹かれて。あとは求められる仕事があるっていうことも嬉しかったですね。会社や人に対する想いを、まっすぐ伝えてくれる姿勢に心打たれました。

「社会がどう変化するかなんてわからない。メルカリだって6年前まではなかったのだから」

ーそして太陽さんは、コピーライター、編集者を経て、再びコピーライターに戻ります。しかも、インハウスのコピーライターとして。なかなか仕事のイメージが持てない方も多いと思うんですが、実際は何をしているのでしょうか?

太陽:「コピーライター」という肩書きですが、実際の業務は幅広いです。フリマアプリ「メルカリ」全体のクリエイティブに関する、コピーやテキストのライティングのほか、ワーディングルールの策定なども行っています。大袈裟に言えば、ライティングに関わることすべてです。メルカリというブランドに貢献できるなら、それを全うする。いわゆる受託業務のように、オリエンテーションがあって、企画を提案することはあまりないですね。コピーライターという名称自体が、もしかしたら適正ではないのかも、と思います。

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ーコピーライターとしての決まった業務はない……?

太陽:ほとんどないと言ってもいいですね。極端な話ですが、超クリエイティブなことをしてもいいし、超地道に校閲する仕事をしてもいい。言葉を用いて、会社やプロダクトに貢献する。いたってシンプルなんです。「コピーライター」は便宜的に使っているだけだと思っています。それは逆にいえば、自分次第で何でもできるということでもあるかなと。

ーそれはメルカリ全体に共通するスタンスかもしれませんね。いかに能動的になれるかというか。

太陽:そうですね。広い視点で「自分は何をすべきか」を考えて、それをメルカリという組織やプロダクトにアジャストしていく。こういう動き方が求められています。

ー最近の太陽さんのお仕事のなかでもっとも印象に残っているのが、新メルカリロゴ(10月31日に発表したロゴリニューアル)の特設サイトに書かれているテキスト。多くの情報や想いを簡潔に、しかも深く伝わるように書くのは至難の技だと思います。



vimeo.com

太陽:ロゴのリニューアルに際し、制作やデザインのプロセスをまとめた特設サイトをCXO(chief experience officer)Design Teamが主導で外部パートナーと連携しながら制作したのですが、そこに載せるテキストライティングを担当させていただきました。抽象的な表現が多くて申し訳ないのですが、メルカリはプラットフォームなので、あまり極端なキャラクターを設定することを避けています。なので、人間味がありすぎるテキストを書いてもNG、逆に味気ないのもNG。ゴリゴリの堅いテキストも、クレバー過ぎてもNG。じゃあ、どういう表現が適しているのか? ということを考えながら、ターゲット(お客さま)にとって最適な表現を探りました。期待感を持たせたい。でも押し付けがましくならない。まだ発表できないことは言わない。いろんな制約のなかで、書いています(笑)。

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リブランディング特設サイト「Hello new logo 」

ー太陽さんが編集長を務める、『メルカリデザインブログ』にも、その背景について事細かく書かれていますよね。

太陽:あのブログ自体は、メルカリのデザインを補助線的に伝える手段としてローンチしました。CXO Design Team、メルペイと連携しながら、デザイナー個人が発信者としてきちんと前に出ること。そうすることで、メルカリのデザインに込めた技術や想いが伝わり、ブランド価値の向上にもつながると思っています。

ーメルカリはテックだけじゃない。デザインにも力を入れているんだということを多くの方に知っていただくタッチポイントとしての役割も担っているんですね。太陽さんが入社して間もなく7か月が経ちますが、メルカリのコピーライターとして、何か心境の変化などありますか?

太陽:質問の回答から少しズレてしまいますが、メルカリという大きな乗り物にメンバーと一緒に乗ることによって、やれることや持てる希望のサイズがどんどん大きくなっていく。それは自分のメルカリに対する共感とは違うレイヤーの考え方というか……。

ーそのレイヤーとは、どういうことでしょうか?

太陽:今、メルカリにフルコミットする以上に、社会に目を向けなければいけない仕事ってほとんどないんじゃないかとすら思っていて。最近、大塚英志さん(国際日本文化研究センター教授)の『今の経営者はなぜ「月」の夢しか抱けないのか』というテーマの記事を読んだのですが、このなかで『ネット業界の経営者は『社会をより良くする』という決まり文句を言うけれど、実態は、経済的な利益の「エコシステム』をつくることで、この場合の『エコ』は『エコロジー』じゃなくて『エコノミー』です。」という言葉があって。

ー『エコロジー』じゃなくて『エコノミー』……一般的に耳が痛くなるような言葉ですね。

太陽:企業単体の利益ではなく、経済という大きな仕組みが社会に対してどうポジティブな影響をおよぼすことができるか、という問いだと理解しているのですが、メルカリは、この投げかけに向き合える数少ない企業なのではないかと思います。例えば「数億人の生活を楽にするためには?」という希望は、一人では考えられないし、絶対に叶えられないじゃないですか。僕は社会起業家ではないし、社会派だと標榜しているわけではないけれど、毎日の仕事が、沢山の人の生活をなめらかにして。子どもの頃の自分のように選択肢を持てない人が少しでも希望を抱けるなら、それは現代社会のなかでとても価値のあることじゃないかなって。

ーわかります。大きな幸せを特定少数の人が得る世界よりも、小さな幸せを不特定多数の人が得られる世界の方が、きっと世の中は豊かになるはず。

太陽:そうそう。個人的に「誰しもが平等であるべき」って道徳的に正しいことですが、ビジネスはそういう考え方と合わないなという感覚があって。それを可能にしたのがメルカリなのかもしれませんね。

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ーなるほど。太陽さんの今後のビジョンについて教えていただけますか?

太陽:メルカリという会社のなかでのキャリアビジョンは、正直そこまで明確なものはなくて。というのも、今の時代において、5年先ですら予測することができないじゃないですか。メルカリだって、6年前まではなかったわけですし。

ー確かに(笑)。

太陽:会社のミッションに対して根本的に共感しているので、チームの一員としてそこにどう寄与できるか、ということは考え続けていきたいと思っています。個人的なことを言うと、資生堂の『花椿』のようなブランドメディアを、メルカリというITの会社がつくったら最高におもしろいな、と思っていて。そういう試みをしていきたいという気持ちはあります。Airbnbがハースト社とともに『Airbnbmag』という雑誌を出版していましたし、優れたコンテンツに対する敬意を持つ姿勢がブランディングにおいて重要なのかなと。あと、副業としてフリーランスのライターをやることで、社会とのつながりをつくれていて、それがコピーライターとしては非常にありがたい環境だと思っています。

ー社外に出ると、自分の可能性が広がる一方で、常に市場に晒されることになる。メルカリの長嶋太陽ではなく、個人の長嶋太陽として、どれだけ市場価値があるのかが問われるということは、成長につながりそうですね。

太陽:そうですね。個人とはいえ下手なことはできないので。良い刺激やプレッシャーを受けながら副業ができています。もちろん本業であるメルカリでの仕事を疎かにして副業をすることはできない。本業で高いパフォーマンスを発揮することは絶対的な役割なので。

ー最後に、ズバりお聞きします。今、メルカリのコピーライターになるためには?

太陽:スキルセットとしては、ライティング、編集、校閲、語学力でしょうか。それらを持ちながら、広い目線でマーケティングやブランディングを考えられる人。マインドとしては、ひょうきんで優しい人がいいですね(笑)。仕事に対する好奇心や成長意欲が高い人は、人を妬んだりしないし、思いやりを持てる人が多いと思います。そんな人たちと、一緒に言葉を通じて新しい価値を生みだす仕事がしたい。そう思っています。

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プロフィール

長嶋太陽(Taiyo Nagashima)
1988年神奈川生まれ。明治学院大学卒業後、株式会社電通に入社。コピーライター職に従事。 2015年よりウェブマガジン『フイナム 』のエディター兼ライターに転身。2018年より、コピーライターとしてメルカリに参画。ミッション・ビジョンの制作、リブランディングプロジェクトのコピーライティング、『メルカリデザインブログ』の編集長などを行う。フリーランスのライターとしても活動中。